第15話 『襲撃者』
突然の爆音と衝撃に、乗っていた魔法運輸が激しく揺さぶられる。
そして、けたたましい警報がネクスタの街中に響き渡る。
「んな!?」
どうやら目の前の塔で交代するはずだった竜騎士が、俺たちの上から降ってきたようだ。
しかし、単に何らか失敗して降ってきたわけではない。
林が見つけたあの黒い何かが、攻撃を仕掛けてきたのだ。
そして、油断していた竜騎士がやられた。
上空から降ってきた竜騎士は、衝撃で召喚獣が消え、そのまま車両の天井から落ちようとしている。
「うわっ、危なっ!」
咄嗟にガラスの砕けた窓枠から手を出して竜騎士の腕を掴む。
気を失っているせいか妙に重い。
ふんっ、と気合を入れて車両の中に引き上げる。
一応革製の鎧を着ていたので死んではいないようだが、さっきの攻撃で体の半分にひどい火傷を負っている。
「林!回復魔法を!他のみんなは武器を!」
「わ、分かった!」
俺の合図で素早くみんなは準備を開始し、林も中位回復魔法「クリアヒール」を使う。
この連携が出来るのはこの世界で4週間、毎日戦闘で鍛え上げたこと、そして、俺たちが長い間ずっと一緒に過ごしてきたからだった。
一体、あの黒いのはなんだ・・・?
武器をはめ、外を見ると、かなり近くに移動していた。
どうやら防壁の警備隊と戦闘になっているようだが、あんな遠距離からこの威力の魔法を撃てるのだ。
警備隊はかなり苦戦を強いられている。
他の竜騎士も塔の上から次々と飛び出し、侵略者の撃退に向かっている。
上空で魔法が炸裂し、ぶつかり合う。
そして、その度に爆音で空気が震える。
すると突然警報を掻き消すような機械的なアナウンスが、魔力でその音量を増大させながら城から響き渡る。
((魔法障壁を展開致します。魔力波の影響にご注意ください。))
((魔法障壁を展開致します。魔力波の影響にご注意ください。))
そして、アナウンスの直後、目の前の城を囲む6本の細い塔、その先端を飾る女神像の持つ青い水晶が、街を青く染め上げるほどの光を放出し、魔法障壁なるものを展開した。
見たようには薄い雷のほとばしる青い壁が、女神の水晶から何重にも連続で放出される。
その魔法障壁の波は防壁まで達し、黒い侵入者の攻撃を防ぎ、ドームのように街を包み込もうとしていた。
警備隊と竜騎士は防壁内まで撤退し、侵入者を魔法障壁内に入らせないようにしている。
「なんだこれ、すげー・・・。」
力雅が感嘆の声を漏らす。
すると魔法運輸も動きを再開し、塔の魔法運輸到着ターミナルに滑り込むように着陸する。
ドアが開くと、俺たち以外の乗客は、荷物を持って急いで塔の内部に避難していった。
なんだか慣れてる?
そんな感じがする。
俺たちは負傷した竜騎士を連れているため一番最後に車両を出ることになった。
降り口のターミナルは魔法運輸の出入りのために360度に大きく開いていて、発着ターミナルの上に傘が広がっているような形に設計されているので、ここからでも防壁での攻防が確認出来る。
魔法障壁は既に塔の真上でドームの形を作り終えたのか、外の侵略者の攻撃が通ることは無い。
だが、完成前に何体かに侵入を許してしまったようだ。
警備隊と竜騎士は中に入った侵略者の撃滅に移行しているが、こちらの猛反撃の中侵入しただけあって相当強い。
街の防衛部隊と侵略者の魔法が飛び火し、街の一部が焼ける。
なんて威力だ・・・。
「うわっ、なにあれ、なにあれ!!??」
「え、えぇ!?」
晴花と幹夫が侵略者の正体を見て驚きと恐怖の声を上げる。
流石に街の中まで入ってくれば、その姿もはっきりと見えて来る。
俺たちはそのモンスター、いや、魔物を見て驚愕した。
黒い侵入者は空を飛んでいる。
黒く大きなコウモリのような羽を広げて、生やす2本の角は歪な、ヤギの角のような形をしている。
体のところどころに毛が生え風になびいている。
そして、赤い目を持ち、横に広く裂けた口から牙を光らせ魔法を放ち、手に持った杖は時には武器として殴打するのに使い、時には様々な魔法を放出する。
あれは・・・、
「うぅ・・・。」
すると俺が支えていた竜騎士がうめいて目を覚ました。
「おい、あんた大丈夫か?」
そう尋ねると竜騎士の男は呟く。
「うっ・・・、だ、大丈夫だ。それより、前を、前を・・・!」
「?どういう・・・」
