第18話 『グンドウ山の怪物②』
俺たちとブルータスは別れ、レンコンの受けた依頼をやることにした。
断りたいのはやまやまだが、受けた依頼を断ると依頼履歴に確実に残ってしまい、評価は最悪だ。
しかも、晴花たちはやる気はあるし、なら、やるしかないかぁ・・・という感じに決まった。
朝食をササッと済まし、レンコンとブルータス達を待つ。
壁に寄り掛かって待っていると光が近付いてきた。
「ねぇ、ノブ。今回のやつ、大丈夫なの?なんかすっごい強いって聞いたんだけど。」
「うーん、そうらしいな・・・。」
「しかも死人も出てるって・・・。もう、受けたからには仕方ないけど、・・・無茶しないでね。」
「分かってるよ。約束したろ?光も、危ないことはすんなよ?お前、突発的に危ないことすることあるからな。」
「そ、それはノブも同じでしょ。・・・でも、えへへ、そうね。うん、約束守ってね!」
ニカっと笑う光が可愛い・・・。
ついつい見つめ合ってしまう。
なんか光も俺もチョロくなっている気がするが、これ、まだ付き合っているわけじゃないんで。
「おいおい、ノッブーヒロ!女にほの字なんて、命を落とすぞ?君はまぐれを誤解してはいけないよ!」
するといい雰囲気をぶち壊すようにレンコンのパーティー「高貴なる光」がやってきた。
高貴なる光は全員ヒト種の4人のパーティーだが、レンコンが腕が立つのに続き、メンバーも相当強い。
まず、リーダーのレオパルド・マキン・コール・キルン、通称レンコン。
こいつは力雅と同じ剣士職だが、派生職「決闘士」のスキルを中心に習得しているらしく、その手に持つ剣は長いレイピアのようだ。
だがこのレイピア、何をしたらそうなるのか、レンコンは魔力とスキルを駆使して普通の剣のようにしならせ斬りつけ、さらに伸ばして突き抜けることが出来る。
しかも、技の精度、速度、威力は全て申し分なく、目下力雅のライバルということになっている。
次に、魔法使いの女の子、ニンフリル・ジブ・カンナ、支援協会のお偉いさんの娘であだ名はニンジンちゃん。
この娘は身長は小さくはないのに、ニンジンちゃん自体が消極的なので、なんだか影が薄れるが、礼儀正しい子で、毒を抜いた林と大人しくした晴花を混ぜ合わせたような子だ。
魔法使いとしては優秀で攻防回復をこなし、複数の魔法を組み合わせた攻撃は、晴花には使えない魅力的なものだ。
しかし、回復魔法とかみ合わせの悪い強化魔法のような補助魔法は使えない。
そう考えると、両立している林のすごさが際立ってしまったのか、前の依頼の時は林を褒めちぎってばかりだった。
そして、騎士職のモルト・ヤード・シリウス、略してモヤシ。
しかしそのモヤシの名とは裏腹に178センチメートルある俺よりデカく、そしてごつい。
装備は複数金属と魔法宝石を併せた大盾と長いランスで、主に防御と最初の切り崩しを行う。
モヤシの勇敢さと強固さは俺も見習わなければいけないものがあり、レンコンの指示で何にでも突撃していく。
レンコンは「僕の頼れる側近さ!」と自慢していたが、確かに彼がいれば怖い事はないだろう。
聞くところによると、レンコン、いや、レオパルド家に代々使える執事の家系らしく、モヤシはレンコンの幼馴染であり、一番の侍従だという。
しかし、モヤシと言っても何も怒らず頷くだけと、寡黙すぎだとは思うが。
最後は、弓兵のモモンナ・モーリス、俺はモモと呼んでいる。
光と同じ弓兵だが、魔法矢を放つことに磨きをかけ、その魔法矢は強いものだとレーザービームのような速度と熱で敵を貫く。
弓の扱いも上手で、弓矢に関しては光より格上だろう。
だが、モモには問題がある。
前に高貴なる光と依頼で遭遇した時に、光を助けようとしたら近くにいたモモも一緒に身を挺して助けることになり、それ以来モモは俺に会うと付きまとうようになったのだ。
どうも惚れ性のようで、レンコンも困らされているという。
しかも負けず嫌いでもあり、同じ弓兵である光が俺と仲良くしているところを見て、さらに熱を上げたようだ。
