表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
47/70

天才に、間違いは起こらない

◇◇◇◇◇


 何はともあれ、金の国との戦争は、こちらの圧勝で終わった。というか、向こうの自滅のようなものだった。


 何しろ……


 不自然な単独行動。

  

 不自然な強制死軍。


 極め付けには


 「人」の失踪。

 「蟲」の死亡。


 こんなの一体どうすればいいのか。国の中の兵は最低限しかおらず、継承者を2人も失い、これから金の国は対応に追われるらしい。


 それに、戦争で勝った黒の国から、どんな要求をされるか分かったもんじゃない。


 けれど、そこはサクヤ。


 元々不可侵の条約を結ぶ予定だったらしいが、あろう事に、金の国との同盟を結んでしまった。


 いやいやいや。


 それはきっと、俺が思うよりもずっと重大な事だろう。いいのかよ。


 と、考えている事が顔に出てしまったのか、サクヤから言われてしまった。



『これは私の意志というより、其方を尊重したのだがな』


 そりゃあ、ウサギはどうも見捨てられないし、パワーバランスが不安定な現状、金の国と同盟を結んでくれたのは嬉しい事だが。


 っと、そうそう、ウサギだが……


 奴はまだまだ、この、黒の国に居座るらしかった。


『ほら、私がここにいれば、えーっと、そうそう、仲良しって事で、がいぶんがいいんだろ? だ、だからあれなんだぞ。私はもうちょっとだけ、残るんだ』


 訳せば、これからもよろしくお願します、との事だ。


 あれだけ心配していた姫様とやらはどうするのかと聞けば。


『う、うん……姉さんが張り切っちゃって、多分、これから一日中べったりだから……私の入り込む隙が無いと思うんだ』

『むぅ、納得出来てしまう』

『あはは……それに、いいんだ。2度と会えないって訳じゃないからな!』


 良い笑顔だった。


 ぶっちゃけると、確かにウサギが本当に会いに行こうとすれば、恐らく1時間とかからず金の国に着けてしまうからな。


 だから、残る問題は……


〜〜〜〜〜


「う、う〜ん」


 アースンがとある扉の前で唸っていた。少し眺めていたが、さっきからずっとそうしている。時々こちらをチラッと見てくるのは何なのだろう。


「……どうしたんだ?」

「あ、黒の戦士様!何て偶然!」


 ちょっぴりイラっとした。


「猿芝居はいい。用件を言え。あ、いや、やっぱり言わなくていい。大体わかる」

「ふむ、さてはエスパーか」


 いや、ジーニアスだ。


「この扉の前にいるんだ。馬鹿でもわかる」

「ま……ですよね」


 アースンは困ったように、その扉を見つめた。察しの通り、中には引きこもりまっしぐらの道へ進もうとしている元金の戦士……カレハナがいる。


「あれからずっと部屋に入ったきりでして、返事はしてくれるんですけど、それだけです。ボスーーメイド長は大丈夫としか言わないし、こうなったら私が強引に! ……と、思ったものの、そんな簡単に私が入っていいのかと迷っていたところです」

「……そうか……お前、案外」

「このままだと、私の仕事量が増えてしまうっていうのに」

「思いやりのある人間、と少しでも思ってしまったさっきの俺を殴りたい」


 軽口叩いている時ではないというのに。


 目の前のメイドときたら……


 穴は掘れても、本音を隠すのはどうも下手らしかった。


「じゃあ、後は任せますよー黒の戦士様」

「丸投げか」 

「えへへ……でも、待ってて良かったです。メイド長の言った事、少し分かったような気がします」


 アースンはそれだけ言うと、何も心残りは無いとでも言わんばかりに、どこかへ行ってしまう。



 ……本当に行ってしまった。


 一緒に入るという選択肢もあったはずなのに、って違う違う。


 なにを弱気になっている。


 そうだ、俺のこの覚悟なんか、実の兄を仕留めると決意したカレハナに比べれば、些細な事だ。


「ふぅー」


 扉に手をかける。


 やけに重たい気がした。


 気のせいだ。


 女々しい事も言ってられない。俺は勢いよく扉を開けた! 中に入る! 目に涙を浮かべたカレハナがいた! ……俺はそっと、扉を閉じた。


 女々しいというか、単にとてもかっこ悪い男の姿が、そこにはあったと思う。


 因みにどうでもいいが、初めて見るカレハナの寝間着姿であった。

〜〜〜〜〜


「紅茶……入れますね」

「あ、どうも」

「私が食べた残りでよければ、簡単なお菓子もあります。持ってきますね」

「あ、どうも」


 ……はっ、何て事だ。


 いつのまにか椅子に座らせてもらってる。。手元には紅茶が。そして間もなくクッキーが。


 これは、もてなされている!


