第12話 『異世界を見つめ直す時間』
俺たちはオリジナに戻り、また宿屋「オリバー」のお世話になることにした。
そして、しばらくはオリジナに滞在して、情報収集をすることにした。
今思えば、1週間の間、案内人達の説明だけを聞いてなんとなく納得して、なんとなく過ごしてきたのは不思議な事だった。
基本的なことは分かるがこの世界の慣習や近況などは全く理解できていない。
元の世界では放っておいてもテレビやパソコンの電源を入れれば情報が大量に入ってきていたせいで、そういう努力を怠っていた。
まず、急務だったのが、この世界と元の世界の時間差についての仮面の男の言ったことの真偽確認だ。
もしあの男の言ったことが嘘だったり、あの男も知らないようなことだったら笑い話にもならない。
時間の流れとやらが変わって、こっちで10日過ごしたら元の世界では10年経ってました(笑)、なんて悲惨すぎる。
そのため、実験をした。
まず、1日この異世界に滞在して、元の世界に戻る。
そして元の世界での時間を腕時計で確認し、すぐにまた異世界へと入る。
異世界は7月27日PM 4:32、元の世界は7月19日 PM 6:21。
今度は異世界での滞在時間を1日半に伸ばし、同じように計る。
異世界は7月29日AM 4:32、元の世界は7月19日 PM 6:21。
これを滞在時間を最長1週間に延ばしたり、元の世界に長く滞在(1週間経つと家に帰らなきゃいけないので最長2日だったが)したり、時にはこの異世界と元の世界で2つのグループに分けて行き来したりした。
結果的に、仮面の男の言うことは確かだった。
どちらかの世界で過ごせば、もう片方の世界の時間は止まっている。
元の世界で俺と力雅と幹夫で1日過ごし、神殿の前で待つ光と晴花と林の元に帰ると、光達からは洞窟に入ってすぐに出てきたように見えたらしい。
そして、体の状態や持ち物についても同じだった。
この異世界はこの世界の洋服に着替え、元の世界ではハイキング服に着替え往復すると、やはり衣服がコロコロ変化する。
洞窟の中でも何が起こっているのか分からない、瞬きすれば服が入れ替わっている。
神殿前で少し切っておいた手の傷も、伸ばした薄い髭も、元の世界では跡形もなく消えていた。
この実験を終えて、仮面の男の話が事実だと結論付けた時、この異世界で俺たちは3週間の時を過ごしていた。
ただ毎日実験をしていたのではなく、もちろん討伐依頼を受け、自由時間には様々な店で情報を集めたりして日々を有効活用していた。
討伐では初級モンスターをある程度狩り尽くしたため、初~中級モンスターと呼ばれているモンスターにも手を伸ばし始めた。
ちなみにモンスターの討伐目安にはレベル分けがあるそうだ。
これはかなり有用な情報で、もっと早く教えて欲しかった。
なんでも個体ごとに強さが大きく異なる種もあるために、今までの依頼受注者数を表記しているらしいが、既知のモンスターは大体がおおざっぱにレベル分けされているようだ。
レベル1:初級 「ゴブリン」「ジャイアントラット」「ウッドベビー」
レベル2:初級~中級「土人間」「マッドコボルト」「山賊」「死霊剣士」
レベル3:中級 「肉食大花」「ミニゴーレム」「鉄壁の目」
レベル4:中級~上級「アルターホムンクルス」「ハングデーモン」「鬼亀」
レベル5:上級 「パピルスの心臓」「死霊騎士長」「鬼」
レベル6:超上級 「スライム」「死生の天魔」「クロリ・ゴーレム」
レベル7:特級 「パルロの原罪」「カウント・ゼロ(魔王軍幹部)」
レベル8:不明 「魔王」「真紅の口紅(魔王の奥さん)」
と代表的なモンスターをレベル分けするとこんな感じらしい。
