まだ日常
◇◇◇◇◇
空気が暖かくなってきた。こんな日はピクニックでもどうだろうかと提案すると、カレハナはもちろん、ウサギも一緒に行く事になった。残念ながらサクヤは忙しいらしい。グレイ? 知らん。誰だそれ。(せっかく誘ったのに面倒くさいからと断りやがった。もう口聞いてやらない)
ピクニックに行くにあたって、ではどこが良いのかという話になったが……
「金の国はどうだろうか! そしたら姉さんとも一緒にピクニックだ!」
そんなお友達感覚で言われても。いや家族だろうけど。今はウサギは黒の国にいて、お前の姉は金の国にいるという事を自覚してほしい。
「当然却下だ」
「なんで!?」
「あっちは忙しいんだよ。今もきっと、寝る暇もなく山のような紙の束と睨めっこしてるはずだ」
「な、なるほどっ……ん! だったら妹として私も手伝いに行った方が」
「これ以上の試練を与えてくれるなよ」
さらりと恐ろしい事を思いつくものだ。そんな事をすれば最後、奴らの仕事は二倍に増える。
「ではダンジョンでどうでしょうか」
今度はカレハナからの提案。
瞬時に言葉を返すには、俺の中のピクニックとカレハナのそれが余りにもかけ離れていて……
「それは……どう、なんだろうな。念の為に聞くがカレハナよ、ピクニックとは何か簡潔に答えてくれ」
「自然と親しむ事ですよね?」
いささか抽象的ではあるが、まあそんなものだろう。
外に出かけ、小鳥のさえずりを聞きながら食事を楽しみ、小川のせせらぎの中読書に勤しんでみたりするのが俺の理想だ。
しかし悲しいかな。魔物の雄叫びを聞きながら狩りを楽しみ、次の獲物までの移動中イメージトレーニングに勤しむ事を俺はピクニックと認めない。
ダメ押しとばかりに付け加えるなら、ダンジョンってきっと、自然じゃなくて人工だと思う。
「ダメですか? ダンジョンならば階ごとに決まったエリアがあるので外れという事はないでしょうし、美しい景観もしっかり存在します。このメンバーなら魔物の危険も心配しなくていいのですから、近くて便利、且つ安全の三拍子。むしろ選ばない手はありません」
正論だった。自分の見知らぬ土地を出歩くのも悪くはないと思うが、その結果延々と獣道を進まなければならないという悲惨を迎えるかもしれない。
その点、ダンジョンは事前に情報を得る事ができる。これは大きなメリットだ。カレハナの言う通り、外れは選ばない。
……だがなぁ。
ダンジョン、ダンジョンかぁ。
どうにも納得がいかな…….
「ダンジョンでピクニック? それだったら私も姉さん達とやった事あるぞ。いやー楽しかったなー。……ほんと、あの頃は、楽しかったなぁ」
「……よーしダンジョンにピクニックに行くぞ! 早速支度をしようじゃないか」
ダンジョンでピクニック?
実に合理的で良い判断だと思います。
◆オマケ◆
サクヤ 「行きたかった行きたかった行きたかったぞぉ〜!」
天井裏フライン (ピクニック……男1人女2人……内1人妾候補……エロいっっ!!)
