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俺たち異世界大発見伝  作者: カネシロ 
第1章   『冒険者』編
30/33

第30話  『隠れた脅威』

 モモが館に帰ってこなかった日の翌日、俺たちはみんなでモモを捜し続けた。

 俺たちが王都に滞在できるのは明日までだ。

 人手が多いうちに捜すしかない。



 最初は何か買い物でもしてるのだろう、と思っていたが丸1日帰ってこないのはおかしい。

 モモは征討軍の兵士であり弓兵としても優秀であったため、まさか誰かにさらわれたとは考えられなかった。

 だが、この王都で頻発している失踪事件の被害者に名を連ねてしまった。



 今、王都第1地区では10人も失踪が続いている。

 性別に限定は無いがいずれも年齢は若い。

 特徴的なのは失踪者は全員基本的な保有魔力が多いことで、モモと同じように1人で出歩いていた時に失踪している。


 失踪者が出始めたばかりの頃は家出の類だと考えられていたが、1週間という短い期間で何人もいなくなれば事件と考えざるを得ない。

 そして、第2地区、第6地区でも同じような事件が同時に起こっている。

 第1地区警備隊による捜索隊も失踪者が5人を超えたところからずっと活動を続けているようだが、失踪者は見つかるばかりか増える一方だ。


 そして、最近この第一地区の魔力数値が乱高下して魔法機械が不調を起こしているという。

 俺たちが冒険者ということで、臨時捜索隊として雇われたためそういう情報が入ってくるが、どう考えても人為的に起こされたものと分かる。

 その歪みの発生源を発見するために光や幹夫の扱う敵発見スキルを使ったが、街中では特に異常は見つけられなかった。

 だが、林は確かに昨日より何か恐ろしい(・・・・)感じがすると訴えてくる。

 何かとこの林の直感は良くも悪くも当たってしまう。



 結局夕方まで捜しつづけたが、モモも他の失踪者も見つからなかった。

 そもそも手がかりというのがほとんどないに等しい。

 路地を捜しまわり、工場や専門機関の施設にも捜査隊の協力を得て入ったがそこに足跡は無い。

 店から店へ、人や公園あらゆる場所を訪れても目撃談は出てこないのだ。



 途方に暮れた俺たちは、今日の捜索を一旦中止して館に戻ることになった。

 もしかしたらモモは館に戻っているかもしれない、そんな風にも考えていた。

 そんな淡い希望だった。



 俺たちは館までの帰り道を肩を落としながら歩いていた。

 1日中捜しまわっても足取りさえつかめないというのは、自分たちの無力さを感じざるを得ない。

 

 しばらく歩いて第1中地区に立ち並ぶ店の明かりの合間を抜けると、店や人の喧騒が薄れ落ち着いた場所が姿を現す。

 上地区との境に近付けば近付くほど、中地区の建物は減り公園のような広い土地を持つ場所が増えてくる。

 ここが金持ちと一般人の境という所だろうか。


 横ではレンコンが疲れ切った顔をして自分の責任を問い続けている。

 別にレンコンのせいではないのだが、征討軍の特殊部隊小隊長となる前から責任感の強いやつだったせいか、その自責もまた強い。

 確かにモモが館を出るのを止めていればこんなことにはならなかったかもしれないが、そうやって慰めると余計に思い詰めてしまうので宜しくない。

 それに俺たちだって心配なことに変わりはないし、ここでレンコンに慰めを言っても俺たちには無意味に響くだけだ。

 

 しかも、俺にも反省しなければいけないことがある。

 館の庭に見たあの怪しげな影、恐らくあれがモモの誘拐犯だったはずだ。

 しっかりとこの目で捉えたわけではないが、そんな気がしてならない。

 だとしたら、俺にも責任がある。

 ならせめて、後で食後に抜け出してでも最後まで捜し続けよう、そう思った。



 上地区の大通りへ続く道に差し掛かると、小さな噴水が置かれた公園とその横に教会があった。

 明かりが消されもう暗くなっている教会を見て、この世界での宗教はどうなっているのだろう、そう思った時ふと背中に何かの視線を感じた。

 

