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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
序章 黒の戦士
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金ピカゴージャス 国宝級の贈り物

◇◇◇◇◇


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 城を抜け出そうと廊下を出た俺を、カレハナは止めた。

 何だ、こいつも暇じゃないはずだろう。さっさと出かけようという、俺なりに気を遣ったつもりだったが。


「不死の迷宮に行くって、本当ですか?」

「ああ、そうだ」

「もしかして、不死身のボスに戦いにいったり……?」

「もしかしなくても、そうだ」

「無茶です!」


 カレハナが叫ぶと同時に、彼女の体を中心として、得体の知れぬ何かを感じた。非科学的に言うならオーラ、とでも呼ぼうか。目に見えぬ霧が放出されているみたいである。


 そういえば……周りも、微力ながらオーラのようなもので満たされている気がする。ああそうか。これが単純一般常識に載っていた魔力と魔素だな。魔力はともかく魔素も人間が感知できるとは書いていなかったので、俺の場合は日本人として生まれて魔力が無いから、過敏にそれらを感じ取れるのだろう。


 簡単に、魔力が火種で魔素がガス。2つをうまく組み合わせる事で、魔法というメルヘンな力が生み出されるらしい。


 そして、それらを踏まえて今のカレハナ。平均を知らないのでよく分からないが、個人的にかなりの魔力を感じていると思う。ピリピリする。やはりカレハナはただの付き人ではなく……察するにーー


「聞いているのですか? いえ聞いてないのでしょうね。貴方は少し自分勝手すぎる!」

「ん、自分勝手? 俺の事だな」

「じ、自覚はあるようですね……」

「ああ、何度も言われてきたよ。無茶だ無謀だ無理だと。馬鹿みたいに同じ事を繰り返する愚か者達からな」

「私が……愚か者だと?」

「そうだな」


 カレハナのプライドに火をつけたのだろう。感じる魔力量が更に増える。これは最早ピリピリどころではなく、ビリビリ。強力な静電気を体全体で浴びているようである。


「自惚れが過ぎる黒の戦士。そもそも私は、愚か者ではない」

「いーやどうだろうな。俺を有象無象と比べて物を口にするあたり、愚かしさもここ極まれりといったところだ。そしてそんなお前らに、俺は毎度のようにこう答える。

〝おいおい、俺を誰だと思っている?〟」


 天才である、この俺に。


「……貴方こそ、どこの有象無象と私を比べているのかは知りませんが、これは忠告です。いかに戦士といえど、訓練もなしではお国の兵士にだって負けます。

 力を使うのと、使いこなすは違うんです。そもそも魔力が無い貴方は基礎というものがーー」

「魔力とは、これか」


 俺はカレハナがしたのと同じように魔力を体外に放出した。


「なっ、これは……!」


 ふっふっふ、驚くのも無理はない。つい先ほどまで魔力の欠片も感じなかった男が、急に莫大な力を見せているのだから。


 面白い反応も見れたので、魔力は再び消す。……魔力を放出するって、意外とこれ、キツイんだな。ずっと叫んでいる気分だった。


「私と、同じ量? でも……今は感じ取れない。本当に、全く魔力は無いはず。

 奇妙なの。それが貴方の力?」

「さあどうだろうな。だが分かっただろう。俺は天才だ。ならばこそ、力を使うと使いこなす、その一点において心配はない。そして訓練、これも問題はない。ご教授してくれるのが人間か魔物かになった違いだ」

「でも……」


 まだ不安そうだったカレハナだが、第三者の加入により、問題は解決した。


「ーーカレハナ」


 角男だ。俺よりも偉そうな雰囲気をしている角男だ。

 

