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俺たち異世界大発見伝  作者: カネシロ 
第1章   『冒険者』編
23/33

第23話  『逃げるが勝ち』

 手を振る漁師が乗る船の後ろに巨大な触手が伸びている。

 

 その触手は殺したばかりの海魔の触手と酷似していた。

 異様な大きさ以外は。


 触手についた吸盤1つで船を押しつぶせる、そう思えるほどの大きさ。

 つい最近対峙した巨獣、ザラタンの時と同じ感じ、圧倒的な存在感と魔力に肌が痺れ、心身が震える。



 その触手は明らかにこれから振り下ろすために伸びていて、あの長さでは俺たちの船も一緒に叩き壊される。

 そう考えた時にはすでに左腕の拳撃鎚をロボットアニメに出てくるロケットパンチの如く射出していた。



 こういう緊急事態に使うための武器をまるまる捨てる捨て身のスキルだったが、どうせ帰ったら新しい装備が手に入る。

 だったら、少しでも動揺させて時間を稼ぐことに使ってやる。

 

 何の惜しげもなく左腕から火炎を噴出させ高速で鉄の拳を射出し、砲弾の如く巨大な触手にぶち当たる。





 触手に衝突した拳撃鎚はその勢いを完全に殺され、魔力で赤熱した鉄の塊は吸盤1つに包まれて潰された。



「んなぁ!?!?」



 俺はショックのあまりみんなに指示を出すのも忘れて呆然としてしまった。

 

 あの一撃は俺の使うスキルの中でも結構高威力な瞬発技でもあったのだ。

 それが吸盤1つ微動だにしない。



 勢いに任せた俺の攻撃でみんなも今気付いたかのように一斉に伸びた触手に攻撃を浴びさせ始め、すぐ近くに魔の触手が迫っていることに気付いた漁師も急いで船を急発進させた。

 

 だが、魔法は触手がまとう粘液に消され、光の矢や幹夫の投剣は俺の拳撃鎚と同じように吸盤にくるまれ飲み込まれる。

 完全に攻撃が効いていない。



 なんとか振り上げられた触手からは逃れても、叩き下ろされた触手の引き起こす津波は並走して逃げる2隻の船を空に飛ばすように襲い来る。

 そして、次々と巨大な触手が現れて海が揺れ、触手から吹き荒れる凶悪な魔力が空をも犯し、夕日に染まっていた穏やかな空は急な雲に覆われ落雷が響き渡る。

 

 魔力が引き起こす豪雨と落雷で荒れ狂う海の中、そいつは本体のを表した。



「ク、クラーケンだぁ!!!」



 並走する船に乗った若い漁師が、その禍々しい巨体を見て叫ぶ。

 

 クラーケン。

 既に征討軍に討伐されたはずの魔王の召喚獣が、なぜ生きているのか。

 もしかして、クラーケンの召喚と一緒に発生した海魔はクラーケンの幼生だったのか。



 そんなことを細かく考えている暇は無かった。

 海中から光る赤い目が、俺たちを狙っている。


 攻撃は一撃たりとも有効なダメージを与えられない。

 晴花の魔法でさえ触手はなでるように掻き消す。


 しかもやつにとって海は自身の庭のようなものなのだろう。

 魔動石をフルパワーで使って海を走る船を平然と追いかけて来る。



 やつは、ザラタンとは違った。

 

 理性など欠片もなく、ただ生き物を殺すために魔力を持った触手を振るい、海に住む生物を、空を飛ぶ生物を、ひたすら殺しながら俺たちを追う。

 しかも、ザラタンのようにその場から動かない、なんていうハンデはなし。

 全力で殺しに来ることを止めない。



 殺して殺して殺して殺す。



 生き物への憎悪と殺意を含んだ圧迫感が後ろから、横から、前から、迫る。

 叩き込まれる触手を今まで培った技術と勘だけで避ける漁師の目は恐怖と集中で見開かれている。



 しかし、もう1隻の方に乗っていた漁師はまだ若かった。

 船は安定に欠け、避けきれない波を被って船に海水が溜まる。

 もう限界も間近だろう。



 逃がさなければ。

 そして、征討軍に連絡を。

 

