無駄のない無駄な意味深
◇◇◇◇◇
カレハナは、滅多にダンジョンに入ることがない。何しろメイドだからな。ウサギは金の国の者だから、言わずもがな。俺も最上階しか知らない。
つまり、何が言いたかというと……
俺たちは皆、新人冒険者なのだ。
「本当にここなんですか?」
「そのはずなんだけどなぁ」
「聞き間違いとか」
「俺に限ってそれはない」
だが、カレハナの疑問もごもっともだ。
ダンジョンの24階は、とおりあめと呼ばれるフロアらしいが、実際に来てみたところ、雨など降っていない。
とおりあめ……通り雨……飴? 透り?
透り雨?
いや、透けているという事もない。もし雨が見えないとしても、感覚で分かるはずだ。それを踏まえてもう一度言うが、ここの階に、雨など降っていない。
「でも、良い所だなー!」
ウサギの言う事も確かだった。
うるさすぎない緑と、優しい陽の光。室内とは思えない自然環境は、ピクニックに最適である。
時折、牙を尖らせた魔物も……
「ん、あっちいけ」
「ピェェエエエエエッ!!」
ウサギが一瞥するだけで恐れ逃げていく。本能で、継承者の恐ろしさを察知したのだろう。それすらも分からない鈍ちんのアホも現れるが……
「天寿を全うして下さい」
カレハナの力 “成長” が、襲いかかる魔物を一瞬にして老いらせた。生を操るカレハナに、この程度造作もないこと。
ただ、目の前で1秒も経たず寿命が来て死に逝く姿を見ていると、長生きとはなんだったのかと自問自答。しかし、本人は満足しているらしかったので、それは気にしないことにした。
「そういえば、お昼どうしようかなー」
「ピエェェエエエエッッ」
「いや食べないぞ!?」
完全にウサギはピラミッドの天辺、捕食者として認められたみたいで。これまで近くで様子を見ていた他の魔物達も、お昼発言で全て逃げ出した。
少し、ウサギが可哀想だった。
しっかし、何だったんだろうなぁプッツェンバーガーのあの自信は。
ま、いいか。
この木で少し休むとしよう。
木漏れ日が素敵だ。
「雰囲気に生きる男。それが俺だ」
「何言ってるんですか。バカっぽく見えますよ、兄さん」
カレハナが隣に腰掛ける。未だ慣れない兄呼ばわりに、思わず黙ってしまう。ウサギは彼方に逃げた魔物を名残惜しそうに見つめながら、カレハナの言葉に興味を持った。
「……」
「にいさん? アリスはカレハナのお兄さんなのか?」
「貴方と魚の継承者と同じ関係です」
「ああなるほど! ……でもおかしいな。アリスはあんまり、嬉しくなさそうだぞ」
「それは今後の課題ですね」
「何でアリスは嬉しくないんだ?」
「それが分かれば苦労しないんですが……そういえばアリスは、血の繋がった妹がいるんでした。参考程度に、どんな風だったか教えてもらってもいいです?」
「どんな風と、言われてもなぁ」
妹……家族……素晴らしい響きだ。とても大切なものだ。欠けがのない。だからこそ、パズルのピースのように、欠けてしまったら最後、元の姿には戻られないのかもしれない。
「仲は、良くなかった」
「おや意外です。どうしてでしょう」
「フッ……俺が天才だったからかな?」
「成る程その性格故でしょうか」
「おい」
「はなもち? ならなかったんだろうな!」
「お前まで」
難しい言葉を使って、ウサギまでもが責めてくる。
辛い。
「……お前達の言う通りなのかもしれない。仲は良くなかった。どころか、向こうは俺を嫌ってた様にも思える」
「アリスは嫌いでしたか?」
「まさか。あいつは俺なんかと違って頑張り屋さんだった。それに、妹を嫌う兄などこの世にいるものか」
「多分、私の兄は私を憎んでましたが」
「……」
「……」
遠くで鳥の鳴き声がする。
風そよぐ。
蝶々が目の前を通り過ぎる。
「あ、蛇」
ウサギがそれを指さして言った。確かに蛇がどこかへ行く所だった。因みに蛇は、ここ最近この世界で不吉な象徴だった。
「……」
「……」
「……」
遠くで鳥の鳴き声がして、風そよぎ、蝶々がフラフラ飛んでいく。
……
「少し、眠ろうか」
「それもいいですね。賛成です」
「土の感触が懐かしいなぁ」
……
……
◆オマケ◆
アリス「全くヘビーな話だぜ」
カレハナ「」
ウサギ「……? 蛇足?」
アリス「」
◇◇◇◇◇
『ーーー』
『ーー兎を追いかけて』
『私は彼は君は、アリスは』
『真っ逆さまーー』
『ーーー』
〜〜〜〜〜
……む。
人がぐっすり眠っていたというのに。
今、頭に直接声が届いた。
女性の様な声だった。この声はあの時と同じ、ダンジョン最上階で聞いた声だ。
「んぅ……どうかしましたか?」
「……いや、何でもない」
「もう朝かー?」
ウサギも起こしてしまった。朝というか今は昼だが。
と、その時。
寝ぼけたウサギの、耳が動く。
ピンッと張り詰めてーー俺たちには聞こえない声を感じ取ったみたいだった。
「何が聞こえた?」
「なんか……危ない気がする」
そう言うや否やウサギは駆け出した。呆気にとられた俺とカレハナも、顔を見合わせてウサギに続いた。
そして、ウサギの背中を見ながら、先ほどの声を思い出す。
『ーー兎を追いかけて』
……どうも、試されているらしい。
その推測が確信に変わったのは、ウサギが野生的な視力でそれを捉えた時だった。
「男の子がやられてる!」
俺も、ウサギの視力を模倣させてもらうと、確かに1人の冒険者がやられていた。このままではいずれ屍行きだ。
ただ、気になったのは敵の魔物。ここ24階とは不釣り合いの暴力的な魔物が何故ここにーー声の正体はなかなかどうして、おふざけが過ぎる。
「助けよう!」
ウサギの言葉に、わざわざ異論もない。俺たちは一瞬だけ視線を交わし、剣をとったのだった。
◆オマケ◆
一方その頃
サクヤ「う、浮気なんて……いやいやまさか、ハハッ、そんなはず……そんなはず……うぅ!」
屋根裏フライン(浮気? ……外っ……マ、マニアックエロ過ぎる!!)