「サクヤ姫がお呼びだ。行け」

「でもグレイ、こいつが」

「行け。そいつの面倒も俺が預かる」

「……分かり、ました」


 言葉とは裏腹に、まだ俺を気にかけていたカレハナだったが、角男の睨みによってようやく行ってくれた。というかお前、グレイって名前なんだな。


 グレイはカレハナ同様、俺をも睨みつける。もしかしたらこいつ、ただのコミュニケーション障害なのかもしれない。


「随分と面倒をかけているらしいな」

「ふんっ、誰かさんが最初からきちんとした説明をしてくれれば良かったんじゃないか」

「それは俺に対する嫌味か。全く、新しい黒の戦士は良い性格をしている」

「こんなーー」


 剣と盾を見せつける。


「安物みたいなもの代物を渡す奴よりは、まあ悪くない奴だろう」

「……ついてこい」


 やっぱりこいつ、巷でコミュ障とか呼ばれているやつに違いない。言葉少なに、俺へ命令をする。ついてこいと言う前に、付け加えるべきものがあるだろう。


 反抗的な態度を取るのも構わなかったが、馬鹿らしいので従う。


 が、奴のコミュニケーション能力に付き合う必要まではない。


「どこに行くんだ」

「……宝物庫だ。そんなーー」


 今度は剣と盾を睨みつけられた。


「安物みたいな代物を黒の戦士が扱うのは、色々とマズイのでな。宝物庫の物をなんでも使えとの事だ。サクヤ姫からの親切、感謝しておけ」

「ぷっ、やっぱりお前、俺への態度でサクヤ姫に怒られたんじゃないのか?」

「……黙ってついてこい」


 ふむん。ここからが面白いところだったのに、仕方ない。ここらで許してあげよう。からかうのはまた今度でいい。


 俺のささやかな良心によって見逃されたグレイは、俄然ぶすっとした態度のまま城の中を歩き、そして、そこへ着いた。


 ーー宝物庫。


 扉の取っ手にグレイが触れると、一瞬扉に魔力の波が起こる。これが単純一般常識に載っていた魔力認証というやつなのだろう。賊も商売あがったりな代物だ。


「入れ」


 ……俺も他人からすれば、いつもこんな態度なのか? ちょっと反省だな。


「へぇ……これは中々、圧巻の一言だ」

「我が国誇る宝達。当たり前だ」

 

 宝というあたり、この部屋はキラキラと輝いている。明かりはほんの少しだけだというのに、さながら夜空の星々のように煌めきを主張する。


 全部が全部、金銀財宝というわけではない。ベルト。鎧。兜。その他もろもろの武具。だが、それらがまるで石ころのように思えるほど、俺はとある剣に視線を吸い寄せられていた。


 ーー黒い、どこまでも黒い。


 ともすれば周りの光を吸い込んでいそうなほど黒い、漆黒の剣。近づいてよく見てみれば、柄には猫をかたどった意匠が施されていた。やはりその猫もまた、黒。


 ……黒猫。


「初代黒の戦士と共に戦場を渡り歩いてきた剣だ。真偽は定かではないがな。

 何故お前みたいな奴のどこをどう気に入ったのか全くもって理解はできないが、サクヤ姫はお前を信頼している。望むのならば、その剣を使っても構わないそうだ」


 初代が使っていたと言われる一振りの剣。信頼している事を示すのなら、これほど簡単な手はない。


 俺は漆黒の剣に触れた。


 ……ニャー………


 何か変な声がした。気のせいだろう。素人ながら振ってみる。


 ニャッ、ニャッ


「何か聞こえたか?」

「何の事だ」


 やはり、気のせいらしい。俺は満足して剣を元の場所に直す。


 ニャッ……!?


 最後に、そんな、素っ頓狂な猫の鳴き声を聞いた気がした。


「なんだ、使わないのか」

「……人の扱った剣を使うのは、どうも俺の性分に合わない。それが初代黒の戦士ともなれば余計にな。俺は俺で、他にお手頃なものを探すさ」


 結局、俺が選んだのは一振りの剣と、予備の短剣。共に銘無し。魔力を流せば硬くなるとかなんとか、魔力を持たない俺には今のところ関係ない。

 あとはやけに頑丈なスーツと、局所を守る防具を体につけて、グレイのアドバイスによりマントを羽織る。他は適当なアクセサリーだ。もちろん、何かの効果付き。


「しっかし、面白いほど真っ黒だな」

「ふんっ。金ぴかの鎧を着たければ、金の国にでも亡命していろ」


 いいのかよ……いや、金ぴかも金ぴかで嫌だけどな。

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