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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
二章 銀の国編 合わせ鏡。それは無限に続く世界。ひねりもしない平行世界。されど、手を伸ばす事は出来た。
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弟子を最強にしたい件

◇◇◇◇◇


 ダンジョンは律儀に、相性こそあれど階層が高くなるにつれて出現する魔物の強さが大きくなる。それによって冒険者の強さが位置付けされる。


 この少年ラッセルの実力は、冒険者ギルド公認ランク20層相当(20層までは確実だが、25層は考えものというレベル)だが、それを本人は不満に思う。だからこそこうして、今日は24階に足を踏み入れたのだが……


 途中、ダンジョンで昼寝をしているという奇妙な3人組を見かけ、自分とは違う世界の人だと思いながら、角が生えた(本人からすれば)非常に危険な魔物を相手しながら、実力をつけていた。


 しかし、奇妙な事はまだ続いた。


 途中、自分が相手をしていた魔物達が一斉に消えたのだ。


 問題はすぐに分かった。


 というか現れた。


 ドスンドスンと足音を立て、こちらへ導かれる様に一直線にやってくる。


 ーーも、もしかしてあれは、50階のミノちゃん!


 一流と二流の分かれ目。冒険者からは最後の審判とまで呼ばれる豚鬼ミノタウルス。通称ミノちゃん。


 本来なら、こんな低階層に現れるはずのない魔物に、一瞬ラッセルは混乱するが、次はもう逃げるか立ち向かうかの選択に入っていた。


 逃げるしかない。普通なら。

 立ち向かうしかない。男として。ただ1人の、冒険者として。


「ぼ、僕はっ……」


 その時、言い訳が出来た。


 そういえば昼寝をしていた人がいた、と。もしもここで逃げてしまえば、その人達が危ないかもしれない、と。


 ラッセルは剣と盾を構える。


 そしてーー


 長い長い、戦いが始まった。


〜〜〜〜〜


 長い長い、戦いが始まった。


 ーーと、思ったのは極限状態に陥ったラッセルの思い込みである。実際はたったの三手で勝負がついた。


 ラッセルが剣を振り下ろす。ミノタウルスが弾く、更に反撃。これをラッセルは盾で防ぐも衝撃を殺しきれず、後方に吹っ飛ぶ。


 腕から嫌な音がした。


 口からは少しの血と、後悔と悔しさの混じるうめき声が漏れる。


 ミノタウルスはというと、見せつけの様に吠えた後、倒れたままのラッセルへ襲いかかる。ドスンドスンという足音が大きくなると同時に、ラッセルは死を覚悟した。


 彼は……敗者だった。


 そして彼は、幸運だった。


「秘技 白刃取りーーまあ隠したりしてないんだけどな」


 いつの間に来たのだろう。


 突然男がーーさっき昼寝をしていた人間だと後から気づいたーー目の前に立ち塞がったかと思うと、ミノタウルスが振り下ろした斧を片手で止めていた。


 そしてあろう事か、斧を握り潰すと、どこにそんな力を持っているのか、ミノタウルスを蹴り上げた。ミノタウルスは、面白いように吹っ飛んだ。


「大丈夫か、少年」

「は、はい……あ!」


 ラッセルは、こちらに駆け寄る男の向こうに、吹っ飛んだもののまだ元気、もっと言えば怒りに怒ったミノタウルスを見る。


 そしてあろう事か、女性が2人、ミノタウルスへと向かっていくのも。


「助けないと……!」

「ん? ……いや、いい」

「そんな!?」


 ミノタウルスを圧倒する、自分とは格の違う男のその発言は、まるで、期待していたヒーローに裏切られた気分だった。


「ぼ、僕は見捨てられませんっ」


 体の節々が痛い。我慢する。目の前の事を無視するよりはマシだった。


 だが……ラッセルは気付くべきだった。男と一緒にいた女性もまた、自分とは格が違うのだと。



「何か、勘違いしているな」

「え……」


 こんな時だというのに、場違いなほど落ち着いた発言。ラッセルも一周回って冷静になり、男の声を聞く。


「俺たちは、お前を助けると決めた。そしてそれは、俺がお前の側に来ることで、完璧なまでに達成されたんだ」


 ラッセルは男を見た。黒すぎる程黒い服装をした男を。


 彼はじっと、戦いを見据えている。何の心配もなく、信頼している。


「ミノタウルスなんていうのは、俺たちにとって二の次、という事だ。少年」


 男のセリフを裏付けるように。

 ミノタウルスに死が迫っていた。



「奥義……草に絡まれー!」



 突如伸びる植物がミノタウルスに絡みつき、一瞬体を止める。


 その一瞬が命取り。



「必殺 兎……け、蹴り!」


 獣を思わせる鋭い蹴りが、見事ミノタウルスに直撃。

 さっき男が吹っ飛ばすために蹴ったとすれば、こちらは完璧に威力を浸透させた殺しの蹴り。


 ミノタウルスは呆然と動かなくなった後、糸が切れたように倒れこむ。


 こうして不測の事態ミノちゃん事件はーー誰に知られる事もなく、たったの数分で解決してしまったのだった。


◆オマケ◆


アリス「お前ら適当すぎ」

カレハナ「秘奥儀の方が良かったですか」

アリス「いや、そっちじゃなくて。せめてリーフリストリクションとか、グラスウィードとか、古めいた感じに雁字搦め・草縛りとか……!」

カレハナ「」

アリス「冗談だからな?」


◇◇◇◇◇


「あ、ありがとうございました!」


 キラキラした目をする少年から感謝をされる。いやよく見れば、プッツェンバーガーに朝お世話されてた人間だ。まあ何にせよ、感謝されるというのは、ふっふ、悪い気はしない。


