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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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二兎追うものは一兎を得た 前編

◇◇◇◇◇


 実際、グレイの勝率はごく僅かな物であった。体調は最悪。相手は継承者。そんな状況で普通戦うなんて考えず、ひたすら逃げるに徹するしかないだろう。


 まあ、逃げたとして、継承者から逃れられるという訳でもないのだが。


 ーー現在、グレイは苦戦していた。


 ピスケスは空中に浮かぶ水と水の間を高速で移動して、隙をついて攻撃を仕掛けてくる。安全で確実な嫌らしい攻撃だ。


 物は試しにしと水の球を剣で斬ったグレイだったが、結果は想定通り。液体をどうこうしろと言われても無理である。特にピスケスの支配下に置かれた水では尚更。


 故に……



「ちっ、シュヴァルツの剣が折れたか」



 最小限の動きでかわすグレイは、ピスケスの猛攻を受け流していたが、遂にテイカハンバイが砕け散った。


 特に思い入れがあるわけではないが、しかし、シュヴァルツが練習用に使った事のある剣である。


 ムカついた。


 動きを止めたグレイに、チャンスだと勘違いしたピスケス。


「終わりですっ!」


 守るものを無くした標的へと、水の刃で斬りつけてーー


 直後、身の危険を感じた。


 まさか自分は……と思ったが、自らの直感を信じる事に。


 結果、ピスケスは助かった。



「鬱陶しい!!」


 稀に見る事のないグレイの怒り。


 ピスケスは慌てて距離を取り、一旦見守ろうとした。


 そして気づく。


 頬に流れた熱い液体。白魚のような手を持ち、同様に綺麗で潤いのある肌を持つピスケスだが、その顔に一筋の傷が入ったのだ。紛れもなく、グレイの攻撃だった。


 傷の一つや二つ、こうして水につけるだけで癒せるが、解せない。


 ーーいったいどうして……


 武器を取り出す時間は与えなかったと思いながら、グレイを睨んだ。


 答えは単純。グレイは元々、武器を持っていたのだ。始めからその手に。


 鋭く、強靭なーー爪。



「元々、剣など俺の分野ではないのだ。慣れない事はしないものだな。少し、シュヴァルツの後を追いすぎたか」


 自分は今まで手加減された状態だったのか!! ……と、思う前に。


 ピスケスは苛立つ。


 ーーさっきからシュヴァルツシュヴァルツって、なに、恋人? 恋人なの?


 見せつけるな! と叫びたかったピスケスは知らない。


 シュヴァルツは、紛れもなく男である。もっと言えば黒の戦士である。



「なあ、貴様はあれを知っているか?」



 自らの爪を武器として余裕が出来たのか、戦闘中にも関わらずグレイが空を指差した。別に乗る必要もなかったが、ピスケスは空を見る。


 それは、「月」と呼ばれるものだった。空の遥か遠く、想像もできない場所に浮かんである月。


 子供でも知っている事だが、それがどうしたとピスケスは思う。


「月、でしょ」

「フッ」

「……」


 鼻で笑われた。

 非常にムカついた。


「じゃあ何だって言うのかしら」

「さあな、俺は知らん」

「……」


 馬鹿にされた気がした。

 とてつもなくムカついた。


 けれど別に、グレイ本人は悪気があるわけではない。月と呼ばれてあるだけで、噂では魔力の塊だと言われてあるだけで、本当にその実態を知らないし、知っているのならば教えて欲しかっただけだ。


「俺は知らない……だが、知らなくとも感じるものはある。

 この()は、アレに反応している。あの月がある限り、俺は、いや、俺たちかもしれないが、兎に角へっくしゅ」

「……」

「……すまん」


 グレイ、謝る事のできる奴だった。


 だが、それでさえも、今のピスケスにとっては火種にしかならない。


 戦いの場に戻すかのように、二人の間を強風が舞い込んだ。


「いいわ。謝らなくても。もう貴方の言葉は聞かない。すぐに、終わらせる」

「チッ……」


 グレイの舌打ちを聞けた。それだけで少しは溜飲が下がり……だからといって手加減するはずもない。


 これだけでは死なぬだろうという、見方を変えればある種の信頼とでも取れる思いを抱きながら。


 自らの技を見せる!


「水は此処に フィッシュハート!」


 自分の存在を書き換える。


 かつて世界を支配したと言われてる存在、海の支配者 “魚”へと。


 ーー危険ですよ


 座に組する者からの注意を受けたが、そんなもの、最初から知っていた。


 リスクの先に結果は応える。


 今、六の魚ピスケスは、継承者の真骨頂を見せたのだ。



「っ……さあ、終わらせましょう一匹狼。貴方は私に、勝てない」

「どうだろうな」


 圧倒的な力を前にして、グレイは尚も屈しない。それこそが彼の強さであった。


 能力ではなく、もっと別の、生きる上で根底たる強み。


 ピスケスにはそれが不気味に見えた。だが、それを否定する為にもこの戦いを終わらせようとして……


 グレイの言葉に動きを止めた。


 時間稼ぎはここにて達成される。鼻が利くグレイだからこその策。


「たら、ればの話に興味はない。だから、そうだな。俺が貴様に勝てるか負けるかは、またいつかの機会にするとしよう」

「なにを言って……」

「一対一でなくて、悪かったな」


 グレイが面白くなさそうに呟いた直後、森から白い何かが飛び出した。


 とてつもない速さだ。


 そしてその速さを、ピスケスは知っている。よく知っている。


 自分と同等、或いはそれ以上のスピードを持つ同じ継承者ーー


 ーーウサギである。


「ごめんな、遅れた!」

「元より待ってなどいない」


 軽口を叩き会う二人。


 ピスケスは信じたくなかった。


 本当なら、グレイのいるそこに自分はいるべきなのに。



「ウサギ……もしかして……貴女は私と、た、戦うつもりなの?」

「うっ」


 ウサギは一瞬、顔を顰めた。


 そう、一瞬。


 既に決意は固い。その一瞬でウサギは臨戦態勢に入った。



「私は、私の好きなようにする! 今の姉さんは間違ってると思うから! っていうか、何か一発殴りたい気持ちだから!

 手加減はいらないぞ! 私ももちろん、手加減なんてしない!」


 ウサギらしい、嘘偽りのない素直な言葉だった。


 だからこそダイレクトに伝わる。ピスケスはもう、目をそらす事は出来ない。


 ーー解きますか?


 脆い精神では耐えられない。そう判断して忠告された、座に組する者の言葉を……


 ーー……いいえ


 ピスケスは否定した。


 ウサギの登場に、一周回ってスッキリした。開き直ったともいえる。


 今だけは沈黙姫の言葉を気にせず、全力を出そうと思えるまでに。


 頭がクリアになった。


「分かった……でもウサギ、貴女が私に勝てるの? 今まで一度だって、私に勝てた事があるかしら?」

「うん」

「……最近私に勝てた事があるかしら?」

「ない! けど、私は一人じゃないから! 絶対に負けないから!」


 一人じゃないと言われて、嫌そうな顔をするグレイに少しばかり嫉妬して。

 その鬱憤をぶつける為にも、彼女は全力を出すつもりだった。

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