第3話 『異世界の地を踏みしめ』
『異世界』に迷い出て、もう一度戻り探検すると決めた日以来、俺たちの興奮はやまないどころか、日が進むにつれてむしろ最高潮に達していった。
まず、俺の家に集まり、キャンプ用の道具を揃え、みんなで計画を立てた。
何とも都合がいいことに、力雅の親父は山登りが大好きで、力雅と2人でよく泊まり込み登山をしていたので、こういう探検準備はお手の物だ。
そのおかげで、食糧やらなんやらの支度はすっかり整った。
行動計画に関しては、右も左も分からないので、とりあえず森の先に見えたあの街を目指すことにした。
みんなで準備をして、知らないところに行くのはやはり楽しいし、それが『異世界』だなんてもうワクワクが止まらない。
そして、親には力雅の一週間登山キャンプについていくと嘘をついた。
もちろん、力雅の親父は何かあるのを分かってた上で、子供の秘密に協力してくれた。
一週間も泊まり込みで探検すれば何かが分かるだろうし、場所は学校から30分のところにある小山だ。
いざとなればすぐに家に戻れる。
仕上げは、周りにばらさないこと。
これが一番きつかったかもしれない。
学校でみんなと会ったらついつい話してみたくなるし、親にも自慢したくてたまらない。
だけど、俺たち6人の秘密にすると決めた以上、俺たちは6人以外の人がいる時は、頑としてこの話題を口にしなかった。
まぁ、晴花のせいで苦労させられたことの方がデカいが。
あいつは声もデカいし、学校でも目立つ。
力雅が必死に晴花の口をふさいでどうにかやり過ごせた。
クラスメイトからは明らかに不審がられていたが何とかごまかせただろう。
そして来たる、夏休み初日の夕方。
俺たちは必要な荷物を抱えて、洞窟の前に立っていた。
夕方になったのは主に女性陣営のごたごたのおかげだ。
急にあれが必要、これが必要となにがなんだか。
ともかくこれで始められる。
「でーは、しゅっぱぁーつ!」
晴花の合図で洞窟を進む。
相も変わらずもやもやっとした洞窟だ。
ほんの数分で洞窟を抜け、神殿のもとに出ると視界は一気に広がっていく。
ちなみに見た目中身まんまで、この建造物を神殿と呼ぶことにした。
この景色を見るのは4日ぶりだが、相変わらずため息のでる壮観さだ。
あれ、なんか飛んでる生物増えてない・・・?頭が5つくらいある鳥がいるんだけど・・・。
「よし、ひとまず街に向かうとすっか!どうやらこっちも夕方みたいだし、急いでいかなきゃ日が暮れちまいそうだしな。」
確かにその通りだ。
神殿洞窟でキャンプをするのははばかられるし、森でキャンプなんていうのもおっかない。
せめて人のいる街の近くで休みたい。
人がいるのかは分からないけど。
「じゃあ、確認するか。まず、森で何かに襲われるかもしれない。だから、俺が先頭で間に女子3人、後ろは幹夫と力雅で固めてくれ。」
「おうよ。武器が登山用ピッケルと金属バット、スリングショットっていうのはちと心細いけど、しゃーないか。」
「3人は僕たちが守るから!は、晴花ちゃんもとびだしたりしないでね!」
「はーい!分かりました!幹夫先生!」
「幹夫君より私の方が強そう。」
「ひ、ひどいよ林ちゃん・・・。」
「まぁ幹夫もやる時はやるわよ。ノブもしっかり守ってよね!あんた一番大きくて筋肉あるんだからさ!」
「任せておけ。俺の逃げ足は伊達じゃない・・・。」
一呼吸おき、話を続ける。
「さてそれはおいてだな、見るからにあの街まではすぐに着く。この神殿からの道が一本道でまっすぐ続いていれば、だけど。それでだ。あの街に住んでいるのがまず人かも分からないし、言葉も通じない可能性の方が高い。もしかすると攻撃されるかもしれない。その時は全力で引き返して、もうこの世界には立ち寄らない。いい?」
俺の言ったことにみんな顔を引き締めうなずいた。
下手したら大怪我することになるかもしれない、そんなことも考えたら真面目にもなる。
今回の無謀な探検は本当に無謀だ。
よく考えれば危険すぎて、大人でもやろうとは考えないだろう。
ただ、俺たちは好奇心の方が勝っていた。
若者の好奇心にはあらがえない。
「よし、行くか。」
こうして俺たちは階段を降り、異世界に足を踏み入れた。
未開の領域、未知の森に足跡をつけ、街へと向かう。
果たして街まで無事につけるのか、襲われることはないのか。
階段を降り切った途端に不安に苛まれる。
だけど、みんながいる。
俺たちなら、行ける!
