第25話 『新たな相棒』
翌日の朝の海の様子は穏やかで、空は晴れやかだった。
港に着いた時には出港の準備は整っていて、船に架けられた板を渡り、光の手を借りて船に乗り込む。
見送りに来てくれた医師の先生は俺の肩を叩いて、頑張れ、と短く心の籠った言葉を送ってくれた。
船旅は荒れることは無く、あのクラーケンや海魔によって荒らされた海は落ち着きを取り戻していた。
片腕を失った俺のためか漁師の爺さんは船を全速力で動かさず、心地よい風を感じられる速度で海の上を滑る。
海鳥が船に並ぶように飛び、時折海から生き物が跳ねた。
まるでクルージングのようで、俺たちははしゃいで海を眺めていた。
2時間ほどで港都マリンに到着した。
その船着場で淡々と船仕事の準備に勤しんでいた漁業組合の親方アルドースさんは、俺たちの姿を見てまるで幽霊を見たかのように驚き、そして泣きながら喜んでくれた。
そして、俺たちをここまで運んでくれたベテランの爺さんは娘夫婦に会いに行くと言って、アルドースさんに漁業組合に連れていかれる前に別れることになった。
「兄ちゃん!ここまで、ありがとよ!無くした腕の分、その姉ちゃんを大切にすんだぞ!」
「えぇ!?あ、は、はい!爺さんもお元気で。」
「おうよ!じゃあな!」
そう言って去る間際、爺さんは思い出したかのように振り向いて叫んだ。
「そういや、兄ちゃん!今後、王都に行くことがあんなら、俺のことを『コッペ』って店の店主に伝えてみな!きっとえれぇサービスしてくれんぞ!じゃあな!」
そう言って元気な爺さんは走って行ってしまった。
王都か。
そうだな、いつか王都に行く機会があれば、お言葉に甘えてみるとしよう。
・・・それにしても、王都と言えばレンコンたちは征討軍に無事は入れたのだろうか。
そんなことを気にしながら、俺たちは漁業組合に連れていかれ、臨時お疲れ様パーティーなるものに参加させられた。
そのパーティーには俺たちがクラーケンから逃がした2人の若い漁師もいて、2人も泣きながら喜んでくれた。
話を聞くと、どうやらマリンの征討軍には俺たちがお世話になったフォージからクラーケン討伐の連絡がされていたらしく、つい3日前にフォージの支援協会支部から俺たちのこともネクスタへ伝えられているようだ。
とすれば、俺の腕のことも連絡いってるのだろうけど、気が重い。
何も伝わっていない状態で戻るよりマシだとは思うのだが、俺たちの依頼を受け付けてたのはマリアさんだ。
きっとこのことも気を回して、知り合いの冒険者に伝えている事だろう。
そう考えると色んな人に気を遣わせてしまうかもしれないと思い、申し訳なくて気が重いのだ。
そんな俺をよそに大盛り上がりのパーティーは昼で終わり、午後にこのマリンからネクスタへ魚介を運ぶアルドースさんたちの護衛依頼を追加で受け、ネクスタへ戻ることになった。
マリンからネクスタまでの道のりは丘陵や荒れ道が多く、しかも魚介は魔法で凍らせているとはいえ鮮度を考えると早めに運ばなくてはいけないため、アルドースさんたちが運搬に使う動物は不良地に強いイグアナだった。
体長6メートルほどの。
この巨大イグアナは召喚獣でなく野生のものを手懐けたもので、人工的な繁殖は成功していないため希少価値は高い。
そのため、今回ネクスタへ帰るついでに受けた依頼だが、運ぶ魚介とイグアナの価値を考えると手は抜けない。
このイグアナ数頭の上に状態の劣化を遅らす魔法をかけた上に氷固めされた魚介を縛り、首にまたがった漁業組合の職員がイグアナを走らせる。
俺たちも何も載せてないイグアナの上に荷物のように乗り、騎乗スキルを持っている光が手綱を操って、俺たちが道で襲い掛かってくる周りをのモンスターを排除する。
ただ、片腕とさらに両腕の装備を失った俺が出来るのは、脚に履いた鉄の蹴飛脚で蹴ることだけだった。
しかも大体はみんなの遠距離攻撃でモンスターは散っていくので、結局手持無沙汰になってしまったのが申し訳ない。
夕方になりネクスタの魚市場に着いたところでアルドースさんにたっぷりとおまけの魚介類を貰って涙の別れになった。
泣いているのはアルドースさんと力雅だけだったが。
こいつら、さっきのパーティーで飲んだアルコールが抜けてないのか、呆れたものだがこんなところでぼけーっと突っ立てるわけにはいかない。
鬱陶しいアルドースさんを押し離し、手短に別れを言って城へと向かった。
城へと向かう途中、顔なじみの人たちが俺たちに声をかけて来るが、予想外俺のなくなった右腕を見ても、
「お、ノブヒロのあんちゃん、渋くなったじゃねーか!」
「おいおい、ルーキーリーダー大丈夫か?片腕でももちろん戦えるよな?」
と言った具合で特に重苦しそうにしないでいてくれるのは嬉しかった。
思えば冒険者をやっていれば右腕の1つや2つ無くしてなんぼだろうし、恐らく慣れたことなのだろう。
気遣っていても、明るく話しかけてくれるのはありがたい。
俺たちは城に着いた途端、マリアさんと目が合った。
するとマリアさんは依頼の受付をほったらかして、カウンターから走ってこっちに来た。
また幹夫に抱き付くつもりだろう。
クラーケンのせいで一時期消息不明だったのだから、幹夫のこともさぞかし心配していたに違いない。
