第17話 『グンドウ山の怪物①』
ネクスタで過ごすこと早1週間。
俺たちは城で依頼を選んでいた。
オリジナの依頼板に比べてなんとも綺麗に整えられた依頼板だ。
そして貼られた紙の依頼のレベルもまた、高くなっていた。
中には
「依頼名 :特別依頼・国境防衛任務
依頼内容:魔王軍侵攻により国境防衛の必要性が増加しています。マルタ平野における冒険者防衛隊への1週間の参加を要請します。依頼条件、詳細につきましては、依頼受付係にお尋ね下さい。
依頼報酬:金貨20枚(途中経費含め、功績に応じて加算。)」
というのもある。
これ、金貨20枚のために簡単に命を落とす可能性もあるのだから、そんなに受ける人はいないと思うが・・・。
と思いきや、過去受注人数20人てあるし、結構受けてるものなのか。
支援協会ネクスタ支部、通称「城」は見た目のわりに簡単な内部構造をしていて、1階が冒険者の依頼の受注や報酬支払い、情報室など、支援協会の基本的な施設と機能が備わっている。
俺たちは、今、この1階で依頼を吟味している。
2階にはアイテムや魔法武具、冒険者装備の販売やモンスターからの戦利品の買取り所など、支援協会と契約を結んだ商店が店を開いてイオンモールのようになっている。
ただ、質はいいものが多くても値段がお高いので買うに買えない。
ちなみにデーモンロード戦にて晴花が手に入れた宝玉の杖は、その杖に付いていた魔法宝石が非常に珍しいものだったらしく、晴花と林の杖の形に合うように加工され、それぞれの杖に取り付けられた。
おかげで魔法の威力も増幅し、デーモンロードでの一番の収穫といったところだろうか。
3階には飲食店や休憩所など、冒険者憩いの場となっている。
しかし、一般人もこの城をよく使うため、一般人と冒険者の交流の場としても大いに活用される。
また、4階は一般立ち入り禁止区域となっていて、4階構成で城の内部は造られている。
城への入り口は大きく分けて2つ。
大きく開いた正面口は1階にあり、ここからは冒険者が出入りを頻繁に行う。
そして3階に接続された空中回廊からは一般人や商人が出入りする。
このように大型のショッピングモールのようになっていて、結構使い分けもきっちりされている。
しかも、城の1階から4階までをぶち抜き、さらに上まで伸びる塔にも魔法運輸のターミナル機能や、通信施設機能、竜騎士の警備所などその他多岐に渡る機能が詰まっていて、つまりこの城は街の象徴であるとともに、破壊されたらこの街が著しく機能低下する施設なのだ。
おいおい、なんでそんな状態にしたんだ・・・。
俺たちの世界で話題になっている、都市機能の一極集中問題みたいじゃないか・・・。
ホント俺の田舎にももう少し機能つけてくれよ!
山を下ってコンビニとか遠いよ!
だが、それを守るためにあの強力な6本の塔と女神像が城を囲んでいるので、破壊の心配はない、とマリアさんは言い切っていた。
たしかにあの強力な魔法障壁を作り出せるなら心配はないかもしれないが・・・。
でも、5日前にデーモンロードに突撃されてたような・・・。
そんなこんなで俺たちは1階の依頼板を前に唸っていると、隣の冒険者が話しかけてきた。
「よう!『悪魔殺し』のルーキー!」
「あなたたちも依頼、迷ってるの?」
最初に話しかけてきた男が俺と同じ戦士のブルータス・マンターノ、その隣の女の子は魔法使いのマチ・マンターノ。
ブルータスの方は身長は俺と同じくらいだが、青い髪をなでつけ、獣のような鋭さを持った目に堀の深い顔と、ぶっちゃけかなりカッコいい。
マチは晴花より小さい、ちんまりした女の子で、クリクリっとした顔が愛らしい13歳。
一応職業に就けるのが16歳という規定なのだが、マチは才能を認められ、「神童」と呼ばれて10歳の時からブルータスと一緒に冒険者をやっている。
この2人は兄妹で、2人だけでパーティーを組んでいる。
だが、それは別に珍しいことではなく、中には1匹狼の冒険者もいるとか。
ブルータスとマチはこのネクスタに来てから初めて知り合った冒険者で、俺たちがデーモンロードを倒した時に、塔から上がってきた冒険者達の中にいた。
