第4話 『始まりの街 オリジナ』
「お、お待ちください!!!!」
聞き慣れない言語に俺たちは足を止め、恐る恐る振り返った。
すると、先ほどまで閉まっていた門が外側へ大きく開き、その前に金髪のお姉さんが立っていた。
お姉さんは一言でいうと、人間じゃなかった。
確かに顔や姿形は、とても美人な人間女性だ。
が、しかし、お姉さんは普通の人間にはないモノを付けていた。
お姉さんは静かに立っているだけなのに、それに反して尻尾はフリフリ、猫耳ピクピク。
どう見ても作り物のクオリティーじゃない。
「ちょっと、ノブ!あのお姉さんなんかすごいよ・・・!耳!尻尾!」
隣にいた光が肩を小突いて小声でささやいてきた。
「あぁ・・・、すごいなおい・・・。」
俺もついつい同意してしまった。
猫娘ってやつか?いや、猫娘にしては猫要素うすいし・・・。
それに他にも気になる事がある。
なんで俺たちはあのお姉さんの言葉の意味が分かったんだ?
聞いたことのない言葉なのに、頭では何故だか意味が理解できる。
表現するなら翻訳機を頭に埋め込まれているよう、だ。
こんなおかしなこと、やはりここは異世界だと実感する。
「あぁ!お待ちくださり、ありがとうございます!我々はあなた方に危害を加えるつもりはございません。ですから、こ、こ、こちらに、こちらにいらしてください!」
「なんかスゲー怪しいぜ、おい。暴力しないっていうやつほど暴力振るうんだよ、マジで。」
「力雅君、それは失礼じゃないかな?お姉さん、武器も持ってないし、安全そうだよ?」
「幹夫君、なにデレデレしてるの?だまされるよ、多分。」
「し、してないよ!」
「そうです!騙すつもりなんてございません!」
「とは言ってもねぇ、急に出てきたお姉さんの言うことをすぐに信じるのも・・・。」
「確かにな。力雅、少し下がってくれ。危険だ。」
「えー!?でもお姉さんすっごい美人だよ!?」
「そうです!美人で・・・て、ち、違います!いや、違わないですけど、ちょっと、うーん。と、とにかくお願いです!私を少しでいいので信じて下さい!」
・・・あれ?
「「「「「「あれ?」」」」」」
会話が進んだところで、みんな揃って疑問の声を上げた。
なんでこんなにお姉さんと自然と会話が出来てるんだ?
俺たちは今何の言葉を話した?
話している時の違和感なんてない。
だが話し終わると、何故お姉さんの言葉を使えているのかが分からない。
するとお姉さんがしたり顔で提案してきた。
「ふふっ、皆さん色々疑問をお持ちのことでしょう!それらも含めて私がご説明致します!ですので!どうか私を信用してください!」
少しだけ涙目になりかけているお姉さんを見ると流石に気が引ける。
それに、安全そうに見える街の中に入れて貰えて、この世界の説明をしてもらえるなら、願ったり叶ったりだ。
なにより俺たちは心細く感じていた。
自分の知らない世界に頼りもなく、長い時間いるのは疲れることだ。
しかも、どうやら言葉も通じてしまう。
俺たちは顔を見合わせ、完全に油断しないようにしながら、お姉さんの後についていき、街へと入った。
道を歩く途中、お姉さん、名前は「ペシャ」さん、に色々なことを聞いた。
まず、この街の名前は「オリジナ」と言うそうだ。
「冒険者」と呼ばれる個別依頼の雇われ兵、言い換えれば個人レベルの傭兵みたいな職種の人たちが、最初にこの街の「冒険者支援協会」の本部で登録を行うため、始まりの街、と呼ばれている。
街というわりには他の主要都市より大きいらしく、冒険者のおかげで戦力も多く、要塞都市のような様相になっている。
そのためか流通も多く品ぞろえも豊富、らしい。
だが、力雅に言わせれば
「俺たちの世界よりも、なんか、しょぼいな。」
林に言わせても
「文明レベルが、けた違いに、低い・・・。」
くらいの状態だ。
恐らくこの世界の文明は、俺たちの世界の中世あたりの文明に止まっている。
しかし、おかしなもので、魔法という概念が存在し、実際にその魔法を見てみると、はるかにこちらの方が文明のレベルが高いようにも思えてしまう。
実際、物や船が浮いて移動してたら誰でもそう思ってしまうだろう。
