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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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腹黒の戦士

◇◇◇◇◇


「全く、何が容赦なき猛獣ですか。一人で勝手に突っ込んで自滅したって知りませんよ。あまり、継承者をなめないでください」


 森から遅れてやってきたのはカレハナ。


 彼女のありがたい忠告を、グレイは「ふんっ」と鼻を鳴らして返事をした。


 あいつ一度でいいから虚仮にしたい。先ほど川に落ちた種は、きっとカレハナの仕業のはずだ。あのサポートが無ければ、それこそピスケスは水を得た魚のように厄介なはずだったというのに。


 そう……ピスケス。カレハナの登場に俺とウサギは喜んだが、ピスケスは苦い顔をした。



「カレハナ姫……」

「ピスケスですか。久しぶりですね。本当ならば、ここは昔のよしみとして貴女と冷静に沈着に話を進めるのが正しいのかもしれませんが……

 ごめんなさい無理です諦めて。今ちょっと個人的にムシャクシャしていますから、むしろ今すぐに視界から消えないと命の保証は出来なかったり」



 怖い。怖いよカレハナさん。

 そして強い。


「私に勝てるお思いですか」

「貴女に負けるとでも?」

「……カレハナ姫、私も貴女に言いたいことはたくさんあります。でもーー」



 流石に分が悪いと思ったのだろう。


 木が二本程度では、川もすぐに勢いを取り戻す。ピスケスは流れ出した川に飛び込み、俺たちの前から消えさった。


 最後にウサギを、悲しそうに見つめて。ウサギもピスケスを、複雑そうに見つめて。



 しばらくすると、ウサギは俺の傷を思い出したのか、また体を揺さぶってきた。


 あれ、実はこいつ、殺しにかかってきてるんじゃあなかろうな?



「アリス! 大丈夫か!?」



 ぐわんぐわんと揺れる体は大丈夫じゃなかった。脳が、三半規管が。


 これ以上したらブチ切れようと思い始めたその時。



「ーーおい待て」



 ウサギの暴走を、グレイが止めた。


 それだけならいいのだが、グレイは不器用だ。油断なく、その剣をウサギに向けた状態で話しかける。



「俺は貴様を、そこの男ほど信用しているわけではない。本当ならば手を足をふん縛って地下に閉じ込めてしまうところだがーー」

「変態狼」

「ーー見ての通り、周りがうるさいからな。一応は認めた。だからといって、今後このように勝手な行動をされては示しもつかん。

 だから今ここで選択しろ。貴様は金の国につくか。黒の国につくか」



 ウサギに答えられるはずがない。優しさと甘さは通ずるものがある。


 カレハナのように自由に生きるか。ピスケスのように祖国を裏切られないのか。


 どちらも同じくらい思うが為に、ウサギは片方を捨てきれない。



「私は……」


 けれど、それでいいんだ。


 俺は好きなようにしろと言った。


 全て許すと。



「私は……姉ちゃんと姫様の……敵には、なりたく、ない」

「だったらーー」


 グレイの突き放した態度に、ウサギは最後まで聞かず吠える。


「だけど! 今はアリスを助けたい! ごめん! 私は馬鹿だから分かんないけど、そう思うのは間違いなのか!? そう思ったらいけないのか!?」

「むっ……」


 グレイは黙り込む。


 少しの沈黙は、カレハナの「やーい」という言葉(野次)ですぐに終わった。


 剣を鞘へと戻したグレイが、俺を負ぶう。結構乱暴なのは言うまでもない事だ。



「あっ……私が」

「いや俺が運ぶ」

「そ、そっか……」



 所在なく立ち尽くすウサギ。


 グレイは……ため息をついて。


 そっぽを向きながら言った。



「貴様は足が速いのだろう。一刻も急ぐ。先に城へ帰って治療の手配をしておけ」

「っ……わかったぞ!」



 兎の継承者は伊達じゃない。


 これまで見た中で最も力強い蹴りは、走るというより飛ぶに近い。


 すぐに森へと消えたウサギに対して、流石のグレイも唸った。



 そして、誤魔化すように鼻を鳴らして森に入ろうとして……



「おい」


 当たり前のように続いてきたカレハナを睨む。睨まれた本人は、何が何だかといった感じに首を傾げた。


「私が、何か?」

「……ん」


 グレイが顎で示したその先は。


 川に生えた二つの木。


 よく見るとそれは、川の中央に生えており、端的に言ってーー邪魔である。


 川の流れは止められないが、逸らすくらいはしているから、幾らかの水はそこらかしこへと撒き散らされたり。


 やはりーー邪魔である。


 特に何の問題もないかのように思えるが、長期的に見てこれからも何もないとは限らない。例えば嵐などでこの木が折れたりでもすれば、たちまち川の氾濫を招く恐れがあり、つまるところーー邪魔である