「はい、どうぞ」

「あ、どうも」



 わーいクッキーだ……


「って、違うだろ!」

「はい? あ、もしかしてそのクッキーが気に入りませんでした? 一応それは、ダンジョン九十五階産(ランク95)の、貴族ですら滅多に口にする事のない高級品ですが」

「いや俺はクッキーに不満があるんじゃなくてこれ美味しいな!」


 つい食べてしまった。


「因みに、そちらの紅茶は八十二階産(ランク82)のフレーバーティーに、私が少々アレンジを加えたものです。独特の甘い香りが楽しめて、そのクッキーにもよく合うと思います」

「いやだからなぁ、俺は食後のデザートを堪能しにここへ来たの訳ではなくてマーベラス!」



 甘さ控えめのクッキーに、更なる配慮を可能にしたのはこのカレハナオリジナル。飲むまいと頑なな態度をとった俺を、その聖母のような風味で誘惑。


 つい飲んでしまった。


 悔いなし。


 いやー流石はメイドというべきか、素晴らしい技術だ。


 そういえば、俺の専属でもあった。



「ーー大丈夫ですよ、私は」



 今はもう懐かしい、俺がこの世界に来たばかりの事を思い浮かべようとしたその時に、カレハナは悠々とした態度でそう言った。


 紅茶を飲みながら。


 喉を潤している。



「あれでも、昔は優しかったんです。一緒に泣いて、一緒に笑って……私はその時の事を、一度も忘れた事なんてない」



 ……言うべき、なのだろうか。


 お前の兄は、既に蟲の手にかかり、軽い催眠状態に陥っていたのかもしれないと。


 グレイが言うには、魚の継承者であるピスケスとやらの首に、小さな虫がついていたらしい。


 恐らく、その虫は試作品。デスオを目当てに来た、今は死んだ2人についていたあの虫こそが人を操る完成系なのだろう。これは、あの沈黙姫とやらの中にいた。


 試作品かそうでないのか、どちらにせよ、マンカイーノ・マリーゴールドも蟲によって歪まされていたことに違いないだろう。金の国は、内側から侵食されていたのだ。



「最期、兄から睨まれたあの目も、私は忘れてはいけないんでしょうね。

 はは……知りませんでした。もしかしたら仲が良いと思っていたのは私だけで、兄は元々、私なんか嫌っていたのかもしれないです」



 言うべき、なのだろうか。


 しかしその場合、カレハナの後悔は、今はもう枯れてしまった憎しみの花に水をやる事と等しい。


 珍しく迷ってしまう


 だが……


 ーー結局俺は、言わなかった。


 わざとらしく死者の軍勢の事を伝えたマンカイーノは、きっとそれを望んではいないだろうという、まあ、俺の勝手な独断で。


 言えるものか。


 自慢の紅茶に涙を注いでしまっている、そんな姿を見てしまっては。



「何はともあれ、きっかけはどうであれ、決着のついた兄妹喧嘩こそ、虚しいものはないよな」

「……ですね」



 まだ元気の出ないカレハナ。それは当然だろうが、明日は大丈夫だろうか?


 これ以上俺がいても仕方がない。


 最後に残りの紅茶を一気に飲み、立ち上がる。紅茶のお陰で、カラカラになっていた喉が少しは癒された。



「それじゃあ、明日からもよろしく頼むぞカレハナ。お前は俺の、付き人でもあるんだからな」

「はい、分かっています。ですがーー」



 カレハナも席を立った。


「明日と待たず、今日からでもいいんじゃないですか?」

「何を……」


 その時、世界が揺らめく。まるでカレハナの言葉が合図だったかのように、視界の全てが形を成さず……


 いや、違う。


 揺れているのは世界ではなく、俺の方だった。崩れ落ちる意識とは別に、やけに耳に入ってくるのはカレハナの言葉。


「ランク99階産(ランク99)の睡眠薬です。その過剰すぎる効果に、別名“永久(とこしえ)の夢”と言われ、更に私の力によって活性化させた成分を紅茶に混ぜましたが……貴方は耐性が強すぎます」


 半ば呆れ気味に褒められる。


 そりゃあデスオの爪には睡眠麻痺即死の、正に夢のような毒があったし、それを克服する為にその毒を何倍にも濃縮させたものを直飲み。死亡。これを何回か繰り返すだけで、その頃慣れていた俺は体の中に完璧な抗体を作り出した。


 カレハナが盛った毒にも、それなりに対抗してくれていたらしい。


 それも今はこの有様だが、しかし忘れてはいけない。俺がカレハナの身体状態を模倣してしまえば、毒など関係ないのだ。だからやろうと思えばすぐにでも身体を動かすことが出来る。


 出来るが……



『明日と待たず、今日からでもいいんじゃないですか?』


「夜1人で寝ると、お化けが来るんですよ。お婆ちゃんが言ってました」



 俺は……このまま夢を見る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