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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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妹の慟哭

◇◇◇◇◇


「どうして私は兄さんの妹なんですか?」


 ああ、止まらない。

 分かっていても口が勝手に動く。

 バカ。私のバカ。

 弱い私がいけないのに。


「せめて、せめて双子なら、せめて幼馴染なら、隣に立てたかもしれないのにっ」


 無茶苦茶な事を言っているのは分かっているけれど。


 ……意外とスッキリしてきた。


 口に出す事は、やっぱり大事らしい。


「妹は、ずっと、兄に守られて生きなければならないんですか? 」

「…….」


 兄さんは何も言わなかった。


 私はいつも支え合いたいと思っていたのに……いつも私を守ってきた兄さん。下から見上げるばかりで、貴方の顔がよく見えない。


 守られてばかりは嫌だった。私が姉だったら、まだ良かったのかもしれない。貴方は上から見下ろすばかりで、私の顔が見えていましたか?


 ずっと対等に見られてきた事なんてなかった。常に私は、貴方の庇護対象。


 私が弱いから。


 貴方と違って優秀じゃないから。


 だから悪いのは私かもしれないけれど。でも、やっぱり嫌なものは嫌。


 全部を貴方に背負わせて、私までおぶってもらって、無茶させて、のうのうと生きるだなんて私には出来ない。


 だけど、今日だって勝つどころか、また貴方に守られてしまった……私って一体何ですか。


 認めさせたかっただけなのに。私はもう1人で大丈夫だよって。本当の、意味で…………褒めてもらいたかった…………だけなのに…………


 

「……そうか」


 兄は結局、そう切り出した。


「謝らないぞ、俺は」


 全てを理解した上で、その言葉を選んだのだろう。


 貴方を見ると、しっかり剣を握っている。私の手を、握っている。


 その手にぐっと力を込められて、私は立ち上がった。兄さんが親指で示した砂時計。時間はいつも、待ってくれない。


「残り五分もない。全力を出せよ銀子。これは一種の戦争でもある。つまり、勝者こそ全てだ。わかるな。俺に認めて欲しければ、この手を離してみろ。俺は絶対に離さない。……もしも俺が間違っていたというのなら、結果で示せ」


 ……厳しい言葉。


 ひどく、安心した。兄さんがようやく私を見てくれた気がした。


「言われなくとも」


◇◇◇◇◇


 そう言うな否や、銀子はどこに隠していたのか、細い矢の様なものを俺の手の甲に突き刺してきた。


 もちろん避けようとしたが、それは右手である。半分の主導権は銀子にあった。


 結果的に銀子の、「確実にダメージを与えられるところへ与えよう不意打ち作戦」成功である。俺の右手と銀子の右手は、一本の棒に貫かれたのだった。


「ずるい!」

「勝てばいいんです勝てば!」


 自分の目を疑った。


 地面に散らばる折れた剣共が、一斉に宙に浮いた。そして、一斉に俺の体に突き刺さろうとしてくる。サボテンはごめんだ。


 それにしても遠慮がない。


 信頼されて辛い。


 と、冗談を言っている暇でもない。俺の右手は元から。そして左手もさっきの件で使い物にならなくなった。


 だからーー俺も天身剣を宙に浮かす。


「そうこなくては」


 先にこの技術を習得していた妹に驚きはない。使えて当然ってか。


 ……手を使って物を動かせるのなら、手を使わずとも物は動く。自然だ。行程を省いているだけで、練習すれば誰にでも出来る技術である。俺はこれを崩則と呼んだ。


 その技術をフルに活用してくる銀子。四方八方から攻めてくる剣を、俺は天身剣で防いでいた。


 もちろん、銀子自身の攻撃も防がなくてはならない。そんな無茶な動きをさせてしまったせいか、天身剣に、小さなヒビが入った事を俺は見逃さなかった。


 一瞬の逡巡。銀子が見逃すはずがない。隙をついて俺の右手を斬り落とそうとしてきた。右足の蹴りで防ぐ。


 すると向こうは体をその場で側転するように回転させてきた。俺は手を離せないから、向こうはそこをついてきたのだ。俺は必然、その回転に付き合わなければならない。


 回転によって宙に浮かんだ俺へ、折れた剣共がここぞとばかりに攻めてきた。


 俺はーー敢えて避けなかった。


 急所だけを避けて、全て受け止める。


「えっ!」


 俺が避けると、避けられると確信していた妹が驚きをあらわにした。そしてすぐ、苦い顔をする。


 もう、この折れた剣は使えないと判断したらしい。賢い。


「不思議に思っていた。幾らお前でも、この数は過ぎた技術だと」


 手を使わずに、といっても。それは難しい。何故なら物を動かす。これ一つでも計り知れない情報量があるからだ。


 本来何かを使って物を動かす。この何かがスーパーコンピュータだとしよう。


 俺と銀子は、そのスーパーコンピュータを使わずに、手を使って動かす同じ情報を頭で思い浮かべて実行する。


 親指にかける力、人指しにかける力、中指薬指小指、手のひら手首、腕の動き。どれか一つでも狂ってしまえば、対象物はピクリともしない。


 だというのに、折れた剣全てを銀子は動かしていた。何かカラクリがあると思っていたが、やはり剣そのものが普通ではない。


 この剣、面白い構造をしている。90パーセント以上が魔力で出来ているのだ。


 つまり、銀子は手を使わずに物を動かすサポートとしてこの魔力操作を利用した。どちらか片方でも欠けていれば意味を成さないシステム。


 流石だな銀子。


「まあ、その魔力も俺が上書きしてしまった今、意味ないけどな」


 自信満々に言ってやる。


 すると……


 銀子がフッと笑った。


 嫌な予感しかしなかった。


「はあっ!」


 あろう事か銀子は、力任せに地面を踏みつけた。さっきから激しい戦闘によって崩れかけていた地面が、遂に崩壊していく。


 もはや地割れだった。


 底の見えないそこに、俺と銀子は投げ出される。


 銀子は落ちようとする我が身を止めたりなんかしない。全て俺任せである。ちくしょう。


 ーー耐えてくれよ……!


 心の中で神頼み。危険な状態の天身剣を横の地面に刺して、腕を引っ掛けた。これで落ちる心配はない。


 だが……


 今まさに、銀子が今度こそ俺の右手を斬り落とそうとしてくる。


 ちょっと、シャレにならないくらい危ない。崩則をつかってその剣を止める。ここが踏ん張りどころだ。


 銀子の意思と、俺の矜持が拮抗して、何も斬れていないはずの剣からやかましい金属音が鳴り響いた。


 その時。


 遂に天身剣が折れた。


 いままで戦場を共にしてきた天身剣が、折れてしまった。半身を失ったようである。ショックが半端ではない。


 そして、抜け目なく俺の心の隙を狙った銀子が、崩則を打ち破った。


 剣は吸い込まれるように俺の右手に迫りーーあともうすこしという所で、遮るように()の盾が邪魔をした。

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