喧嘩は、同レベルの者としか起こらない
◇◇◇◇◇
聡い妹は理解した。シンデレラが妹の手を止めた訳を。
つまり……
もう、時間切れだという事を。
俺は銀子と一緒に地割れから這い出ると、念の為確認したが。やはり、ウサギが抱えた砂時計の砂は、全部底に落ちていた。
俺と銀子の手は、繋がっている。
「私の負け、ですかね」
負けた、と自分で言うわりには、やけに晴れ晴れとした顔だった。
「……いや、もしも時間制限がなかったら、お前が勝っていたかもしれない」
「そんな事言って、兄さんの事だから、やろうと思えば防ぐ手立てはたくさんあったはずですよね」
「実戦形式だった場合は」
「もしもこれが実戦だったら、私はとっくに死んでますよ。無駄です兄さん。私の負けは揺るぎません」
「……そうは言うけどな」
これを言うのは、銀子の兄としてどうしても避けたかったのだが。ただ1人の家族に見栄を張りたかったのだが。
「最後俺は、負けた、と思ってしまったんだ。本当だぞ」
「そう……ですか」
これで納得したか、と思いきや。俺に見えるギリギリの角度で銀子は微笑んだ。
「頑固者」
そう、責めるように言って。
「分かりました分かりました。なら引き分けです。そういう事にしてやります」
「引き分けか」
「はい……引き分けです」
「……ま、次は俺の圧勝だがな!」
「今の内に言っててください。私が力を使えば兄さんなんて赤子当然です」
「大きく出たな」
「貴方の妹ですから」
「……そうだな」
改めて向き合う。俺の記憶の銀子は、とても小さかったはずなのに。
今では俺の胸元くらいある。いつの間にか、顔も大人びていた。
そうだよな。いつまでも、銀子は幼い少女じゃないんだ。
「……大きくなったな」
「成長しましたから」
「……強くなっていたな」
「努力しましたから」
「……おっぱいもこんなに大きくなって」
「もがれたいんです?」
何を。とは聞けない。
恐ろしくえげつない妹だった。
決闘という名の兄妹喧嘩も終わり、サクヤ達がこちらへ向かってくる。手を振ってきたので、振り返そうとして……俺は自分の左手がズタボロな事に今更気がついた。更に右手は、銀子と繋がったままだ。物理的な意味で。
「しかし、本当に……自分の左手ごと突き刺すなんて驚いたぞ。待ってろ今取るから、痛いかもしれないが我慢しろよ」
「ああいえ、やめてください。痕が残ったらどうするんです。これは専門の人に任せて、今はそっとしておきましょう」
俺はあらゆる道においてプロフェッショナルなのだが……
「なら、このままか」
「はい……今だけは」
今だけは。しばらく、ほんのちょっと猟奇的な意味で妹と繋がった。
……俺1人手を伸ばしたところで、多分届かなかった。でも、今こうして思えば、銀子はずっとこちらに手を伸ばしていたのだ。
自分がどれだけ、本当の意味で銀子を見ようとしていなかったのかがよく分かる。大事だ大切だと下に見て、ずっと逃げていた。だから嫌われていたと勘違いしていた。銀子が嫌いなのは、自分自身だったというのに。俺はそんな事も分かってやれなかった。
何も自分が全て悪いだなんて思っちゃいない。それこそ銀子は望まないだろう。
兄が妹を守ろうとするのは当然で、俺はそこを変えるつもりはないけれど、銀子がそれを嫌だというのなら、俺を超えればいいだけなんだから。
簡単な話だ。
端から見れば、俺たちは何も変わってないと思う奴もいるかもしれない。まあ、そうなのかもしれない。
ただ、俺がはっきりと言える事は……これから、兄妹喧嘩が多くなるんだろうなぁと。それだけだ。