 ほら、ウサギも嬉しそうな顔をして……


「現地調達、成功だな!」


 違った。お腹減ってただけだった。


 二足歩行の魔物を食べるのは正直乗り気ではないのだが、これまでの生活からとっくにミノタウルスの肉は口にしているらしく、なら別にいいかと……


 俺たちは、バーベキューを始めた。


 最初は断っていたラッセル君も、肉の匂いに負けて、一緒に食べる事に。因みにラッセル君の傷は、カレハナの行った自然治癒活性によって一通り回復している。


「うわぁ……僕、ミノタウルスの肉なんて滅多に食べられなくて」

「そうなのか?」

「すいません。値段的に、手が出せなくて」


 なるほど。こんな時に一般市民との格差を味わってしまった。後味悪いので、さっさと肉で打ち消すとしよう。


「でも、どうしてミノタウルスがこんな階層に……」


 ふと漏らしたラッセル君の独り言に、俺は思わず目を背ける。


 それは多分、俺がこの階に来たからだろう。こうしてラッセル君を食事に誘ったのは、そういう謝罪の部分も含まれていた。


 本人はそんな事つゆ知らず、ただただ俺たちの好意に感謝して、ウサギが手慣れた手つきで解体を済ませたミノタウルスの肉を、美味しそうに頬張る。


 ……女の子?


 いややっぱり男だな。中性的で、幼いから見極めが難しい。


「それにしても、皆さんとても強いですね。有名……な冒険者の方ですか? ごめんなさい。僕、そういうの詳しくなくて」

「俺は黒の戦士かな」

「え」


 ん、普通に美味しい。

 普通に。

 ……普通だな。


「私も元戦士ですね。ああ金の」

「え」

「この流れだと、私は継承者だな!」

「え……えぇ!?」


 ラッセル君の反応はとても面白かった。少なくとも、ミノタウルスの味がどうでもよくなるくらいの肴になった。


「何て言うべきなんでしょうか……でも、そう考えるとさっきの力はうなずけます。み、皆さん流石ですね……僕なんかより、ずっと」

「……」

「あ、ごめんなさい! 助けてもらったのに、変な事言っちゃって」

「いや気にしてない。いややっぱり気にした。代わりと言ってはなんだが、一つ聞きたい。どうしてミノタウルスから逃げなかった? 真っ向から立ち向かうより、よっぽど生き残る可能性はあったはずだ」

「それは……」

 

 ラッセル君は目を瞑り、言葉を探していた。やがて見つかったのか、その目はとても凛々しかった。


「逃げたくなかったからです。……ごめんなさい。勝ちたいとか、このまま死んでもとか、色々思ったはずなんですけど……やっぱり、逃げたくなかったっていうのが一番です。ただの、意地みたいなもんです」

「もぐもぐ……その結果、死にかけたと」

「うっ、ごめんなさい」

「謝らなくていいですよ。男らしくて素敵だと思います……もぐもぐ」

「そ、そんな事」

「ええ、もちろん愚かしくも感じました」

「愚かっ……ご、ごめんなさい」

「もぐもぐ」


 カレハナの素直な指摘はまだ終わらない。……もぐもぐは止めさせた。


「実力の伴わない勇気は、万人に認められるものではありませんよ。貴方と親しい間柄であればあるほど、認められるはずがありません。やはり、命あってこそですから」

「……そう、ですよね。でも」


 その時のラッセル君の顔を俺は見逃せなかった。


「僕は貴方達とは違うんです。どれだけ頑張っても、ミノタウルス一体倒せない。努力しても、努力しても……才能は生まれたりなんかしてくれない。

 ただの、凡人です」


 才能を持たない敗者の人間。

 凡人の限界。

 諦めに満ち満ちた表情。

 

 ……ああ、どうしてこんなに。


 胸が苦しい?


 ーーその時だった。


 不意に、ウサギが空を見上げる。「あっ」と声を上げた。


 つられて見るとそこには、なんと、虹があった。一つや二つではない、ある所は、幾何学模様さえ生み出す虹の数々。


 足元も。


 いつの間にか、草木が虹に染まる。いやらしくない、淡い色合いだった。


 雨は依然降っておらず。虹だけ現れた。この不思議現象は、ダンジョン特有だ。

 透り雨のフロア、その真意を俺たちは目にしている。


「僕、これが見たくてここまで頑張れてこられたんです」


 ラッセル君は言った。


「だったらもっと、頑張ればいい」

「ダメですよ。僕は、もう」

「そんな簡単にっ……」本人にとっては、簡単じゃない。かもしれない。「……努力しても才能は生まれない。確かにその通りだ。お前が凡人。確かにその通りかもしれない。だがーー」


 あいつ()は……元気にしているだろうか。


「世の中には、お前以上に努力をしている人間がいる! だから……だから自分の限界を決めるな。お前はそれが出来るほど、優秀じゃあないんだろ?」

「……僕はまだ、強くなれるんですか」

「なれる!」

「今までたくさん努力してきたけど」

「惜しかったな。やり方を間違えていた。しかし心配するな。俺がお前の、師匠になってやると今決めた。つまりお前は、これから確実に強くなる」

「っ……信じても、いいんでしょうか!」



 おいおい、俺を誰だと思っている?



「安心をしろ。何故なら俺は、天才だからな!」

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