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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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脳内会議 ユニバースセル

◇◇◇◇◇


 2人の遺体を見る。特にこれといって外傷はなく、何故命を落としたのか、これでは分からない。


 俺は軽く手を合わせ、その場を去った。尋問所にはサクヤ姫とグレイと尋問官、それに俺とカレハナがいる状況だ。



「それでですね〜」


 尋問官はたった今、サクヤ姫に説明をしている時だった。

 尋問官……片目がなかったり、指が欠けたり所々に傷が見えるのはあれか、過去の経験があるからこそ尋問する立場にふさわしいという事か。


「俺がバシッと、こうバシッとこいつの脇をくすぐ……あ、聞きます?」

「よせ。簡潔にで構わん」

「そりゃ残念。えっと、あそうそう、俺がこいつを、まあ尋問してたんですよ。もちろん殺しちまうなんてヘマやりませんぜ。ほんとですぜ? グレイさんがついてたからそこは間違いありません」


 サクヤ姫が目を向け無言で聞いた。グレイは首を縦に振った。


「そうか。なら、死因は分からんと?」

「それがですね……グレイさんがいねーと、俺もヤバかったと思うんです」

「む、どういう事だ?」

「どうもこうも、あれですよあれ」


 尋問官が指をさしたその方向には、直方体のガラスケースがあり、その中には見た事もない虫のような生き物が、出口はないかとガサゴソ蠢いていた。


 気持っち悪……!


 数は2匹と少なめだが、その虫は黄金虫とゴキブリに、ウデムシを足したような姿をしている。……ウデムシを知らない奴は、生きる上で他人より少し幸運だと俺は思っているほど、生理的に受け付けない奴だ。あいつは許されざる呪文をかけられるくらいだからな。


「その、何だ、なんとも形容しがたい気持ち悪いものがどうかしたのか?」


 サクヤ姫が顔をしかめながらそう言うと、尋問官は自分の口を指差す。


「ええそいつ、口から出てきたんですよ」

「うわっ止めろバカ者! なんて事を言ってくれる。貴様あれか、もしや私に尋問してくれているのか?」

「ち、違いますって。だから、そいつがあっちのお亡くなりさんの口から出た途端、奴らおっちんじゃったって訳ですよ。

 それにこの虫、出てくるとき今度は俺の口狙って飛んできやがって、まあそこはグレイさんが華麗にシュビッと掴んでくれたんですけどね!」


 ……それは、まあ、そいつからすればグレイのカッコいいエピソード、くらいには思っていそうだが。


 サクヤ姫は尋問官の言葉を聞いて神妙な顔で頷くと、グレイを見て……見間違いでないのなら、若干引きつった顔をしていた。


「掴んだ、のか」

「……悪いのか」

「いや、悪く、ない。良くやった」


 それでも俺は見逃さない。サクヤ姫が申し訳なさそうにグレイから距離を置いた事を。


「くっ……ククッ」


 そして見逃そう。後ろでカレハナが笑みを殺しきれていない事を。


 正直に言って、例の事もあり、こめかみをピクピク動かすグレイを見て俺は大変愉快であった。こういうところに人の性格って表れるよな。



「ふむ、しかし虫、か。私としては無視(・・)したいところだが……」

「……」

「こ、コホンッ。そうも言っておられんな。さて、ひとまずこの虫がどんな生態をしているのか知りたい。知っている者はおるか?」


 誰も知らなかった。知らない、が、俺だけは知る事ができた。


 「模倣」して、なんの力を持つのか、知る事ができる。力だけではなく、名を模倣すれば俺はそいつの名を本能で知る事が出来る。生態を模倣すれば……言わずもがな。全てを模倣すれば、他人になりきる事さえ出来てしまう。しかしそれをしてしまえば、俺は我を忘れてしまう事を危惧して、流石に実行は出来ないが。


 だから実は、プリンという男に化けていた者の名がプリテンダーだという事も、ジャーニンダーがジャネンバだという事も知ってる。


「誰も知らないぞ。その虫、少なくとも自然界には存在しない、特殊な虫だ」

「む、アリスは分かるのか?」

「名は、決まってない。仮に寄生虫を崩して犠牲虫とでも呼ぼうか。その犠牲虫は、とても面白い力を持っている」


 ガラスケースへと俺は近づいた。やっぱり気持ち悪い。しかし、少しの差でクワガタムシと並ぶほどのスマートさを持てるはずだったのかもしれない見た目に、少し惜しいと思ってしまう。


