荒野を徘徊していた灰色の男
◇◇◇◇◇
ーー森にいた鳥達が飛び立った。
これまた勝負は、すぐに終わる。
案外そういうものかもしれない。命を賭けた戦いというのは。
「そ、それは……僕のっ」
後ろで、シュヴァルツを覆っていた鬼と姫が消えた。
奴が最期に睨むのは、俺の手元。
黒い黒い、剣。
ーー壱闇。
「一応、感謝をしておこう。こっちは、使わせてもらったぞ」
「そんな……ありえない!」
「ありえない?」
シュヴァルツは踠いていた。
再びの死を拒絶するように、再びその身を鬼と姫で包もうとして……形を保てずにそれらは消えていく。
「僕の、これはっ……全てを注ぎ込んだ技だ。それが、あんたの……いや、僕の壱闇で防がれるなんて………
ありえない! それは、最初の技だぞ」
「……なるほど、言いたい事は分かった」
六華そ……六……何たらかんたらが、壱闇に劣るはずがない、と。
そう、言っているのだろう。
「だが、俺はお前の、最初の一撃に感動した。今まで見た中でも一番のものだった。鋭く、力強く、何より真っ直ぐなそれを……俺はただ真似しただけだ」
結果は、見ての通り。
「そんな……僕はもう、最初から手にしていたというのか。最強の、一端を」
シュヴァルツの体から、全てが剥がれ落ちていく。周りの闇も、消えていく。
……いい天気だ。
太陽って素晴らしい。
「また、負けてしまった……」
仰向けになって、空を見上げて、シュヴァルツは最期の最期に呟く。
「ごめんな、グレイ」
〜〜〜〜〜
完全に息絶えたその瞬間に、陰から様子を伺っていたグレイが飛び出て、シュヴァルツの側に降り立つ。
目を疑った。
あの睨みデフォルトが、シュヴァルツを見つめるその時だけ聖母のそれだったのだ。
遺体をそっと抱きしめるグレイ。
誰だお前。
「ふぅ……遅くなってすまかったなシュヴァルツ。四年も待たせてしまったか」
「……っグレイ、お前」
ギロッと睨まれた。
「人の頭を覗いたか、変態」
「あ、ああ……ごめんなさい」
ちょっとした好奇心でグレイの記憶を見た。あまりこういうのはプライバシーに関わるので控えていたが、つい……思わず謝ってしまった。
……グレイは、シュヴァルツが死んだと聞かされて以来ずっと、シュヴァルツの体を探していたらしい。今となってはそれは金の国が大事に盗みとっていたと分かるのだが、そんな事もつゆ知らず、かつての戦場を渡り探し続けたグレイ。
そんなある日、新しい黒の戦士、つまり俺が来たせいで中断せざるをえなくなり、あんなにも不機嫌だった、と。
それも今日、終わった。
グレイはきっと、シュヴァルツの体を丁寧に葬るのだろう。
「強かったか、こいつは」
シュヴァルツをお姫様抱っこしながら、グレイはそんな事を聞いてきた。
「ああ、強かったよ」
「……そうか」
「もちろん、俺の方が上だけどな」
「ふんっ、馬鹿も休み休み言え。こいつは金の奴の力によって蘇った。つまり、完全じゃあない。元のシュヴァルツなら、お前など足元にも及ばない」
「馬鹿はお前だ。例えそうだったとして、束になっても俺だったは小指一本で事足りる」
「笑えん冗談だ」
「可哀想に。戦闘で頭がやられたみたいだなグレイ」
「……」
「……」
いつも通りだった。
グレイがいるという事は、ピスケスは大丈夫なのだろう。
だったら後は。
「カレハナだけ、か」
金の戦士 対 元金の戦士。
兄と妹。
……妹。
「心配なんて無用だ」
考え込む俺に、何を勘違いしたのか、グレイからの気遣い。
俺はこれっぽっちもカレハナの心配などしていないが、その根拠は気になった。
「どうして分かる?」
「……一度だけ、戦場でぶつかった事がある。理由なんて、それだけだ」
カレハナとグレイが時々見せる、こういう剣と剣をかわした者だけの通じあう謎の絆。
うーん、気にくわん。




