第8話 『初めての依頼、戦闘、そして実感』
購入した装備を身に着け、冒険者支援協会へと戻る。
いくら資金をもらったと言っても、無駄に使えばすぐに底を着くくらいの金額だったので、初期冒険者にオススメの装備を聞いて回りそれを買った。
この世界の貨幣による物の売買は全て硬貨で行われてる。
色々種類はあったが発音が難しいので日本円に変えると、「100円」「1000円」「1万円」「10万円」の4種類がそれぞれ「鉄」「銅」「銀」「金」製の硬貨として作られているようだ。
そして冒険者支援協会からの配給金額は1人あたり銀硬貨20枚だったが、装備もなかなかの値段であったため、これでもすぐに無くなってしまうのだ。
戻って見てみると、依頼板は冒険者支援協会の建物の入り口から正面に向いたところに設置してあった。
ちなみに、オリジナ冒険者支援協会は他の冒険者からは「本部」と呼ばれているそうなので俺たちもそう呼ぶことにした。
本部の依頼板はかなり大きく依頼書の数も膨大だ。
1枚あたりB5~A4サイズの和紙のようなものに依頼内容と報酬、依頼主、そしてその依頼の今までの受注冒険者数が書いてある。
つまり今まで依頼を多く受けられてきたものほど、多くの冒険者が失敗している依頼ということである。
一応、依頼板の右から左に難しくなっていくので、なり立て冒険者の俺たちは一番右の方の依頼書を見てみた。
これでも始まりの街のため、高難易度の依頼は出されにくいというのだが、左の方にポスターサイズの紙で緊急!と書かれ、過去受注者数54 と表記されていて、おぞましさを覚える。
なんだよ「アルターホムンクルス」って。怖すぎだろ。
「お、これなんかどうよ。」
力雅が1枚の依頼書をはがす。
「あ、なんか良さそうじゃない。」
「うん、いいと、思う。」
光と林が同意するその依頼の内容は、オリジナ郊外の草原で露営をしているゴブリン4体の討伐だ。
見れば張り出されたのは今日らしい。
しかもゴブリンは初級モンスターとして有名だと職員さんに紹介された。
「ゴブリンって・・・いい響きだねっ!」
「そ、そうだね。」
「ふむ・・・。」
これは中々いい依頼かもしれない。
依頼報酬は銀硬貨4枚、銅硬貨8枚と多くはないのだろうが、こっちは6人の初心者で相手は4人の初級モンスター。
初戦としては申し分ない。
俺たちはこの依頼を受付に持っていき、依頼の場所へと向かった。
草原を歩いていくと、テントのようなものを、スキル「鷹の目」を使った光が発見した。
そして、幹夫に「偵察」スキルを使ってゴブリンの状態を確認してもらった。
どうやら4体しっかりいるようで、食事中のようだ。
装備は全員違うものの、一様に頭に兜、銅鎧をつけ剣や鉈を装備していて、体格は大きいやつで僕と同じくらい、と幹夫は報告してきた。
しっかりとした武装をしている以上、油断は出来ない。
俺たちは前方に力雅と俺、後方に林と晴花を待機させ、魔法使い2人を守るように幹夫と光に囲ませた。
作戦としては林が俺たちに「プロテクト」と「ブースト」をかけ、防御力と力、素早さを上げる。
その後、幹夫が「隠形」と「首掻き」を使い、1体を殺す。
殺せても殺せなくても即座に撤退し、俺と力雅が前線に出る。
そして力雅と俺で1体ずつ相手をし、後方4人で残りのゴブリンを遠距離攻撃し足止め、可能なら撃破する。
もし撃破できなくても、力雅や俺が相手を倒し次第支援に入る。
一応幹夫は近接攻撃を主に行う職だし、光も短剣のスキルを使用出来るため、魔法職2人の護衛には最適だ。
即座に作戦を決め、林が魔法を唱え、幹夫が準備に取り掛かる。
晴花も珍しく大人しくて静かだし、上手くと思っていた。
だが、作戦とは些細な変化で破綻する。
林の補助魔法を受け終わった俺たちは、幹夫が静かに近付いて行くのを見ていた。
しかし、何を思ったのかゴブリンの1体が急に食事を止め、立ち上がり周りを確認しだしたのだ。
幹夫は隠形を使用していたから見つからなかった。
だが、風にぴょこぴょこと揺れる魔法帽を見つけたのか、それとも体がでかくて草むらに隠しきれてなかった俺を見つけたのか、ゴブリンは大声で叫び始めた。
ギャアギャア!グェ!ギ!