「まず、この犠牲虫の1匹がもつ力は、自然治癒力の向上と複数の剣の技能。そしてもう1匹は、身体能力の向上にちょっとした先読みと、人間使役だな」

「っ……まさか」


 迷宮での一件を聞いていたグレイは、すぐにピンときたようだ。


 俺も少し驚いている。


「なんだ、どういう事なのだ?」

「……そこで死んだ2人が持っていた力は、片方が変装と自然治癒力の向上と複数の剣の技能。そしてもう1人も変装、あとは身体能力の向上にちょっとした先読みと、人間使役だ」

「なるほど。そういう、事か」


 サクヤ姫も、グレイからそれだけ聞くと、瞬時に把握したらしい。


「つまり、こうか。その虫が体内から飛び出した時に、そこの2人の力を奪う……あー待て待て違うな。これは違う」


 自分で言った意見を否定し、目を瞑るサクヤ姫。俺はちょっとした好奇心で彼女の思考を模倣した。


 その瞬間、頭痛がして模倣を止める。


 なるほど、世間から“智謀の輝夜姫”と恐れられる理由を垣間見た気がする。こいつ、同時に100以上の物事を同時に考えていた。1つ2つは今日の晩御飯が何かとかどうでもいい事だったが……


 まあでも、それはこいつの 〝脳内会議 (ユニバースセル)〟という力があってこそで、それを使わずとも全貌を把握できた俺はやはり凄いんじゃないか? じゃないか?



「確か、そこの1人は才ある者を憎んでいた、と聞いた。しかしおかしい……デスオーバーは誰もが倒せるほどヤワじゃない。だが、話を聞いてみれば十分渡り合えるほどの実力を持っていたそうじゃないか。はっきり言ってそれはイコールで才能の豊かさを意味してある。なら、何故そこまで嫌う理由が?」


 サクヤ姫は犠牲虫をしばらく見つめ、その答えを出した。


「アリスは、今先ほどこの虫を寄生虫と例えたな。ならばこの虫は2人に寄生していた。……そうか、元々この虫に様々な力があり、寄生する事によって宿主と力を共有していた、と考えられる」


 色々と推測が立つな、とサクヤ姫は最後に首を傾げ、脳内会議は結論を下す。


「最もあり得るのは……本来そこの2人は、変装という技能しか持てず、恐らく世の不平等さを恨み嫉みながら毎日を非合法な生活で生き延び、そこを扱いやすいからと、とある者に目をつけられ……この虫を埋め込まれた……

 こうなると2人が明確な意思を持って、デスオーバーをどうにかしようとしてたかは分からんな。行動を虫に操られていた可能性がある。だからはっきりと言える事は、そのとある者というのが、私たちの敵なのだが」



 一体、誰なのか?


 そう考える者は1人もおらず、当たり前のように、この件で浮かび上がる犯人像はあいつだけ。


 継承者の1人ーー四の蟲。


 実際それは正しい。犠牲虫の生態で、こいつらに繁殖能力はゼロ。創造主が四の蟲。である事は俺が分かっている。




 サクヤの出した答えも概ね満点のはずだが、現場にいた俺はもう少し付け加えたい。


 ジャネンバは比較的落ち着いていた。ただ、もう1人のプリテンダーという男は余りにも精神が不安定だった。


 だから俺の推測は……人間使役のスキルを持つ蟲に寄生されてほぼ完全な操り人形にされたプリテンダーを助けるべく、ジャネンバが主となって四の蟲ーーシチューの言う事に従い、今回のデスオーバー拉致を計ったと。


 もちろん推測の域を出ず、もしかするとデスオをペットにしたい〜という理由だけかもしれない。



「だが、多大なリスクを冒してまでデスオーバーを欲しがったのかが分からん。流石にこれを金の国が計らったとは考えにくい。前回に痛い目を経験しているからな……となると、やはり金の金にいる四蟲の個人的……しかしこ奴も噂では根っからの平和主義者だとか……

 ふぅむ、噂は当てにならん。こうなると2人から情報を聞き出せなかったのが痛い」



 ほんの少し、場の空気が重くなる。


 ……仕方がない。


 ここは俺が……平謝り!!