ペシャさん曰く、後で説明してくれるらしい。
そして、俺たちが出てきた神殿、他にも何個かあったあそこからは、こうやって俺たちみたいな、この世界にとっての異世界からの訪問者が現れ、街を訪れる。
その訪問者の案内人がペシャさん達、「アテンダ」という職業だ。
彼女達は、案内と同時にこの世界への移住を推奨しているらしく、俺たちも勧誘を受けた。
様々な種族が住まうこの世界、アテンダの努力もあり、実は大半の種族があの神殿より移ってきた。
ペシャさんの種族「キャットピープル」も600年前の移民種族らしい。
神殿には謎が多く、この世界に長く住まう種族はあそこには近づけないため、実態も理解されていない。
そして、多くの移民でこの世界にもとからいた種族というのも判明していない。
ただ、いくつかの種族が元の世界へと帰って行ったことから、戻れることには戻れるという話だ。
また、この世界で、言葉が通じるのは、なんと神さまの魔法のおかげだそうだ。
これは原理を通り越して現象的なことらしい。
異世界からの訪問者は皆これに戸惑いを覚えるが、時がたてば違和感を感じなくなる、とか。
なんだか頭を勝手に改造されているみたいで気味が悪いな・・・。
しかも神さまって、と馬鹿にしたらすごく怒られた。
どうやら神はこの世界に実際に存在するとされる。
文献はすべて990年前以上昔のモノは残っていないため、確かなことではないが、昔からの言い伝えで、神種、という種族が認定されている。
ちなみにこの世界の暦は今、996年の時を刻んでいるという。
月日の間隔や時間の経過は驚くことに俺たちの世界となんら変わりなく、7月19日、午後4時30分。
時間は魔法時計というもので調整されるらしく、けして安価ではないため一般の人々は定時の鐘と太陽の動きを見て、時間を知るそうだ。
こうした説明をペシャさんが自慢げにしている間も、俺たちは街の観察に勤しんだ。
恐らく、観光案内のような意味もかねて、ペシャさんは市場だったり大広場だったり、活気のあるところを選んで歩いてくれていた。
そのおかげでみんな思い思いに見たいものを見て、話し合っていた。
俺たちの格好はハイキング用の格好だったが変に目立つこともなかった。
何せもっと奇抜な色や恰好をした人が多くいる。
しかも目が6個あったり、狼男だったり、そもそも市民自体が個性豊かだ。
人も結構いるっぽいが、ペシャさんの話していた移民種族の個性が強いせいでどうも影が薄くなる。
彼らはいずれも大まかに亜人種、細かく分類されると「キャットピープル種」「フロッピーマン種」「顔なし種」など様々だ。
「これから、産業ギルドに向かいます。皆様には、そこで職業を選択して頂く必要がございます。」
市場を抜け、その先にある大広間の石ベンチで休んでいると、ペシャさんは俺たちに説明をしてきた。
「こちらの世界では16歳以上の方は、職業に属することが、身分証明となるのです!これから向かう産業ギルドでは、職業の選択と技能の習得が行えます。職業には私のような異世界移民案内職『アテンダ』のようなものから、鍛冶職『スミス』、調理職『クック』等など!様々なものがございます。技能は職業に付随するものですので、職業の選択が重要となります。」
「その技能の習得っていうのは、訓練とかあるんすか・・・?」
ペシャさんの怒涛の説明に面喰いながら、練習とかそういうものが大嫌いな力雅が顔を引きつらせながら質問した。
「もちろん、習得後の技能の練習は必要ですが、習得に関しては魔法装置を使用致します。ですので、覚えることに素質は関係ありませんし、訓練も必要にはなりません。ただ、その人に合う合わない、というのはもちろんありますし、職業には『アテンダ』のように女性限定、など条件を定めているところもございます。ですので、実際に産業ギルドにてご説明をお受けになることをおすすめします。目で見た方が分かりやすい事も沢山ありますしね!」
こうして、なんだか良いように言いくるめられ、俺たちは産業ギルドへ向かうことになった。
そして、産業ギルドでの選択が、俺たちの運命を大きく変えることになる。