すると他のゴブリンが一斉に武器を手に立ち上がり、こちらに向かって突撃してきた。
「くそっ!やるぞ!力雅!」
「あぁ!」
俺と力雅は幹夫を通り過ぎて突撃してくるゴブリンと対峙した。
運の悪いことに1体だけ取り逃し、光たちの元へ行かせてしまったが、光が短刀でゴブリンに応じなんとか特攻を止めることが出来た。
長剣を構えた力雅は1体、俺は2体のゴブリンに向き合い腕にはめた拳撃鎚を構える。
「行くぞこの糞野郎!」
口汚くののしり、力雅は早速ゴブリンと打ち合い始めた。
力雅の長剣が真っ直ぐに向かってくるゴブリンの剣を弾き、そのまま流れるように斬りつける。
ゴブリンは弾かれた剣の柄をそのまま長剣に叩きつけ、力雅の大きな薙ぎ払いを防ぎ、今度は剣を刺突するように繰り出す。
力雅はそれに応じて長剣をゴブリンの剣の側面に斬り入れ、刺突を防ぐ。
一見、互角に打ち合っているように見える。
だが、力雅の方が力や体格は勝っているものの、覚えたてのスキルと使いたての長剣はなかなかゴブリンに当たることがない。
しかし、ゴブリンは戦闘の経験があるのか、力雅の剣を身軽に避けながら剣で突き返し反撃をする。
元の運動神経がよく、勘が鋭い力雅もゴブリンの攻撃は避けれるが、お互いに攻撃が通らない状態になっている。
俺の方のゴブリン2体も同時に剣と鉈を振るってきた。
小柄な鉈ゴブリンの方が素早く攻撃をしかけ、剣ゴブリンが鉈ゴブリンの攻撃の合間に剣で突きや薙ぎ払いをしかけてくる。
鉈は防いでも素早く振るために威力を落としているせいか衝撃は少ない。
だが、鉈を防いだ途端に剣が繰り出され、結果的に両腕で交互に打ち防ぐことになる。
対してこちらは一撃一撃が重いものの、まだこの装備の重さに慣れてないせいで軽いけん制攻撃というのが出来ない。
キロ単位の剣道の籠手を着けているような状態だ。
2体のゴブリンに同時に攻撃というのは今は不可能。
なら、1体に集中するしかない。
わざと剣を受けずに避け両腕で鉈を弾き、鉈ゴブリンがよろけた所で剣ゴブリンを打つ。
そして、「火炎拳」を発動し、剣ゴブリンに対して優先的に攻撃をしつつ、定期的に鉈ゴブリンを蹴り上げて距離を離す。
戦闘スタイルとしては単なる喧嘩なので、力雅よりも慣れた形で戦う事が出来る。
だが、同時に2体はやはりきつい。
剣ゴブリンに集中し、剣ゴブリンの剣を避け、体に殴り込みにいくとすかさず鉈ゴブリンの邪魔が入り攻撃がスカる。
一度でも強く拳がめり込めば後は連撃で倒せるはずだが、鉈ゴブリンが合間に邪魔をしてきて攻撃が全て、外れるか、防がれる。
一応鉄の拳を連続で防いでいるだけあって、ゴブリンも疲れてきてはいるが、1人の俺の方が体力の消耗は早い。
徐々に疲れ、双方の攻撃ペースが落ちてきたところで、俺はミスを犯した。
「おらぁ!食らえやフレイム!そんでもって、大滝割りぃぃ!!」
「きゃあ!」
力雅の「スキル」の炸裂と、光の悲鳴。
「光っ!?」
俺は反射的に光の方を向いてしまった。
見ると、ゴブリンが火だるまになって転げていた。
どうやら、晴花が撃った火炎魔法が予想以上の威力でゴブリンを包み、剣で打ち合っていた光が驚いたようだ。
安心して急いで振り返ると、鉈と剣が目の前に迫っていた。
(両方は防ぎきれない!くそ!やらかした!)