しかし、街に行くまでの道は・・・簡単だった。
なんと予想通りで予想外、森は舗装はされていないもののちゃんと道ができており、その一本道はどうやら街まで続いているらしい。
動く木は俺たちに道を開け、木々を揺らす。
森では確かに生き物の気配を感じたが、なにも襲ってくるわけでなく、じっと見られているだけだ。
恐らく、彼らは慣れている。
俺たちのような知らないものが土地に入ってくることに。
だとすれば、あの洞窟はすでに見つけられていたのか?いや、人が入ってた形跡は無かったんだけど・・・。
それでも、知らない生物に遭遇することは多く、そんな些細なことなど忘れて、俺たちは観察に夢中になりながら森を抜けた。
森を抜けるとそこには草原があった。
草原には俺たちが通ってきた神殿からの道の続きがあり、どうやら他の神殿からも伸びているようだ。
どの神殿だったか、覚えておいた方がいいな。
一応、赤い布を途中の木々に定期的に巻き付けてきたから、心配はないと思うが。
草原を歩いていると、街が見えてきた。
ここからはそう遠くはなさそうだ。
そして、ちらほらと、柵に囲まれている生物を見かける。
見た目はどう見ても牛にしか見えないが、飼われているのだろうか。
「なんか、拍子抜けね。」
光が呟いた。
「こうガンガン襲われるものだと思ってたけどそんなことないじゃない。心配して損したー。」
「分からなくもないけど、無事な方がいいし良かっただろ。」
「いや、光の言うことも分かるぜ。俺なんてバリバリ戦闘態勢だったのによ!」
血気盛んな奴らだ・・・。
これ、街について、襲われでもしたら反撃しようとするんじゃないだろうな・・・。
でも退屈していないのは分かる。
こういうこと言いながら目は周りの風景を眺めるのに忙しそうだ。
こうして、森を抜け1時間ほど歩いたところで、街の防壁近くにたどり着いた。
どうやら、急に襲われたりなどはしないらしい。
しかし、大きな防壁だ。
森林の木々より背丈の高そうな、石製?の防壁がそびえ立ってている。
木製の巨大な門は、固く閉じその口を開かない。
見れば、荷物を降ろしながらこの地に初めて着いた時のように、みんなポカーンとしている。
何をすればいいのか分からないし、こんな大きな建造物は修学旅行の時東京の渋谷で見たビル以来だ。
ポカーンともなる。
「誰かいないのかな?壁の上には誰もいなさそうだけど・・・。」
幹夫のつぶやきに、勝手に我が意を得たりと言わんばかりに晴花がやらかしやがった。
「晴花が呼びかけてあげようか!?すぅぅぅ・・・、」
「あ、おい待て!やめ・・・!」
し ま っ た ・ ・ ・ 。
「こーーーんにーーーちはーーーー!!!誰かーーーーいませんーーかーーーー!!!」
ああ・・・、やっちまった・・・。
仕方ない!
「みんな!逃げるぞ!急いで走れ!」
俺の号令を受け、みんな急いで荷物を拾い上げ脱兎のごとく走り出した。
力雅は晴花の首根っこを掴んで引きずるように走る。
突然囲まれたり、遠距離武器で襲われてもこのままじゃ蜂の巣だ。
逃げるが勝ち!逃げなきゃ死だ!
うおおおおおおおお・・・・!!!
「お、お待ちください!!!!」
20メートルほど走ったところで声が聞こえた。
聞いたことのある言葉・・・ではない。
なのに何故か意味が分かる。
意味が分からない。
いや、言葉の内容は分かるんだけど。
突然の大声での静止にみんなは足を止め、恐る恐る街の方を向く。
するとそこには
金髪で、目の青い、そして尻尾と猫耳を装備した、お姉さんが立っていた。