◇◇◇◇◇
「……んで、俺のところに来たと」
冒険者ギルド。
逞しい肉体美を誇る冒険者に、俺は迷宮のおすすめスポットを聞きにきた。(因みに女性陣は扉前で待たせている)
この筋肉ガチガチの男は何を隠そう、プッツェンバーガー君である。本当はサーシャが良かったが、いない。だったら知り合いはこいつくらしかいなかった。
しかしどうした事か。
お人好しで有名なプッツェンバーガー君が、あまり乗り気ではない。
「あまりこういう事は言いたくないんだが、俺はよぉ、あんたとだけはどうも話しづらいんだよなぁ」
なんと。
こちらも同感だった。
「まあまあ、過去の過ちは水に流そう。互いにな。俺たちは大人なんだから」
「んん……ま、いいけどよ」
「それじゃあ、何か心当たりが?」
「あるっちゃあ、あるな」
ほお。もどかしく焦らしながら、誰かに話したくてたまらない、そんな顔。
これは期待できそうだった。
「24階、通称透り雨のフロアだがな、ここがきっと、戦士様の望む最高のピクニックエリアって所だろうよ。何と言ってもあそこにゃあーーあ、ちょっと待っててくれ」
急に席を立ったプッツェンバーガーが、受付までズカズカと大足で進むと、そこにいた少年の首根っこをつかんだ。
「わ、わわっ」
「ん〜なになにぃ……おい坊主、こりゃどういうこったぁ?」
「えっと、これは」
「その階の魔物は角が鋭でえんだ! ほらこれとこれをさっさと着やがれ!」
「わっぷ」
「こことここに着けるんだよ。そうすりゃあ移動に何の問題もねえからな! いい加減覚えろよ!」
「あ、でも、これのお代を」
「もともと捨てようお思ってたやつだからいらねえよ。そんなサイズ、俺が持ってても意味がねえ」
一方的に少年の面倒を見て、一通り満足したのだろう。「……ったく」と苛立ちを隠しきれないまま、こちらへ戻ってきた。
「最近の奴は基礎がなっちゃいねえ」
「ほどほどにな」
「当たり前だぜ。面倒みきれるかっての」
見るんだろうな……不器用だから接し方に難を残したまま。
俺ならもっとスマートにやれる。黒の戦士から、とでも言えば。奴ら頭を床で削らんばかりの礼をするだろう。そして不満を置き去りに忠告を受け入れる。ほーら簡単だはっはっは!……はは……はぁ。
いかんな。
だからこいつといるのは気が進まなかった。どうにも調子を崩してしまう。まだ腹に一物抱えた怪しいキャラと相手をする方がやりやすくて仕方がない。
「それで、話の続きを頼む」
「おおそうだったな、24階だったか。えー……あそこは透り雨のフロアと呼ばれていてな、あんたら基準で考えれば出現する魔物に特別強いもんはいねー。問題はあそこの雨っていうのがーーちょっと、ちょっとだけ待っててくれ。すぐに終わる」
またもや席を立ったプッツェンバーガーは、またまた受付の所まで行くと、オロオロした少女に声をかけた。
……もう知らん。勝手にしてくれ。
24階だったけっか。
それだけ分かれば十分だ。
◆オマケ◆
新人受付嬢 パクパク (こ この子 無茶してますぅ)
プッツェンバーガー(ったく、仕方がねえなぁ)
ベテラン受付嬢 ハンドサイン (例の子です。頼みました)
プッツェンバーガー (おいおい。俺はここで働いてるって訳じゃねえんだぞ……はぁ、やれやれってんだ)
◇◇◇◇◇
ピクニックに行く。ダンジョンの24階に行く。ここまで決まった。
後の問題は……
そう、これこそ最も重要な問題だが、俺たちは何と、弁当を持っていない!!
ピクニックといえば弁当! 弁当といえばサンドイッチだというのに!
「現地調達でいいのでは?」
カレハナがぶっ飛んだ事を言ってくれる。ダンジョンの現地調達って、もうそれ俺の知ってるピクニックじゃない。
若干サバイバルだ。
「じゃあ買えばいいんじゃないか!? どこからでも肉の焼ける良い音が聞こえてくるぞ! あっちから、こっちから!」
ウサギが興奮したように露店やらを見つめる。店で働く奴らはこぞって金になりそうな獲物を見つけると、途端目がギラついた。
ーーめっさ食いそうだぞめっさ
ーーありゃバリ美人かねぇ安くしちゃろ
ーーじっちゃんあそこ
ーーむ、金か
ーー違うよ! いや確かにそうだけど!
どうも1人、客を金としか見られない拝金主義者がいた。
ウサギの野生の感覚は見事にそこを感じ取った。そして、獣顔負けの本能は、それを良しとしなかったらしい。
「やっぱり……やめとこうかな」
ウサギがこうなってしまったから、もう、選択肢はカレハナの現地調達しかない。
どうも腑に落ちない感覚のまま。
俺たちは、ダンジョンに入った。
◆オマケ◆
ダンジョン門番「こ、これはこれは黒の戦士様。どうぞどうぞ、え、許可書? そのような物貴方様ならいりません。しかし戦士様が下層の24階ですか……何しに行かれるので?」
アリス「ピクニックだ」
ダンジョン門番「えっ」
アリス「ピクニック」
ダンジョン門番「……さ、流石は戦士様ですね!」




