インセクト トラップ もっちもっちの白子?
◇◇◇◇◇
1番足の速く持久力のあるらしい馬は、確かにとんでもないスピードで俺たち (と、二つの遺体)を運ぶ。
森を超えて荒野を超えて、あまりの移動速度に、景色が流れているのだ。それだけでこの馬がどれだけ素晴らしいのか分かるだろう。
「黒地馬と黒天馬のハイブリッドだぞ。翼こそないものの、多少は空を駆ける事も出来る。
因みに、左のショコラが私の相棒、右のザッハトルテがグレイの相棒だ」
サクヤの言葉に反応するよう、二頭は嘶く。……俺も欲しい。いつか最高の相棒を見つけてやろう。名前はオスだったらカカオ、メスならばティラミスだな。メイジガーナモリナガは……流石にないか。
それにしても早い。元々金の国とは隣同士だが、これなら夜も待たずに着くぞ。既に国と国の中間地点である森に入った。
「ふっ、まるで、何処ぞの田舎者だな」
俺の純粋な感動に横槍を入れてくるのは、もちろんグレイ。隅でひっそり、小馬鹿にしたような顔でこちらを見ている。
「止めんかグレイ。アリスはこの世界とは違う生まれ。馬車が珍しい事に何ら不思議はない」
おぉ、フォローが入った。
……何だかこう、味方がいるというのは、存外嬉しいものだな。
俺の視線に気づいたのか、サクヤが誤魔化すように遠くを見つめながら言った。
「ま、まあ、夫となる者が馬鹿にされるのは、見てて不愉快になるからな。うん。気にしなくてよい」
……夫、か。
「あー、そういえば俺はまだ、金の国の戦力を知らないんだよな。教えてくれないか?」
「もち、ろんだとも」
変な空気になったので誤魔化す。意図が通じたサクヤはそれに乗ってくれて、軽く咳払いをして言った。
「まず、言わずとも金の戦士がいる。今回は忌々しい事に、王であるマンカイーノがそれだ」
「王が戦士、ね」
「究極的に言ってしまえば、別に人でなくともよいはずだからな。そこは何でもありだぞ。だから王家の者が戦士というのも……前例はある。
さて、もちろん戦士だけではない。金の国は栄光の象徴。かつての名残りとして、強者ぞろいだ。その栄光も、前回の戦争で日の目を見ずに陰へと潜まっているが、いるにはいる」
ーー歴史の本で見た。金の国が世界征服を目指したその目先に、突如現れた謎の人物たちによって大敗北。あまりにも一瞬で終わった事から、泡沫戦争ともよばれてある。
一応犠牲は他国にまで及んだ。黒の国は、その戦いの中で戦士を失った。敗者である金の国は、人質、或いは賠償金代わりに、金の戦士を……ある意味では失った。
それは……いや、今はいいか。サクヤの言葉に耳を傾けよう。
「他に代表的なのは継承者だろう。なんと、あそこには人、蟲、魚、兎がいる」
九人はいるとされている継承者が、四人。それは確かに、とんでもない脅威だ。
「あ、因みに継承者だが、黒の国には一人もおらんぞ」
それもそれで、バランスが悪い。
「俺はてっきり、グレイが何かの継承者だと思ってた。ほら、角がある」
「いや……黒の国の者は、他国と比べて皆どこかしらに変わった身体的特徴がある。目に見えないだけで、翼を生やした者も珍しくはない」
あ、ああー。本で見たな。てっきり比喩表現かと思っていたのだが、実際に爪が異様に長かったり、尻尾が生えていたりする奴がいるらしい。
「サクヤはどこなんだ?」
「そ、それはっ……うむ、私のはあまり大っぴらにするような場所ではないからな。ふ、二人っきりの時なら、構わんぞ」
「……そっか」
せっかく誤魔化したはずなのに、また変な空気にしてしまった。
流石に煩わしいと思ったのか、フォローに入ってきたのはまさかのグレイであった。
「その蟲、だが。輝夜姫としてのお前の意見を聞いておきたい。今回の一件をどう思う?」
「ん……やはり、十中八九蟲による単独行動であろう。もちろん、協力者は他にいるかもしれんがな」
「……その協力者だが、兎ではないのか?」
「む? 何故そう思った」
グレイがよほど確信を持った、というか、まるでそれが当たり前かのように言ったので、サクヤの疑問は尤もだが。
簡単な話であった。
グレイが馬の走るその先を指差す。
「兎耳というのは、目立つものだ」
崖を挟んだ向こう側、その人間の頭上でピョコピョコと動かされたそれは、確かに兎耳だった。
◇◇◇◇◇
「止まれ!」
兎は俺たちに気づくや否やそう叫ぶ。こちらとしても敵対する意思はないので、大人しく馬車を止めた。
場所は崖の上。この部分だけ自然な橋となっているが、少し左右に移動して下を除けば、高所恐怖症が発狂するくらいの高さで、そこに川が見える。
兎はというと、ファイティングポーズのままこちらへ近寄ってきた。
「何しに来た! この先は金の国、気安く入ったらいけないんだぞ!」
「待ってくれ。私達はただ、話し合いに来ただけだ」
「話し合い? そっか、ならいいんだ」
兎はサクヤの言葉を刹那で信じた。その即断ぶりに、サクヤ自身が唖然としている。
そんな理由を知ってから知らずか、こちらが何もしないでいると、兎は体を左右に動かしながら兎耳を揺らし言った。
「でも、このしつこい音は止めてくれ。わたしは気になってここまで来てしまったんだからな」
少し怒っているようだが、しかし、何の事か分からない。
耳を澄ましても、そのような音は聞き取れず、グレイもサクヤも心当たりはないようだ。こうなったらーー
「使わせてもらうぞ、お前の聴力」
兎だからこそ分かったのなら、俺もそうなればいいだけの事。
結果ーー
………カチ………カチ………
「どうなのだ?」
「……確かに聞こえるな。規則的に、何かと何かが擦れ合うような音が」
カチ………カチ………カチ……カチ……カチ…カチ…カチ…
「いや、これは、段々音の間隔が狭まっている……? 出処は、下?」
馬車から降りて、地面に耳をつけた。今はもう、連続的な音となっている。
ふと違和感が頭を小突く。……俺はこの音を、知っている?
規則的な音ーーまるで時計。
狭まる間隔ーーそれは……。
「っ……下がれ!!」
導き出された答え。
それは、時限爆弾……!




