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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
60/70

絶断

◇◇◇◇◇


 麒麟児という肩書きを持とうが、ネイユンはまだ12歳。相手の少女は同じくらいの歳と言えど、敵はもう1人(匹)……獅子がいるのだ。


 持ち前の剣技と体術でどうにか攻撃は防げても、獅子レオの前に防戦一方となってしまう。いずれは先に、人の身であるこちらの体力が尽きると、ネイユンは気づいていた。


 巫女リオンも、分かっていた。


「あーあ、やっぱりこの程度かー。レオの敵じゃないなー。拍子抜けだなー」

「むっ、虎の威を借る狐とは、まさに貴女の事ですね」

「私とレオは一心同体だもん。レオの頑張りは私の頑張りなんだよ。

 やっちゃえレオ〜!」

「くっ」


 相手が人型でない、という事もやり辛い原因だった。愛用の刀でなく、普段から身につけている短剣で相手をしているというのもまた本領を発揮できない原因だった。


 しかし……


 弱音も吐いていられない。実戦では、その時その時こそ「これ以上ない」という結果を出さなければいけないのだから。


 爪を防ぐ。牙を防ぐ。強靭な肉体で動く獅子の体を目で追って、ギリギリのところで防ぐ。防ぐ。防ぐ。


 目が慣れてきた。


 そして……


 体が限界に近づいた。


「はぁ、はぁ…….」

「んー、次で終わりかな」


 満身創痍なネイユンを見て、巫女リオンは勝利を確信した。勝気な笑みを浮かべて、レオに命令を下す。


「終わらせて、レオ!」


 獅子が吠えた。主人の言う事を聞くために、今まで1番のスピードでネイユンに襲いかかる。


 対するネイユンはーー


 こっそり、笑みを浮かべた。手に握る短剣を、逆手に持ち直して。


 それを見ていた訳ではないが、何かが危ないと感じたリオン。


「だめ!」


 ほぼ同時に、野生の感が働いたレオが体を反らした。熱したヤカンに触ってしまったように、反射的に。


 何が起こったのか分からないが、何かが起こった事は確実だ。


 一旦距離を置いたレオ。さっきまで余裕が見えていた顔には焦りが見えて……その頬からは、ひとしずく血を流していた。


「レオ! 大丈夫!?」


 大丈夫、と返事をする代わりに。レオは足元の石をネイユンに蹴り飛ばした。


 石はまっすぐネイユンの元まで飛んでいき、その直前に、灰のように消え去った。


 そんな、異様な光景を引き起こした張本人は、誇るでもなく、驕るでもなく、悲観するまでもなく、現実を受け止めている。


「避けられて、しまいましたか。マズイですね。よろしくないです。チャンスを逃してしまいましたようです」

「……へ、へへーんだ。やっぱりレオが最強なんだよ」

「作戦変更ですね」


 先ほどまでずっと防御の姿勢を取っていたネイユンの姿が、フッ……と消える。


 まるで、レオがそうしていたように。


「隠れるなんて、意味ないのに」


 死角から石が飛んでくる。レオが後ろ足で蹴飛ばす。

 次に別方向から石が飛んでくる。レオが後ろに避ける。


 常に同じ場所にはおらず、姿を見せない隠れながらの攻撃は、一見成功しているように思えたが。


 相手はレオーー獅子なのだ。


「どこにいるかなんてーー」


 レオが機敏な動作で近くの石に回り込む。


「レオのすっごい嗅覚があるから、匂いで分かっちゃうんだもん!」


 確かにそこに、ネイユンはいた。だが、ネイユンはこうなるであろうと予測していた。


 短剣を構えて、斬りかかる。


 レオはーー避けた。


 短剣は虚空を掠める。


「ざんねん! 当たらなければ意味が」


 リオンの言葉が途中で途切れる。何故なら彼女の目に、たくさんの金色の毛が映ったから。


 それは、レオの毛だった。


 戸惑うリオンを置いて、ネイユンは追撃を加えた。レオは過剰な動きで後ろに下がる。同時にまた、毛が散った。


 当たっていないはずの攻撃が当たっている証拠である。


「……意味わかんないんだけど」

「一体私がいつ、短剣しか使わないなんて言いましたか。……まあ、正確には使えないという方が正しいんですけどね。

 母様と違ってわたしの力は弱すぎる。というか、硬すぎますよ。その体」

「当たり前じゃん。私のレオだもん」

「ええ、本当に……負けられません」

「……ばっかみたい。あきらめの悪い子って嫌われるよ。私もレオもそろそろ飽きてきたし、次で最後なんだから」

「さっき似たような言葉を聞きました」

「むぅ、レオ!」


 当たらなければ意味がない。その通りだった。


 ネイユンは短剣を構える。これを使わなければ有効打を与えられない。かといってそれは十中八九避けられるし、使わない場合は傷をつけるまでには至らない。


 それでも……


「こんな所で私は、諦めきれません」


 真っ直ぐ対峙した。敵わないなんて思ってはいけない。やるしかない。やるしかーー


 その時。


 獅子が吠えた。


 今までとは違い、胸で響く声。


「なっ!」


 体の異変に気づいたネイユン。


 ーー動かないっ!


 硬直していた。


 指が、手が、腕が、体が動かない。


 “威嚇” と呼ばれる技だった。ラッセルなら知っていた。


「くっ……」


 諦めたわけではない。諦めたわけではないがこれは……


 どうしようもなかった。


 世界が遅く見える。錯覚。


 1秒も満たない間の中で打開策をありったけ考えるネイユンだったが。


 どうしようもなかった。


 自分の弱さを思い知らされる。


 どうしようもなかった。


 どうしようも……


 ーーくわわわわぁ〜ん!


 奇妙な音が響いた。

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