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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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真っ青ウサギ

◇◇◇◇◇


「離せ! 離さんかグレイ! 」


 グレイの肩に担がれたサクヤが、そこから抜け出そうと必死にもがく。



「アリスは、アリスがまだいるだろう! 置いていくつもりか!? 貴様まさか、昔の事を引きずって私情を挟んでいるんじゃーー」

「黙れっ!」

「っ……」



 いつになく厳しい一言。グレイは怯えたサクヤを睨み、そして……ため息をついた。




「……少し、冷静になれ」




 その言葉を聞いて、サクヤは遅れながら現状に気づく。


 グレイの片腕は今、謎の物体により使い物にならず。馬車は落ちて、ショコラは体を痛め、ザッハトルテもまた体に謎の物体を引っ付けている。これでは歩く事はどうにかなっても、走る事はままならない。


 サクヤは自身の力を使い、自分がどれ程愚かだったのか知り、グレイの肩の上でしな垂れた。つまり……14歳の少女へと変わった。



「黙ったよ……冷静になったよう」

「それでいい。あいつは、黒の戦士は城に戻れと言った。その判断でいいな?」

「うん……いや、うむ。まずはその、ベチャベチャしたものを取るのが先だ。見たところ、そう簡単に剥がれるような物でもないからなーーあ、もう下ろしてよいぞ」


 サクヤの言葉はごもっともだったのだろう。苛々だたしげに右腕を振るうグレイだが、それは取れない。地面にこすりつけると、砂や石ころが更にくっつくだけ。単純に無事な左手で取ろうとしたところで、その手もダメになるだけに違いない。



「ちっ、忌々しい」


 ひとまず、それをどうにかするのは諦めたグレイに、ザッハトルテが心配そうに嘶く。


「ふんっ……お前のせいではない」


 実は、グレイもアリス同様に自分へ降りかかるそれは避けられていたのだが、ザッハトルテを庇うために右腕を犠牲にしたのだ。



「問題は、誰がやったかだな。無論、蟲は絶対と考えて……兎も怪しい。奴のせいで、蟲が作ったであろう当たれば儲けものトラップに直撃してしまった。奴がいなければ、ギリギリ素通り出来たはずだ」

「それは結果論であろう。こう言うのは気が引けるが、あのウサギにそのような芸当が出来るとは思えん。

 ああいうのは、嘘がつけないタイプ。私達とあの場で会ってしまったのは偶然……そうでなくとも、知らずに仕組まれたのだ」

「だが、白と決めつけるのも浅はかだな。……一つ、気になる事がある。あの兎、俺たちが誰だったか気づいたと思うか?」

「そんなことーー」


 そこでサクヤは思い出す。話し合いという言葉で、馬鹿正直なほど素直に頷いた兎に対して、自分達は黒の国とも、ましてやその姫とも言っていない。


 少し考えれば分かりそうなものだが、しかし、そこはあの兎だから……


 グレイはサクヤの反応を見て、確信した。



「黒の戦士が助けに入ったのは、やはり無謀だったかもしれないな。

 単純だからこそ、そこに気づいた途端、刃を向けてくるかもしれん」


「……アリス」



 どこにいるかは分からない。ただ遠くを、サクヤは見つめた。



 一度口から出した言葉を簡単には曲げない為に、サクヤはアリスを思う。まだ夫婦とまではいかないが、それでも、天才だと自称する代わりに少々アホっぽさが目立つアリスを、プライドは高いようだが変に子供っぽいアリスを、サクヤは思う。



「信頼、するぞ」



 今度会う時は、背中ではなく、堂々と真正面から……


 「お帰り」と言う。


 サクヤはそう決めて、城を目指し、前を向いて歩き出した。


◇◇◇◇◇


 一方、その頃。


 あの崩れた崖の下、流れる川を下に下にくだった所。


 揺らめく水面に魚が跳ねて、落ちる葉っぱを優しく受け止めるそこに、ザパァンと激しく、水中から何かが飛び出した。


 

