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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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絶対に諦めない。いつも隣に立つこと夢見てた、今貴方は、私の前にいる

◇◇◇◇◇


 銀の戦士の剣が折れる。今もまた、一本、また一本。


 一見、黒の戦士の力に押し負けているかのように見えるが、分かる人間には分かる。その剣は、ワザと折っているのだと。


 アリスも気づいていたが、その意図は分からず、ひたすら銀の戦士の攻撃を防ぐ。やはり手強く、怒涛の連撃は少しでも受け方を間違うと手が麻痺してしまうだろう。


 まあ、そんな間違いは、絶対に起こらない。アリスはそう確信していた。銀の戦士も、そんな事、当然のように考えない。


 だから……


 ーーアリスの後ろで、折れた剣が動いた。


「っ……」


 観客に騒めきが広がる。その声は、シンデレラによって決してアリス達には届かないようになっていた。


「……アリス」


 サクヤが心配そうに声を漏らした。グレイも鼻を鳴らして、誰にも気づかれない声で言う。

「何してる……さっさと気付け」

 ウサギはちゃっかり聞いていたが。


 アリスの死角に浮かぶ剣。これに驚いたのは、何も黒の国側だけではない。


「レオ、何だろうね、あれ」

「グゥ……」


 レオは鋭い眼差しでそれを見る。


「っていうか私、ギンギンの力が何なのか知らないんだよねー。まさか剣を浮かせるだけな訳ないしー、デレデレは知ってる?」

「私を、デレデレと呼ぶのは止めて。ギンの力は知らない……それに、例え知っていたってこの場合意味はない」

「なんで?」


 その、首を傾げたリオンの頭を、隣から撫でる人がいた。


 七人の部下を持つと言われている、白雪姫である。


「戦いの前に、2人は決めていたでしょ? 力は使わないって」

「……そうだったね!」

「あー可愛いなぁリオンちゃんは。それにしても、力を使ってない状態でこれだなんて、黒の戦士はもちろん、ギンも素晴らしいわ。こんなに離れているのに、少しも無事な気がしないもの。

 ただ鉄と鉄がぶつかり合っているだけなのに……見て、2人の周り。地面が隆起している」


 2人の戦士に、地面の方が耐えきれなかったらしい。


「どちらにせよ、この一手で全てが決まりそうだわ」


 丁度、宙に浮いた剣が、その切っ先をアリスに向けたところだった。


「ほんとだー。ギンギン勝っちゃうかも」

「……ガウッ」

「あ、そうだったね。頑張れーアリアリ。このまま終わっちゃうなんて、面白くないよ」


 無邪気10割の心配を向けられる。アリスは銀の戦士の剣を受けるのに精一杯だった。


 浮いた剣の原理は簡単である。


 法則を無視したような動きを、銀子はこう考えていた。


 ーー手を使って(・・・)剣を動かせるのなら、手を使わずとも(・・・・・)剣は動くに決まっている。


 実際に、それは出来た。


 今まさに、アリスに向けられた勝負を決める凶器が何よりの証拠だ。


 銀子はこれに賭けていた。そう簡単に兄を倒せるはずがない。だから死角の一手に全力をかけるしか方法はない。


 今も左手はずっと動かして、アリスの注意を惹きつけていた。


 そして……


 死角から全速。


 折れた剣が一直線にアリスの首元を狙い。


「なにっ……!」


 ギリギリで気づいたアリスがーー避けてしまった。


 思わず心の中で舌打ちをする。


 折れた剣に全ての力を使ったのだ。それは流石に止められない。


 アリスが避けたという事はつまり、折れた剣が銀子に突き刺さる事を意味していた。


 ……まあ、いい。


 銀子は覚悟をしていた。


 まさか、アリスが、自分の兄が必殺の一撃を避けないなんて、そんな甘い事を信じきるほど愚かではない。むしろ兄なら、避けてくれるだろうとさえ信じていた。


 だから、これはいい。


 一手防がれたのなら、次の一手を決めるだけ。失敗は次に活かせばいい。例えば折れた剣はこのままいくと胸元あたりを貫くだろうが、それによって飛び出る血を目潰しに使うとか。そんな事を銀子は考えていた。


 しかし……


 目の前で鮮血が飛ぶ。


 その血は自分からではなく、折れた剣を止めた、アリスの手から吹き出ていた。


「ーー」


 銀子は、言葉を発する事が出来ずに、ただ目の前の事を呆然と見つめる。


 ーーこの男は何をした?


 考えてすぐに理解した。自分で言うのもなんだが、兄から大事にされていると銀子は知っていた。これもその一つなのだ。


「……私を……庇いましたね」

「あ、いや」


 アリス自身、その行動に後悔しているようだったが。


 今の銀子には、全てが腹立たしい。


 自分を取り巻く全ての物が、怒りに震えている様な気さえした。


 銀子の理性が吹き飛ぶ。


「ああ、もうっ……」


 左手に握っていた剣を投げつけた。アリスの横を通り過ぎた。


「ムカつく! ムカつくムカつく!」


 今度はアリスが、観客の全員が呆然とする番だった。


 今まで冷静を常としていた戦士が、いきなり子供の様に喚き出したのだから無理もない。


「そういうところがっ……」


 ほとんど半泣きの充血した目で睨まれて、アリスがバツの悪そうな顔をした。


 銀子は止まらない。


 せき止めていた何かは崩壊した。今はただ、本音を爆発させる。


「貴方のそういうところが! 大っ嫌いなんだ! 私はもう、子供じゃない!」


 ハッとするアリスに、銀子は尚も心の内をぶちまける。


「1人で立っていられるんだ! 兄さんがいなくたって平気なんだ!

 だから……だからもうっーー」

 

  

「私を認めてよ!」

「っ……」


 遂に、その場にへたり込んだ銀の戦士。アリスは、かける言葉も見つからなかった。ただ胸に広がるのは苦い後悔。


「私を……褒めないで……甘やかさないで、叱ってよ……」


 それは今までで一番小さな声だったが。黒の国側にも、銀の国側にも、痛いほど聞こえてきたのだった。

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