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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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いざ、尋常に

◇◇◇◇◇


 黒の国側。


 サクヤ(輝夜姫)、カレハナ、ウサギ、グレイ。



 銀の国側。


 シンデレラ(灰かぶり姫)、白雪姫、獅子レオと巫女リオン。

 


 ーー観客はこんなところだろう。


 サクヤは最年少の王という事で有名だ。カレハナはもしかすると敗戦国の戦士という事で甘く見られているかもしれない。ウサギは、まあ、ウサギとして。グレイは黒の国の番狼という事で恐れられている。


 シンデレラは、あまり良い噂も悪い噂も聞かない。国を代表する存在として、それもどうかと思うが。白雪姫は七人の部下を持つと言われている。そいつら小人かな? 獅子巫女レオリオンは1日ぶりだな。手を振ってきたので快く振り返してやった。俺たち友達。


 そして……


 黒の戦士アリスこと俺と、銀の戦士ギンギツネこと俺の妹が、二つの国から見守られるように中央で向き合った。


 夢の中(そういう事にしておく)の銀子とは打って変わって、目の前の妹は鋭い目つきで俺を睨んでいる。


 あまりの違いに思わず笑ってしまった。


「何がおかしいんです」

「いや、気にしないでくれ」


 これ以上銀の戦士の機嫌を悪くしても仕方がない。顔を引き締める。そうだ、今から俺と銀子は、戦うのだ。


 キャンパス草原から1キロ離れたここは、何の草も生えていない土くれ地面。地形によっての有利不利もない。真剣勝負。


 俺はまず銀子に近づきーー右手を差し出した。銀子は訝しげにそれを見る。


「……何ですか、それは」

「握手だよ。握手。戦いの前の、公平で神聖な儀式だ」

「……」


 銀子は……応じた。断るのも大人気ないと判断したのだろう。


 右手と右手が重なる。


 そのまましばらく互いは動かず、先に、銀子が眉をひそめる。


「何のつもりです?」


 言外に、どうして手を離さないのか、という意味がそこに込められている。


 そう、俺は……


「お前の手を絶対に離さない」


 別に、夢の中の銀子はそういう意味で言った訳ではないんだけどな。


 まあ、形から入れ、だ。


 俺は絶対に、この右手を離さない。


「確か、明確な勝利条件をまだ決めてなかったよな。まさかどちらかが死ぬまで、ともいくまい」

「私はそれで構いませんけど」

「……そう言うなって。だからこれが、この手が、俺とお前の勝負を決める。

 あれが見えるだろう」


 左手で後ろを示した。きっと、銀子の目には、ウサギが大事そうに抱えた、大きな砂時計が映っているはずだ。


「あの砂時計は30分間計れる。つまり……時間内にお前がこの手を離す事が出来たらお前の勝ち。もしも俺が時間内までにこの手を握っていられたならば俺の勝ち。どうだ、シンプルでいいだろう」

「……随分と、こちらに有利な条件な気がしますね」

「いいんだよ」


 大事な事だからもう一度言う。


「俺は絶対に、この手を離さないから」

「……分かりました」


 今更ながら、銀の戦士の姿を語ると。


 そりゃあ銀の戦士だから、全体的に銀色が目立つ。その銀で隠れるように、至る所が剣を帯びていた。太ももだけでも三本、左右を合わせると六本だ。


 銀子はその内、腰に下げた一本の長い剣を構える。


 俺も天身剣(あまのみつるぎ)を構える。


「……そういえば、私からも一つだけ要望があります」

「なんだ?」

「兄さんの力、他者を模倣する力でしたか。全く、貴方らしい弱い(・・)力です。もちろんこの勝負で、そんなのは使わないでください」

「ん、そうだな。実は昨夜俺もその事に気付いたんだ。よし、分かった。俺は、正真正銘全力を出そう」

「お願いします……条件は一緒です。私も、自分の力は使いません」

「いやそれは…………分かったよ」

「ではーー」

「あぁーー」


 ウサギが俺の合図を感じ取り、砂時計を逆さに置く。俺と銀子は、その瞬間をスローモーションに見る。


 最初の砂粒が底に落ちて。


 互いの剣が、ぶつかり合った。


◇◇◇◇◇


 知っている。


 あの男がどうしてそこまで、自分を天才だと言い張るのか、やけに自分を持ち上げるのか、目立つような真似を自信満々にするのか。


 私はそれを、知っている。


 あの日までは、有栖川 鏡兎は自称普通の人間だった。


 努力もせずに好成績をあげる度に、偶々だとか、運が良かったからだとか、謙虚な姿勢で誤魔化して、偽って、逃げて。

 努力しても、どれだけ頑張っても、決してそれに届かない私は、悔しくて悔しくて仕方がなかった。


『これは、寿司だな!』

『偶々だからいいって』


 父に見せる兄の答案用紙には、いつも100の数字。私が元気に持ち帰ってきた答案用紙には、可愛らしい90という数字。


 必死に勉強した。


 効率よく、必死に。


 それなのに兄さんはまた、例のごとく「偶々」だなんて。


 ……遠い存在だ。


『ん、なんだ、帰ってたのか銀子』


 お父さんに気づかれて、私はバツの悪いまま2人の前に出た。そして、私が手に握っているものに気づくと、お父さんは優しく取り上げ、90という数字に喜ぶ。


『凄いじゃないか銀子! 父さん小学生の時は100点ばっかだったが、中学になるとからきし平均点ギリギリだったんだよ。いやー大したもんだ。因みに、この数学の平均点は?』

『……65って、先生言ってたよ』

『なっ……銀子お前、やはり天才か』

『全然そんな事ないよ』


 兄さんと違って、私のこれは、本当にただ正直な気持ちだ。


『だってお兄ちゃんは、100点だから』

『いやーそれにしたって凄いんだぞこの点数。お前だってあともうすこしで満点取れるじゃないか』

『……うん』


 嘘だった。満点なんて、それこそ完璧でなければならない。


 兄さんのように。


『父さん』


 今まで黙りこくっていた兄さんが口を開いた。私が言うのもなんだけど、兄さんは私の事を大事にしていた。


『銀子は、自分の体調管理をしっかりとした上で、テスト期間勉強スケジュールなんて物まで作って努力してたんだぞ。この前なんか、友達のみいちゃんからの誘いを断ってまでこのテストの為に頑張ったんだ』

『流石母さんの娘か』

『回る寿司なんかに、興味はないよね?』

『……よ、よく言った! お前の言う通りだな! よし、父さん奮発するぞー!』


 とんとん拍子に出来上がる、私の持ち上げ。純粋に、嬉しいという気持ちにはなれなかった。


 ーーある日の事だ。その日から兄は変わった。実を言うとあまりよく覚えてはないけれど、お父さんとお母さんが亡くなって、私が(あの時はまだ子供だったから)泣き止まなくて。その時に聞いた、今でも忘れないのは兄の言葉。



『あ、安心しろ!僕……俺がいるから! 俺は……そう、天才だからな。何だって出来るんだ!』



 あぁ……憎たらしい。


 私にとって運が悪かったのは、私があの男の妹という事で、そしてあの男が私の兄という、これからも決して変わることのない現実だろう。それはいつも、私を縛り付けて離さない。


 何度も神様に疑問をぶつけた。どうして私は、あの人の妹なのか、と。


 私の想像上の神様は、いつだってこう言う。諦めなさい、と。

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