自分でこんな風に説明するのは恥ずかしいし、正直俺はモモにそういう感情を持つ前に、光の方が気になっているのでどうすることも出来ない。
だって、モモと話すと光がすんごい不機嫌になるし・・・。
「あっ、ノブヒロ君!久しぶりだね~!元気だった?アタシ、会いたかったよ~!」
「お、おう・・・。」
やめろやめろ、光の近くで俺に近づかないでくれ。
何か良い匂いするし、可愛いというか綺麗だし、ドキドキする。
恐怖で。
見ればレンコンも林にアピールをしている。
幹夫はネクスタ支部に行けばマリアさんと林の取り合いに巻き込まれるし、高貴なる光に会えばレンコンの林へのアプローチにイライラさせられるし、ホント心労が絶えないはずだ。
修羅場ってなにもいい事がない。
今度休日にでも幹夫と飯を食いに行こう・・・。
「お前もリンにほの字ってやつじゃねーかよ。偉そうに。」
「おや・・・?青髪のダイコン君、遅かったくせに偉そうだね。」
少しするとブルータスとマチもやってきた。
マチは晴花を見つけるなり飛びついて、じゃれつく。
力雅のことも「リキ兄ちゃん!」と呼びよせ、まるで3人は親子みたいだ。
「ハレちゃん!リキ兄ちゃん!今日はヨロシクね!」
「うん!マチちゃん!一緒に、おっきい怪物、倒しちゃおうよ!」
「だな!俺にも任せてくれよ!」
「ダイジョーブ!ハレちゃんも兄ちゃんも、強いもんね!あたしも頑張るよ!でもハレちゃんには負けないよーー!!」
「お!?晴花とあらそうつもりだな~!容赦しないぞ~!」
神童VS異端児で争いなんて起こったら街がなくなりそうなものだからやめてほしい。
しかも次の一言で場が凍り付く。
「ハレちゃんに勝って、リキ兄ちゃんをあたしのモノにしちゃうんだ!絶対負けないよ!」
「ぇ」
笑顔が固まる晴花。
困惑で弱ったように笑う力雅。
ニコニコのマチちゃん。
・・・なんだこの状況。
レンコンに言わせれば女にほの字だと命を落とすらしいが、この3パーティーはこんな色ボケ具合でこの先の怪物退治は本当に大丈夫なのだろうか。
・・・俺が言えたことではないが。
そんな風にややこしい恋愛珍劇を繰り広げてる中9時の鐘が鳴り響き、その音に包まれながらブルータスとニンジンちゃんはこっそりと手を繋いでいた。
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・・・・・・・・・・
しかし、いざ門を出て、モンスターの出没する地帯に接近するとみんなは一気に真面目になり、湧き出るモンスターを斬り、殴り、突き、射抜き、燃やし、吹き飛ばしと、ありとあらゆる手段で殲滅していく。
オリジナでも複数のパーティーと合同で依頼を受けたことはあったが、その時はこんなにサクサク行くことはなかった。
俺たちの実力が上がっているのはそうだが、レンコン達の高貴なる光と、ブルータス&マチのマンターノ兄妹の力も相当のものだった。
やはりネクスタはオリジナよりレベルが高い事をひしひしと実感する。
負けじと自然に力が入る。
そして、魔力を込めた鉄の拳で飛んできた2体のゴブリンを殴り飛ばした。
グンドウ山が近付くとモンスターがドンドン増えて来る。
このグンドウ山の近くにはネクスタから「南都 ネウア」に通じる道が作られていたが、怪物出現のせいか、山に住んでいたモンスターや動物が平野部へ流れ込んできて使えなくなっている。
モンスターの中にはお互いに対立しているやつらも少なくなく、時折モンスター同士が衝突しているのを見かけた。
そして、少し遠くから上がる爆炎や雷、水しぶきと、刃がぶつかり合う音。
この道を使えるようにするべく、ネクスタではこの平野一体のモンスター討伐依頼が出されており、また、南都からも征討軍の部隊が派遣されているおかげで、ここら辺はモンスターとヒト&亜人種の戦争地帯のようになっている。
至る所で同業者達を見かけるが、その多くがヒト種だ。
するとレンコンが「ルーキーへの手ほどき」と言ってその理由を教えて下さった。
レンコンによると冒険者は、その7割がヒト種だという。
