サクヤ姫、灰の言葉に唖然とす
◇◇◇◇◇
王城、とある一室。そこではサクヤ姫とグレイが向き合っていた。それは丁度、アリスが死んでいる時でもある。
いや、生き返った。
やっぱり死んだ。
「世界会議も残すところ2ヶ月……感慨深いな。私としては2回目だ。あの中では最年少だろうから、正直なところ緊張もする。そこでーーグレイよ、貴様の話を、もう一度頼む」
「黒の戦士が迷宮の最上階に閉じこもった。奴の言伝を預かっている。〝3ヶ月を俺にくれ〟だそうだ」
「3ヶ月……世界会議は2ヶ月後だというのにか? 冗談ではないぞ。確かに、世界会議へ戦士を連れてこいなどという決まりはない。ないがしかし、そこは暗黙の了解だ!」
「落ち着け」
「これが落ち着いていられ……いられ……うん、分かった落ち着く」
吸ってー……吐いてー……深呼吸。
グレイの言う通り落ち着きはした。けれど、それで今さら現実が変わる事はない。
黒の戦士が不在という事実に、サクヤ姫は頭を抱えたい気分であった。胃が痛い。
「うぅ、憂鬱だなぁ。絶対に小言を言われるぞ。白の国あたりから特になぁ……」
「すまない」
「いや……よい。ある程度の我儘なら通せと、お前に命じたのはこの私だ。ただ、此度の黒の戦士がちょっとばかし欲張りだったに過ぎん」
良い馬ほど難しいとは、先人の言葉だ。サクヤ姫は儀式の時に黒の戦士アリスの性格を瞬時に把握し、グレイに任せた。
「しかし誰が予測できる? 迷宮に立て篭もろうなどと……」
「……」
「途中で帰ってくると思うか?」
「それだけはあり得ない。途中で帰るという発想すら、あいつはしないだろう。奴はそういう男だ」
「無事だろうか?」
「知らん。だが、死んだらそこまでだ。所詮その程度だったという事」
「はぁー……仕方ない」
この時のサクヤ姫には、なんとかなるだろうという、一国を纏める者としては甘い考えがあった。
けれども、あの意気揚々、傲岸不遜な黒の戦士から溢れる自信満々な態度は、不思議と信頼が出来た。
よって、我儘を認める事にした。
「奴も2ヶ月先を知っての言葉だろう。なら3ヶ月は暖かに見守るとしよう。世界会議はグレイ、お前が代わりについてこい」
「カレハナではダメか」
「貴様……それは酷だろう」
「さあ、どうだかな」