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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
70/70

喧嘩は、同レベルの者としか起こらない

◇◇◇◇◇


 聡い妹は理解した。シンデレラが妹の手を止めた訳を。


 つまり……


 もう、時間切れだという事を。


 俺は銀子と一緒に地割れから這い出ると、念の為確認したが。やはり、ウサギが抱えた砂時計の砂は、全部底に落ちていた。


 俺と銀子の手は、繋がっている。


「私の負け、ですかね」


 負けた、と自分で言うわりには、やけに晴れ晴れとした顔だった。


「……いや、もしも時間制限がなかったら、お前が勝っていたかもしれない」

「そんな事言って、兄さんの事だから、やろうと思えば防ぐ手立てはたくさんあったはずですよね」

「実戦形式だった場合は」

「もしもこれが実戦だったら、私はとっくに死んでますよ。無駄です兄さん。私の負けは揺るぎません」

「……そうは言うけどな」


 これを言うのは、銀子の兄としてどうしても避けたかったのだが。ただ1人の家族に見栄を張りたかったのだが。


「最後俺は、負けた、と思ってしまったんだ。本当だぞ」

「そう……ですか」


 これで納得したか、と思いきや。俺に見えるギリギリの角度で銀子は微笑んだ。


「頑固者」


 そう、責めるように言って。


「分かりました分かりました。なら引き分けです。そういう事にしてやります」

「引き分けか」

「はい……引き分けです」

「……ま、次は俺の圧勝だがな!」

「今の内に言っててください。私が力を使えば兄さんなんて赤子当然です」

「大きく出たな」

「貴方の妹ですから」

「……そうだな」


 改めて向き合う。俺の記憶の銀子は、とても小さかったはずなのに。


 今では俺の胸元くらいある。いつの間にか、顔も大人びていた。


 そうだよな。いつまでも、銀子は幼い少女じゃないんだ。


「……大きくなったな」

「成長しましたから」

「……強くなっていたな」

「努力しましたから」

「……おっぱいもこんなに大きくなって」

「もがれたいんです?」


 何を。とは聞けない。


 恐ろしくえげつない妹だった。


 決闘という名の兄妹喧嘩も終わり、サクヤ達がこちらへ向かってくる。手を振ってきたので、振り返そうとして……俺は自分の左手がズタボロな事に今更気がついた。更に右手は、銀子と繋がったままだ。物理的な意味で。


「しかし、本当に……自分の左手ごと突き刺すなんて驚いたぞ。待ってろ今取るから、痛いかもしれないが我慢しろよ」

「ああいえ、やめてください。痕が残ったらどうするんです。これは専門の人に任せて、今はそっとしておきましょう」


 俺はあらゆる道においてプロフェッショナルなのだが……


「なら、このままか」

「はい……今だけは」


 今だけは。しばらく、ほんのちょっと猟奇的な意味で妹と繋がった。


 ……俺1人手を伸ばしたところで、多分届かなかった。でも、今こうして思えば、銀子はずっとこちらに手を伸ばしていたのだ。


 自分がどれだけ、本当の意味で銀子を見ようとしていなかったのかがよく分かる。大事だ大切だと下に見て、ずっと逃げていた。だから嫌われていたと勘違いしていた。銀子が嫌いなのは、自分自身だったというのに。俺はそんな事も分かってやれなかった。


 何も自分が全て悪いだなんて思っちゃいない。それこそ銀子は望まないだろう。


 兄が妹を守ろうとするのは当然で、俺はそこを変えるつもりはないけれど、銀子がそれを嫌だというのなら、俺を超えればいいだけなんだから。


 簡単な話だ。


 端から見れば、俺たちは何も変わってないと思う奴もいるかもしれない。まあ、そうなのかもしれない。


 ただ、俺がはっきりと言える事は……これから、兄妹喧嘩が多くなるんだろうなぁと。それだけだ。

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