 急には振り向かず、そのまま歩き続ける。

 他のみんなを盗み見るが、お互いにこれからの計画を話しているだけで気付いている様子はない。

 そして、確かに俺のことを見続けているその視線を確信した。



「なぁ、力雅。」



 そうやって後ろを歩く力雅に話しかけるように背後を振り向いてその視線の元を見る。

 一瞬視界の端に動く影を確認して、そしてすぐに教会の影に消えた。


 あいつだ。

 あいつがモモを、他の失踪者を誘拐している。

 そして、次のターゲットは俺だ。



「ん?どうした信浩。」

「あ、いや、なんでもないんだ。すまん。」

「はぁ?なんだそれ。お前も疲れてんなぁ。」



 律儀に答えてくれる力雅には申し訳なく適当にあしらってまた前を向く。

 今はもうあの視線は感じない。

 だが、俺が狙われていることは分かった。

 なら今夜、あいつに攫われてやろうじゃないか。



 館に着くとモヤシやニンジンちゃんが夕飯の支度を始め、他のみんなも大広間でそれぞれ休み始める。

 俺も庭に面した窓際に椅子を移し、そこで武器の手入れをする。

 また、視線を感じる。

 だが、このことは他のみんなには言わない。

 騎士の話だと今までの被害者は全員1人の時にその失踪を遂げているのだ。

 なら1人の方が都合がいいし、もしかしたらあいつはこの屋内の話も聞いている可能性もある。


 それに、たぶん後で光にたっぷりと怒られるとは思うが、今はモモのことを一刻も早く見つけないといけない。

 急がなければ。

 恐らく活躍するであろう相棒を丹念に磨きながら、強く拳を握った。



 やっとみんながイビキをかいて寝入った頃にはもう深夜の2時を回っていた。

 俺は静かに起き上って、入り口に置いた武器を手にして外へ出た。



 扉を出てから周りを見渡す。

 すると大通りの影に何か動くものを見た。

 良かった。

 あいつは俺が武器を持っていると分かっていてもしっかりと誘い出してくれた。

 だが、それは武器を持っていても勝てるという自信の表れでもあるなら、俺も最大限奴に応じなければいけない。



 影の後を追って走る。

 大通りには何本も路地や別の道が接続していて、奴はその影に入って姿を隠しながら移動していく。

 完全には奴を捉えきれない歯がゆさに走る速度を上げるがそれでも追い付けない。


 走り続けていくと気配は先ほどの教会のあった公園へと消えていった。

 俺も後に続いて公園へ入り、背中にかけた大斧「ハルバード」に手をかけいつでも戦える準備をする。

 だが、敵は襲って来なかった。

 そして、教会の扉がギイと音を立てて開き、そこに誰かが入り込む。

 その後ろ姿はモモにとてもよく似ていた。



「モモ!?」



 俺は急いで教会の扉を開けて中に飛び込む。

 教会は絡まった2対の人型の銀像が置かれた講壇があり、その後ろに作られた赤色のステンドクラスを透過した月の光によって、紅に染め上げられていた。

 夜だから誰もいないことは分かっているが、その静寂が恐ろしい。

 しかも、心なしかやけに温度が低い気がする。

 吐く息が白く、体温が温かい。



 すると突然俺が開けた扉が自然と閉まった。

 びっくりして振り返るが、カツンという靴音にすぐまた講壇の方を振り向く。

 そして、講壇の横に備え付けられた地下に続く階段を降りる足音がした。



 こっちに来い、そういうことだろう。

 ここまで来た以上はもう後には引けない。

 俺はもう引き込まれてしまって、失踪事件の犯人をどうにかしなければ今日の昼には11人目の失踪者になるはずだ。

 今までの失踪者がどうなっているのか、今は考えない。

 俺は階段を降りて鉄格子のような扉を開き、地下に真っ直ぐと続く道を歩いた。



 道を進んでいくとほのかにかび臭い臭いがする。

 そして、暗いはずの地下道は、奥にある部屋から漏れる光によってわずかに照らされていた。

 背中の武器をしっかりと左手に握り、その部屋に足を踏み入れる。

 