 また、クラーケンが現れたと、伝えさせなければいけない。



 そう考えて、賭けに出ることにした。

 今回も全く結果の見えない希望ではあるが、これをやらなきゃ1ミリも誰かが助かる余地はない。


 

 この賭けで幹夫と林には無理をしてもらうことになった。



 俺はその大胆で単純明快な作戦を2人に話し即座に了解を受けた。

 俺たちの船を操縦するベテランの爺さん漁師も協力するために船の速度をさらに上げ、クラーケンの速さを引き上げる。



 あまりの速度にみんなが船にしがみつく中、幹夫が高速で動く船から海水へ手を伸ばし、意識を集中させる。



 そして、しばらくの集中のあと、幹夫は目を開き海水を掴む。


 幹夫の影縫いだ。

 影という定義があいまいらしく、もしかしたら幹夫の影という認識次第で使用の仕方を変えられるのかもしれないと思い、挑戦させた。


 すると時速200キロ近い速度で動いていた2つの船のうち、若い漁師の乗る非常事態用の船が急激に海の黒い影に絡み取られ急停止する。

 今までの推進力を一瞬で無くした影響で乗っていた漁師2人が前に吹っ飛びかけるが、林のかけた防御魔法壁と補助魔法に包まれた船は、漁師を優しく受け止めて停止した。


 立て続けに、林はスキル「テレピオス」で漁師2人に、俺たちが囮となること、マリンまで逃げ征討軍に助けを呼ぶこと、を脳に直接語りかける。


 

 そして俺たちはクラーケンを高速で引き付けながら、漁師を逃がすことに成功した。

 こっちに乗ったベテラン爺さんには悪いが、最期まで付き合ってもらう。



 作戦を終えた幹夫は猛烈な痛みに堪えながら捻じれた腕を抑えていた。

 時速200キロなんて車以上の速度で動く船から海水に腕を突っ込ませたのだから、そうなってしまうことは間違いなかった。

 

 だが、幹夫はそれを分かったうえで引き受けてくれた。

 俺は幹夫に感謝を伝え、補助魔法で船を安定させた林が幹夫の治療を開始するのを見届ける。



 これで、一応必要最低限のことはやった。

 後は、このクラーケンを見つけた征討軍がこいつを滅ぼして、海の平和は守られるだろう。



 だが、それでも出来るなら死にたくない。

 それに、光との約束を破るわけにはいかない。



 拳撃鎚をなくした左手で顎をさすりながら必死に思案する。

 

 周りでは、効かないと知っていても少しでも衝撃を与えられれば、と力雅や晴花、光が攻撃を絶えず浴びさせ、幹夫は影縫いと身体的なダメージの影響で林の膝に頭をのせ休んでいる。

 だが、デーモンロードの時と同じように簡単には思いつかない。

 こういう切羽詰まった状況にいるほど、考えは狭くなっていく。



 しかし、こんな時に異なった考えを持つ大人がいるというのは何とも幸運なことか。

 ベテラン爺さんが思わぬ提案をしてきた。



「兄ちゃん!こうなったら、このままフォージに突っ込んじまって、そこでこのデカブツを殺してもらうしかねえ!」

「なんですか!?『フォージ』って?」



 聞き慣れない言葉に説明を促す。



「あぁ!?兄ちゃん、冒険者なのに知らねーのかよ!フォージは冒険者たちの軍港で、サーディアの側面の海を守る防衛拠点だ!あっこは今、魔物のせいでわちゃわちゃしてるから、今ならすぐにクラーケンを殺せる武装があるはずだ!そこに行くしかねぇ!」

「近くにあるんですか!?」

「ああ!ここからもうちっとブッ飛ばせば、すぐに着くぞ!・・・だが、これ以上速度を出せば魔動石が割れちまう!どうする!?」

「・・・それなら!」



 迷っている暇はない。

 フォージに行くためにこの船の速度を上げる。

 それなら俺にピッタリな役割がある。



 俺はみんなを呼び、協力を仰いだ。

 簡単な話だった。



 魔力ください。



 実に単純なことで、みんなが自分の魔力を放出させ、林が魔法でその魔力を束にして、残った俺の右腕にはめた拳撃鎚に送り込む。

 俺は周囲に漂う魔力限定で、拳に吸い込んで拳撃鎚で放出させる魔法スキルを手に入れていたため、それをブースターとして活用するのだ。

 

