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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
序章 黒の戦士
8/70

平等宣言 イコールコール

◇◇◇◇◇


 黒の戦士アリスが、あの日水晶に触れて手に入れた力は、説明が難しい。だから一言で簡潔に示すのならこれだろう。


 「模倣」


 相手の能力をそのまま模倣する事ができる力。つまりは真似事。それ以上でも、それ以下でもなく、その真価は使い手によって激しく上下するだろう。


 模倣する相手は、それを頼りに何日も何日も、何年も何年も鍛え上げてきたはずなのに、こちらがそれを上回る事が出来るとは到底思えない。使うと、使いこなすとはでは全く意味が違うのだから。仮に相手と同じ熟練度だったとして、同じーーでは意味がないのだ。勝たなければ、それは同じ事なのだ。


 さて、それを踏まえて、当の本人アリスはこう思った。


 ーー問題ないな


 自分自信に並々ならぬ自信がある彼は、その点においてチリほども心配をしていなかった。


 だが、唯一懸念すべきはそもそものスペック。日本生まれのアリスは、真剣に体を鍛えていなかった。いや、体というより……心。強さを求めていなかったアリスは、精々が己のプライドを傷つけぬ為くらいにしか身体的な努力をしていなかった。


 すると、どうだろう。いざ命懸けの戦いとなった場合、体は動かない。目は瞑る。心はハリボテの三拍子。そんな風にアリスは未来を予想した。


 圧倒的に戦闘経験が足りない。天才を自負するからこそ認めなければならない自分の弱さを、いつもはウザったいアリスだったが、そういう客観的事実だけは把握した。


〜〜〜〜〜

 

 そして彼は本の中に見つけた。運命的な出会いと言っても過言ではない、不死の力を持つ化け物の存在を知った。これが1つ目の奇跡。


 不死の能力を模倣して、不死になる。悪魔的発想によって繰り返される、無限の死線。


 アリスが自分に課せた時間は3ヶ月間。その序盤で、まず最初に身につけるべきと考えたのはーー怖がらない事。死を目の前にして怯えない精神こそ必要だと、確信した。



「まだーー」

「グルルゥ!」

「おいーー」

「ルァア!」

「ちょ待っーー」



 ……まあ、そこは習得した。その一撃で自らが死んでしまう攻撃を目の前にして、自然体で居られる事は身についた。


 問題はそこから。


 アリスの誤算は、デスオーバーの身体能力。不死という言葉に惑わされ、敵が圧倒的な筋力から脚力を持っている事を見逃していた。


 結果は散々。目で追っても、体が追いつかない。喋り終える暇もなく、1つ……また1つと命を散らしていく。



 ……誤算、といえば、デスオーバーにも誤算はあった。やっと現れた好敵手ーーまさか、こんなに弱いとは。



「ーーん?」


 遂に。その時が来てしまう。


 上げて落とされたデスオーバーの心は、既にアリスの関心も失せた。だから……寝転がった。アリスを目の前にして、寝転がったのだ。言わずとも意味は分かる。


 敵から、その辺の空気への格落ち。アリスのプライドが弾けた。



「この俺をぉ……虚仮にしているなっ!」



 怒り任せの攻撃は、しかし、デスオーバーのハエを落とすような仕草で遮られる。何度も何度も、殺されて殺されて、無謀とさえ言えるアリスの行動ーーここで、本日2度目の奇跡が起こり始めた。



 アリスはデスオーバーを模倣した時に気付いたが、不死という力は、体の「時」を巻き戻してそう見えていただけ。死なないというより、死んで生き戻る。


 そこで自称天才は、デスオーバーの力のオリジナルを編み出す事を無意識に決めた。もちろん、複雑怪奇な時間遡行の能力が、一朝一夕で操ることもできず……どうなったかというと。



 「不完全な再生」



 本来なら、傷のつく前の元の体に戻るはずだが、変に手を加えてしまったことによって、その過程にダンジョン内に満たされる不純物が混じる。



 ーー魔素。



 魔法を行う際に必要な、空気に混じる成分を、アリスは死ぬ度に己の体へ取り込んでいた。

 地球人なら生涯関わるはずのなかった「魔素」と、生物なら誰もが持つ「生きようとする力」が、ここで史上初の化学反応を見せる。魔力ゼロだったアリスの体は今や、魔素も魔力も生み出し始めたのだ。


 死んで、死んで、死んで、相乗的に増える体内の「魔」。天才を語るだけあって、アリスも自分の体の異変に気付き、不敵な笑みを浮かべる。


 遅れながらデスオーバーも気付いた。アリスの一撃がーーなんだか、重くなってきてると。


「はっーー!」


 魔力を操り、身体能力を向上させての攻撃(けり)は、すっかり油断をしていたデスオーバーの腹にめり込む。悲鳴をあげながら、ゆうに10メートルは吹き飛びながら、最後は着地。

 顔を上げたデスオーバーの表情は、最初に見せた獰猛さを再び露わにしていた。



「さっきは、正直すまなかった。退屈させてしまったみたいだな。だがもうーー」


 戦闘の真っ最中、突然のアリスの謝罪だったが、途中でデスオーバーが突撃を仕掛けーーしかし今度はかわされる。すかさず繰り出した二撃目も、辛うじてだったが防がれる。


 先ほどとは打って変わっての違いに、デスオーバーは歓喜の叫びを上げた。



「気をつけろよ。這い寄っているぞ足元に」


 ーーこうして、死なない殺し合いの、第二幕が幕を開いたわけだが、奇跡はまだ終わっていない。


 アリスの不完全な力の行使は、空間にも適用されていた。体にだけ限定されていた「時」が、その周りにまで影響を及ぼしていたのだ。


 よって、訂正しよう。世間では3カ月でも、ここは時の流れが狂い始めている。正しく表すのならば1年。それが、アリスとデスオーバーの殺し合い期間である。まあ、3ヶ月経てば迎えが来るだろうと考えている彼には、関係のない事だったが。

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