第13話 『仲間と恋』
絶句。
その一言に尽きる。
いや、確かに晴花はよく力雅を連れて行ってたし、力雅も嫌々ながらいつも晴花の『大発見』報告にいの一番に反応してはいたが・・・
これは驚きだ。
まず、晴花が押し倒す!?これが衝撃だよ衝撃。
そんな恋に花咲く女子高生みたいなことをするやつだとは思っていなかった。
確かに顔は可愛いしちょっとアホな所も人によってはプラス要素だろう。
実際俺も小学校の頃は好きだったし。
中学に入ってからあまりに突拍子なさ過ぎて付いていけなくなったんだけど。
そして、力雅も受け入れるのかそれを。
てっきり力雅は光のことが好きなんだと勘違いして、モヤモヤしていたところだったのだ。
あれ、なんでモヤモヤ?
口をぱっくり開けて見ていると、2人はゆっくりと体を離し、そして赤ら顔で見つめ合った。
あぁ、ラブロマンス・・・、美しきや人の愛。
すると、急にびくっとして2人は飛び起き、お互いに謝り始めた。
「ご、ごめんなさいっ・・・、ちが、違うの。わざとじゃなくてねっ・・・。」
「あ、あぁ・・・、分かってる、分かってる。こっちこそすまん・・・。」
あれ?なんだ。様子から察するになんだかわざとじゃない感じするが。
だけど、お互いにスゲー顔赤くしてもじもじしてるし、良いじゃない。
ねぇ?
これがラブだよきっと。
俺にはまだ分からんが。
すると2人は突然周りを急に見回し始め、普通にあんぐり口を開けながら棒立ちしてた俺は速攻見つかった。
俺を見つけた2人はさらに顔を赤くし、猛ダッシュで駆けよってきた。
そして口早に言い訳をかまし始めた。
しかし言っていることが訳わからない。
「ち、ち、ち、違うんだ!いや!マジだって!いや、頼む!違う!」
「そ、そうなのっ!じ、じ、事件!じぁ、じゃなくて事故死!だ、だからっ!」
何を頼まれて何が事故死なのか全くもって意味不明だが、見ている分にはときめきで心キュンキュン、ついニヤニヤ笑ってしまう。
少し落ち着いた2人から話を聞くと、どうやら急に力雅が手を握ったから晴花が焦って、間違えて風魔法「ウィンド」を発してしまい、風にあおられ晴花が力雅の上に倒れたようだ。
それで、あーなっちゃったと。
でも手を握ったんだから、そういうことじゃないの?と尋ねると2人は、多分恥ずかしさで顔真っ赤にして怒り、他のみんなには言わないでくれ!ときつく言ってきた。
仕方ない。
晴花の魔法で焼かれたらひとたまりもないし、ここは黙っておこう。
しかし、そうか。
あの頭ぶっ飛び宇宙少女晴花も恋をするものなんだな。
なんか晴花の父ちゃんになった気分だよ。
笑いながら承諾した俺に必死に抗議をする2人を、俺は温かく眺めていた。
俺たちのいる場所の反対側にあった木の陰から、眼鏡をかけた小さな青年が走り去っていた。
俺は力雅と晴花に別れを告げ、宿屋「オリバー」の近くにあるミテル湖の周りで休むことにした。
本当はこの公園でゆっくり散歩でも、と思っていたが、あの2人にはここでゆっくりと休んでもらいたい。
本当にわざとではないのだろうが、いい所までいっちゃったんだから、このまま幸せになれるならなるべきだ。
ということでお邪魔虫は退散した。
湖は夕日を反射して、橙色に淡く輝いていた。
なんとなくブラ~っと歩いていると、どうやらほとんど人はいないみたいだ。
そして、前に光と並んで座っていた岩の所に、先客がいた。
幹夫だ。
膝を抱えて、じっと湖を見ている。
幹夫がここに来るとは珍しい。
普段は俺と光しかここには立ち寄らないのだが、幹夫もここの良さを知ったのだろうか。
しかしその割に雰囲気は暗い。
俺は気になって声をかけた。
「よう幹夫、ここにいるなんて珍しいな。」
「あ・・・信くん・・・。」
「なんだ、いつもより更にちっこくなってるぞ。何かあったのか。」
「・・・はは、そうかな。うん、大丈夫なんだ、うん。」
全然大丈夫には見えないが・・・。
「いや、まぁ大丈夫ならいいんだけどさ。」
「うん・・・。」
「まぁ、でも、ほらなんだ。俺に聞けることなら、相談に乗るよ、って感じだ。」
「・・・そう、だね。多分、信くんにしか話せない・・・と思う。」
「お、おう。」
なんだ、俺にだけって。
これ告白か?俺への告白か?
