表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
序章 黒の戦士
2/70

予定調和の儀式、俺色に染まれぇ!

◇◇◇◇◇


 玉座の間にて、彼彼女らを見る。周りは兵で囲まれ、その中に角男もいた。前方には位の高そうな美男美女。


 俺はというと、腰に剣だけぶら下げた状態で何かを待っている。礼儀作法は齧った程度なのでおかしな部分もあるかもしれないが、そこは勘弁してもらいたいところだ。


「ーー黒の戦士」


 まず最初に喋りだしたのは、前方の美女。といってもこの中で一番偉そうな存在だ。


 全体的に黒っぽい艶やかな衣装。しかし見劣りしない、濡羽色の髪。


 なるほど、さすがは黒の国だな。


「そう張り詰めるな。そなたはまず、肩の力を抜くといい。名はなんといったか……ああ、有栖川 鏡兎だったな。長い。アリスと呼ぶぞ。アリス、私の事はサクヤと呼べ。サクヤ姫の方が、周りがうるさくなくていいかもしれぬがな」

「……お言葉に甘えるとしよう」

 

 他ならぬ姫からの名呼び。俺のアリス呼ばわりは、どうやら不変のものとなったらしい。


「素直なのは良い事だ……アレを」


 サクヤ姫が合図をすると、2人の女性が1つの水晶玉を恭しく運んできた。

 

 ……黒も黒の真っ黒黒。周りの光をも吸い込んでいそうな黒の水晶玉は、誘うように俺へ鈍い光を浴びさせる。


「これは?」

「儀式、なんていうのは、先人達が馬鹿馬鹿しく神聖視させていた名残に過ぎない。その実ただの水晶触り。

しかし効果は本物。普段は怪しい占いくらいにしか使えないそれも、正しき道を辿れば黒の戦士に力を与える」

「力……」

「潜在能力とでも言おうか。黒の水晶玉は、そなたの眠る力を呼び起こす。とにもかくにも、触れた方が早いぞ」


 それもそうだ。


 ……力。


 俺は天才だが、強いのかと聞かれればそうではない。もちろん戦場と戦術を選ばなければ負けなしだろうが、純粋な力比べではそこらのマッチョの足元にも及ばないだろう。ワンパンで沈む。


 それでよかったーー今までなら。


 しかしここは、拳銃を持っているだけで大騒ぎをするような日本ではない。


「さあ、触れるのだ。想いを込めろ。夢を。希望を。全てが混じり合った黒……自らの全てを注ぎ込め」


 サクヤ姫の言葉が脳を揺らして胸に響き、俺は水晶玉へと手を伸ばす。


 伸ばして……止めた。


「む、どうかしたか」

「……いや、もしも俺が強大な力を手に入れたとしよう。そうなった場合、お前はどうする?」

「ふっ、喜ばしいことこの上ないぞ。お前には分からんかもしれないがな、自国に優秀な戦士がいるというのは、そういう事だ。

それに金の国とのいざこざもある。そなたが強いに越した事はない」

「そこだ」


 誰も彼もがまるで当たり前のように思っている。何か勘違いをしてないか?


「俺がいつ、この国に仕えると言った?」


 周りがざわめく。中には武器を構えた者までいた。そういえば、カレハナが教えてくれたっけ。俺は警戒されている。不用意な事をすると、命が危ういみたいな……


 それくらいの常識を持っているようだが、俺が力を手にした後の事は考えていないのか?