 ーーまあ、俺だ。



「ぷはっぁ!」



 本格的にえら呼吸を学ぶべきだったと後悔しながら、空気中の酸素を堪能する。ああ素晴らしきかな生命。川の中で魚を模倣してみたものの、意外と難しかった。普通の人間ならば、溺れていたな。


 俺は重い服を引きずり、丸い石の目立つ砂利道を歩いて川から離れる。



「……」



 おっと、こちらも同様に引きずってきたが、どうも息をしていない。兎はぐったり、ピクリともしない。



 ……ふむふむ、ファーストキスは、親からのキスはノーカンだと言い張る奴もいるだろう。同じく、人口呼吸もキスの内に入らないと。少なくとも俺はそう思う。


 だからこの場合、すぐにでも蘇生に入ったほうが最善なのだが。



 ふと、サクヤの顔が浮かんだ。



「浮気、とは違うが……」



 どうにも、気が引けて。


 俺は継承者の生命力を信じる事にした。



「必殺 肺からリバース!」


 

 こめじるし : この俺が説明しよう。肺からリバースとは、ただ単に肺に肘打ちを食らわせるだけである。名前からして必殺なので、良い子はマネしないでほしい。



 絶妙な力加減が功を奏したのか、俺の肺からリバースは見事成功した。



「ぐえぅっ」


 およそ女性の口から出てはいけない言葉を発したが、死ぬよりはマシだろう。


 口から多量の水を吐き出し、兎は咳き込みながらも生き返った。


 

「ゴホッ、ゲホッ……な、なん、だ。敵、か。てきしゅう、なの、か……」


 兎は虚ろな目で辺りを見回す。あれ、大丈夫かこいつ。生き返ったと見せかけて、逝っちゃってないか?


 ここで死なれても後味が悪い。俺は、兎に分かりやすいよう手を振る。すると、向こうはゆっくりとこちらに気づき、ジーーッと見つめて………



「うおえっ」



 胃の中の物を、ぶちまけた。



〜〜〜〜〜


「つまり、助けてくれたんだな。ありがとう。お前優しい奴だな」

「言うな言うな。なんて事ない。お前が水中で暴れまわり、下半身にぶつからないようこちらが気をつけなくてはならかったのが辛かったが、なんて事ない」

「うっ、それは、ごめんな」

「だからなんて事ない。あまりにも鬱陶しかったので、腹を殴り気絶させたからな。お前もそう気にするなよ」

「ん? ……ごめん、な?」

「しつこいぞ。さっきなんて、お前の肺を痛めつけてやったからな。そんなに畏まらず、謝らなくたっていい」

「……」


 頭を使う事が苦手なのだろう。兎は頭をひねり、考えこみ、そして、誰に言うでもなく呟いた。



「こいつは、私に謝らなくていいのかぁ?」



 失礼な。どれもお前を助ける為の手段だったというのに。気絶させたのなんて、あの時の俺の判断を褒めたいくらいだ。



「何はともあれ、死ななくて良かったな。生涯俺に感謝して、これからは生きるといい」

「さ、さっきっと言っている事が、なんか違う気がするけど……うん、そうする」



 兎は、「そうか、これが姉さんの言ってた変人って奴なのかぁ」と言いながら、頭を払い水を落とす。そこはかとなく、野生を感じた。


 それから、下半身のそれーー以後モチとするーーを取ろうと躍起になっていたが、どうしても剥がす事が出来ずに、うな垂れた。


 そんな兎がくしゃみをしたところで、俺も少々寒さを感じ、火をおこす。魚も手掴みで取って焼いたが、兎は断った。



「ごめんな。魚はちょっと、わたし、食いたくないんだ」

「そうか?」


 食いしん坊そうなキャラをしているのに。仕方がないから、適当に果物でも取っておいた。途中でイノシシ(に似た生物)に襲われたので、返り討ちにして肉にした。もちろん、解体作業は兎の知識を模倣して。


