いやその計算はおかしい
◇◇◇◇◇
あと一歩遅ければ……まあその時も何とかしたけど、あと一歩遅ければ面倒な事になったかもしれない。
やはりというか、当たり前というか、俺の言葉にグレイが真っ先に反応した。続いて馬二頭。
その瞬間、地面が爆ぜる。瓦礫と化すその隙間に俺は辛うじて見た、バラバラの昆虫とその中身。その中身がこちらに飛んできたので、横によけた。後ろでベチャッと音がした。
「くっ!」
崩れる足場のせいで、馬車の中にいたサクヤが空へと放り投げ出された。
が、ショコラが器用にサクヤの体を咥えて、安全な場所に移動しているグレイのところへ飛ばした。その反動で、空中に留まる力が尽きたのか、ショコラも下へ落ちていく。
「っ……ショコラ!?」
「止めろ!」
再び崖下に戻らんとするサクヤを、片腕に白い餅の様な物を引っ付けたグレイが止めた。
ああ、そうだ。それでいい。お前ならそうするだろうと信じていた。
ーー劣化天翔!
俺は空を駆けて、ショコラの元まで行くと、その巨体を掴む。ショコラは自分の運命を受け入れているのか、ただジッとしていた。
……忠義の深い。
その心意気、捨てるには惜しい。
「少し、乱暴するぞ。歯を食いしばれ」
空を踏みしめ、自分より遥か重い馬を、グレイ達の側までぶん投げる。
勢いあまって、大木にぶつかりやっと止まったショコラ。怪我がないといいが。
さて、この力も制限がある。残り二歩……これならギリギリ向こうまで届くな。俺も早くーー
「ぬわっ、な、何だコレ!」
……ああ、そうだった。
ここには兎もいた。
「くうっ! このこの!」
兎は、グレイが腕に引っ掛けてあるような白い餅の様なものを、こいつは下半身全てを包み込まれていた。確かその白い物は、昆虫の中身。先ほどの爆発で、それが辺りに散らばったのだ。
肝心の兎のパワーは、その何とも言えない粘着力の前に、エネルギーごと殺されている。
結果。
兎は落ちていく。
……あいつは金の国の者だ。このままいけば、戦力減らしに丁度いい。そうだ、合理的だ。天才的に悪魔的な計画だ。
サクヤを見る。彼女は、心配そうにこちらを見ていた。心の内を代弁するなら、早くこちらに来い8割、どうするの1割。助けて欲しいが1割。
グレイを見る。奴は、勝手にしろとでも言いたげにこちらを見ていた。心の内を代弁するなら、何でもいい10割。
なるほど、決まった。
面倒くさい事このうえないが、やれやれだとか不幸だとか言いたくなる状況だが、仕方がない。
圧倒的多数で、11割の、助けて欲しいを優先するしかないだろう。
「サクヤを頼んだぞグレイ! 先に城に帰ってろ。すぐに追いつく!」
劣化天翔に加え、兎の脚力を応用して、真っ逆さまに下へ落ちる。
川の中で溺れる兎を見つけて、その中へ突っ込もうするその時。
俺の名を呼ぶサクヤの声が聞こえた。
振り返らず、背中を見せた。