そこで俺たちを見て何を気に入ったのか、「『悪魔殺し』のルーキー」と呼んで俺たちに度々話しかけて来る。
そして、マチも何故か晴花と周波数があって仲良くなってしまい、ネクスタに自宅を構えてる2人には街の案内をしてもらったりと世話にもなっている。
「よう、ブルータス。その、いい加減そういうあだ名やめてくれよ。恥ずかしいだろ。」
「何言ってんだノブヒロ、誇れよ!一介の冒険者グループが単体で髭悪魔討伐とは名誉なんだぜ!?やっとみんなも知り始めたくらいなんだからな。謙虚すぎるぜ。」
「ふっ、まぁ、能ある鷹は爪を隠すんだぜ・・・?」
「リキガは自慢してたろ普通によ。」
「・・・そうだっけ。」
そうだっけじゃねーよ。
そう、力雅の馬鹿が休憩所や情報室で自慢するもんだからすっかりフレイムズは有名なパーティーとなってしまった。
しかも、それは良い反応だけが返ってくるものじゃなかった。
中には妬む奴や、ラッキーだと馬鹿にする奴もいる。
ブルータスと話している最中に、割り込むように話しかけてくる奴が来た。
「お、ラッキー君たちじゃないか?青髪の野獣とつるんで、なにしてんだい?」
思った傍から来たよこいつ・・・。
コイツはレオパルド・マキン・コール・キルンと覚えにくい御大層な名前を持った、この地域の大地主の息子で、パーティー「高貴なる光」のリーダーだ。
将来的に王都の軍に仕官する前に冒険者としての経験を積んでいる、という高慢ちきなやつだが、腕は結構立つ。
以前、俺たちと討伐対象が被って、言い争いをしていた最中に晴花が「超かみなり」をぶち当てて殺してしまったことを根に持っていて、デーモンロードの件もラッキーで殺したラッキー君とあてつけのように言ってくるなど、なんとも頭にくる。
それ以降、依頼で会うと競い合いのようになったり、レンコンだけでなく他の高貴なる光のメンバーにも困らされたり、と散々だ。
しかも、2人で活躍してるブルータスとマチも気に食わないらしく、度々ちょっかいを出してくる。
「なんだよ、レンコン。」
「おい、青髪のオーク、僕の名前を略すな。僕にはレオパルド・マキン・コール・キルンという美しく凛々しい名前があるのだ。青髪のゴブリンは知能も低いのか。」
「覚えられねーよレンコン。」
「おい、ラッキーリキガ。貴様、フォーリルのくせに生意気だぞ。」
「レンコン、アンタ何の用なわけ?早くお仲間のとこに行ってよ。」
「レンコーン!レンコーン!」
「ヒカリくん、ハレカくん、やめてくれないかね。」
コイツは頭に来るやつなのに、こういうからかいにいちいち反応するので、俺以外は楽しんでいじり倒す。
俺は正直めんどうなやつがこれ以上増えるのが嫌なので、関わりたくない。
しかも、女の子には少し紳士的な態度というのが癪に障る。
「まったく、レンコン、レンコンと・・・。そんな根菜のような名前で呼ばないでくれ。」
「でも、レンコンって、ちょっと、可愛いかも。」
「リ、リン、さん。そうかい?んんっ、ならまぁ悪くないかもしれないね。」
「・・・。」
そしてなんか林に気があるみたいで、こういうやり取りの度に幹夫が少しイライラしているのも可哀想で、レンコンはホント厄介の種でしかない。
なんで毎回絡んでくるかな・・・。
「ところで、僕の質問に答えてくれないかい?ノッブーヒロ。」
「なんだよノッブーヒロって・・・。見りゃ分かるだろ。依頼で悩んでたんだよレンコン。」
「君達、レンコンって言いたいだけだろ・・・。んんっ、だが、まぁ今はいい。青髪のイノシシも同じか?」
「お前、俺のあだ名全然安定しねーな。青髪つきゃなんでもいいのかよ。」
「なんでもいいだろうそんなのは。・・・それより、君達が依頼で悩んでいるなら耳寄りな情報を与えてやってもいいんだが?」
こいつ、なんで上から目線なんだよ。
しかし、耳寄りな情報というのが気になるので、マチちゃんを光たちに任せて、ブルータスとレンコンと俺で小さく円を作って、話の続きを促す。