だが、俺のアホな予想に反して、幹夫の話は実に答え難いものだった。
「晴花ちゃんって・・・力雅くんのこと、・・・好きなのかな・・・。」
「あ、あーー・・・。」
そうか。
やはり、さっきのあれを幹夫も見ていたのか。
幹夫っぽい影を見た気がしたが、そうだったのだ。
これは・・・どうしたもんか。
前から幹夫はどうも晴花に気がありそうな感じはしてた。
それで俺たちもよくそれでイジったもんだが、まさか本当にそうだったとは。
幹夫はゆっくりと続ける。
「僕ね、公園で見たんだ。2人のこと・・・。信くんもいたよね。」
「そう、だな・・・。」
「うん、・・・それで僕、なんかよく分からない気持ちなんだ・・・今。」
「分からない?」
「そう、分からないんだよね。」
こっちを向き、困った顔をしながら乾いた笑いを浮かべる幹夫を見ると、俺も苦々しい気持ちになる。
「僕、晴花ちゃんのこと、・・・好き、だったんだと、思う。」
幹夫は一つ一つ、確かめるようにつぶやく。
「でも、よく分からなくって・・・。いつも、晴花ちゃんの笑顔を見ていると、ほっとするし、温かい気持ちになるんだ。この世界に来ても、晴花ちゃんは変わらない笑顔で、ずっとこのままで。」
「・・・あぁ、そうだな。」
「けど、晴花ちゃんも変わっていくんだ・・・。晴花ちゃんも誰かを、好きになっていくんだ。それが、僕だったら、なんて、ちょっと思ってた。」
「あぁ。」
「でも、晴花ちゃんは僕のことを友達としてしか、見てくれなかった。・・・さっき2人が、その、うん、一緒にいたのを見て、僕は最初から無理だったって、思ったんだ。」
「いや、そんなこと・・・。」
「いいんだ。うん。・・・晴花ちゃんが選んだことだから。でも、僕は悲しくて悔しかっただけじゃ、なかった。なんか、・・・ホッとしちゃったんだ・・・。」
「ホッとした・・・?」
「うん、何でだろうね。僕も分かんなくて、今、すごいモヤモヤしてるんだ。」
「・・・。」
幹夫はさっきよりも少し明るい顔になっている。
俺に、晴花のことについて告白出来たからだろうか、晴花への想いに踏ん切りがついたのか。
流石にすぐそんな風に思えることはないだろうが・・・。
だとしたらどうしてなのだろう。
俺は幹夫の周りにいる人たちのことを考えて、少し思い当たる事があった。
そして、思い当たったことを尋ねてみた。
「幹夫は、林のことは、どう思ってるんだ?」
「え?林ちゃん?」
そう、林だ。
林は幹夫に気がある素振りを見せていた、というか完璧にアピールしていたように感じる。
前から一番幹夫をいじっていたのはなんだかんだ林だし、この街でも林と一緒に回っていたではないか。
幹夫は俺の質問に戸惑い、沈黙した。
そして、しばらく考えて答えが出たのか、少しずつ、言葉にして紡ぎだす。
「・・・林ちゃんは、うん。林ちゃんは、すごい優しくて、ちょっといじわるだけど、でも、いて、楽しい・・・と思う。僕とこの街を回った時も、僕のために、色々考えてくれて、僕も、林ちゃんに楽しんで欲しくて・・・。」
あぁ、モヤモヤの正体はこれだ。
これだろう。
「もしかして、幹夫は、林にも気があるんじゃないか?」
「え・・・?」
数秒の空白、そして