 

 部屋の中は予想より天井がずっと高く、備え付けられた天窓を通して外から月光が入り込む。

 部屋は先ほどの上の教会より2回りくらい小さな教会のようになっていて、その奥には講壇は無いが翡翠の像が置かれていた。

 ここは寺の本殿と似たようなものだろう。


 だが、そんなことよりも俺はある光景に釘付けになっていた。



 部屋の両脇には十字架が10本並べられていた。

 しかもただの十字架ではない。

 10人の男女が裸で両手を広げ、キリストのように磔にされている。

 その腕や脚、体の至るとことに突き刺された管のようなものは脈打ちながら、部屋の真ん中に置かれたくすんだ色の楕円形の物体から伸びていた。

 まるで、生命力を吸い取るように。


 そして手前の十字架にはモモが吊るされていた。



「モモ!!おい、しっかりしろ!」



 駆け寄ってその体を十字架から下ろし、羽織っていたコートをかけて抱きかかえる。

 モモに意識はなく、体は恐ろしく冷たい。

 だが、抱きかかえたモモの体からは繋がれた管とは別の、弱弱しくも確かな心音が伝わってくる。

  

 とにかくこの管を抜かなければ。

 そうして管に手をかけた途端、背後に気配を感じた。


 モモを抱きかかえたまま何も考えずに横に跳ぶ。

 そして、その拍子にモモから管が抜け落ちる。


 石畳に金属を叩きつけるようなガンっ、という音が暗い部屋に響き、そして、先ほど俺がいた所には2本の剣が突き立っていた。


 しかもそれだけではない。

 いつの間にか部屋には黒い外套に身を包み顔以外を黒く染めた謎の集団に囲まれていた。

 唯一表に出たその顔もオペラマスクのようなものを被っており、素性は知れない。

 人数は15人程度か。

 先ほど俺に剣を突き立てようとした2人が剣を引き抜き手にしているように、他の黒外套も手に剣を持っている。



 そして、コートで包んだモモを地面に寝かせた直後、一斉に黒外套が襲い掛かってきた。

 

 迫る2人の黒外套をハルバードで突き刺し、薙ぎ払う。

 後ろに回ってきた黒外套を回し蹴りで蹴り飛ばし、そのまま回転してハルバードを振るう。

 黒外套たちはフラフラと不気味に揺れながらハルバードの刃を避けた後、そのまま妙な足取りで覆い被さるように押し寄せ、味方のことなぞ構わない、と言わんばかりに剣を振るい、突き刺す。

 

 気付くと右腕のあった場所を黒外套の剣が突き抜けていた。

 前のように腕があれば確実にこの剣は俺の腕を()ねていたろう。

 肝を冷やしながら右腕に剣を振るった1人の黒外套を肩口からハルバードで引き裂くように斬りつける。

 

 しかし、黒外套の数は減らない。

 別に人数が増えている訳ではない。

 奴らは刺しても斬りつけても死なないのだ。


 こいつらのようなタイプには見覚えがある。

 まだ、このハルバードを自由に扱えなかった頃に対峙したアンデッド系のモンスターだ。

 あいつらは侵入してきた魔王軍の手下だったが、やはりこいつらもそうなのだろうか。

 すると王都はもう魔王軍の侵入を許していたということか。



 俺と刃を打ち付けあってもこちらの威力と重量には勝てないため、黒外套は簡単に弾き飛ばされるが、1人と打ち合っているとその打ち合っている黒外套ごと突き刺そうとしてくるやばい奴もいる。

  

 加えてこういうアンデッド系には物理攻撃も立て続けに加えれば効果も出るが、こうやって人数が多いと何回も攻撃をするのは流石に手間がかかる。


 頭からハルバードを叩き落とし真っ二つに引き裂いた黒外套は、どす黒い血を乾いた体から零し動かなくなるが、こいつらは中々に練度が高い。

 全部の奴を動かなくさせるにはもっと効率よく、奴らの苦手とする火炎魔法を使うべきだ。

 