俺は咄嗟に鉈を左手で握って防いだが、剣は防げなかった。
その剣先が俺の胴体に迫る。
防ぎようがないならせめて致命傷を避けるしかない。
そうして体を横にねじろうとしたが、間に合わない。
剣が刺さることを覚悟したその時、叫び声が聞こえた。
「うおおおおお!!!!」
幹夫だ。
隠形で気配を消していた幹夫が、剣ゴブリンに背後から飛びつき首を短剣で掻き切ろうとする。
声を出したせいか、幹夫の攻撃は不発に終わるも剣ゴブリンの動きを封じることは出来た。
おかげで俺も命拾いした。
「サンキュー!幹夫!」
幹夫のサポートに感謝しつつ、全身に魔力を回し筋肉を増大させ運動能力を跳ね上げる。
スキル「狂化」だ。
血が頭に上るのを抑えつつ、左手で鉈を握ったまま全力の右拳を鉈ゴブリンにお見舞いする。
鉈ゴブリンは鉈を手放して吹き飛び、地面で何回かバウンドし動かなくなった。
俺が鉈ゴブリンを吹き飛ばしたと同時に、力雅も2度にわたる「大滝割り」をゴブリンの頭に叩きつけ、絶命させた。
残るは幹夫に襲いかかる剣ゴブリンだが、時間はかからなかった。
林の「スペルエンハス」によって強化された、光の撃った雷の魔法矢が剣ゴブリンに突き刺さりその動きを鈍らせる。
そして幹夫が剣を突き立てたあと、すぐに離れ、その剣に晴花の雷撃魔法が炸裂する。
「びりびりサンダー!!!」
晴花の異常な魔力から放たれた魔法は林によって強化され、剣ゴブリンを幹夫の短剣ごと消し炭にしてしまった。
「ふぅ!終わったな!楽勝だったぜ!」
力雅が笑いながら俺を小突く。
一応危なかった時もあったし笑い事ではないと思うのだが、力雅は能天気なものだ。
みんなでそれぞれの健闘を称えながら、スキルや魔法のすごさについて嬉しそうに語る。
俺はあの戦いの中で命のやり取りを実感した。
みんなもそうだろうが、俺は戦士として確かに最も敵と近い所で、お互いを殺そうとした。
今考えれば、何とも恐ろしい事だ。
だが、同時に生きていることを実感する。
元の世界では何も考えずに生きてきたが、この世界に来て初めて自分の命というものを実感した。
「ノブ、大丈夫?さっきの、怪我とかしてるんなら言ってよね。あたしも一応初級の回復魔法なら使えるから。」
光が心配そうに聞いてくる。
実際危なかったには危なかったが、両腕に拳撃鎚をはめていたので剣を握っても手が斬れることはなかった。
「あぁ、大丈夫。俺、デカくて丈夫だから。」
「そう、なら良かった。・・・それとね、あたしが叫んだ時にすぐに振り向いてくれたでしょ・・・?あれ、嬉しかったよ。ありがとう。」
そう言って光は俺にはにかむ。
別に特別に意識したわけではないが、何故か光の叫び声に咄嗟に反応してしまったのだ。
どうしてかは分からない、が、光が嬉しそうに微笑んでいるのでいいか。
でも、こう直接言われるとなんだか恥ずかしいものだ。
俺は拳撃鎚を外した右手で光の紙をワシャワシャっとなで、みんなに街に戻るように提案した。
こうして、この世界での初めての戦闘、初めての魔法を俺たちは経験した。
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<彼らは有望な人材だ。初戦であそこまでやれるなら今後が期待できる。>
<そうだ、特にあの娘、我らの「輪繋ぎ」に使えるやもしれん。>
<時の近づきにつれ、「魔王」も「王」も動きが活発している。我らも構えるべきだ。>