「え、いやいやいや!そ、そんなことないよ!だ、だって僕は、たぶん、晴花ちゃんが好きだったんだよ!?そ、そんな、2人を同時に好きになるなんて・・・!」
幹夫は否定するが、話を聞く限り、どうも俺にはそう思えて仕方ない。
俺は話を続ける。
「いや、おかしいことはないぞ。2人を同時に好きになるくらい。俺だって、小学生の頃は晴花と光と林の3人とも一気に好きになった時期があったくらいだからな。だって、ほら、3人とも可愛いじゃん。」
「い、いや、確かに可愛いとは思うけど、そ、それは小学生の話でしょ!?」
「いや、年齢なんて関係ないぞ(恐らく)!好きになる時はなる!そういうもんだ(?)」
「え、えぇー・・・。」
幹夫は唖然としながら俺を見る。
俺だって最近恋愛したわけじゃないから分からんが、きっとそういうもののはずだ。
ドラマとか、よくそういう感じになる。
なら、幹夫だってそう感じても不思議なことは無い。
「だから、幹夫、心配すんな!お前だって林が嫌いなわけじゃないだろ?好きだろ?」
「い、いや好きかは分からないけど・・・嫌いじゃない、絶対。」
「な?だから、もう一度後で考えてみな。俺の意見はまぁ参考くらいにしてくれよ。漫画やドラマ情報だからな・・・。」
「う、うん。」
幹夫は俺の勢いに押し切られ、頷いた。
「・・・うん、うん。でも、ありがとう信くん。僕、もう一度考えてみることに、するよ。このままじゃ、いけないと思うし。」
「おう、その意気だ。」
俺は幹夫の感謝を素直に受け取って、背中を叩いて宿に送り出した。
これで、幹夫が先に進むと思う。
まぁ、たぶん、自分の力でも進んだとは思うが、こういう手助けは必要だし、幹夫が相談してきたなら全力で答えなきゃな。
幹夫は頭を下げて手を振って、宿に向かっていった。
俺はそのまま岩に座り、夕飯まで休むことにすると、光が歩いて来るのを見つけた。
幹夫と入れ違いで入ってきたみたいだ。
「よ!ノブ!お疲れ様っ!」
「あら?お疲れ様?」
「そうよ、アンタ幹夫の相談に乗ってあげてたじゃない。しかもわりかしあつ~く、真面目にさ。」
ニヤニヤしながら俺にそう言って、光は隣に腰かけた。
なんだ、聞かれていたのか恥ずかしいもんだ。
「なんだお前、聞いてたのか。まさか相談の内容も聞いたんじゃないだろうな?」
「スキルを使っても聞こえなかったわよ。それに、さっすがの私も、こういう時くらい遠慮だってするわ。」
「ほー、光が遠慮ねぇ・・・。」
「なによ、失礼ね。」
そう言って光は俺を小突き、そして体を傾け、俺の肩に頭をこつんと預けた。
急にらしくないことをされて、心臓が跳ね上がった。
しかもなんだか、太陽にさらされた花みたいな良い匂いがする。
なるほど、晴花も焦るわけだ。
「・・・なんだ、らしくないな。光も相談か?」
「・・・んなわけないじゃない。相談があってもノブにはしないわよ。」
「ひどいもんだ。じゃ、どうしたんだよ。」
「どうもしないわ。ただ、こうしたかっただけ。気にしないで。」
そう言って光は黙りこくる。
「そうか。」
俺も自然と無言になって、そのまま2人で湖を眺めていた。
俺は幹夫に偉そうに恋愛について説教をした。
だが、俺自身はどうなんだ?
もたれかかる光を傍に感じながら、俺も自分を見つめ直さなきゃいけないことを悟った。