 さっきのロケットパンチを使うために習得したのだが、魔力が少ない俺が周りから微量の魔力を吸い込んだところであまり使いようがないなぁ・・・と思っていたのだが、こんなところで役に立つとは。



 幹夫には無理をしないように言い含めながら、一斉に魔力が放たれる。

 そして林が何重もの光の輪で空間を球状に覆わせ、魔力を集める。



 そこに右手を突っ込んで魔力を吸い出し、拳撃鎚に送り込む。

 なんとも強烈な量だ。

 さっきからクラーケンに魔法や魔力を使うスキルを撃ちこんでいたから、つい魔力は減っているものだと思っていたが、成長のおかげが魔力が濃い。



 しかし、これならいける。



 たっぷり魔力を吸い込んだ拳を船の後方に向け、思いっきり爆発させる。



「いっくぞクラーケンんんん!!ついてこいよおおお!!!!」



 そして6人の魔力が生みだした火炎を右腕の拳撃鎚が発射し、あり得ない速度で船が吹っ飛ぶ。

 林の補助魔法で強化された船は壊れることは無く、幹夫の影縫いで船に縛られた俺たちは禿げ上がりそうな風を受けて、前に進んでいることを確認する。

 あまりの過熱に焼ける右腕の痛みを堪えながら、俺は後ろのクラーケンを見る。



 なんて恐ろしいやつだ。

 この速度で、まだくっついてくる。


 流石に本体を出しながらでは追いつかないと感じたのか、海水に身を沈ませながら追いかけてくるが、時折触手を伸ばして掴もうとしてくる。

 しかも、この拳撃鎚の放出した魔力の火炎に流石にダメージを受けたのか、1本の触手が一部焼けて炭のようになっている。

 

 もしかして、これでさらに激昂させてしまったのか。


 クラーケンの後ろに飛ぶ水しぶきは、通り過ぎた時に殺した海の生物の血で真っ赤に染まっていた。



「ひゃあああああああ!!!???」

「もう!!なんなのよぉ!あいつ!!!」



 林が聞いたこともない悲鳴を上げ、光も泣きべそをかきながら悪態をつく。

 俺も流石に右腕がきつくなったのか、拳撃鎚からはみ出た腕が黒く腐食されるように焼けている。



 マズイ。

 体が持たない。



 そう感じた時、漁師の爺さんが叫んだ。



「おい!見えたぞ!あれがフォージだ!!」



 そう指さす先には、大型の船やなんだか良く分からない装置でゴテゴテに装飾された、冒険者の港があった。



 そして、港からもこちらの姿が見えるであろう位置に来た時に、俺の拳撃鎚は限界を迎え、煙を上げて破裂した。



「があああああああ!!!!????いっっっっっぅぅ!!!!!」



 俺は叫び、吹っ飛んだ。



 吹っ飛ぶ俺に突撃された光が、受け止めた俺を見て何かを言おうとした時、フォージの軍港から大量の光が空にまたたく星のように煌めき、無数の大魔法が速度を落とした俺たちを食らおうとしていたクラーケンを襲う。



 大魔法は様々な色、形、模様で凶悪な海の悪魔に絡みついていく。

 どれも見たことのない、不思議な魔法ばかりで、少し綺麗に見えた。



 しかし、この攻撃を受けた方からすれば地獄の様相だろう。

 さしものクラーケンもこの攻撃を無防備で受けて無事ではいられない。


 俺たちを追い回すのに夢中になり過ぎていたクラーケンは、ろくに防御も取れないままフォージからの攻撃を全身に浴び、体中に焼き後を作り、触手を数本失った。



 慌てて一回退避しようとしたのかクラーケンは海水に潜る。

 だが、その潜った直後に海中からクラーケンを掴んだ巨大な水の腕が現れ、さらに水中から無数の亜人種冒険者が飛び出して、クラーケンを八つ裂きにした。



 そうして、俺たちは見るも無残に散っていくクラーケンを傍目に、軍港に流れ着いた。


 

 叫んで俺を揺らす光を見ながら、俺は意識を失った。

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