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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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黒の国よ、俺は帰ってきた

◇◇◇◇◇


「アリスは……」


 隣のウサギは、会話が出来るほど持ち直したらしい。

 引きずられ運ばれながら、ふと、俺に喋りかけてきた。


「アリスは、どうして私を助けたんだ? やっぱり、私に惚れたからなのか?」

「……笑わないだろうな」

「うん、笑わない」


 自信満々の即答は、逆にこちらに迷いを生じさせたが、俺はウサギを信じる事にした。



「妹に、似ているからだ」

「……そっかぁ」


 ウサギは神妙に頷く。俺が悪いのだが、これには思わず笑ってしまった。


「な、何で笑うんだ」

「いやいや、俺の妹とお前はどちらかというと、真逆の性格をしている」

「…………あ! 嘘だったんだな!」

「当たり前だ。大体、俺の妹だぞ? 賢いに決まっている」

「変人、って事なのか?」


 何が変人なのか分からないが、数秒後、ウサギはうーんと唸ったあと、咎めるように俺を見てきた。


「その言い方だと、私が賢くないみたいだな」


 既に頭の回転が遅い(賢くない)



「……あれ、結局私はまだ、理由を聞いてないぞ」



 そこには気づいたか。まあ、隠す事でもないので言ってもいいんだけどな。


「俺は、俺のできる事をやっているまでだ。そこに他の人間と変わりはない。

 俺は俺だからな。人より多く何かをしているという事は、つまり人より多く何かをできる人間なのだ」



 それとーーもう一つの、自分でもはっきりとしない不確かな理由は、言わなくてもいいだろう。

 どちらかといえばこれは、「俺」というより、「黒の戦士」としての意味合いが強い。



 「兎」に対して、シンパシーを感じる。確か、初代黒の戦士は兎を仲間に連れていたらしいし、そのせいかもしれない。


 因みに、俺の本名にも、兎はあるぞ。誰でも知っている通り、不思議の国の「アリス」にも兎は定番なのだし……あれ、こう見ると案外、俺とこいつって、気が合うのか?



「とりあえず俺はお前を助けた。それでいいじゃないか」

「そう、だな」

「その上でもう一度聞こうかウサギ。お前は、俺と敵対するのか?」

「それはっ……私は、金の国以外は、敵だって教えてもらったし、でもそれだってよく分からなくなってきたし……でもでも、姫様と姉さんも裏切りたくはないんだ」



 あれだけ悩んで置いて、ウサギはまだ、決心がつかなかったみたいだ。


 いいさ。


 祖国の為、いっそ清々しいほど刃を向けて来る強さも。お前みたいに、色々な感情がごちゃ混ぜになった挙句、結局選びきれない優しさも。


 全ては微笑ましい。素晴らしき個性。


 天才だろうとそうでなかろうと、考え無しが最も好ましくないのだから。



「ま、とりあえずそのモチを取ることが最優先だから、お前がどうするかはその時に決めればいいさ」

「そ、そうだな! うん、私も今、全く同じ事を考えていたぞ!」

「はいはい」


 自分が優しすぎて怖い。


 言い訳をさせてもらえるのならば、下心がゼロではないのだ。あわよくばこのまま、ウサギを黒の国の戦力にしたいという……そんな黒い欲望が。


 この気持ちをウサギが知ったら、いよいよ人間不信に陥ってしまいそうなので、絶対に心の内に留める。


 ……あれ、やっぱり俺、優しい?


 馬鹿な。


「飛ばすぞウサギ!」

「え、な、なぁぁーーっ!?」



 俺は絶対に、ショコラやザッハトルテを凌ぐスピードを出した。


 一度ウサギを見ると、その速さに酔っていた。何故か少し、気持ちが楽になった。


〜〜〜〜〜


 ーー全力で走った結果、俺は城の前で偶然サクヤ達と合流出来た。ウサギはグレイ含む黒の人間に、怯え半分虚勢半分だったので、俺が前に出てサクヤと向き合う。


 こんなに早く合流出来ると思っていなかったのか、サクヤは目を丸くしていたが、(理由は不明でも)とても優しげな声で、「お帰り」と言ってくれた。


 「ただいま」と言ったつもりだが、ウサギがキョトンとした表情で俺を見ていたので、もしかしたら「たでゅーま」くらい口籠っていたかもしれない。


 伏兵がこんな所にいたとは。


 ふ、不覚。



◇◇◇◇◇



 モチツキ・ウサギには、義理の姉がいる。名をエスクス・エリダ。魚の継承者だ。


 彼女には仕えるべき、信頼すべき相手がいる。それはマリーゴールド家の三女、沈黙姫……近頃めっぽう口数の少ない(というか喋らない)事から、巷ではそう呼ばれている。


 そして彼女はそれと同じくらい、ウサギを愛していた。


 だから数分、いつもより森の散歩から帰ってくる時間に遅れたウサギを心配して、エリダは直々に森の中へ足を踏み入れた。



 ーー彼女が操るは水。



 自由自在に水を操作できる。それを前提として、エリダは秋の凍える冷たい川を泳いでいた。そこは、かつて自然の橋が構成されていた場所でありーーそれももう、瓦礫と化しているが、だからこそエリダはここで何かが起こったのだと確信した。


 一切の迷いなく川に飛び込み探索を始めたその結果、分かったことがある。



「そう……黒の国、ね」



 魚と会話する事が出来るのもまた、魚の継承者の力。


 エリダは魚から送られたキーワードとして、黒の国という言葉を明確に知る。



 しかし!


 エリダはここで、大きく時間を取られる事となった。



「ん?」


 ちょっとした好奇心。それがいけなかった。魚からの危険信号を耳に聞いた時には既に、水底の底へへばりつく白い何かを、彼女は触れていた。


「っ……」



 取れない。どうしても取れない。左手を使って取ろうとして、やはり取れない。どころか両手が使い物にならなくなった。



 エリダは焦る。彼女とて人間。鯨より遥かに水中へ留まることが出来るとはいえ、1時間を過ぎたら呼吸に苦しさを感じて、2時間を超えたならば意識が朦朧として、どれだけ体を静かにしても、3時間が限界だろう。


 泡にしてメッセージを飛ばす技もあるが、何しろそれは遅い。ここから金の国まで3時間以上はかかるに違いない。


 ここが湖ならば、まだ可能性はあったのだが、川は永遠に水が流れてくる。その強さは尋常ではない。


 いや、或いは、彼女がもう少し冷静だったのなら、他にもやりようはあったはずだ。けれど彼女は、そこまで精神的に強い人間でもなかった。


 焦りを感じて、思わず、その白い何かへ攻撃を加えたのだ。


 水中でこそ真価を発揮する彼女の、その威力が半端に強すぎたのもいけない。白い何かは一部飛び散りーーエリダの顔に引っ付いた。ここで彼女は、更に焦燥を募らせる。


 もう運命的と言っても過言ではない。だとするならば、それは奇跡ではなく、悪夢だ。暴れる体の行く先には、また白い何かがあった。エリダの体は、不安定な形で、がっちりと固定されてしまった。彼女にはもう、魚の言葉も、水の囁きも耳に届かない。



 ーーこうしてエリダは、およそ2時間の間、川の中で溺れていた。


 彼女を助けたのはアンリエッタ・ジ・ドラゴニスク。兎と魚が金の国所属ならば、彼女は無所属。


 一の竜の継承者である。


 そこで竜と魚の一悶着があるのだが、それはまた、別のお話。

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