第5話 『産業ギルド』
ペシャさんの案内で俺たちは産業ギルドに到着した。
ギルド、なんて言うからもっとこじんまりしたものを想像していた俺たちは、そのスケールに驚くことになる。
「なんていうか、修学旅行で行った東京みたいだね!建物いっぱい!」
晴花の言わんとすることは分かる。
そう、確かにその通りだ。
高さや大きさは東京には及ばないが、それでもこれだけの大きさの建物が並んでいると圧巻の光景だ。
「ここが産業ギルドとなります。今から総合案内局へお連れいたします。そちらでご説明をお受けになって下さい。」
ミシャさんはそう言って、俺たちを連れて産業ギルドの中を進んでいった。
見た目は露店が並んでいるようだが、一つ一つが大きな建物の入り口とくっついている。
どうやら、店と技能習得の施設が一体化しているようだ。
すると、この店は職業の見本店ということか。
確かに鍛冶工場や調理場など作業場が見えやすいようになっている。
こうして、店に挟まれた大通りを歩くこと数分、目の前に大きなレンガ造りの建物が見えてきた。
多くの人が出入りし、アテンダもまた、何人か見かけた。
「皆さん、あちらが『産業ギルド 総合案内局』になります。私は、外にてお待ちしておりますので、中にお入りになって、職員より説明をお受けになられて下さい。」
ニコニコしたミシャさんに見送られながら、案内局から出てきた職員さんに連れられ俺たちは案内局に入っていった。
中で受けた説明は、それはそれは長かった。
説明をしてくれた職員さんが話好きのおじさんだったせいだろうか。
職業について熱く、熱く語ってくれた。
力雅と晴花は寝るし、光も舟をこいでる。
幹夫と俺はなんとか話についていきながら、必死に寝まいとしていたが、林はどうやら興味津々らしい。
そういえばさっきの市場や大広間での説明も黙ってずっと聞いてたし、案外こういう世界や設定が一番好きなのかもしれない。
案内局のおじさんの話によると、職業には大きく3つあるみたいだ。
まず、戦闘に関するスキルを覚える「戦闘職」。
「戦闘職」には「剣士職『ソディア』」「魔法職『マジスタ』」「弓兵職『アーチ』」など、まぁなんかゲームや漫画でよくある感じの職業がせいぞろり。
この中から選ぶとゲームで使うような魔法がガンガン使える。
何それすごい魅力的!
次に、日常生活や経済を支えるスキルを覚える「普通職」。
ここには「鍛冶職『スミス』」「商売職『トライダ』」「教師職『ティーチ』」など、日常生活を支え、回していく職業が詰まっている。
こうやって経済は回っていくんですね・・・。
最後に、特殊なスキルを覚える「専門職」。
職業としては「設計職『デザイノ』」「研究職『サイティスト』」などだ。
一見「普通職」のようにみえるが、どうやら「戦闘職」「普通職」の上位互換とのこと。
この「専門職」になるには、1回、基礎となる「戦闘職」や「普通職」を経験する必要がある。
もし、さっきの「設計職『デザイノ』」になりたいのなら、「普通職」の「建築職『ビルダー』」や「裁縫職『ニーダ』」を経験しなければいけない。
ちなみに、ミシャさんの職業『アテンダ』も「専門職」。
あの人、すごかったのかな。
また、「専門職」には他の職の経験が必要ということは、職は変えられる、ということだ。
職とはどうやら技能とそのスキルを覚えるためのくくり、という認識らしい。
1つの職に縛られて、仕事も技能に合わせるしかない、ということもないとか。
例えば、「鍛冶職」を選び、「鍛冶技能」を習得したとしても、料理が出来ないわけじゃないし、料理人になれないという訳ではない。
でも、「調理職」を選び、「調理技能」を習得した人の料理には勝てないため、店を開いても大体が泣かず飛ばず、大きな料理店で働くには「調理技能」が必須だったりする。
だから、わざわざ「鍛冶職」を選んで鍛冶職人以外の別の仕事を選ぼう、という奇特な奴はそうそういない。
つまり、普通は仕事を変えたいなら職を変え、技能も変える。
魔法装置でポッと変えるため、手間はかからない。
ただし、前の技能は消失し、その時に覚え、鍛え上げたスキルも水の泡だ。
やり方は覚えていてもスキルが発動しないので、形にならない。
そのため、長く職にいるほど、職を変えがたくなってくる。
また、さっきから話している「スキル」についても、おじさんは優しく、ていねーーーーーーいに教えてくれた。
「スキル」には2種類ある。
「汎用スキル」と「専門スキル」だ。
簡単に言うと、「汎用スキル」は職に関係なく誰でも覚えられるようなスキル、これには「魔法浮遊」「発火」などが含まれる。
いや、誰でも魔法で浮けるのかよ・・・。
そして、「専門スキル」はその職、つまり技能ごとのスキル、これには「鍛冶職」なら「刀剣補修」「斧製作」、「剣士職」なら「大月斬り」「滝払い」などが含まれる。
さらに、これまた面倒なことにこの「専門スキル」を極めると「派生職」扱いになる。
例えば「剣士職」の「専門スキル」である斧系のスキルを極めると「処刑人」という職になるというのだ。
