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俺たち異世界大発見伝  作者: カネシロ 
第1章   『冒険者』編
26/33

第26話  『王都の友』

 振った刃が大きく空を切りバランスを崩す悪魔の前で、左手に持った大斧を地面に突き立て、それを軸に悪魔の胴体へ向け体を回転させ蹴りを放つ。

 全体重をかけた渾身の回し蹴りは低く宙に浮く悪魔の横腹に突き刺さり、詰まらせたようなうめき声が漏れる。

 

 しかし、それだけでは終わらせない。

 その回転の勢いのまま大斧を地面から引き抜き、横腹を蹴りつけた悪魔に向けて投擲。

 俺の手から離れた鋼の刃は後ろにいた悪魔ごと食いちぎるように体を引き裂き、2体の悪魔を動かない肉の塊に変えた。


 周りではフレイムズの面々も悪魔と対峙しているが、その顔に焦りはない。

 大した時間もかけずに全ての悪魔を殲滅した。



 クラーケンから命からがら逃げネクスタに戻ってから既に1か月が過ぎていた。

 時は996年の10月中旬、紅色に染まった広葉樹や、なお深い緑色をたたえた針葉樹が、山に秋の匂いを漂わせる季節に変わり、依頼を終えネクスタへ帰る道には枯れた草花が倒れ、靴の下からは敷かれた落葉がサクサクと軽快な音を立てる。



 今回の依頼はネクスタの北西に位置する支援協会の防衛拠点、「ロクロ」周辺に出現した悪魔の掃討であった。

 ロクロは今も魔王軍と戦火を散らす防衛の最前線、ブロッド砦の北に広がる征討軍と冒険者の共同戦線へ物資を補給する大切な中継基地の役割を果たしていた。

 そこへ、その共同戦線をかいくぐった悪魔が補給路を断つために襲撃をしかけに来たらしく、ネクスタへ向けて緊急SOSが入ったというわけだ。



 最近は戦況が激化しているせいか頻繁に悪魔や魔物の侵入が起こり、ネクスタの冒険者も休む暇なくその対処に当たっていた。

 俺たちも例外でなく、というかその代表例というような形でこうやってモンスター狩りに奔走していた。


 というのも、あのクラーケン事件がどう伝播したのか、俺に「右腕を失いながらもクラーケンを撃退し、仲間を守り通した勇敢な男」という称号が付いて回るようになり、支援協会からの特別依頼や指定依頼が急増してしまったのだ。

 謎の信頼を得てしまった以上断るわけにもいかず、最初は不慣れだった片腕で振る大斧が体の一部のように馴染んだ頃には、俺たちフレイムズはネクスタでもトップクラスの冒険者パーティーに成長していた。

 そして、俺だけでなくみんなも新たな力を手にし、ルーキーと呼ばれていたころの影はそこにはなかった。


 ただ、それで有頂天になったりはしない。

 

 というか、出来ない。

 元々、単なる田舎の高校生グループに過ぎなかった俺たちにとって、雨あられの賞賛は正直いつまで経っても慣れることではなく、謙虚というか妙に縮こまった、日本人としての(さが)がここで出てしまったのだ。

 まぁ、力雅と晴花は自然体で賞賛を受けるくらいの能天気さだが、俺の右腕の件があってかオーバーに鼻高々になることもない。


 結局その遠慮も好意的に取られてしまい、ますます依頼が増えてしまうのも痛いところではあるのだが・・・。



 ネクスタも近付き、晴花が道を塞ぐ枯葉をつま先で蹴飛ばして、葉が宙を浮く。

 そして、その浮いた葉を巻き込むようにして数騎の荷馬車が横を通り過ぎ、ロクロへと続くこの街道を全速力で通り過ぎていった。


 恐らく俺たちの悪魔討伐の報告がネクスタへ飛んだのだろう。

 早速物資を運びに行ったということだ。

 しかし、荷馬車を操る業者の顔は決して明るくはなく、明るい色の葉をまとう街路樹に包まれた穏やかな街道に似つかわしくない、(せわ)しない車輪の音がガラガラと響き渡る。



「そろそろ、魔王討伐行ってもいいかもなぁ~。」

「あー、うーん、確かにね・・・。」

「晴花は力くんに賛成だよっ!みんなのお手伝いしちゃおうよ!」



 荷馬車を見届け、ポロッとこぼした力雅の言葉にちらほらと肯定の声が上がる。

 実は今回のように魔王軍の侵攻が激化したせいで被害を受けている人たちを手助けしているうちに、俺たちの中で魔王を討伐しに行く方に力を入れた方がいいのではないか、という意見が出始めたのだ。