後半のモンスターなんて名前を聞くだけでおぞましいし、レベル2の山賊なんて武装した人間集団だったが、敵対行動をしてるのでモンスター扱いとは中々支援協会も残酷だ。
依頼板もまだまだ左端には程遠いが、それでもレベル2~3くらいの真ん中近くまでの依頼ならなんとかこなせるようにはなってきた。
しかし、レベル2~3モンスターでもかなり強い。
この街に舞い込む依頼の最高位モンスターはレベル4らしいが、それを想像したくない程、最初はレベル2~3モンスターで精一杯だった。
一番強かったのが、レベル1「大蟻」狩り中に乱入してきたレベル3「女王大蟻」だった。
何せただでさえデカい蟻の見た目が気持ち悪いのに女王なんかもっと気持ち悪くて女子陣のやる気が削がれるわ、力が意外に強くて素早いわ、吐いてくる酸がすごい威力だわで大変だった。
こうやって簡素に表現すると難しくなさそうだが、一緒に依頼を受けた新人冒険者チーム「正義の粉砕」は、俺たちの静止を聞かずにチーム全員で女王に特攻をかまし、吹きかけられた酸で瞬時に全員のプロテクトが解け、2人がドロドロに溶かされた。
残った「正義の粉砕」メンバーを救出し、林に手当をさせながら俺たちは女王の討伐を始めた。
厄介な酸は、晴花の「メラメラショット」で酸を出すケツの機関を草ごと燃やし尽くして潰す。
その後、俺と力雅で足を全てへしおり、幹夫が隠形を使って背中の羽を斬りちぎる。
そして、光が毒矢で目を射抜いて視力を奪った上で、俺の拳撃鎚に晴花の火炎魔法をまとわせて女王の口の中に炸裂させ、林の強化魔法を女王の口の中の火炎魔法にかけて、体の中から燃やし尽くして討伐。
簡単に言うとこんな感じで、苦労しながら討伐したのだ。
しかし、俺たちのように毎日依頼を、それも討伐依頼ばかりを受けてる冒険者はそうそういないらしく、俺たち「フレイムズ」はフォーリルということ、メンバーが揃いも揃っておかしな奴ばかりということも相まって、オリジナの冒険者の間で(変わり者集団として)有名なパーティーになった。
少し不服だが・・・。
俺は変人じゃないだろどう考えても。
この間に元々のスキル磨きと、さらなるスキル習得で俺たちは各々を強化した。
力雅は技術と力を上げ、スキルも一撃一撃に力を込める剣士スキルを中心に会得し、派生職「侍」に近いスキル習得が出来るようになった。
特に、空気を魔力をのせた刃で斬りつけ斬撃を飛ばす「飛翔剣」は、飛空してても当てられるので、他の斬撃スキルに持って行き易いらしく、とても使い勝手がいい。
あと力雅なのにカッコいい。
幹夫は隠密のために技術と素早さに磨きをかけ、暗殺技を中心に、派生職「暗殺者」系のスキル習得を行った。
既に「暗殺者」ファミリーにも加入し、隠形をかけられると肩を叩かれるまで気付かないくらい磨きがかかった。
そして、手にした暗殺技は初撃から防御まで幅広く使えるモノが多く、このパーティーの裏の立役者は確実に幹夫といえるだろう。
光はゴブリンの鉈攻撃を見て以来、近接武器を剣鉈に変え、全ての距離に対応したオールラウンダーの道を目指した。
結果としては大成功で、近接も幹夫に引けを取らないくらいまで腕を磨き上げ、弓矢もかなり高精度のものとなった。
引き換えに魔法矢を強くする魔力が伸び悩んだが、林が魔法矢に相性のいい補助魔法を覚え、使いこなせたおかげで強力な魔法矢を放てるようになった。
その林だが回復魔法と補助魔法にとにかく力を注いだ。
派生職「聖職者」の回復スキルを順調に取得しながらも、異例の「吟遊詩人」の補助スキルも求め、その2つを完成させることが出来ている。
光との組み合わせがとてもよく、これは双子姉妹というのが大きく影響しているのだろう。
そして、ファンタジー小説を読んでいて、補助魔法の必要性を誰よりも知っている林は、進んでその道をとってくれた。