正式な認定はないため、産業ギルドに名を連ねることはないが、小さな「ファミリー」を作って活動するそうで、そのファミリーの数は100はくだらないという。
「処刑人」ファミリーは仕事もまさしく処刑人だったりする。
「ここまではいいかい?ざっと説明したけど、皆何か気になることはあるかな?」
気の遠くなる説明を聞いた俺たちは頭が混乱していた。
うんうん、うなずく林以外は。
正直、今日、異世界の街を歩き見ただけでも頭の許容量はパンパンだったのに、こんなことをいきなり説明されてすんなりと受け入れることができるはずもない・・・。
と、思ったが、そうでもなくなり、何だか頭にすっきり入っている気がする。
他の、寝ていた2人でさえ、理解していないわけではないようだ。
すると、俺の考えを見透かしたようにおじさんが話してきた。
「疑問に思っただろう?なんで、こんなに長い説明が頭に残っているのか、ってね。それは私が『スキル』を使って話していたからさ。寝ていても、他の事に気を取られていても、頭にはしみこんでくる。この総合案内局もまた、特別な『スキル』を使うんだよ。」
・・・・・・・・・・・・
「なんかすっごかったねー!これから晴花たち、魔法使いになっちゃうのかな!?かな!?」
総合案内局を出た後、晴花は話を切り出した。
「俺は刀メインの剣士になりたいぜ。めっちゃカッコいいだろ。」
「私も晴花ちゃんと同じ、断然、魔法使い・・・!」
「林はいかにもって感じだもんね。私は、そうだなー、弓を使ってみたいかも。こうドピューって。」
「光ちゃん、似合ってそうだね。僕は、晴花ちゃんや林ちゃんと同じで、魔法使ってみたいなぁ。」
続々とやりたい職業が出て来る。
そのどれもが「戦闘職」だ。
というのも、あの後ひとしきり説明を聞き、俺たちはその場で「戦闘職」になることをババッと決定した。
「戦闘職」を選ぶと冒険者になれると聞いたからだ。
まぁ、せっかく異世界に来て、冒険が出来るのに冒険しないことはない。
しかも、魔法を使ったりするのは「戦闘職」が多い。
なら、もう「戦闘職」しかない。
ちなみに俺がなりたいのは「戦士職『ファラック』」だ。
魔法をまとった拳で殴り付け、脚で蹴り上げる肉体派職。
昔から格闘ゲームが好きだった俺には魅力的な職業だ。
外で待っていたミシャさんはさっきと変わらずニコニコしてる。
きっとこんな反応をいつも見ているから、ほほえましいのだろう。
「皆さんお疲れ様でした。あの人の説明は長くて大変だったでしょう。」
やや苦笑いしながら、騒がしい俺たちに話をつづけた。
「本日はもう遅いので、明日、職業決定と技能習得を行いましょう。ちなみに、皆さんはどの職種になられたいのですか?」
「『戦闘職』で!!!」
力雅の食い気味な回答に俺たちは大きくうなずく。
元の世界では味わえないことを、この異世界では存分に味わう。
洞窟を通ってきた時から、みんなでそう決めている。
「そうですか、それはなによりです!では、今から冒険者支援協会提携のお宿にお連れ致します。先ほど、ご説明をお受けになられている間に取っておきました。そして、そこのお宿の予約した2部屋は、今後自由に使用して頂いて構いません!冒険者支援協会からの、ささやかなプレゼント、だそうです!」
「おおおおお!すげぇ!本当ですかミシャさん!野宿せずに済むぞ!」
「お宿、見てみなきゃ、分からない。でも、嬉しい。」
「やったぁ!ねぇ、ご飯はついてるんですかー!?」
「もちろん、朝ご飯、夕ご飯付きです。今日は歓迎ということでお料理もちょびっと豪華ですよ!」
「う、うわぁ・・・嬉しいけど、でもそんなサービス、なんだか申し訳なくなっちゃうね・・・。」
「いいんだって!幹夫は細かいことを気にし過ぎよ!もう流れに身を任せて楽しんじゃうわよ!ノブも、難しそうな顔してないで素直に喜びなさいよ!」
「あ、あぁ・・・そうだな。うん。嬉しいんだが・・・」
嬉しいが、何かが引っかかる。
この街に、この異世界に来たばかりの訪問者に、こんなに待遇を良くするものなのだろうか。
やけに流れもスムーズで、この世界に来てから、困難にあたったためしがない。
一応、リーダー(仮)としては気に掛けるべきなんだろうが・・・。
でも、みんなの顔を見ているとそんなことは些細なことのように見える。
ごちゃごちゃ考えている方がおかしいのかもしれない。
それに元の世界からの移住を促しているとミシャさんは言っていたではないか。
なら、待遇を良くするのも当たり前だろう。
こうして俺は自分を納得させ、みんなとはしゃぎながらミシャさんの後に付いていった。
そう、俺たちが、「戦闘職」で冒険者になる道を選んだことをミシャさんに伝える前に、まるで知っていたかのように、冒険者支援協会提携の宿で予約され歓迎を受けることとか、ミシャさんが右手で口元を押さえ、まるでどこかに連絡していたように見えたこととか、そういうことは全部忘れてしまった。
だって、そうだろう。
この世界には、冒険があった。