そして、またリンといがみ合うのだろう、と思っていた。
しかし、マリアさんは幹夫だけではなく、みんなを抱きしめんばかりに手を広げその腕で覆う。
そうしながら、マリアさんは涙声で言葉をもらす。
「皆さん・・・ホントに・・・無事でよかった。」
そして、マリアさんは手を離し、幹夫のおでこにキスをした後、俺の頭を胸に押し付けるように抱いた。
思ってもいなかったことを突然されて焦る中、マリアさんは呟いた。
「・・・ノブヒロ様もお疲れ様でした。その腕で、皆様を守られたとお聞きしています。・・・あなたは、本当に大切なものを、守ることが出来たのです。だから、少しだけ、休んでください。もう、無理しすぎなくて、いいんです。」
その言葉が胸に溶け込むように響き、俺の視界が目に溜まった涙で霞む。
どうも、最近涙もろいなぁ。
そんなことを思いながら、俺は泣いた。
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夕方になって、すっかり忘れていたドワーフのガレオのおっさんに頼んでたオーダーメイドの装備の受け取りに行った。
俺は片腕がなくなったせいで別の戦い方にしなければいけないため、今回作ってもらった装備は無駄になってしまったが仕方ない。
と、思いきやガレオのおっさんはマリアさんから俺の腕のことを聞いて、2日まるまる使って今の俺に合うように装備を新しくしてくれていた。
こういう心遣いにも涙が溢れそうになる。
ガレオのおっさんが用意してくれた装備は、大きさが俺の身長くらいある巨大な両刃の斧だった。
だが、見た目に反してとても軽く、左腕でもすごく振りやすい。
斧の先には槍のように刃も付いていて、利き腕じゃない分まだまだ慣れが必要だとは思うのだが、これなら俺でも活躍の幅は広がりそうだ。
斧に組み込まれた魔法機構は武器に取り込んだ魔力を増大させるもので、さらに敵を切り刻むと魔力を吸収しながらその切れ味を回復させるという優れものだ。
本当ならもっとお金を払わなきゃいけないようなシロモノだったが、うすっら目に涙を浮かべて鼻をすするガレオのおっさんは気にすんな!気にすんな!と、背中を叩きながら未来への投資だと言ってくれた。
脚の装備も新調されたものを渡され、俺は身にしっかりと馴染む装備を撫で、それぞれ自分の装備を受け取る仲間を見る。
力雅の手にした刀は鞘が異様に長く、その太さもしっかりとした野太刀であった。
しかしその長い鞘にはちょっとしたからくりがあり、その鞘の先には中刃の刀が差し込んであったため、長くなっていたのだ。
力雅はふざけたように野太刀を引き抜いた後、鞘をクルッとまわしてその先からもう一つの刀を素早く抜いて格好つけるが、その自由度とトリッキーさはかなり使えそうだ。
また、刃を疑似的に伸ばす魔法機構が組み込まれているらしく、どうやらレンコンのもつレイピアと同じようにしたらしい。
防具は侍を目指しているとかなんとかで、胸当てと腕当てだけの軽い防具にしていた。
幹夫の武器はとにかく多彩であった。
小刀、投げナイフ、分銅鎖に腕の仕込み刀、小さい鉄矢を放つミニサイズの弩など、暗器を大量に作ってもらっていた。
その重量は動きやすいようになるべく軽くされており、暗殺者として成長を遂げる幹夫をさらに後押しするような装備だ。
しかし、その反面今まで軽かった防御力を補うためか、鎖帷子と黒鉄を組み合わせた結構ガッチリとした装備の上に黒外套を羽織っており、これに組み込まれた魔法機構は気配を消すスキルの補助を行うという。
試しに瞬時に消えた幹夫は、気付いた時には力雅の背後に回っていて、なんか、怖い・・・。
光の手にした弓はまるで洋弓のようになっていて、作られた弓の弦と矢についた鏃は爆発の魔法や雷撃の魔法、追尾の魔法など様々な魔法を簡単に使えるように魔法機構が組み込まれていた。
そして新たに手にしたブーメランは子供の頃遊んでたものと段違いの、自分の意識通りに動く凶悪な刃の塊となっていて、試しに空にぶん投げたら力雅の髪の一部を切り取り、岩壁を削り取って戻ってきた。
防御は胸当てに軽い腰当てと、力雅に次ぐ簡素な装備であった。
俺が体を張って守らなければいけないようだ。
それは望むところだが。
林と晴花が手に持つ杖は、林の方が地面から林の首に届くくらいの長い杖で、木がグルグル渦巻のようにと巻かれた頭の先には掌に収まりそうな青い水晶が光っており、杖には所々細かい魔法宝石が散りばめられ、内部に組み込まれた機構が補助魔法と回復魔法の効率と威力を上げる。
晴花の持つ杖はショートスタッフというやつか。
真っ直ぐと伸びたスタッフの先には大きく丸い真紅の宝石がはまっていて、その宝石を食わんとするように謎の金属ががっしりとスタッフと宝石を繋ぐ。
この赤い宝石自体が結構珍しい魔法機構仕込みの宝石らしく、晴花のような強烈な魔力を洗練し、さらに増大させるという末恐ろしいものだ。
一通り装備を受け取り終わった。
みんなそれぞれ新しい武器を手にしてキャイキャイとはしゃぐ。
一方で昔使ってた装備は買い取ってもらい、中古品として流すことになった。
新たな相棒を手にした俺は、この武器が活躍する未来を想像した。
そこでは、魔王軍と俺たちが戦っていた。