 ここで俺の力について注釈。解体は知識なので、俺が覚えてさえいればこれからは模倣せずとも解体作業が出来る。しかし、えら呼吸なんかは作りが違うため無理だ。

 ある程度の条件が揃わないと模倣は出来ないから、今俺はデスオの力である再生 (身体的な意味で)と、その応用である逆再生 (早戻し的な意味で)は使えない。


 基本、俺の力は、近くにいる奴の力を模倣出来ると考えてよい。



「くっ、不便だ!」



 ん、兎は、上半身をうまく使って体を移動し、果物を手に取り口にする。

 体の一部が使えないというのは、思っている以上にキツイものだ。



「あ! そういえばまだ、私の名を言ってなかったな!」

「そういえば、そうだな」

「うんうん、それはダメだ。だからまず私から!

 私の名前はモチツキ・ウサギ。金の国に仕える、兎の継承者だぞ」



 兎……ウサギが自己紹介をした。ならば俺も、自分を語らせてもらおう。



「俺の名前はアリス。サクヤ姫に仕える、黒の戦士ーー」



 俺が黒の戦士と言い切らない内に、ウサギの瞳孔が細まり、俺を拘束しようと瞬時に体を動かして……



「ぽべっ!」



 下半身がついてこずに、そのまま地べたへとうつ伏せに倒れた。


 ……ま、そうなるよな。


「おーい、大丈夫か?」

「っ……当たり前だ!」



 ウサギはゴロンと転がり、今度は仰向けの状態で俺に喋りかける。


 締まらないなぁ。


 気が立っているのか、兎の耳がピンっと立っている。



「手を貸そうか?」

「いらない! というか、気安く話しかけるな黒のせんし! お前、私を騙してたんだな!」

「ん? あー、すまない。俺にも分かるよう、もっと難しく言ってくれ」

「え、むずかしく? えっと、えっと……そう! さっきの事だって、本当はお前の仕業だったんだな! 」


 さっきのとは、崖の事だろうか。



「あれはお前たち、金の国の者がやった事だろう」

「なっ……金の国をぶじょくする気か!」

「していない。ただ事実を言っている。

 まず事の始まりは、金の国の人間が、この不可侵状態において明確な盟約違反をした為、俺たちは直訴しに来たというわけだ。そしてそれを読んでいたらしい何者かが、さっきの罠を仕掛けていたというか事だ」


 何者というか、蟲、だろうがな。


「んんん〜? よ……よくわかんないけど、分かったぞ。金の国は、そんな事しない!」


 何故なのだろう。俺が黒の戦士だとわかった途端、ウサギがとてつもなく面倒くさい奴へと変わってしまった。



「よーく、よーく考えてみろウサギ。まず、俺たちがさっきの事をしたのだとしたら、何故俺はお前を助けた」

「……それは……私に惚れたからか?」



 こいつ、頭おかしいんじゃあないのか。


「お前などサクヤの魅力の半分もない。俺がお前を助けたのは……そんなに理由がある訳ではないが、その助けたという事実は絶対にして普遍のものだ。もしかしてもう、その感謝を忘れたとは言わせないぞ」

「そ、それは、でも。でもでも、金の国は栄光の国だ。そんな」 

「金の国など関係ない。だが、これらを企むーーだから、悪い奴が、お前の国にいるというのは事実なんだ。良い子がたくさんいるかもしれない金の国にこれはいけない事だと思って、俺たちはこうして動いた、と……わかったか?」



 幼子に物を言うよう、俺は優しく諭す。



「し、信じたく、ない」


 それでも、説得には至らなかった。それ以降黙り込むウサギを前に、これ以上の納得は諦め、俺は魚を口にする。


 それからウサギが、俺の取った食べ物に手をつける事は、一度もなかった。

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