突如、俺の言葉が魔法運輸のターミナルに轟く爆音で掻き消される。
そして、俺たちの前に、侵略者、悪魔が転がってきた。
「う、うわあああああああ!!!や、やべーーーー!!!」
力雅がそう叫んで前に出ている晴花を掴んで下がらせる。
デカい。
遠目で見た時よりはるかにデカい。
4メートルはありそうな人型の悪魔は、どうやら竜騎士の魔法がぶち当たり吹き飛ばされてきたようだった。
だが、なんともなさそうに悪魔は立ち上がり、俺たちを見据えた。
そして、すぐに悪魔は口に光球を生み出し始めた。
こうなると、逃げようにも逃げられない。
「力雅!幹夫!そっちに行くから待ってろ!光は晴花と林を連れて、この竜騎士のおっさんを安全な所へ!そのあと、俺たちを援護!」
すぐさま走ってきた光たちと場所を入れ替わり、そして、そのままの勢いで悪魔の顎を殴り付ける。
ぶん回した鉄の拳の威力に悪魔の顔は上に跳ね、光球が天井に向かって発射され、天井を半壊させる。
その威力の凄まじさに、足が震える。
「おいおい!こんな威力洒落になんねーぞ!!」
「うわぁ!やばいよこれ!まずいよ!」
「分かってる!けど、当たらなきゃいい!それにダメージは通る!なら、倒せる!」
そう言って俺は悪魔の前に立ち、右腕を操り出して拳を叩きつける。
だが、そう何度も攻撃が上手く当たることは無かった。
悪魔は手にした杖で俺の拳を防ぎ、そのまま巨大な脚を振り上げ、文字通り俺を蹴散らそうとする。
そこに力雅が滑り込み、長剣で脚を防ごうと高速で剣を抜き、斬りつける。
しかし、力雅の長剣は細くて軽すぎた。
防ぎきれずに力雅は吹っ飛ばされる。
「こんの!」
俺は気合と共に左拳に熱を溜め、得意の火炎拳を左足に叩き込む、が、全く通用しない。
悪魔の足は鋼のように硬い蹄のようなものが足裏から伸びでいて、攻撃が通らない。
「マジか、よっっ!!!!!」
そして俺も脚で上空に蹴り上げられる。
力雅と違ってノーガードで受けてしまったせいか、何メートルも宙に浮く。
おいおいおい!!!
そして床に叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。
内臓に強烈な痛みが走り、息が出来ない。
喘ぐようにしても、漏れるのは俺のかすれた息だけで、うまく呼吸が出来ない。
横目で見ると、幹夫がぎりぎりのところで悪魔の杖攻撃を避け、暗殺者の魔法スキル「影縛り」を使って悪魔の動きを止めながら手に持った短剣で斬りつけていく。
幹夫は二刀流に戦い方を変えて、攻撃回数で圧倒する戦法をとるようにしていたが、どうも悪魔に効いている気がしない。
「の、信くん!?だ、大丈夫!!!??」
幹夫は戦いながら問いかけて来るが、答えようとすれば血が口から溢れて来る。
やはり、肝臓でも割れたのかもしれない。
動くことが出来ない。
それでも必死に動こうとすると、倒れている俺を超え悪魔に向かって強烈な火炎弾が飛んでいく。
晴花の「ウルトラファイアー」だ。
すると流石の悪魔も晴花の魔法は直接受けたくないのか、近くで跳ねまわる幹夫を置いて後ろに飛びのき、魔方陣を展開し防御した。
悪魔の魔方陣に爆炎が広がり、魔方陣が消える。
相変わらず馬鹿げた威力だが、これなら悪魔にも勝てるかもしれない。
しかし期待する間もなく、視界が霞んで、体の感覚が失われてくる。
やばい、これ、死ぬかも・・・。
だが、薄れゆく意識は、途切れることは無かった。
耳元で誰かが泣くように叫んで、回復魔法「ヒール」で回復を行使していた。
けど、回復量が足りないのか、俺は口から漏れ出る血を抑えることが出来ない。
「林!林!い、急いで!ノブが!ノブが・・・!」
どうやら回復魔法を使っていたのは光のようだ。
すると、竜騎士のおっさんを運び終えたのか。
そういえば、初級回復魔法を使えるとか言ってたっけか・・・、と思っていると力雅を治療終えた林が駆け寄り、上級魔法「プリズマ」で俺の治療を開始する。
連続で魔力消費の激しい、高位回復魔法を使用しているせいで林の額には汗が滲むが、それでも一生懸命治療をしてくれる。
そして、晴花を引き連れて、悪魔にむかって叫んでぶつかっていく力雅の声と、光の泣き声が聞こえて来る。
「死なないで・・・。死なないで・・・。」
死ぬもんか、こんなところで・・・!