 そう判断するや否やスキル「大旋風」でハルバードを大きく円を描くように振り回し、周りの黒外套を遠ざける。

 そして立て続けに俺の魔力から生まれた火炎をハルバードの柄から刃へと纏わせてロケットのように飛び、離れた黒外套を斬って焼き殺す。

 カカカカカカ、という乾いた悲鳴のようなものを漏らす黒外套は口から、目から火を噴き燃え尽きて地面に倒れていく。



 黒外套はもう半分も残っていなかった。


 

 一気にケリを着けるべくそのまま残った黒外套にも跳びかかり、斬って、刺して、捻りつぶす。

 

 黒外套のうち1体が部屋の中央から管を伸ばす楕円形の物体、まるで卵のようなモノに近付いてそれに触れようとするが、俺の投擲したハルバードの先端についた槍が頭を貫き、砕いたオペラグラスと共に黒外套を壁に磔にする。

 残る黒外套2体も、武器を手放した左腕に生み出す火炎の拳を叩きつけその胸に大穴を開け動けなくさせる。


 それで黒外套は死滅し、部屋の真ん中で脈打つ卵以外に動くものはいなくなった。



 そして、その卵から伸びる管とそれ自身を断ち切るべく卵に近付いた。

 その卵はどす黒い色で、ドクンドクン、とその歪にクレーターが作られた体表を揺らす。

 なんとも気味の悪い。

 しかも、こいつは失踪者から何かを吸い取っている極悪な異物だ。

 今すぐ始末してやる。

 


 壁に突き刺さったハルバードを引き抜くと黒外套の残骸がボトリ、と地面に落ちる。

 そして手にしたハルバードを振り上げて卵の管とその本体を断ち切ろうとした。




 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!




 だが、突如部屋に響いた不快な音に、振り上げたハルバードを降ろし思わず耳を塞ぐ。


 その音の発生源は、卵の反対側に現れた黒外套だった。

 見落としていたのか16人目の黒外套がいたのだ。


 その黒外套の顔は、人の顔にデカい水晶玉をはめ込んだような顔をしていた。

 顔のパーツは無く、顔面はツルリと光る青色の滑らかな面で俺の顔を映し出していた。


 すぐさま殺そうとハルバードを構えるが、その手が一瞬止まる。

 

 その黒外套の顔が変化し、光の顔になったのだ。

 光の顔は優しく微笑んでこちらを見つめている。



 「っ!?」



 驚きで硬直したが、すぐにこの黒外套が作り出した偽の顔だと思い直しハルバードを振るう。

 

 だが、一足遅かった。

 その黒外套は顔をまた水晶玉に戻しながら、手にした宝石の散りばめられた短剣を卵に突き立て、その殻を割るように刃を下に滑らせていた。


 俺のハルバードが水晶玉の顔面を粉々に砕いた頃には、卵はその動きを止めていた。


 

 ドッドッドッドッドッドッドッド!!!!!!!!



 そして、不意にエンジン音のように激しくその表面を波打たせ始め、割れた部分から黒い液が大量に漏れ出す。

 

 卵から生えた管もあちこちが裂け始め、黒い液体が噴出する。

 モモとは違ってまだ管に繋がれていた人々が一斉に叫び声を上げて、磔にされた状態でのたうち回る。

 


 「チクショウ、やばい!!!」



 そう叫んで寝かせたモモを抱きかかえ、地下道に向かおうとした頃には部屋は大量の黒い液体で埋め尽くされ、磔にされた人々の体は異常に肥大化していた。


 液体は俺たちを飲み込もうと大量に流れ込む。

 

 ハルバードを背負い、モモを左肩に担いで全力で地下道を駆け抜ける。

 片腕を失ってからかなり鍛えたおかげで、倒れることなく地下道を走り抜け、そのまま教会の扉を蹴破る。



 そして俺たちが教会を出た直後、教会の地下が大きく隆起し、木造りの白い教会が爆発するように四散する。



 土埃と轟音、壊された教会の破片であたりが埋もれる中、



 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!




 という雄叫びを上げた9体の巨大な怪物が地面から現れ、王都第1地区の静寂と眠りを消し去った。

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