金の墓標
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“四の蟲”と“七の人”の継承者は、金の国の要として、城に待機(という予測)だから、ピスケスをグレイに任せるとして、マンカイーノをカレハナに任せるとして。
俺は目の前の金の戦士三体と、後ろに控えた黒の戦士一体を片付ければいいのだが。
難易度でいうと、インフェルノ? ヘル? まあ、それだけ難しいのだ。
大体戦士級が何人もいるところでおかしい。普通なら名乗る暇もなく殺されてしまうだろう。……そう、普通なら。
まあ! 俺は天才だからな!
「くっ……そ、気をつけろ! こいつ、俺たちの力を使いやがーー」
「フハハハッ! まずは、一体」
足元の金の戦士の心臓を一突き。天身剣が今、一人を仕留めた。
いやーしぶとい男だった。
〝時は金なり!〟なんていって、時間を金と等価交換していた。つまり、殺しても金貨二枚で蘇ったり、金貨一枚で体感時間を早めたり、30秒まで時間を戻したり……
第二の人格があるのか、戦闘中には「金!金!金ェ!!」と叫んでいた。鬱陶しかったので一番最初に倒せて良かったと思う。
「さて、次の相手は誰だ? お前か? お前か? それとも後ろの奴か?
誰でもいい。かかってこい。天才の前には誰もが等しく無力だという事を、その身を以て教えてやろう!」
全身黒という怪しい格好の男のセリフ。向こうにはそれが、真性の悪にでも見えたのか、まるで人を魔王か何かのように怯えていた。
「ちょ、ちょっーとヤバくないです? ん、もしかしてこのセリフ、2度目?」
「何と邪気溢れる化物。こんなにも恐怖を感じるのはサタン以来か……これは我々二人でもちと難しいかもしれんのう」
「そんなぁ」
小柄な金の戦士はすぐに弱音を吐く。だが、見てくれと言動に惑わされてはいけない。
あの年季の入ってる金の戦士よりも、誰よりも、恐ろしい力を持っているのだ。
「本当にたまったもんじゃないですよぉ。でも、やんなきゃだめなんですよね。命令ですしー……それに、ちょーっとイラッとしてますし」
あぁ分かる。久しぶりだその目。
こいつ気にくわないという、不敵な目。敵はどうやら、俺の事が嫌いらしい。
今その敵意は、純粋な力に変わる。
「地獄裁定金阿弥陀」
金の光が地面に映し出される。それはやがて、一つの魔法陣に変わった。
そして……
時間と空間を超えて召喚される超生命体。智慧は正確無比に、それを遮る者はおらず、奴の前では皆、自ずと頭を垂れてしまうほど。
……その貌。
仏というより、鬼に近い。
「成る程、俺に説教垂れるきか」
「油断は銅貨一枚にもならないって教わりましたからね。問答無用に、公正無私に終わらせます。
さあ、裁きの時です金阿弥陀! あの男の罪に、贖罪を!」
金の戦士の言葉で、金阿弥陀の両目がこちらを向いた。
その目は穏やかなれど、ギロリと睨まれているような錯覚を覚える。
それだけで奴は、俺の裁定とやらを終えたのだろう。静かに首を横に振った。
「金阿弥陀……?」
「申し訳ない主よ。私に、かの者を断罪する事は出来ませぬ」
「なっ……どうしてですか!?」
おや、おかしいな。
いつでも対処する準備は出来ていたのだが、内輪揉めか?
……まあいい。天才は天才らしく、堂々と構えていよう。
「貴方が、個人に肩入れするなんて」
「それは半分正しく、同時に間違いでもある。人は人を裁けるが、人でないものを真に推し量る事は出来ないのだ。故に私は、かの者の前では目が曇ってしまうだろう。そして何より……この結果は主の責任でもあるのだ」
「わ、私が?」
「……主の存在は、歪である」
「っ……」
思い当たる節があるのだろう。というか、簡単だ。
目の前の奴らは皆、死んでいるのだから。生き返るなどと、本来許されない。
「何事も例外はあるもの。だが、主のそれは……許せるものではない」
いや、許したくない。
と、その力は本音を語った。
小柄な金の戦士は理解し、納得して、憑き物が落ちたように晴れやかな顔となった。
「そっか、私こそ、裁かれるべきなんですね。もしかして、怒ってくれてるんです?」
「……その問いに答える必要性を感じえず。では、主よ。極楽浄土でまた逢おう」
判決が下された。
小柄な金の戦士は、その身を光に変えて消えて逝く。
残った金阿弥陀も、最後に俺を複雑そうな目で見て、結局何も言わずに消えてしまった。
最後の一人となった金の戦士が、納得のいかぬ様子で腕を組んでいた。
「……つまり、何もしておらぬではないか」
無粋な。
「ハーハッハッハ! ……計画通りだ」
「くぅ、やはり天才なのかっ!?」
アホめが。簡単に信じよった。
「さて、最後通告だ金の戦士。いや、蘇りの亡霊よ。貴様に欠片たりとも誇りがあるのならーー自害しろ」
「なんだと?」
「他人に死を弄ばれるというのなら、せめて自分自身で死に様を選べ。このまま操り人形の如く俺に跪きたいのなら構わん。好きにすればいいが」
「……それが出来るのなら、我はとっくにしている。しかしこの体は、あの小僧めにーー」
「それら既に、俺が解放した」
「なっ……やはり天才か!?」
もうその反応でいいから。あまり持ち上げすぎると逆にイラっとするから。俺という人間は全く面倒くさい性格をしていると理解してほしい。
さっさと終わって欲しい。
……そう思ったのは、きっと嘘だ。
何故なら俺は、終わらせたいのならさっさとそうする事が出来ていたのだから。マンカイーの能力を模倣した時に、こいつらを元の骨に還す事は簡単だったのだから。
「むう、確かに。忌々しい呪縛が消えておる。恩ができたな黒の戦士」
「アリスだ。……それで、金の戦士。それならそうと、何故お前はまだ、この俺に剣向けている」
「選んだのだよ」
「ほう、そんなに跪きたいか」
「いやーー」
まだ俺とやる気だった。
勝率など無いに等しいとしても、目の前の男は、逃げる事だけはしなかった。
「我が選んだのは、生き様だ!」
その男は真っ直ぐこちらに向かってきた。身体能力を上げるという、たったそれだけの力と同じように。直向きに。
天身剣をぶつける。
大地が割れた。
ーー勝負は、始まったばかりだ。
◆後書き◆
少し展開が遅いですが、もうしばらく我慢ください