「君達は、最近、このネクスタから少し離れた所にあるグンドウ山に怪物が現れた、という話を、耳にしたことはないかね?」
「あぁ、それかー。」
「えっ、なんだそれ?」
どうやらブルータスは知っているようだが、有名な話なのだろうか。
「まぁ、成り上がりルーキーノッブーヒロが知らないのも無理はない。3週間ほど前にグンドウ山に怪物が出没したんだよ。」
「怪物・・・?」
「そうだぜ。なんか別の依頼を受けた冒険者パーティーがグンドウ山で遭遇したらしくってな。そのパーティー、近々サーディアに移るような歴戦の冒険者たちが結構いた6人パーティーだったんだけど、この街に戻ってきた時には2人になってて、その2人も酷い重症だったんだってよ。」
「ほうほう。」
「おい、青髪のカビ、僕の話に割り込むな。・・・まぁ話は青髪の木片の言う通りで、その後、特殊依頼で編成された調査隊が調べに行ったそうだが、何もいなかったらしい。」
「何もいない・・・?」
「そうだ。いなかったらしい。2回も派遣したのに結局見つからない。それで、その怪物は気のせいだった、討伐対象を怪物に間違えて認識したんじゃないのか、という話になったんだ。」
「え・・・?」
なんだそれ。
普通に考えておかしいだろ。
歴戦の冒険者が惨敗したっていうのにそういう扱いになるのかよ。
俺を見て、レンコンは話を続ける。
「そうだ、ノッブーヒロ。おかしいと思うだろ?いないわけない、と。けど、見つからないものは見つからない。いつの間にか冒険者はその存在を忘れていたんだ。・・・1週間前までは。」
「なんかあったのか。」
「その通りだ。実は1週間前から、グンドウ山での依頼を受けたパーティーで、帰ってきたパーティーはいない。」
「また、現れたのか。怪物が。」
「ふっ、珍しく察しがいいな青髪のワニ。そうだ。たぶん、現れた。そこに偵察に行った王族の征討軍部隊も帰って来ていないようだ。」
「なんだそれ、やばいじゃないか。・・・まさか、俺たちで討伐しようってわけじゃないだろうな?」
なんだか不穏な流れが出来ている。
これは・・・。
レンコンはニヤっと笑いながら小声で叫ぶ。
「そうだ、その通りだ!その怪物に高額な賞金がかけられたのだ!僕にとって賞金なんてどうでもいいが、それほど有名な怪物なら、倒せば地位も上がり、実績も手に入るのだよ!」
「なっ・・・。」
「うえぇ・・・!?」
俺とブルータスは驚き戸惑う。
そんな強敵を相手にしたら、間違いなくやばいだろ。
しかし、そんな俺たちをよそにレンコンはがっしりと肩を掴んで力説する。
「この情報はまだ、普通には出回っていないんだ!なら、今がチャンスだ!誰よりも先に討伐してやろうじゃないか!」
「・・・でも、危ないだろ・・・?」
「何を言う!この僕のパーティー『高貴なる光』がいれば負けることは断じてない。それに『変人マンターノ兄妹』と『悪魔殺し』の新人成り上がりルーキーも揃えば、簡単に倒せるぞ!」
「俺たち『変人マンターノ兄妹』って呼ばれてんのかよ。」
「そうだが?それにノッブーヒロ!君もレベルアップしたがってたではないか!いずれサーディアにも行くのだろう?なら、ここを乗り越えるべきではないか!」
「・・・うーん。」
俺とブルータスは顔を見合わせて悩む。
どう考えても超危険だ。
いくら俺たちで行ったら人数的には圧倒的に有利だからと言って、安心できるものではない。
でも、レベルアップしたいのは確かだし、レンコンみたいにデーモンロードを倒したのは偶然と言うやつに実力を見せつけてやりたいというのもある。
しかし、悩んでいる俺たちを置いてレンコンは晴花たちを説得し始め、無鉄砲力雅&晴花はノリノリ、マチちゃんも晴花に付いていくと言わんばかりに盛り上がり、しまいにはレンコンが受付に行って勝手に依頼を発行し受注してしまった。
「ふふっ、楽しみだな諸君!前の雪辱を果たしてやろう!では、今日の9時の鐘で北東門に集合だ!ちゃんと朝飯は早めに済ませておくんだぞ~!!」
ははは~!と笑いながらレンコンは去って行った。
俺はブルータスと同時にため息をつく。
ホント、厄介の種だよ、レンコン・・・。




