紅塗れた 死を乗り越えし者
◇◇◇◇◇
不死迷宮の最上階、六百メートル四方の部屋。不死身のボス、デスオーバーは自分の役割を果たす。
ーーすなわち、侵入者の死。
今日もまた、愚か者を1人始末した時だった。右手を振るい、血を落としていたその時、ジャリっと後ろから音がした。
ソレ、を見た時のデスオーバーの反応は形容しがたい。そもそも魔物という存在である為、表情を持っているのかどうかすら不明だが……動きは確実に止めた。目も見開いていたかもしれない。
そして……口角を上げた。鋭い牙が、隠されもせず空気に触れる。
「嬉しいかデスオーバー? 喜べ。お前の好敵手が現れたぞ」
その男の言葉を最後まで聞かずに、デスオーバーは綺麗な右手で相手の腹を貫く。
同じだ。今まで同様、脆い体はワインもどきや、ソーセージもどきをぶち撒け、呆気なく死ぬーー
「うぉぉお!」
「グッ……ルゥ!?」
死ぬ、はずなのに。その男は死なない。既に体は五体満足。男にとって全力のパンチが、見事デスオーバーにぶつけられた。
混乱。ダメージはゼロで、決して重いパンチとも言えないが、予想だにしない出来事に、思わずデスオーバーは戸惑った。その戸惑いを消したのは、あろう事か張本人。
「おいおい、もう終わりかよ。デスオーバーとは名ばかりか?」
言葉を理解しないデスオーバーだったが、それでも、意味は通じた。
ーー嘗められている。
それが分かれば十分だ。デスオーバーは怒りの咆哮をあげて、完全な戦闘態勢に入った。目の前の愚か者ーーいや、好敵手を叩きのめす為に。
「そう、それでいいんだ……さあ、殺し合おうぜデスオーバー! 俺とお前、どちらか死んだらお終いだ!」
こうして両者、およそ3ヶ月間、死なない殺し合いの幕が開けた。