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俺たち異世界大発見伝  作者: カネシロ 
第2章   『魔王討伐』編
33/33

第33話  『最初の一歩』

「邪魔だこの糞豚ああああああ!!!!」



 力雅はそのまま手にした刀を垂直に振り下ろし、目の前で斧を握っていたオークの頭をカチ割る。

 オークの頭は叫ぶ間もなく赤錆色の花を咲かし、その命の灯を消した。


 オークやそれだけではない、多くの死体を踏み越え力雅はその刀を振るう。

 子供の頃、草原を掻き分けて進んだ時のように。

 今は血肉の飛沫を浴びて、その波を掻き分ける。

 背後の敵を見ずに鞘の先端からも中刃の仕込み刀を抜くと、棍棒を手にしたトロールの首はスルリと滑り落ちていった。

 敵の血を全身に浴びるその姿は、まさしく戦神の様相だ。



「力雅!前に出過ぎだ!!後続と離れてる!一回下がれ!」

「信浩!!今下がったら押されるぞ!!行くしかねぇ!!!」

「くそっ!!この(いくさ)馬鹿!!」



 力雅は魔物の海を、モーセが杖で海を割る如き様で斬り開く。

 すぐ後ろに付いた俺は、力雅を囲もうとする魔物を煙の噴くハルバードで薙ぎ払って、その道を開ける。

 獣の唸り声をあげるハルバードは避け損ねた魔物を容赦なくスライスし、力雅の作る血飛沫に更なる赤褐色を加えあげた。

 50mほど遅れた所には剣士職や戦士職の冒険者による切り込み隊が続き、魔王軍の配下を殺し、その陣形を破壊している。

 戦場に拳が炸裂し、剣戟の音が響く。



 剣が切り裂くのは魔物の肉のみではない。

 オークやトロール、餓鬼にミニデーモン、魔王の配下も侵攻する冒険者を斧で叩き、剣を突き立て、食いちぎっていた。

 それでも冒険者は怯むことなく突き進む。

 魔物の肉の壁には俺たちと同じいくつもの切り込み隊が突撃し、元は冒険者の第2防衛線であった塹壕地区に居座る魔王軍を、混乱させかき回していた。



 やがて塹壕の前に列を成す魔王軍が大きく崩れだした。

 

 そして、それに合わせたように戦場に大きな法螺笛の音が重なるように鳴り響き、音に乗せられた魔力が切り込み隊にその意思を伝える。

 体を揺らす低い重低音。

 これが合図だった。



「今だ!!!設置!!!」



 俺の声を聞いた瞬間、後ろに続いていたある槍(・・・)を背負った6人の冒険者が、一斉に槍を土に突き立てる。

 そして両端がランスのようになったその槍を突き立てた所で、彼らはその柄を思い切り回転させた。

 すると冒険者の魔力を吸った槍はその上部を回転させ始め、青色の光が漏れ出る。



 瞬間、冒険者たちの集う協会団の陣営から青色の波動が幾重にも重なって、魔王軍と相対する冒険者を背後から包み込むように戦場に広がっていった。

 そして、その青色の波動は魔力の壁として、前線に立つ魔王軍に衝突した。


 ただでさえ乱れ始めていた魔王軍は、この波動によって完全にその陣形を崩し、倒れた大型の魔物に下敷きにされ殺される魔物や、興奮で暴れる魔獣に引き裂かれる魔物の悲鳴や怒号が響く。



 これは、魔法障壁だ。

 俺たちが地に立てた槍をマークに、本営に設置された宝玉が魔力を伸ばす事が出来る。

 俺たち以外の切り込み隊も、壊滅せずに槍を立てれたところには障壁が伸びていき、互いの障壁は干渉し合うことなく一体となっていく。

 林のちょっとしたアイディアを元に、ネクスタでマチ主導で製造された試験技術ではあったが、無事に稼働してくれたようだ。



 俺たち切り込み隊の役割は2つ。

 1つは、占拠された塹壕の手前に構える数十、数百の列を成す魔王軍へその名の通り少数精鋭で切り込んでいき、その陣営を一時的に乱すこと。

 そして、もう1つがこのマーク用の槍を突き立てることだ。

 俺と力雅の隊はその槍係は10人いたのだが、ここに来るまでにその数を減らしていた。

 でも、壊滅しなかっただけ随分とましだ。

 後ろから連続で波打つ魔法障壁の中で、そう思う。



 だが、魔法障壁は少しずつその威力を衰えさせていた。

 やはりネクスタみたいにきっちりと計算された完璧な配置ではないせいだろうか。

 魔王軍がこの混乱から復帰するのも時間の問題だろう。

 そして、デーモンロードのような上級の魔物は混乱し命令を聞かない下級の魔物を無視し、単体で強力な魔法攻撃を障壁に与え始めた。

 火炎球や雷撃、水の槍と上級冒険者に負けるとも劣らない魔法攻撃は、魔法障壁を鈍く震わせる。



「ちょっと、やべぇかもな、これ。」



 そう呟く力雅の顔は敵の返り血で染まっていたが、緊張で流れる汗がその血を地面に洗い落とす。

 しかし、その力雅の心配は無駄なものとなった。



 ザッザッザッザッザッザッザ!!!!



