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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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平同千現 パラレルワールド

◇◇◇◇◇


 拝啓 地球ではこいのぼりが空で泳ぐ、気持ちの良い季節になりました。ここではスプリングドラゴンが春の訪れを知らせ、桜の頼りが聞こえてくる今日この頃ですが、兄さんはいかがお過ごしでしょうか。


 私 有栖川 銀狐(ぎんこ)、改め銀狐(ギンギツネ)は、日々メイドの入れる紅茶を堪能しながら読書を勤しんでいます。


 博識である兄さんにとっては、読書などと既に縁の遠いものだと存じ上げますが、これが意外と楽しいものです。

 私のオススメは「籠の虜」というもので、主人公が周りとの価値観に戸惑い、絶望し、遂には全てとの関係を断ち切るために奮闘するお話です。オチは結局、全てから解放されたかった主人公が、本当は誰よりも他人との繋がりを求めていた、というところですね。自由を求めた小鳥は、けれどもう、籠の中でしか生きられないのかもしれません。


 まあ、そんな事はいいとして……


 つきましては私が、互いが抱えた不満を無くすべく、兄さんとの決着をつける為の決闘の場を用意しましたので、ご連絡致しました。


 場所は明日、太陽が真上に昇った時、キャンパス草原から南に1キロ離れた所にて行いたいと思っています。


 ルールは何でもありです。


 明日を楽しみに待っています。 敬具


◇◇◇◇◇


 妹らしい綺麗な字だった。一片の崩れもない完璧な書体。ここが異世界でなければ、機械でも使ったのかと見間違う程だ。


 内容は、概ね予想通り。


 あいつは……俺を憎んでいた。俺はもちろん家族を愛していた。こと妹に関してそれはただの一方通行だった。


 何故なら俺は、天才だから。妹はきっと嫉妬したのだ。けれど肉親をそんな目で見てはいけないという理性との狭間で、結果どうしようも出来ず俺を嫌うという事になったーーのかもしれない。そんな単純な理由じゃないのかもしれない。


 分からない。


 例え他人の心を読めるとしても、俺はただ1人の家族すら理解する事ができない。


 全く惚れ惚れする天才じゃないか。聞いて呆れる。ベッドに飛び込みながら、流石の自分に苦笑した。


 ーーその時、ふと、思いついた。


 後から思えばそれは、運命というか、天命というか、絶対に何かしらの外的要因があったのだろうが。


 とにかく思いついた。


 俺の力を自分に使えばどうなるのか?


 相手の力を鏡合わせのように、そっくりそのまま模倣する事ができる力を、自分に使えばどうなるのか。


 考えれば考えるほど気になる。


 何も変わらないというのが妥当だろうが、もしかすると自分とそっくりの自分、つまり分身のようなものが出来るかもしれない。


 このまま眠れないというのもあれなので、早速実行した。


 ーー自分を、模倣する。


 ……余談だが、鏡と鏡を合わせると、そこには、無限の世界が広がっている。これまた余談だが、鏡が何色なのかと定義するのは相当に難しいとされている。


 だったら俺は。


 本当に、()の戦士なのか?


◇◇◇◇◇


「ーーきて、起きて下さい」


 はっきりとしない意識のまま、やけに懐かしい声が響く。


「もう、学校に遅刻しますよ」

「それはいかんな」


 やろうと思えば本能を殺して理性で動ける、それが俺だった。


 ……おや、この部屋は。


 寒冷色が目につくこの空間は、何を隠そう俺の部屋ではないか。


 いやー懐かしい。お、5歳の頃に海で拾った綺麗な貝殻がまだ机の上に飾ってある。少しアレンジしてその貝殻でカレンダーを作ったが、いやいや今見ても素晴らしいクオリティ。


 ん、あっちには7歳の頃ワガママを言って、親に買ってもらった自分専用の冷蔵庫。中には欠かさず、しば漬けが入れてある。


 最高しば漬け。日本に感謝。


 ……って、そんな事を言ってる時ではない。一体これはどういう事だ。



「まだ寝ぼけてるんですか?」

「……お前……銀狐」


 妹が、そこにいる。制服姿で。俺の事を、呆れたように見つめてくる。


「当たり前じゃないですか。兄さん、楽しかったかもしれませんが、夢はもう終わりですよ。学校に行く時間です」

「……夢」


 妹の言葉に、疑問が生じる。


 確かに異世界などと妄言が激しい。あれが全て夢だと指摘されても、否定は……出来ない。


「……いや、成る程。ふはは分かったぞ。こっちこそ夢なんだ!」

「何言ってるんですか」

「いひゃい」


 ほっぺたをつねられた。何故だ痛い。


「馬鹿言ってないで、朝ごはん早く食べないと、本当に遅刻ですよ? 皆勤賞が水の泡ですよ?」

「し、しかしだなぁ、そもそもお前が俺にこんなに優しくするはずないし」

「フフッ、本当に寝ぼけているんですね」


 そうなのかもしれない。だって、その時銀狐が浮かべた笑顔に、俺はつい見惚れてしまったのだから。


「私は、いつも兄さんを愛してますよ。さ、早く着替えて下さい。これ以上は私も実力行使を躊躇いません」

「わ、分かった分かった」


 未だ納得がいかないが、銀狐の有無を言わさぬ迫力に負けた俺は、大人しく制服に着替えた。


 そういえばまだ学生だった事を思い出しながら、銀狐に連れられて一階に行く。


 散々心の中でびっくり仰天している俺だったが、リビングの扉を開いて見えた光景には、驚きを通り越して怒りすら湧いてきた。


 サラダとパンとオレンジジュース。悪くない。今日はきっと火曜か木曜なのだ。


 しかしーーしかし、だ。


 絶対にいてはならない人間がいた。


 その人間は当たり前のように、リビングの机でコーヒー片手に新聞を読んでいる。


「何でーー」


 珍しく動揺した。


「何であんたがここにいるんだーー」


 久しく見た。

 その人は……


「ーー父さんっ……!」

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