第27話 『王族の都』
中都までは結局4時間もかかった。
おかげでネクスタを出る頃には真上に昇っていた太陽も、今では地平線へ沈みかけている。
中都ナブレまであと200メートルほどの所で俺たちを最初に迎えたのは、征討軍による検閲だった。
一応見た目で冒険者と分かるので時間は取らされなかったが、どうも最近の魔王軍の侵攻で過敏になっているらしく、魔物が魔法を使って変化して侵入するのを警戒しているようだ。
しかも、魔王領には見た目がほとんどヒトと変わらない種族も住み着き、魔王に従っているというので油断は出来ない。
王族の支配地に入る場合は支援協会の通行許可証を持つ必要があるが、俺たちは依頼で頻繁に王族の支配地に出向くので、永年通行許可証が発行されている。
その許可証を見せ、身体検査を受けた後に中都までの残り僅かな道を歩く。
足元に広がる道は、先ほどの砂利道のような不良地とはうって変って、大きく平たい石が敷かれ立派な舗装路となっている。
靴が踏み鳴らすコツコツとした足音は道の周りに広がる花畑や草原に消えていき、差し込む夕日が時々草原を見回る騎士たちの鎧に光る。
そして、こんな時間帯でも商人が前から後ろからと休むことなく荷馬車を走らせ、郊外でも中都の騒がしさを感じることが出来た。
どうやらあの検閲が行われた場所までは征討軍による警備が行われているらしく、何の素材が使われているのか黒色にくすんだ柵のようなものが見えない所まで伸びて、この4都市を囲っている。
噂は本当だったのか、モンスターは全く見えない。
そして、中都に近付くと白く大きな壁と大きく開け放たれた鉄門が目の前に現れた。
既に検閲を受けたおかげか止められることなく門の下を通り抜ける。
門の先には大通りが広がっていて、台車や行商用の動物が商人に引かれて行き来し、綺麗な店が大通りに沿って数多く広がっていた。
今は夕飯が近い時間帯のせいか食品店や飯屋からは大きな呼び込みの声が響き、鮮魚や野菜の歩き売りも往来し、香しい匂いが鼻孔をくすぐる。
人だかりは右へ左へ動き、やはりここにも亜人種はいない。
往来する荷馬車の間を抜けるように馬を操る警備隊の騎士を捕まえて、王都行きの魔法運輸の場所を聞いたが、 騎士は嫌な顔一つせずに親切に教えてくれた。
検閲の時も思ったがどうも征討軍の兵士は礼儀が正しい人が多い気がする。
冒険者が粗野なせいもあるかもしれないが、征討軍は礼儀の教育もしっかりしているのだろうか。
そう考えると、マリンの征討軍の兵士たちも実は礼儀正しく対応していただけで、アルドースさんたちが言うほど悪い人たちじゃなかったのかもしれない。
そういえばマリンというと思い出すのはあの爺さんだが、爺さんの言ってた『コッペ』という店だったか、王都にある飯屋で爺さんのことを話せばサービスを受けられるという話だ。
丁度今から王都に向かう所だし、お言葉に甘えてサービスを受けることにしよう。
騎士の言っていた中央広場のすぐ横にあるという駅は、俺たちの地元にある駅舎よりお洒落で綺麗、そして大きく近代的だった。
ファンタジー小説だとよく規模の小ささに呆れるのが相場というのは林の話だが、山に囲まれイオンでさえかなり離れているような田舎に住んでいると、どうもそういう感想は抱けない。
もちろん文明のレベルは上というのは依然感じるが、こうも豪華で栄えていると明らかに地元の方が劣っている感が否めなくなる。
しかし、そうやって元の世界のことを考えたのはいつ振りだろうか。
西欧的な雰囲気を持つ街並みを楽しむみんな顔には、俺のように元の世界を考えている素振りはない。
気付けばこの世界の住人の一員となっていたが、元の世界も忘れてはいけないはずだ。
モノレールの線路のように、駅から伸びる湾曲した数本の金属製の鉄線には、魔法装置から発生する紫色の光の輪が連続してまとわりつき、その輪をくぐるように浮いた魔法運輸の車体が通っていく。
駅には既に魔法運輸が到着していて、俺たちは急いで改札でお金を払って乗り込む。
冒険者の街の空を自由に走る魔法運輸と違って、空に架かる線路を走るこの魔法運輸の値段は高くなく、人で賑わいがある。
秋の乾いた風が吹き冷え込む中都とは対照的に、車両の中は一肌に暖かく、椅子に座って一息。
中都は薄暗くなる前に明かりがぽつぽつと灯り始め、幻想的な雰囲気の準備が出来上がる。
この景色を夜、この車両から眺めたらどんなに綺麗なことだろうか。
そんな風に思った。
王都までは中都にある駅や、中都と王都の間にある平野の駅などを回るため、2時間ほどは余裕がありそうだ。
車両はゆっくりと空を翔け、同乗する人々の話し声と機械音が落ち着いた空間を作り出す。
ざわめきを心地よく耳に転がしながら、隣に座った光と外の風景を眺め、王都に住まう友を思い出していた。
その時にはもう、元の世界について考えていたことなどスッポリと頭から抜け落ちてしまっていた。
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「・・・ブ、ねぇ、起きて。ノブ!あと少しで着くって。」
「ん、うぁあ・・・?」
どうやら魔法運輸に揺られているうちにいつの間にか眠ってしまったようだ。
だらしないことに光に膝枕をされていて、柔らかな脚の上に頭を置きながら目をこする。
光は顔を近づけて、優しく微笑む。
「あ、起きた。おはよう。」
「あ、あぁすまん。膝貸してもらっちまった。」
「別に、気にしないでよ。」
しなやかに垂れる光の髪が顔にかかり、少しくすぐったい。
男連中は自分たちでザッパリと髪を切っていたからあまり髪型が変わらないが、女子はしっかりとした店で切ってもらいたいのか髪は伸びていて、光の髪も触ると柔らかいが前より伸びたのが分かる。
王都では髪切り処もあるというので、女子たちはそれも楽しみにしていた。
しかし、短髪も長髪もそれぞれ良さがあるな、うん。
体を起こし、少しだけ伸びをする。
固まった関節が音を立て、気持ちよく体が動く。
前と後ろの席を見ると林と幹夫、晴花と力雅、と仲良さげにスヤスヤ寝ていた。
ここ連日の依頼で疲れていたのだろう。
到着するまで起こさないようにしてやろう。
それと今まで俺たちをイジってきた分、こいつらも肩を預けて仲良く寝ていたことをイジり返してやろう。
窓の外では日は完全に沈み、空は夜の闇に蝕まれている。
だが、王都から漏れる光の渦はその夜空でさえも塗りつぶしそうな輝きを発していた。
ここがこの世界のヒト側のボス、魔王と対をなす王族の住まう地。
王都ギブアだ。




