第1話 『大発見』
「ねぇねぇ!超すごいもの見つけちゃったんだぁ!放課後にみんなで見に行こうよ!」
けたたましい足音と共に教室のドアが弾け飛ぶような勢いで開き放たれる。
時は昼食後の昼休み。
昼のまどろみを感じながら、のどかに世間話をしていた俺たちの所へ、その少女、浪井 晴花は突撃するように走って来て、そう叫ぶ。
晴花の顔はその名前の通り、晴れやかに咲く花の如き笑顔だ。
どうせこいつの見つけるものなんて大層なものじゃない。
この前も
「すごいもの!すごいものがあったよ!」
と言ってきたわりに、見に行ってそこにあったのは大きな岩の塊だった。
晴花が言うには、宇宙からの渡来物らしい。
「ねぇ!見て!小さな文字が書いてあるよ!日本語じゃないみたいだけど何の文字だろ?」
俺たちには単なるヒビにしか見えなかった・・・。
さらにその前なんか
「ここは・・・!超パワーを持つ宝石があるに違いない!」
とか言って石ころ(宝石)探しに3時間もつき合わされた。
晴花は6個透き通った石を拾ってご満悦だったが・・・。
そんなものだから期待はしない。
その上、俺たちは5人は、晴花のこの『発見癖』に、小学生の頃から高校2年生の今に至るまで付き合わされているというのだから、どうしたものか。
「またか。どうせ下らないんだろ?晴花の見つけて来るもんなんて。しかもなんだか毎回場所も遠い!勘弁してくれ・・・。」
疲れた声でそう訴えるのは前折 力雅。
髪型はオールバックのトゲトゲヘアーで、耳にリングのピアスを着けている。
さらに袖まくりのシャツズボンからはみ出させてベルトはごつい、見た目だけは典型的な田舎のヤンキー。
しかし、その割にいつも晴花の発見報告に一番に突っ込む、律儀なツッコミ役だ。
見た目や言動が不良臭いだけで、中身は案外普通なんだよな、力雅。
小学校の頃からヤンキー風味出してたけど立派になりましたね・・・。
「晴花ちゃん、いつもどこでそういうの見つけて来るの・・・?」
「そういや晴花っていつもどこぶらついてんのか分かんないもんねぇ。私にもさっぱりだわ。」
この二人は流来姉妹。
その名字の通り双子の姉妹だが、二卵性双生児というやつか、顔は似てない。
まず、少し静かな方が姉の流来 林、長い黒髪がおしとやかな雰囲気を作り、喋る時は小さな声でもよく透き通る声だ。
淑女然とした見た目でよく本を読むため、これが文学少女というやつか。
しかし、外見に反して結構毒を吐くので、長く付き合わなければ冷たい女の子だと勘違いしてしまう。
そして晴花ほどとはいかないが、明らかに内なるパワーをためてうずうずしてそうなのが妹の流来 光。
光はとにかくこういう事件ごとが大好きで、晴花の発見報告に俺たちの中で一番ウキウキして聞いてあげているが、流石に10年近く晴花の発見に付き合っていると少し飽きもきていそうなものだが、どうなのだろう。
少なくとも林の方はあまり乗り気じゃなさそうに見える。
まぁ昔からあまり動かない方だったから仕方ない。
「ま、まぁ今回は本当に大発見かもよ?晴花ちゃん、『超』ってつけてたもんね!」
こいつはミスターフォローの全野 幹夫。
このグループにしては珍しい、フォロー役を買って出てる。
幹夫がいなかったらこのグループはここまで続かなかっただろう(主に晴花のせいで)。
幹夫の優しい語り口と、身長は低いが眼鏡をかけた人懐っこい顔を見ると、なんだか晴花の言うことも信じられるように思えて来る。
いや、信じちゃだめだけど。
「そうだよ!超!超!すっごーいの!もうこれは見なきゃだめっしょ!決まりだね!」
「おいおい、まてまて!勝手に決めんなよ!まだ誰も行こうとは言ってないじゃねーか。」
「え!?行くでしょ!?!?」
「え、行くのかよ!?」
基本的に普段は晴花と力雅がこうやって漫才を披露する。
本人たちはどうとも感じてないのだろうが、夫婦漫才のようだ。
「信くんはっ、行きたいでしょ!?いっつも楽しそうだもんね!」
いや、全然楽しくないぞ。何言ってんだこいつ。
晴花が信くんと呼ぶデカい男こそ俺、先葉 信浩。
身長は普通よりはデカくて、案外走るのが速い、高速移動のウドの大木と呼ばれている。
俺たちは昔からこの6人で一緒に過ごし、遊んできた。
しかも、田舎だからそうそう離れる事もなく、この高校まで一緒にエスカレーターである。
そして、俺たちは、晴花の『大発見』の同行者様一同でもあった。
何故だか、毎回晴花に押し切られ、みんなで見に行ってしまっているため、そんなことになってしまっている。
「俺は別に見たくないぞ。」
そう言うと晴花は何とも舐め腐った顔で
「こぅの、お子ちゃまがぁ!!」
なんて言ってきた。
お子ちゃまはどう考えてもお前だろ。
舐めた顔をしたまま今度は頬を膨らませピーピー言い始めた晴花を見かねたのか、幹夫がやはりフォローに入る。