「すまない!! 今回の一件、全て俺の責任だ!」


 急な俺の謝罪に、4人は呆けて。果ては揃いも揃い


「はあ?」


 などとのたまった。


 いいだろう。そちらがその気なら、俺は止まるつもりはない。



「その2人が死んでしまったのは、もう、俺の油断が招いた失態と言っても過言ではないだろう。謝って済む事ではないかもしれないが、本当に……すまなかった」

「……や、アリスよ、どうしてお前の失態となるのだ? 今回は事故のようなもの。誰それを責める意味はない」

「いや違う!」


 さながら演劇の真っ只中。俺はオーバーアクションでわざとらしく拳を握り締める。


 刮目せよ。これが天才。劇の評価に、担任からは、最早貴方が誰だか分かりませんと太鼓判を押してもらった実力だ!



「俺は……俺がこの場にいれば、こんな事にはならなかったんだ……!」



 あたかも悔しがる口調に、ここで、グレイが真っ先に嫌な顔をした。サクヤもどこか納得顏で、まだ分かりきっていないカレハナは俺の事を 誰だこいつ? と見ている。


 俺は嫌な顔のグレイと向き合った。更に嫌な顔をされた。


「悪かったなぁ……グレイ」

「……何がだ」

「俺がここにいさえすれば、虫が宿主を殺す前に何とか出来たんだ。お前なら大丈夫だと任せてしまった俺が悪い。そう! 俺が悪い! 本当にすまなかった!」

「……チッ」


 微かに聞こえた舌打ち。


 あぁ……俺の中にあった、グレイに対する燻りが消えていくのが分かる。


 何故なら俺は今、グレイを凌駕している。これで上下関係がハッキリしたも同然じゃないか?



「……性格悪っ」

「……うむ、良い性格しておる」


 女性陣の真逆の感想、ただし意味合いは同じな一言は、敢えて無視をしよう。虫だけに。

 

 まあ俺とグレイのこれも一種のコミニュケーション。淀んだ空気をどうにかしようと、そこへサイクロンを放り投げる勢いで変えようとしてみたが……この場で1人、俺の事をよく知らない尋問官には、冗談が通じなかった。



「な、なんて自己犠牲の精神に溢れたお方だ。自らを罰するその生き様。くうっ……これが黒の戦士様か。俺ぁ感動したぜ。

 グレイさん、良い友を持ってんなぁ」

「なっ……こ、こいつは!」


 グレイの抗議の言葉は、本当に感動しているらしい尋問官に届かない。


 ……フフッ


 フハハハッ! 完全っ、勝利!


 ここで俺の真意を懇切丁寧に説明するほどグレイは幼稚ではなく、行き場のない苛立ちを押さえ込み、乱暴に部屋から出て行く。



「お、おいグレイ」

「ふんっ、今から金の国に行くのだろう。その準備をするだけだ!」

「そう、か。うむ、なら馬車の用意を頼むぞ。使者は送らずに、な」

「なに?」



 アポ無しで行くらしい。



「言い訳の用意をさせずに乗り込むのだ。そして、もしもの時の為に少数精鋭で行く。

 行くのは私とグレイ、そしてアリスーー私はお前を、信頼するぞ」


 サクヤの真っ直ぐなその視線に、俺ははっきりと頷いた。



 ーーほとんど成り行きで黒の戦士となってしまったが、中々どうして、暇がない。



 俺たちが目指すは金の国。盟約違反を盾にして、いざ戦争の幕開けを目指す。



◇オマケ◇


グレイ「クルシオー」ヒュンヒュン

サクヤ「待ってストップストップ。振り回すと危ないであろう。発音も違う。よいか? くるーしおだ。お前のはくるしおぉぉー」

グレイ「なら自分でやってみろよ」


サクヤ「……」

サクヤ「あばだけだぶら!」


犠牲虫「解せん」


犠牲虫……生き残った虫。グレイ(アリス的に、名前を呼ぶのも憚られる人)に掴まれた際、爪が当たって額に稲妻の跡を残している。

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