もちろん、亜人種の冒険者も少なからずいる。
ただ、ヒト種の方が潜在的に魔力が強く、一部の種族を除くとやはりヒト種の方が冒険者に向いているから、というのが理由らしい。
キャットピープル種や人狼種など、基本的な運動神経がずば抜けた亜人種や、神秘種やシン人種などのその種族特有の異能を持つ亜人種は冒険者の中でも強くなり、逆に向いていない亜人種はすぐに別の職業に変えるというから、なかなかシビアな業界でもある。
しかし、その冒険者に向いていなかった亜人種はヒトにはない感覚を使って多方面で活躍するというから、世の中どうなるか分からない。
思えば、ネクスタでよく通う鍛冶屋の店主はドワーフ種だし、お気に入りの飯屋の店主は口裂け種だし、そういう分散の仕方をしているものだろう。
光が、レンコン様は物知りですね!と嫌味たっぷりにお礼して差し上げたのにレンコンときたら嬉しそうに
「ありがとう!ヒカリくん!君も従者になるかい!?お、お姉さんと一緒に!」
なんて馬鹿なことを言えるんだから凄いもんだ。
なんとなく俺もコイツを嫌いじゃないなぁ、と思った。
・・・嫌な奴なんだけど。
グンドウ山に足を踏み入れると途端にモンスターの気配はなくなる。
どうやら怪物はまだここにいるようだ。
グンドウ山は山肌が2層に分かれている。
下の土台は普通の山と同じく、土砂で形成されているが、上の層はまるで岩山のようになっていて、この2層で植物の生態系は分かれている。
この山はいつの間にか出来ていた山として有名で、前は少し小高い丘だったのが、100年前に突如山が出来ていたという。
この世界基準では、まぁそういうこともあるか、くらいの受け止められ方だったらしいがどうしてそうなるのだろうか。
例の怪物がどの場所にいるのか分からないので、取りあえず山頂を目指して登っていくことにした。
普段は様々なモンスターが住み着いていた形跡があるが、怪物から逃れるために山を下っていったせいで、花草は踏み倒され、木が折れているところもある。
俺たちはモモの索敵スキル「耳鳴り」を利用して怪物の気配を探るが、2時間ほど探しても一向に怪物は見つかる事がない。
時間も13時を回り、俺たちは昼食を取るために、上の方の岩山まで登って、少し見晴らしのいい所に行くことにした。
岩山の部分に到着すると、大きな洞窟の前に座り易そうな岩が何個かあったので、洞窟の影で日差しをしのぎながら飯を食べることにした。
のだが。
その大きな洞窟の入り口には大量の何かの動物の骨と、巨大な金属の塊が散らばっていた。
「もしや、この中に怪物が・・・?」
レンコンが呟く。
たぶんそうだろう。
モモの耳鳴りもこの洞窟から少しだけ魔力を感知したようだ。
さらに、まるで、かかってこい、と言わんばかりに入り口に残骸を並べてあるように見える。
しかも、洞窟からは生暖かい空気が漏れ、かすかに血の匂いが漂う。
勿論、こんな風に挑発されたような状況にレンコンが黙っている訳がなかった。
「ふふふ、ついに来たな・・・!挑発などしおって怪物め!誉れ高きレオパルド家の次期当主である僕が!貴様を成敗してやろう!行くぞ!諸君!」
そう言って高貴なる光を連れ、ズンズンと中を進んで行く。
ブルータスと俺も続くように足を踏み入れようとすると、何か違和感を感じたのか林がブルッと震え、その動きを止める。
俺は林がデーモンロードの時のように謎の不安を感じるというので、念のために洞窟からいったん離れることにし、レンコン達を呼び戻す。
「レンコン!林が何か変な感じがするらしい!一旦こっちに戻ってこい!」
「なんだと!?おい、ノッブーヒロ!青髪!何を怖気づいてる!怪物に怯えるなど貴様らはホントに冒険者なのか!?」
「そういうのじゃないって!いいから戻ってこい!」
そう言った後、俺は林の言う違和感が何なのかを理解した。
その違和感の正体は、ヌルヌルと光り、動き出した壁にあった。
「何だこれ?」
そう言って力雅が壁に剣を突き立てた瞬間、洞窟から烈風が吹き荒れ、俺たちは山から吹き飛ばされ、宙を舞った。