「あはは……そんな……冗談ですよねグレイ? だってあれ、あはは……一応貴方の為でもあるのですし……女性一人で何とかなるような事では……」

「終わるまで帰ってくるなよ」

「でもでも、あれ、根付いてる。しっかりがっちり、川底まできっと根付いてる」

「終わるまで帰ってくるなよ」


 にべもない。


「……わっかりましたよ! グレイのアホ! さっきの事根に持ってるんですね、木だけに!」


 半ばやけくそ気味に川へ向かうカレハナ。あいつのグレイとの掛け合いは、俺の時とはまた違う一面を見られて楽しい。悪口叩きながらでも絆を感じてムカつ……微笑ましい。



 ーーウサギは先に行き、カレハナは残し、遂に俺とグレイは二人っきりとなった。



 森の中、男に背負われるのは好ましいものではない。それが気にくわない人間なら尚更だ。


 ……あれだな、こいつ結構背中大きいんだな。知らなかった。


 やはり体幹がいいのか、ろくに補導もされていない獣道でも揺れがなく、心地いいというのもまた気持ち悪い。


 森だから当たり前のように獣も出てくるが、こいつほどの男ならば安心だ。それもまた、認めたくはない事だった。



「おい」


 グレイが誰かと喋る。

 もちろんここに、他の人間はいない。


「おい」


 脳内のお友達だろうか。こいつとの付き合いを、もっとよく考えた方がいいのかもしれない。


「おい、貴様いい加減に降りろ」



 ……



「怪我人に対する配慮が見られないな」



 俺は、グレイの背中から降りた。


 強張った体を肩を回したりしてほぐす。何もしないというのは、意外とキツイものがある。


 胸を貫かれたはずの俺がピンピンしているのを睨みながら、グレイが言った。



「誰が怪我人だ狸め」

「まあ、バレてたか」


 恐らくカレハナにも。


 俺を本気で心配していたのは、ウサギだけだった。


 ーーピスケスは自身の周りの水を操る。ならば俺に、水の攻撃が食らうはずもなかった。皮膚を突き破らせたのは、悪く言うとウサギの同情を引くためだ。



 ……森の中を二人っきりで歩く。


 男、とつかなければロマンチックだろうが、生憎隣はコミュニケーション能力に問題のある奴だ。


 狼だからか?


 今も憎まれ口のオンパレードである。


「あれだけ偉そうな事を口にしておいて……舌の根が乾かぬ内に、もしも貴様が本当に動けないほどの傷を負っているのならば、地獄の番狼の名にかけて、俺がこの手で斬り殺していた」

「そうかよ」



 こいつならば、本当にやっていたかもしれない。


 ーー地獄の番狼、か。


 いつか……いつか過去を悶える日が来るのかは分からないが、三つの頭を持つのなら一生そんな日はこないのかもしれない。



 少し、悲しくなった。


 まるで俳優のダメダメ私生活を覗き見してしまったかのような悲壮感を味わいながら、ふと、俺は件の番狼を見る。


 そいつもじっと、こちらを見ていた。


 睨んでいたのではない。見ていたのだ。



「気味が悪いぞ。なんだ」

「いや……」


 珍しくはっきりとしない物言い。


 言うか言うまいか悩んでいたようだったが、「夜」というこの場の雰囲気に流されてしまったように、グレイは言うを選んだ。



「こうしてみると、やはり……似ているな。シュヴァルツも全身が黒の服装だった」

「先代、か。服装だけだろ」

「ふっ、当たり前だ。あの男と貴様を比べるなど不敬に値する。黒はカッコいいが、貴様のそれは孫にも衣装とやらだ。所詮見せかけの紛い物だ」

「見せかけも大事……黒がかっこい?」

「何だ、何かおかしいか」

「……」



 今の俺の格好は、分かりやすく言うと、地球で通報ものである。



「……そうだな! ああ、今回ばかりは俺が間違っていた。黒はカッコいい。その通りだ。好みは十人十色だからな」

「ふむ? まあいい。シュヴァルツとまでは言わないが、貴様も失望させてくれるなよ」

「お前の為では決してないが、そこは心配するだけ無駄だぞ。

 俺は俺だ。つまりーー何の問題もない」



 何たって俺は……天才だからな。


 しかしグレイは俺のカリスマ性に嫉妬しているのか、「期待はしない」と言って、先を進む。


 

「ちょっと待てグレイ」


 俺はそれを引き止めた。


 もうすぐ城に着く。その前に奴に、頼まなければいけない事がある。




「俺をーー背負え」



 演技は、部屋に戻るまでが演技である。



◇オマケ◇


灰色の男「……重いな」

黒の戦士「鍛え方が足りないんだろう」

灰色の男「……少し痩せろ」


 俺はお前の恋人か。

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