「なるほど……なるほど……言いたい事はよく分かる。過去に一度もそのような例がないからして、そこに危機感は抱いておらんかった。

して、どうするのだアリスよ。貴様はこの国に刃向かうと?」

「俺に何かメリットがないか、気になるところだな」

「ふっ、望む限りのものは全て用意しようと思っておるぞ。何ならこの身を差し出そう。貴様次第で、心もな」


 サクヤ姫の案には、俺が絶句してしまった。あろう事か国のお姫様にプロポーズ紛いの事をされた。

 何だこれ、俺が思っているより、黒の戦士とは位が高いのか? んー、魔王がいないだけで、勇者みたいなものなのか。


「女はもっと自分を大事にした方がいいとアドバイスをしよう」

「くくっ、そうか、女か」


 サクヤ姫は愉快そうに笑みをこぼした。


「うそ、男なのか」

「いやいや、安心せい。私は女だ。生物学的にも、心の有り様も。少なくとも自分はそうであると思っておる。

……だからこそ、貴様に身を差し出してまで、黒の戦士を欲しておるのだ」

「……金の国のいざこざか」

「察しの良い」


 褒められた……ははっ、当たり前だろ! 天才であるこの俺には容易い推理。そりゃあ一国の姫を困らされるものといったら、他国による何かと考えるのが妥当のはずだ。


 それも今までの流れからして、求婚でもされたりなーー



「豚だ」



 サクヤ姫は顔を歪ませて、吐き出そうように言った。


 例えば俺がゴキブリの様々な逸話を話す時に、こんな顔をするだろう。


 憎々しげで、嫌悪感を浮かべて。それでも尚ある種の美しさを感じるのだから、美人とは恐ろしいものだ。


「いや、豚に失礼だな。金の国の王子、マンカイーノ・マリーゴールド。顔は……まあいいのだろう。他にもおよそ一般的な事なら、そつなくこなす才能もあるのだろう。

しかし、私を見る奴の顔ときたらっっ」


 そこまで言って。パッーーと……サクヤ姫の表情が元に戻った。姫という役職も色々あるのだなーと、思わされた。


「とにかく、醜いのだ。衝撃的だったぞ、あれほど嫌いな人間を初めてだった。

ならばこそ私は選択をした。あれよりもお前を選んだ。どうだ……男としてこれは、とても魅力的ではなかろうか」

「まあ、な。だけどその道を選ぶと、俺は必然的に金の国と敵対するんじゃないのか? リスクが大きいな」

「ああ、そうか。貴様はろくな説明をされてなかったな」


 サクヤ姫は角男を一瞥した。ぷっ、これ、絶対怒られてるぞあいつ。いい気味だ。


「私の愚か者(部下)がすまなかった」

「いや、気にしてない」


 もしも角男と会ったら弄ってやろう。


 俺はその時の台詞を考えながら、カレハナに続き、今度は姫からこの世界の常識を教えてもらった。


「特に異常がなければ、6年に1度、6つの国が同時に集まる世界会議がある。そこで各国は各々の事情を話し出す」


 食料の見積もりが乏しいので、助力を願ったり。時には他愛のない世間話だったり。腹の探り合いだったり。


 で。


 最後はいつも一緒らしい。



「私の知る限り、ここで戦争が始まらなかった事はない」



 世界が違えど、常識が違えど、根底は何も変わらない。


 ーーこの世は弱肉強食。


 サクヤ姫は言う。つまりは、黒の戦士を選んだ時点で、戦う可能性はとても高いらしい。世界会議とは名ばかりの、宣戦布告場……と。


 ますますリスクが増えていく。


「私としては、貴様がこの国に忠誠を誓ってくれるとありがたい。

最悪断っても咎めはせん。仕方がないと諦める。これは、普通の人間(・・・・・)ではあまりにも荷が重いからな」


 ……普通の、人間?


「一般人には到底無理な話だ」

「一般人……」

「あぁ、人並みの才能では、とてもではないが無茶であろうな」

「人並み……」


 へー、そんなものなのか。ふーん、なるほど、やっぱりリスクばかりの話に他ならない。これ、受ける奴は馬鹿だろう。……それかもしくはー一ひと握りの天才か。


 ああ、認めよう。色々と言った俺ではあるが、断る気なんてさらさら無かったと。そもそも断るなんて決断を下す人間は召喚されないはずだ。そこは歴史が物語っている。


 はっ、面白いじゃないか。どいつもこいつも嘗めている。有栖川という男を分かっていない。


「いいだろう! 有栖ーーいや、この自他誰もが認める天才アリスは黒の戦士となり、お前に忠誠を誓ってやる!」


 ニヤリ、とサクヤ姫が笑った気がした。ふっ……俺はまんまと挑発に乗った馬鹿だな。まあいい。俺も不敵な笑みを返しながら、今度こそ黒の水晶玉に手を触れた。


〜〜〜〜〜

 

 ーーその時の様子は誰も語れない。


 ある者は思った。禍々しく神々しい黒の色が部屋を満たしたと。

 ある者は見惚れた。ここまで綺麗な金色(こんじき)は見た事がないと。

 ある者は意味が分からなかった。どうして水晶玉からは光が出ないのだろうと。


 まさに、()々な感想。


 しかし、サクヤ姫は他と全く別の場所を見た。部屋を満たす光の濁流ではなく……ソレを直に受け止める人間ーー野性味溢れる男の(かお)だ。


 ーー2ヶ月後、世界会議は行われる。サクヤ姫はその日にアリスを連れて行くのが楽しみであった。……楽しみだったというのに。この時はまだ、想像もしていなかった。


 2ヶ月後の世界会議、アリスの姿は、どこにも見つからないという事を。

◆後書き◆


水晶に手を触れても、その国に対して反抗、あるいは邪な思いがあったとすれば、何の反応もしない。そういう前例も一度もないので、真実は不明。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