 さっき言ったように決して油断やおごりから来た意見ではない。

 マリアさんから受けた情報を吟味してのことだ。


 マリアさんの話によると、今、征討軍は本格的な部隊を組み始めていて、大きな反攻作戦に出る予定を立てている。

 ただ、防衛線の維持が急務の現状の中、なかなかその作戦を実行出来ず防衛線は日々削られ、前線が後退する日も近い。

 しかも、海上要塞フロイトネスが魔王軍の海洋部隊により半壊し、フォージ付近まで撤退した影響で海からの侵攻も相次ぎ、冒険者は著しくその数を減らしているのだ。


 あまりに減った冒険者を急遽補うために、ネクスタやオリジナからの支援協会による前線への引き抜きも増え、転職した元冒険者や引退した冒険者でさえ集める始末だ。

 俺たちはネクスタ防衛の(かなめ)という扱いのもと強制的な引き抜きは行われていないが、前線へと向かう同業者を見て心苦しく思っていた。

 加えて、場所を移すなら冬を前にした今しかないのも事実だ。


 しかし、前線は過酷な命のやり取りが行われている。

 俺のように腕1本では済まないかもしれないのだ。

 そう思うとこの決断だけは軽くは出来ない、ということもあって、結局まだ決められずにいる。



 そして、この帰り道でもやはり決めることは出来ずに、俺たちはもんもんとした気分で、衛兵の開けた門をくぐった。



 依頼完了の報告と報酬の受け取りを終えたあとに、マリアさんは俺たちを呼び止め一通の便箋を渡してきた。

 便箋はどこかの貴族の紋章らしきものが刻まれた封蝋で閉じてあり、差し出し元は王都ギブアからとなっている。

 中には3つに折りたたまれた羊皮紙のような高級紙が使われていて、その文面は複雑怪奇な言葉使いで格式高く書いてあり、差出人は



「征討軍 第1陸戦軍団 第4師団 特殊広域浸透部隊 小隊長 レオパルド・マキン・コール・キルン」。



 あのレンコンからだった。

 なんだかとっても長いレンコンらしい役職だが、入隊したばかりなのに小隊長って流石というかなんというか・・・。

 

 内容は難しい言葉をなんとか要約すると、



「噂は聞いたぞ!僕たちも活躍中だ!今度の休暇に王都の僕たちの住処に来てくれ。待ってるからな!」



 というものだった。

 丁度色々と煮詰まっていたところで、ありがたい休暇のお誘いに俺たちは一瞬盛り上がるが、すぐに思い直して静かになる。

 

 ここ最近依頼でてんてこ舞いだったため、恐らく今後も急な依頼が入ってくることだろう。

 そんな状態だと休みを作るのはまず難しいし、休んだらみんなに迷惑をかけてしまうなぁ、と6人で顔を合わせて唸らせていたところ、思わぬ手が差し伸べられた。



「行って来いよ、ノブヒロ!お前ら最近働きづめだろ?」

「そうです!お兄さんたちは休むことも必要なのです!」

「ブルータス、マチちゃん・・・!」



 俺たちにそう話しかけてきたのはブルータス&マチのマンターノ兄妹だった。

 2人とはクラーケンの件の後会って以来、お互いに依頼が忙しくてあまり会っていなかった。

 

 クラーケンの時も俺の腕を見て号泣した2人だったが、どうも情に厚い性分らしい。

 今回も気を遣ってくれているのか、自分たちにまかせて休暇を楽しんで来い、という。

 流石に気も引けるが、ブルータスは俺たちを強引に説き伏せに来る。



「お前らは活躍しすぎなんだよ!俺たちにももっと活躍させやがれ!」

「いや、でもさ・・・。」

「ノブお兄ちゃん、男ならウジウジしないでこういう好意は受け取るものですよ!」

「う、あ、すまん。」



 こういった感じで無駄な押し問答を繰り広げる事10分。

 勝敗は決し、俺たちはありがたく休暇を取らせてもらうことにした。

 

 マンターノ兄妹も実力を着実に上げており、俺たちのパーティーと並ぶ知名度を誇っているから、任せても心配はない。

 それに、冒険者歴で言えば大先輩であり、ここは彼らの住む生まれ故郷でもあるのだ。

 自身で守りたいというのは本当だろうし、全力で戦ってくれることは当然のように知っている。


 説き伏せられた俺たちは大人しくネクスタを任せ、昼飯の後に王都へと出発することにした。



 こってりとした肉スープが美味い、口裂け種の店主が営む「口裂け味店」で昼食を終え、薄いうろこ雲に覆われた空の下を軽い荷物を持ちながら歩く。



 王都までは結構距離があるので、途中にある「中都 ナブレ」を経由して向かうことになる。

 

 王都は六角形の形をしていて北側には大きな山脈を仰ぎ、南には王都を囲むように少し離れた所にこれまた六角形の「西都 ニルト」「中都 ナブレ」「南都 ネウア」が位置している。

 この王都含む4都市はその間に魔法運輸のようなものが開通してあり、3都市と王都間の土地は完全に制圧され征討軍による定期巡回のおかげでモンスターは1体も出ず、農場や畑、場所によっては商店が立ち並び村のような場所もある。

 表現するなら4都市で合わせて1つの巨大都市ということだろう。


 

 しかし、その中都までも中々に距離が遠い。

 一応ネクスタと交易が開かれているおかげか、ある程度道は整えられているがそれでも砂利道や荒れ地はある。

 踏み出す足元にはゴロゴロと石(つぶて)が転がり、時には森林から漏れた大木の枝が道を遮る。

 しかも、例の如くモンスターの襲撃は受けるし、何人かの商人を助けることにもなった。



 こんな穏やかな秋空の下でもゆっくりとピクニックといかない所が、この世界の惜しいところであり、味でもあるのだろう。

 が、こうなった以上早く休みたいという気持ちが募る。

 後ろを振り向くとみんなもやはりどこかげんなりとした感じを出して歩いている。


 俺は肩に羽織った光からのプレゼントであるコートの袖を風になびかせ、足取りを速めて中都までの道を歩いていった。



 その頃、王都では謎の失踪事件が起こっていた。

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