林がいなければ、不安で戦えないことだろう。
そして晴花。
はっきり言って規格外だった。
晴花は細かくて難しい魔法が苦手で、下手したらその手の魔法は林の方が使えるんじゃないか、というくらい技巧的な魔法は苦手だったが、雷をぶち当てたり、炎を噴出させるなど、単純な魔法はとてつもない威力を誇る。
晴花は派生職「魔導師」としては珍しい、単純魔法の使い手になったが、恐らくオリジナで5本の指に入るくらいの強さ、つまり魔力を持つ。
晴花が勝手に造り出した「サンダーミックスファイアー」は雷撃と火炎の渦が狙い撃ちをするように尋常じゃない速度で敵を襲う。
魔力調整が下手で、魔力不足に陥りやすい分威力は尋常じゃなく、「サンダーミックスファイアー」は体長4メートルのレベル3モンスター「キメラ」を一撃で跡形もなく消し飛ばした。
キメラとの戦闘で劣勢だった俺たちは、撤退を考えてただけあって、晴花の魔法がぶち当たって地面ごとキメラがえぐれた時のショックは大きかった。
最後に俺。
俺は派生職「狂戦士」の道を進んだ。
技術は捨て、力と素早さで相手に近付きひたすら肉体をぶつけ続けるようなスキルを習得し、戦士職のお姉さんとの約束を守るような戦い方をするようになった。
俺は単体から複数まで一気に相手取れるようになり、みんながスキル準備するまでに最も多く攻撃を入れ、体力を削り、モンスターの動きを封じることに専念した。
一応狂戦士スキルで斧も使えるようにはなったが基本的には腕にはめた拳撃鎚、足に履いた蹴飛脚で肉体戦闘をする。
日に日に力がドンドン上がり、時には晴花ほどとはいかないが、全力の一撃でモンスターを仕留められることもあった。
また、装備も初心者装備からそれぞれに合った武器に買い替え、立派な冒険者になった。
こうして6人6様に成長を果たし、俺たちは次なる街、「ネクスタ」に移動することを検討していた。
というのも集めた情報だと、どうやら俺たちの1つ前に神殿からやってきて、にこの世界に移住したフォーリルが「第2の街 ネクスタ」にいるらしい。
なら、一度会って情報を掴んでおきたい。
そのためにネクスタへ行くことを考えているのだ。
まぁそれ以外にも、少し自分たちのレベルをあげるために、新しい土地に行くのもありだな、という話になったのもある。
共有財産だけで金貨2枚、銀貨20枚と資金もある程度溜まり、余裕が出てきたのもあるし、この世界での醍醐味は冒険だ。
冒険者らしく冒険したいじゃないか。
しかもネクスタは「王都 ギブア」ともオリジナより近く、発展もしているらしい。
そう聞くと俺たちはうずうずと楽しみが止まらなくなる。
そして、今晩の集会で詳しいこれからの移動計画を決める。
俺たちは今日の報酬を受け取り本部を出た。
今日の敵はレベル3「影犬」。
確かに苦労したが、前ほど強敵には思えなかった。
このままマンネリ化するくらいなら、いっそ新たな土地に移った方がいいな。
夕飯はオリバーの食堂で食べることにし、それまでは自由時間にして解散した。
この街もあわせて約1か月滞在して、1人出歩いても危険な街ではない事が分かった。
女子陣も自分の身は自分で守れるどころか、うっかりしたら返り討ちじゃすまないくらいまで強くなったので、男女2人ペアだけで行動することは少なくなった。
するとなんだか少し寂しくなり、光と一緒にいたことを楽しんでいたことに気付く。
思えば、光はいつも俺の傍にいて、支えてくれた。
なのに俺はそれに報いずに危ない事ばかりして、心配させてしまっていた。
今度、謝罪と感謝の印として何かおごってやるか。
そんな風に考えて、強く風の吹くオリジナ西地区の森林公園を歩いていると、力雅が晴花に押し倒され、抱き合っているところを、目撃した。