そう思うやいなや、急速に体の異変が治っていき、体が動くようになり、意識がはっきりとしてくる。
失った血は戻らないので、少し体調が悪いがこれならまだまだ戦える。
俺は目をしっかりと開き飛び起きる。
「ノブ・・・!」
「心配かけてすまん!光!林!助かった!」
「大丈夫、なの?」
「あぁ、いけるぜ。林は少し休んでいてくれ。また、手を借りることになるかもしれない。光、俺と一緒に来てくれ。あの糞野郎をぶちのめすぞ。」
「・・・えぇ!分かったわ。」
光は涙をぬぐい、俺の後に続く。
林には自分自身に防御魔法を使わせて、休ませることにした。
恐らくあの強敵は攻撃できる全員でやらなきゃ殺せない。
だから、全力でぶち当たる!
悪魔は幹夫に翻弄されながらも力雅の剣を弾き、晴花の魔法を防いでいる。
なんという強さだ。
今までの敵とはレベルが違う。
だが、こいつを殺さなきゃ俺たちが死ぬ。
光は立ち止まり、矢を引き絞って連続で射続ける。
スキル「連なりの矢」だ。
しかしその硬い皮膚は矢を通すことは無い。
そして俺も前線に復帰し、狂化しながら悪魔と渡り合う。
しかし、悪魔はいっこうに押されることは無い。
流石に悪魔も防御に少しずつ回るようにはなったが、それでもまだまだ猛烈な攻撃を繰り出してくる。
力雅と俺と幹夫で切り結び、晴花と光の援護があってもこの状況とは。
俺たちは致命打を与えられずに、ぶつかり合いを続ける。
しかも、恐らくこのまま続ければ魔力不足とスタミナ切れで手打ちになるのはこっちだ。
俺は悪魔の振り回す雷撃をまとった杖を雷撃拳で弾き、時には避けながら必死に考えた。
だが、そう簡単に思いつくものでもない。
徐々に体力が切れて来る。
そしてこちらの攻撃が途切れた途端、悪魔がまた光球を口に生み出した。
すると反射的に力雅が飛び、悪魔の頭に剣を叩きつけた。
恐らく光球を止めようと思ったのだろうが、頭を切り裂くことが出来ず、その点では無意味だ。
しかも、先ほどと同じように光球を顔ごと跳ね上げようとしていた俺の攻撃とバットマッチし、結果的に悪魔の頭を上下で挟むように攻撃することになった。
だが、これが思わぬ成果を生む。
悪魔は上下からの衝撃に、発射しようとしていた光球を口に蓄えたまま顎を閉じることになり、光球が悪魔の口の中で爆発した。
そして悪魔の下顎が消し飛び、その衝撃に悪魔の体が後ろへ傾く。
「い、今だ!やれええええええええええ!!!!!」
思わぬ好機に一斉に悪魔の胴体に攻撃を仕掛ける。
悪魔はドンドンふらつき手に持った杖を手放し、ついに片足が浮いた。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺はその隙を見逃さず、スキル「憤怒の拳」で魔力を全て右腕に溜め、思いっきり悪魔を殴りつける。
悪魔は耐え切れずに体を九の字に折り曲げながら宙を浮き、ターミナルから外へと放り出される。
そして、
「サンダーミックスファイアァァァァァァァ!!!!」
晴花の絶叫と共に放たれた爆撃と雷轟が悪魔の身を包み、その体を燃やし尽くした。
炭のようになった悪魔はそのまま地上へと、落ちていった。




