第32話 『友との別れ、新たな始まり』
王族が魔王に宣戦布告を出した日よりおおよそ2か月前、血塗りの花火事件が起きた日の翌日の朝、俺たちは王都第1下地区の駅にいた。
駅は牛頭馬頭に破壊されることはなく、駅前の広場から駅舎まで魔法運輸を待つ多くの人々で溢れていた。
彼らの内の半分は通勤のため、そしてもう半分は王都を離れ別の都市や支援協会の街に移住するためにこの駅に荷物を持ち込んでいるようだ。
移住を希望する人々のほとんどは家を壊されたり、店を壊されたり、家族を失ったりした人たち。
この事件で王都が信用できなくなったり、王都で自宅や店を再建させる余裕がない、というのが移住理由だという。
確かに征討軍の警備隊は行動が遅れていた。
臨時部隊が牛頭馬頭に対処するために剣を握った頃には多くの人々が殺されていた。
だが、それでも可能な限り対応していたはずだ。
しかも結構熱心にこの事件の発端となった失踪事件にも取り掛かっていた。
だから、こうやって信頼を無くして王都を出ていく人々や、速報紙によって征討軍がまるで働いていなかったかのように評されてしまうのは知ってるから身内贔屓とは言わないまでも、酷な気がする。
俺たちが立つホームはもちろん中都ナブレ行のホームで、ネクスタに移住しようとする人も多いせいか他のホームより人が多い。
そんな中で俺たちの前には4人の男女が見送りに来ていた。
高貴なる光・・・、いや今は征討軍第1陸戦軍団第4師団特殊広域部隊「ユディアン」のメンバーだ。
ユディアンは元高貴なる光のメンバーに加えあと4人のメンバーがいるそうだが、やはり高貴なる光で固まってしまうんだと。
まぁ、長年その4人でチームを組んでやっていたんだし、当然だろう。
むしろ知らないやつ4人と組んでいるというのが驚きだったくらいだ。
その見送りの中にはもちろんモモの姿もあった。
結局昨日は、モモは目覚めたはいいものの、館に戻るとまたすぐに気絶するように寝入ってしまった。
誘拐されて、あんな寒い中を裸で魔力吸われたら何もしていなくても疲れるのは仕方ない。
その寝顔は、磔にされていた時より随分と安らかだった。
ちなみにあの後牛頭馬頭から出てきた大蜘蛛だが、一瞬で片づけられていった。
大蜘蛛は非常に粘着性のある糸を吐き掛け、手足には毒毛が生えているという厄介なモンスターであったが、レベルで言ったらたかだかレベル2か3と言ったところか。
俺たちにとって大した敵ではなかったということだ。
俺がまだ目覚めたばかりのモモに状況を説明していると、その間にレンコンたちが粉々に斬り付けて燃やし殺してしまった。
その後はモヤシに館でモモの看病をさせ、他のみんなで残った牛頭馬頭のうち2体を殺し、征討軍の警備隊と共闘しながらこの事件の収束に協力した。
そして、朝になって安全を確認したところで待っていたのは、みんなからの説明の要求と怒涛のお叱り(主に光とレンコン)であった。
そりゃ確かに1人で突っ走ったのはバカだったしよもや死にかけたなんて言えなかったけど、林が治療してくれている間も、館で休んでいる間もお説教されるのはきつかった。
一応今回の事件からモモを無事に救い出したということでお許しを頂いたが、これまたモモがちょっと問題となってしまったのだ。
あの例の惚れ性だ。
レンコンたちと別れの言葉や互いに激励し合っていると、ネクスタ行きの魔法運輸が到着しその扉を開ける。
急いで荷物を入れ込まなければまた次の魔法運輸を待つことになる。
俺たちは最後に手短に挨拶をして、押しの強い晴花や力雅を先頭に車両に乗り込んでいく。
俺も光の後に続こうとしたところで、
「待って!!」
とモモが右腕のぶらつく上着の裾を掴む。
人々の話し声や、色々な駅へ繋がっている魔法運輸の稼働音で雑音に溢れる駅内でも、モモの声ははっきりと聞き取れる。
「ノブヒロ君、・・・いえ、ノブ君。昨日は本当に、ありがとね。」
「うん、まぁ助けるのが遅れちゃってごめんな。」
「え?ノブ君?モーリス、それはどうい・・・ぶっ!!」