「でも、午後僕は何もないし、みんなも暇なら、晴花ちゃんに付き合ってあげない・・・?」
いつものパターンに入った。
次は光が、
「そうね。どうせノブ、あんたも暇なんだし、晴花の冒険に付き合ってやろうじゃない。どうせ何もない時は家でパソコンしかやってないんでしょ?」
ほれ、これよ。
俺と林、晴花以外は部活に入っていて、余った帰宅部3人の中で一番自堕落な生活を送っていた俺がいつもこうなる。
だって、田舎だし。
もう回るとこ回って暇だから、ネットやるしかないじゃん。
見ると力雅は晴花に猛烈な口撃を受け、観念している。
そして、俺の方を見て笑う光を見た後、天井を仰いでため息を漏らした。
こうして晴花の『大発見』に今日も「暇だから。」ということで、また行くことになった。
毎回反対するやつはいるのに、結局見に行くことになる。
晴花の『大発見』は謎の魅力を秘めているのか、それとも晴花が人を惹きつけるのか。
いずれにせよ、面倒ではあるが、嫌ではないのが不思議だ。
まぁ、みんな大して期待してなかった。
そりゃそうだ。
いつも、晴花はそこに行くまで何を見つけたのか教えてくれない。
だから俺もこれっぽちの期待もしてなかったし、いつも晴花に集中砲火される表情げっそりの力雅にも悪いとは思う。
それでもね、晴花は嬉しそうだし、なんだかんだ言ってみんなも楽しそう?だしね。勘弁して。
晴花が連れていくのは毎回、山だったり海だったり、川でもいい。
とにかく探検みたいなのだ。
しかし、小・中学生の頃はまだ楽しかったが、それも高校になれば変わってくる。
何せ十何年もその土地にいて、毎日探検でもしていれば大体のところは知っている。
そして今回、晴花が連れて行ってくれたのは、高校からそう遠くない30分くらいのところにある小さな山の中だ。
ここは小学6年生の頃洞窟を見つけ、試しに入ってみたら暗すぎて怖くてみんなで逃げ帰ったところでもある。
そしてその洞窟の前で晴花は止まった。
「こっこでーす!みなさん!到着しました!」
「ここって・・・。」
幹夫が苦笑いしながらそう呟く。
そう、みんなも覚えているのだ。
「ここって前に来たことあるわよね?」
「うん、確か小学6年生だった気がする。力雅君が泣きながら駆けだしたのを、覚えてる。」
「え、んなことあったっけか。」
「確かに力雅、母ちゃんに泣きつこうとしてたな。」
「え!?嘘つくなよ!?」
ポツポツと蘇る力雅の恥ずかしい過去の話は、晴花の「今日の探検!」宣言で遮られた。
「はいはい!みなさん!お静かに!今日はこの洞窟を、みんなで進みます!」
なんだ。
晴花はその頃の再チャレンジでもしようというのか。
それなら無理だ。
何せこの洞窟は・・・
「え、でも晴花ちゃん。この洞窟真っ暗だったよね?明かり持ってきてないから、すぐに見えなくなっちゃうかも。」
そう幹夫の言う通りこの洞窟は暗い。ものすごく、暗い。
入れば急に光がさえぎられる。
思い出すと小6の俺たちは懐中電灯を手にに突撃して数メートルで敗北したのに、今の装備で大丈夫か?大丈夫じゃないだろ、これ。
しかし晴花は、晴れた顔でこう言った。
「だいじょーぶ!なんと洞窟はそんなに暗くないのです!という訳で晴花についてきて!みんな!」
こうしてズンズン進んでいってしまった晴花に、俺たちもついていくしかない。
皆で不安げに顔を合わせながら、急いで後をついていった。
そして異変を知る。
「あれ?この洞窟、なんで周りが見えるんだ・・・?」
「確かに暗いのにノブの姿もはっきり見えるわね。」
「一体どうなってんだこりゃ・・・。」
「びっくりしすぎて言葉が、でない。」
「いや、出てるよ林ちゃん・・・。」
「すごいでしょ?ね!だからだいじょーぶ!なんだぁ!」
確かにすごい。すごい気味が悪い。
だっておかしいだろ、これは。
このおかしな現象を見せたかったのか?晴花は。
だったら今回のは大発見だ。
もしかしたら専門家でも派遣されるくらいの謎かもしれない。
しかし晴花は続ける。
「でね、これはね『すごい』ことなの!晴花が見せたいのは、『超すごい』ことなの!みんな、このまま前に進んでみて、見て!」
次第に闇が薄れ光がもれてくる。おかしい。
いくら小さいと言っても、この山はこんなすぐに貫通できるほど小さくはない。
そして足元には大理石のような白いタイルが現れ始めた。
どう見ても自然に出来たものではない。
何かが、俺たちの世界とはずれている気がする。
その中で、俺たちは戸惑いながらも、昔の期待を思い出していた。
未知の世界を自分たちで切り開いてく、そんな感覚を。
晴花が先導するまでもなく、自然と足は動いていた。
そして、そこに着いて俺たちは初めて知ることになる。
今回の晴花の『大発見』、『超』すごいもの。
そんな言葉じゃ表せないほど、『超』すごいものだった。