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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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獅子奮迅 ツインズウェイクン

◇◇◇◇◇


 くわわわわぁ〜んと響いたのは、鍋であった。どうしてこんな所にそれがあるのか。鍋を手にしていた自分は果たして、ラッセルであった。


 彼の正気を疑う者は多いであろう。何しろ彼自身今すぐ鍋に土下座したい気持ちなのだから。


「い、イタイこれ」


 鍋は盾ではない。盾ではないが故に守る術として最善ではない。


 レオの一撃を防げたのも、レオが鍋を前にして一瞬躊躇したからである。今はリオンに怒られている。仕方がない。


 ラッセルは痛みで目に涙を浮かべながら、ひん曲がってしまった鍋を構える。


「どうして……貴方が」


 一番この中で驚いていたのはネイユンだった。あくまでも客観的事実として、ラッセルの戦闘能力はネイユンに遥かに劣る。


「……嫌なんだ。勝てないから逃げるだなんて、そんなちっぽけな理由で見捨てるのは嫌なんだ!」

「逃げるだなんて……違う……適材適所。ここは私1人で。貴方は助けを」

「大丈夫。それはもう、僕が一番信頼している友人に頼んでおいたから」


〜〜〜〜〜


 一方、その頃。


 アッシュ・ナイトは、走る。己を頼った友の為に。


〜〜〜〜〜


「ですが……」


 何かに迷うネイユンを横目で見て、ラッセルは悔しそうに言った。


「何でも1人でしようだなんて、考えないで!」

「っ……」

「君は強いよ! 凄い! でも一番じゃない。そうかもしれない。だけど!」


 ーー僕は師匠の教えを守ります。


 その3


「数なんてクソ食らえだ!」


 一番でない事に囚われていたネイユンの呪縛を、今の言葉が解き放った。


 何番でもいい。1人じゃないのなら、そんな数に意味はなくなる。


 元々自分はそんな考えだったはずだ。相手がどれだけ年上だろうと、何倍も強かろうと、諦めない。妥協しない。それがいつの間にか、自分を一番にする事だけ執着していた。


 敵わないはずだ。


 今のままでは、過去の自分にすら、負けてしまう。


「すみません。自分は馬鹿馬鹿しかった。今更こんな事を言うのも失礼かもしれませんが、お願いします。

 私と一緒に、戦ってくれますか?」

「もちろんだよ!……だって、そうじゃないと僕すぐ負けちゃう」

「……」


 最後の一言は余計でした。なんて余計な事は言わない。


 学年一位のラッセルといる今なら、二番の自分でも、何だって出来そうだった。


「何か手はあるんですよね」

「うん、とりあえず……あの獅子の攻撃を僕じゃあ防ぎきれない。でも今の君よりは持ち堪えられる。このままお鍋担当は僕だ。ありがとう食堂のお姉さん。

 君にはそのサポートをお願いしたい。君が使っていた力で、獅子の攻撃を分散する事は出来るよね」


 きっと自分の力を見ていた。しかしそれは、たったの数回。更に言えば解析する暇もなかったはずだが。


「流石の観察眼ですね。分かりました。一緒に頑張りましょう」

「うん!」


 自分が尊敬する相手から、頑張りましょうとの一言。一緒に共闘する事実。


 今までにない幸福を味わいながら、今はそれを我慢する。


 獅子の準備は、もう、出来ていた。


「ぷぷー、そっちの子よりもっと弱そうなのに、レオに勝てると思ってるんだ」

「はは……君たちの攻撃を防ぐくらいなら、僕達にだって出来る」

「むぅ言ったね。手加減しないんだから!」

「っ……」


 強気な事を言った。実際は五分五分。少しでもミスをしてしまえば、鍋が壊れる。昔のままだったらダメだったかもしれない。


 今は……


 師匠がいる。後ろにネイユンがいる。


 失敗なんて出来ない。


 全身全霊をかけて、自分はただ、守り通すだけ!