 その足音は地面を揺らし、軽い地震さえ錯覚させるものだった。

 俺は足音の轟く後ろを見て、ニヤリと笑う。



「いや、力雅、大丈夫だ。予定通りだぞ。」



 力雅もその正体を見据え笑い返す。



「ああ、来たな・・・!おし!じゃあもう一働きするか!」

「無理すんなよな・・・!」



 少し腰を休めていた俺たちは、力を振り絞って立ち上がる。

 これからだ。

 これから、今目の前にいる魔物どもを全員殺してやる。



 力雅は背中に収めていた刀を抜いて、その刀身を腰に付けていた金属製の手袋をはめた手で、そっと撫でる。

 スキルは傷ついた刀身を優しく砥ぎ、すり減った刀身は手袋から栄養を吸い取るように戻っていく。

 俺も地面に突き立てたハルバードをクルリと回転させると、相棒は喜ぶように煙を吹く。



 そして、俺たちの後ろには15万人の冒険者たち、協会団の本隊が、大盾を持つ騎士を並べて確実に進軍していた。



 魔法障壁の効力が消えた頃には、陣形の整わない魔王軍へ15万の槍、剣、矢、魔法が降り注ぎ、魔王軍と協会団は初めて全面衝突した。

 戦場には、雪が降り始めていた。





・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・



 俺たちがサーディアに到着した頃には、魔王軍の進撃は遂に国境を守る支援協会のブロッド砦を陥落させ、ヒト領に及んでいた。

 ブロッド砦の北に広がるミスト平野には征討軍と冒険者による共同戦線が組まれていたが、双方の再編成とブロッド砦の陥落によってその共同戦線は解体され、今は魔王軍による臨時拠点が建造されている。


 王族の持つ国境防衛拠点、その平野をさらに北上したところにある「地上要塞ガント」「戦闘要塞カブラ」はブロッド砦が陥落される前に魔王軍によって猛攻を受けたため、陥落する前にガントの方は移動した(・・・・)

 というのも、機動要塞としての側面を持つガントは要塞前に展開した防衛部隊をその内部に収め、カブラと並んで前線を後退していたのだ。



 つまり、状況としては王族も支援協会も軍再編に伴って防御が一時低下し、魔王軍によってその隙がつかれ、ヒト領は後退したということだ。

 サーディアのすぐ近くまで進軍をされた時はかなり肝を冷やしたりした。

 何せこっちは準備でサーディアの街中を駆けまわったりしている中、すぐ近くで爆音が聞こえるのだ。

 それでもたくましいサーディアの住民は、移住した者も少なくないが、残った人たちはサーディアを維持することに努め続けた。



 だが、それは2週間前のことであった。

 今は違う。


 今回、支援協会の協会団は初めて魔王軍と全面衝突を果たしたが、既に2週間前に征討総軍による反撃作戦が開始されていたのだ。

 その反撃により征討総軍の前線は元々の場所より進み、最北に位置するライゼル山脈に近い場所に展開されていた魔王軍を撃滅した。

 そのライゼル山脈の中腹に建造された征討総軍空戦軍基地は飛行隊や召喚獣を飛ばし、征討総軍による魔王領への侵攻をより一層加速させた。

 まぁ、そのせいで北から後退する魔王軍がブロッド砦の攻略を速めてしまったのはあるのだが。



 しかし今回の協会団による塹壕奪取の成功と、次の作戦として考えられているブロッド砦奪還が成功すれば、状況は好転する。


 広げられている地図を見ると、魔王領とヒト領の国境ラインは地図の上部を横に大きく占めるライゼル山脈から伸び、戦闘要塞カブラ、地上要塞ガント、ミスト平野、ブロッド砦、そしてその先は海をなぞっている。

 このうち、魔王軍はミスト平野に臨時拠点を持ったが、ブロッド砦さえ取り戻せば後はここだけだ。

 あと2か所奪還すれば、今度は魔王領の侵攻に着手出来る。



 この戦争では全て終わらせることになっていた。

 数百年前の戦争ではヒトは自分たちの領土を取り返し、その安定をさせることで手一杯だった。

 だが、今はその時より遥かに国力があり、ヒトも、亜人も多くいる。

 魔王領を占拠し、魔王を殺すことが、この戦争の目的になっていた。


 征討総軍では魔王殺害は全てにおける最優先事項に指定され、支援協会も魔王の討伐報酬に金貨10000枚を設定した。

 それは、魔王の強大さを物語っている。

 魔王は確かに魔物の王であり、加えて強力な魔物であった。

 数百年前の戦争では前線に立ち、その圧倒的な魔力で破壊の限りを尽くしたという。


 そして、この戦争でもその存在は確認されていた。

 街1つ分の大きさを誇る海上要塞フロイトネスが半壊したのは、その魔王による直接攻撃だったようだ。

 自身が直接使役するリヴァイアサンなる怪物に乗って現れた魔王は、魔法とリヴァイアサンによって圧倒的な力を行使した。

 それ以来、魔王は征討総軍には脅威的な殺害対象として、冒険者には確実な討伐対象として認識された。



 そして、俺たちフレイムズはこの魔王討伐において、有力な候補の冒険者グループとして名前が挙げられている。

 数えればこの世界に来てから5か月近く経ち、俺たちはその腕を磨き続けた。

 気付くとサーディアでも遜色ない強さを手に入れていた。

 普通の冒険者よりもはるかにその成長は早い。


 少し疑問にも思った。

 だが、俺たちがこの世界に呼ばれたタイミング、俺たちにだけ早く訪れた元の世界と異世界の時間のズレ。

 俺たちは呼ばれるべくして呼ばれたからこそ、強くなったのだ、そう感じていた。


 俺たちのやるべきことは魔王をこの手で倒すこと、そんな風にも考えていた。

 前には考えもしなかったことが、今ではすっかり自然と頭に浮かんでくる。

 この世界に馴染んだということか、それとも誰かに意図的(・・・・・・)にそう思わされているのか。


 どっちだって良かった。

 結局、俺たちは魔王との対決を運命づけられていたのだから。

 



 塹壕の奪取はそれほどの犠牲者を出さずに成功した。

 間をおかずにブロッド砦の攻略が始まるだろう。


 こうして、ヒトと魔王の戦争が始まったのだ。

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