レンコンがモモに頭を引っぱたかれた。
モモはそのまま何事も無かったかのように続ける。
「良いの、助けに来てくれた。アタシ、すっごく嬉しかったよ。」
「・・・そうか、なら良かった。」
「うん、でね・・・。」
モモは頬が触れ合いそうなほどずいっと近づき、俺の耳元に手で隠した口元を近づける。
「アタシ、もっと好きになっちゃったかも。ヒカリと結婚してないなら、アタシにもまだチャンス頂戴っ!」
「え、」
そう言ってモモは唇を耳から頬に移して、軽くキスをしてきた。
「んがっ!?」
「ほあああああああ!!??」
驚きで慌てる俺とみんなをよそに、モモは最後尾の俺を電車に押し込む。
電車に入ったところで出発のベルが鳴り、扉が閉まる。
「ちょ!モモ!アンタなにしてくれてんの!!」
「ばーか!油断してる方が悪いのよ!ヒカリ、アンタには負けないわーー!!」
光の怒りも何のその、モモはケロリと受け流す。
そして車両が宙を浮き始め、光のリングが空中に接続された線路を車両ごと包み込む。
突然やってくる浮遊感に体を揺らしていると、空いた窓からレンコンたちの最後の別れの言葉が聞こえて来る。
「フレイムズの諸君!元気でやるんだぞ!!」
「おうよーー!!レンコンも頑張れよなぁ!!」
「リキガ!お前とはいつかどちらの方が剣の腕があるか、決めてやろう!だから、まだ、死ぬなよ!!」
「お前もな!!」
「それとノッブーヒロ!!」
「ん!?なんだ!?」
ゆっくりと車両が前進しだす中、レンコンの声は徐々に薄れていく。
「君は!君たちは、進むべきだ!!信じたものを、信じるままに、君が思ったことを、やり遂げるといい!!!!」
そして、駅から離れた車両にはもうレンコンの声は届かず、レンコンたちが手を振る姿が見えるだけだ。
窓から身を乗り出して、俺たちも手を振り返す。
レンコンは俺たちに進むべきだと言ってくれた。
信じることを成せと、言ってくれた。
なら、やるべきことはただ1つだけだ。
昨日のような卑劣なやり方をする奴らを、魔王軍をぶっ潰す。
モモを、俺たちの仲間を傷つけた代償は支払わせてやる。
俺も身を乗り出して手を振る。
もう車両からは見えなくなっている、王都の友に向けて。
そして、後々俺は知る。
もう、彼らに会うことは、2度とないことを。
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・・・・・・・・・・
そして時間は現在に戻る。
平原には昨日軽く降った雪が薄らと積り、冬に萎びた深緑と白色のコントラストが美しく映えていた。
俺たちは今、「第三の街 サーディア」に来ている。
サーディアを囲う高く堅牢な、そして魔王軍の度重なる攻撃により所々壊れ、修復された痕の残る防壁の前に俺たちは立っていた。
だが、俺たちは、フレイムズだけではなかった。
ネクスタから、いや、全支援協会領から集められた冒険者たちが最後尾が見えないほど集まっている。
その数、およそ5万人。
ヒトだけでない。
亜人や召喚獣、中には知能を持った喋る大型のモンスターまでいる。
それぞれ手に、背中に、腰に、脚に、あらゆる場所に装備を付け、武器を携えていた。
冒険者たちの表情は決して柔らかくなく、この街の状態は彼らの顔をさらに険しくさせる。
門が開き、そして俺たちは進む。
まだまだ、冒険者たちはこの街を訪れるだろう。
俺たちは先鋒隊に過ぎない。
いずれ、この街では収まりきらない程の冒険者が、魔王軍と戦うために集まってくるのだ。
そう、支援協会の出した特殊召集によって冒険者はこの地に集う。
1か月半前、支援協会は征討軍の再編に続くように特殊召集を出し、冒険者による「協会団」を編成し、そして、征討総軍と共に魔王軍を打ち滅ぼすことに決めたということだ。
門を通り抜けると、冬の風が冷たく肌身に染みる。
空は不吉な暗雲にのまれ、太陽の光が差し込むことはない。
そして、これから起こる悲惨な戦争の前触れを感じたのか、それとも寒さのせいか、俺の右肩はピリピリと疼いていた。




