自己満足
◇◇◇◇◇
無性にムカついて、弟子をとった。
ラッセルという男……いや、男の子と言った方が正しい。
歳は15歳。
好きな食べ物は母親の作る料理全般。
嫌いな食べ物は自分の作る料理全般。
初恋は今年、学園に入学して……
「って、その情報いります!?」
先程まで納得のいかない表情のまま喋り続けたラッセル君が、今になってようやく不満をぶつけてきた。
師匠となったからにはこちらも真面目であるべきだと思い、俺は、弟子の疑問に答える。
「もちろん、必要だ」
もちろん、嘘なのだが。
「君を指導するべきにあたって、まずラッセルという人物を詳しく知る事から始める事にした。そうする事で今後、より信頼関係を結べる事を期待して、だ。もちろんそんな曖昧な意味だけでなく、君が俺に師事する内容を納得のいくものにできると判断したからでもある。
……師匠となった今、俺は全力で事に当たっているんだ。不満も理解できなくはないが、我慢してほしい」
「え、あ、そんな……すみません僕の勘違いだったようです。まさか師匠がそこまで考えていてくれたとは思いもしませんでした」
思っていなかったからな。
しかし人の話を信じるのがうまい。これは飲み込みも早いかもしれない。
「ところでラッセル、学園なんか入っていたのか」
場所は俺の部屋。時刻はピクニックの一週間後。まず体よりも心を優先した俺は、こうしてラッセルを城に迎えた。
初めてこんな場所に来てしまった事に狼狽えていたラッセル君に、自己紹介をさせる。
ただの、興味本位で。
「はい。15歳ですからね。早い人はもっと早くから入学してますし、僕の場合は義務教育ですよ」
「義務教育?……そうか。それで、休みの日にはああやってダンジョンで特訓だと」
「……上には上がいるって、思い知ってしまいまして。母からはまだ若いんだからって、それはもちろん分かってはいるんですけど」
「……焦ってしまった?」
「恥ずかし、ながら」
「ふむ」
ラッセル君は、まるで自分が何か悪い事でもしてしまったかのような、罰の悪さを感じているみたいだった。
劣等感がそうさせている。
その母親の言う通り、この歳でダンジョン24階クラスなら、そんなに卑下する必要もないと思うのだが。
「よし分かった。では早速ラッセル強化訓練を始めよう」
「は、はい! ……ここでですか?」
「今日は座学からだな」
「座学……その、失礼な言い方になるかもしれませんが、僕は本当に強くなれるのでしょうか? いえ、師匠がどうこうではなく、僕自身の問題というか、自分に才能があるとは思えないというか」
「その疑問は尤もだ。確かに、生まれつきの才能というのは、変えることが出来ない。例え同じ努力をしても、同じ結果が出るとは思わない事だ。
……俺の目によると、ラッセルの才能は、一般的なものを1として……3くらいだな」
俺は、後ろのホワイトボードにでっかく“ 才能3” と書く。
「私はどれくらいです?」
今日は一日中出番を控えてくれるかと思っていたが……
カレハナが後ろの方で、手をあげながら発言をしてきた。ラッセル君も気になっているらしい。
「そうだな、ざっと千くらい」
「せんっ……!?」
「気にするな。比べるだけ無駄だ」
「えっと……こんなんで本当に僕って強くなれるんでしょうか?」
「なれると、俺は言ったはずだ」
今度はでっかく“努力”と書いた。なんかこういうのって楽しいなぁ。
「そもそも何事にも、人が成長する為には失敗が必要だと俺は思っている。失敗がないという事は、限界を知らないという事だ。限界を知らない、限界を越えようとしない者の成長など微微たるものに決まっている。
この理論から言って、強くなるという事は難しい。戦闘において失敗というのは、すなわち死ぬ事だからな。失敗が出来ない、安全マージンのなか努力をしても、才能溢れる者には一生追いつけないだろう」
「……」
不安そうな表情を浮かべたラッセル。俺は、ホワイトボードにでっかく“アリス”と書いた。
「しかし安心をしろ! その為に俺がいる。お前に限界を超えた特訓をつけてやる。その分キツイ。文字通り命をかけてもらう程の訓練だ……できるか?」
「やってみせます!」
「いい返事だ」
向上心もある。勇気もある。あとは……俺次第だ。
ーー本日の謎計算式。
才能3×努力×アリス=無限大
◆オマケ◆
ラッセル「その内、師匠だって超えてみせます!」
アリス「それはない」
ラッセル「」




