第2話 『大発見の先に』
俺たちは早足で洞窟を抜けた。
まだ見ぬ世界に体が引かれるように。
新たな『大発見』への期待を胸に洞窟を抜けた途端、明るい光が視界一面を覆い、そのまぶしさに顔をゆがめた。
そして、そこにあったのは、
『異世界』だった。
「ね!すごいでしょ!?超すごいでしょ!?これは大発見だよねっ?」
晴花の言葉に呆然としながら、俺たちはただ小刻みにうなずくしかなかった。
だってそうだろう。
今まで見たことのない世界に、俺たちはいる。
眼下に広がるのは、生い茂る青々とした森。
爽やかな木々や葉の匂いがする。
だが、木々の中には、時折生物の如く動く巨大なものもあり、その姿を変えている。
空には見たことのない生き物が、羽を広げて舞っている。
羽が4枚もある大きな鳥、羽はなく体を左右に波打たせ空を浮く蛇、渦巻きながら移動する生き物?のようなもの。
どこからか獣の鳴き声までも聞こえて来る。
どっしりとした、重みのある虎のような声だ。
目に映る光景、耳に響く音、鼻をくすぐる香り、どれもが未知に溢れ、心の興奮を掻き立てる。
そうして驚きに打ちのめされながらも、俺たちは新しい世界の観察を止めることはない。
「なんていうか・・・」
光の声は驚きのせいか感動のせいか、かすれている。
「・・・やばいねこれは。」
本当だよ。
やばいっていうか、やばい。
表現の仕方が見つからない。
遠くを見れば地平線も分からないほど、広大な世界が広がっている。
あれは、海だろうか。いや、湖?
こんな場所は知らない。
光の言葉につられ、みんなポツポツと言葉をもらし始めた。
「これ、すごい。本で読んだこと、ある。『異世界』っていうの・・・?」
「あぁ、・・・多分そうだ。俺、あんな変な生き物見たことないぞ。」
「っていうか、あれ本当に生き物なのか?なんで蛇が空浮いてんだよ・・・。俺が馬鹿だから、あんな生き物知らなかっただけか?意味わかんねー・・・。」
「リキは馬鹿だけど、あたしもあれは知らんわー。」
「うるせぇな・・・。」
光のイジりも力雅のツッコミも力が入ってない。
それが普通だ。
こんな意味の分からない世界を目の前にして、いつも通りには出来まい。
しかし、小山の裏に異世界とは・・・。
いつものボケーっとした観察のお蔭で驚きでの緊張はまぎれたが、やはり圧巻だ。
今まで晴花の『大発見』しょうもないものばかりだったのに、今回は段違いですごすぎる。
実は、今まで見つけたものにも何か意味があったのかもしれない、と思わされるほどだ。
暇があったらもう一度調べてみてもいいかもしれない。
だが、今はこの世界のことだ。
「しかし・・・、どうなってるんだ、これ。」
ようやく落ち着きを取り戻し、声を出しながらもう一度周りを観察する。
俺たちが通ってきた小山の洞窟は、どうやらこの神殿のような建物の中と繋がっていたようだ。
建物をぐるっと眺めてみると、床も壁も天井も、全てが白い大理石のような材質で出来ていることが分かる。
そして、この神殿が飛び出ている崖には、俺たちのいる神殿の他にも何個か同じようなものが飛び出ていた。
この神殿群は全て崖に造られているのか。
もしかしたら、他の神殿もこの洞窟と同じく、別の世界に繋がっているのかもしれない。
それとも俺たちの世界の他の場所だろうか。
目の前には、神殿からデカい階段が生え、森林へと沈んでいる。
そして、森の終わりのさらにその先をよく見れば、防壁に囲まれた街のようなものが見える。
この階段を降り、進んで行けばあの街に行けるのだろうか。
あの街に行けば、この世界の事が何か分かるかもしれない。
しかし、こうして見回しても結局のところ憶測しか立てられない。
やはり、当然だ。
誰も知らない世界なんだから。
「晴花、お前この先見に行ったか?」
俺はふと疑問を口にした。
「全然!ここから先はみんなで探検したくて、晴花は行ってないよっ。」
ニコニコと晴花は答える。
「まぁ何があるか分かんねーし、行かなくて正解だったな。」
力雅の言うとおりだ。
何があるか分からない。
あの空飛ぶ蛇が襲ってこないとも限らない。
あの森に熊より恐ろしい動物がいるかもしれない。
街だってそこに住んでいる人が友好的かも分からない。
そもそもこの神殿から出てきて無事なのも奇跡と言っていいのかもしれない。
だって神さまのいるところから出てきたら怒られそうだし・・・。
だから、本当ならこの場所はこれきりにして、もう立ち寄らないべきだろう。
だが・・・
「探検ね・・・!悪くないと思うわ!」
「そうだな。久しぶりになんか燃えて来るぜ・・・!」
「楽しいと思う、きっと。」
「た、確かに。」
「楽しいよ!絶対に絶対!」
やはりみんなも俺と同じだった。
こんなところを見つけて、探索しないなんてことは出来ない。
どんなに危険でも、知らないところでも、昔から俺たち6人は探検してきた。
そして、今までにない探検が俺たちを待っている。
なら、探検するのが俺たちだ。
それに、晴花に今まで散々つき合わされてきたんだ。
今回も最後まで『大発見』につき合うつもりだ。
みんなを見てみると、その目は、もう、まぶしいほど期待でキラキラしている。
そして、何とも偶然なことにあと4日で夏休みだ。
時間はたっぷりある。
なら、
「よし!今日は1回戻って、準備してからまたここに来るぞ。」
「久しぶりに『探検』、しようじゃないか。」
俺の言葉に5人は満場一致でうなずいた。
こうして、それぞれが思い思いにこの『異世界』を見つめ、新たな期待に胸を膨らませ、俺たちは元の世界に戻っていった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「始まりの丘で『新入り』が確認されました。すでに帰還していますが、恐らくまたやってくるでしょう。」
<・・・そうか。この時期、彼らは「最後」かもしれん。>
<だが、何人いても人手は足りん。彼らがここを気に入ってくれることを願おう。>
「はい。加えて時の『歪み』と、魔王領にて『新種』が確認されました。恐らく・・・」
<あぁ、そうだろう。>
<そろそろ身構えなくてはならん。>