「右!」


 ネイユンの掛け声を聞いて、ラッセルは鍋を右に移す。丁度爪が振り下ろされて、鍋にぶつかるその瞬間、ネイユンの力が勢いをばらけさせた。衝撃は分散されて、全方向に広がる。

 ラッセルは耐えた。


「左!」


 間をおかずにネイユンの声を聞き、急いで鍋を左に移す。今度もまた耐えた。


 後ろ、前、右、右、左、後ろ。


 全て防いだ。


 ギリギリの後一歩。届くはずの距離が届かずに、リオンは最高に苛立っていた。



「ムカつく! 弱っちいのに!」


 自分が弱いのは知っている。でも、ネイユンは強い。だから貴女にも勝てる。強いだけで負けないはずがない。


 そう、心の中で叫ぶ。


 まだ、まだ、まだ。


『ラッセルの頭脳は、誇ってもいいと思うぞ。最初から全てを知る人間なんていない。つまり筆記試験は、多少の差あれど努力の表れだ』

『成る程、理論的。流石です』


 今なら分かる。自分の持ち味が。


 だからあと少し、耐えきる。もう少し、もう少し、だって自分は、1人じゃないから。



「ラッセルゥーー!!」


 来た。


「受け取れ!」


 アッシュ・ナイトが自分の剣を投げた。ちょっと、その勢いは、無理っぽい。


「ごめんネイユン取って!」


 お鍋に気を配り、飛来する剣を掴む。それは難しいだろう。けど、難しいだけなら、わけない。


 弧を描くように、まず剣の柄を握ってその場で回転する。


「ん、これは」


 取ると同時に、剣の柄に何かが引っかかっている事に気付いた。ラッセルを見れば、片手がそれを欲している。


「剣一本で何も変わる訳ないじゃん!」


 どうやら、これにリオンは気づいてないようだ。ネイユンはそのまま死角となる位置でラッセルの手にソレを渡した。


 次、獣の攻撃が来た時。


 ラッセルは盾を蔑ろにして、片手でソレを獅子に突き出した。


「君の大きな声は聞こえてたよ」


 獅子の爪は盾の代わりにソレを突き破りーー中の物が飛び出る。


「これが、一週間分の凝縮臭いだ!」


 これはラッセルにとって僥倖というものだったが、口を大きく開けていた獅子はその中身をパクンと咥えた。


 元々獅子レオの嗅覚は鋭い。


 ラッセルやネイユンでさえ思わず鼻を抑えた臭い。アッシュ・ナイトがラッセルに言われて取りに行った生ゴミ。それをレオは口に咥えた。


 色んな意味で泣いた。


 色んな物を吐いた。


「レ、レオー!?」


 今が絶好のチャンス。


 すっかり体力が戻ったネイユンは、リオンに短剣を突き刺す。


 レオがそれを涙目で防いだ。防ぎきれずに、血を流す。



「ようやく、一撃入れました」

「レオ……」


 このまま無力化を図るネイユンは、リオンに睨まれ動きを止める。


 威嚇と似た衝撃だったが、これは純粋に、恐怖したからだ。


 レオと同じ瞳をした巫女リオンに。


「許さない。許さない。レオをこんな目にあわせる奴なんて死んじゃえばいい」


 ドス黒いオーラが見えそうだった。それほど今のリオンは、危うい。


「……ど、どうします」

「どうしようか、嫌な予感しかしない」

「俺の後ろに隠れろラッセル。いざとなったら全力で逃げるぞ」


 誰だってすすんで爆博物には触れたくない。今の三人は、そんな心境だったのかもしれない。


「私とレオ以外死ねばいいんだよ。そっちの方が楽だもん。きっと楽しいもん」


 ラッセルは知っていた。目の前の存在が、三の獅子、継承者だと。


 そして継承者には、ある秘技というものがある。自らの存在を書き換える。かつて世界を支配したと言われる、座に与する者へと。それこそ継承者の真骨頂。


「獅子奮迅ーー」


 リオンもそれを使おうとした。


 それは流石に、認められない。


「そこまで!」


 一瞬にして現れる黒の人間。


「サ、サクヤ様」


 ネイユンの視線の先には、輝夜姫が。


「師匠!?」


 輝夜姫の隣には、黒の戦士が。


「グレイさん……」


 そして、グレイとカレハナとウサギが、宥めるように獅子巫女の側にいた。

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