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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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話を濁らす 金の逡巡

◇◇◇◇◇


「俺たちは酔っ払ってもいたのだろうか」

「忘れましょう。いいから忘れましょう。覚えるだけ無駄……はい忘れたー。私もう忘れちゃいましたー。何かありましたっけ、さっき?」


 赤面しながらでは、全く説得力のない言葉だが、忘れるという部分は同意しよう。よもや俺が黒歴史を作ってしまう事になるとは思いもよらなかった。


 ……マホンはクッキーを食べ終えると、どこかへ行ってしまった。俺たちもようやくそこで、過ちに気づいたのだ。


 一体何をやっているのか、と。


「そういえば図書館に、“メイドは辛いよ”というお話があったな。他には何だったか、そう、“王城のメイド、夢を見る”」

「ふーん、どんなお話ですかそれ」

「どっちもメイドが身分差の恋をして」

「恋とか! そういう、はなしはっ! 今はやめましょう!」


 若干ヒステリー気味に、机をバシバシ叩かれながら注意された。斬新だな。グレートサイヤジン? を思い出したよ。あ、サイヤマンか。



「悪い悪い……それにしても今日は天気がいい。何かいい事起こりそうだ」



 透き通るような青空の下、涼しげな風に煽られ、俺は訪れる幸運をただ待つ。空から女の子でも降ってくるかもしれん。そうなれば飛行石ゲットだ。


「……」

「……」


 二人の間に再びの沈黙。しかし、さっきまでとは違う。

 これは持論だが、気まずくない沈黙を作れる相手こそ、深い仲になれるのだと思う。少なくとも俺は、隣に座るであろう誰かには心の安寧を求めたい。


 ……はあ、心地よい。


「……あっ、あの雲、リスに似ています」

「ん……確かに。つまりあれは、マホンにも似ているという事か」

「ふふっ、何ですかそれ……あっちは、アリスに似ていますね」

「何っ? まさか。流石にそれはないだろ。どれだけ天才的な雲なんだ」

「でも、似てますね〜……」

「くっ、どこにいる!」


 俺に似た雲を俺が見つけられないとは。そんな特徴的な物、すぐに目に留まるはずなのに。恐らく天才的な形をしているに違いない!


 ーーま、価値観は人それぞれ。別に見つけきれなくとも不思議ではない。俺なんて、今はもうリスとアリスが似てるという、とてもつまらない事を考えてたくらいだ。


 馬鹿らしくなって、目を瞑る。そういえば昼寝なんて何年ぶりだろう。いや3ヶ月ぶりだがな。


「……アリス?」


 カレハナが俺の名を呼ぶが、返事はしない。悪いが狸寝入りをさせてもらう。明日から忙しくなりそうだから、今日くらい大目に見てもらいたいものだ。


 あぁ゛いざ体の力を抜くとよく分かる溜まりに溜まった疲労感。これならすぐに寝れそうだ。


「寝ちゃいましたか。そうですか。……自由な人。目の前で寝るなんて、完全に誘っていますよ」


 何を。


「本当に寝たんですか? ……不思議な人。やけにプライドが高そうで、いつも自信満々に偉そうで、自分の事を天才天才いってる変な人で……」


 おいこら。

 気になって眠れないだろう。


「あれ、こうしてみると貴方って全く好かれる要素がゼロですけど」


 一度こいつには、俺の寝相がどれほど恐ろしいものか味わせてやった方がいいのかもしれない。


「でもーー」


 カレハナが動く気配がする。そして、ピトッと、手の甲に暖かい感触。


 あれ、おかしいぞ。この無駄に良い雰囲気はなんだ? どうして俺は目を閉じてる間にこんなにもカレハナとの距離が縮まっているんだ? 誘ってないからな!


「時々、考えるんです。貴方が黒の戦士じゃなくて、私も金の戦士なんかじゃなくて、2人はただ……仲の良いきょう」


「緊急〜! 緊急〜!!」


「っ……」


 廊下から聞こえる声に反応したのだろう。手の甲の感触が消え、見てはいないが近くにいたカレハナが瞬時に体を動かし元の位置まで戻る。

 チラッ……さっきまで俺に何かを熱く語りかけた人間とは別人のように、冷めた紅茶を冷めた表情で飲むおとぼけさんがそこにはいた。


「緊急〜、あ、こんな所にいたよ!」


 その声は、俺もよく知る人間だった。以前握手をせがまれた事のある、見るからにアグレッシブな女性。そう、アースンという名のメイドだ。

 

「アースン、どうしたの」

「ハナッちこそこんな所で何してたんです? あっ、黒の戦士様と2人っきりで! 何イチャついてたんです!?」

「もう、誤解を招くようなことは言わないで。付き人なのだから、側にいるのは当たり前でしょ?」

「ん? それもそうですね!」


 実際は、夫婦にもなったりしたんだけどな。更に言えばさっきまで娘も1人いたんだけどな。


「って、そういう事を言ってる暇はありませんでした! 自分、緊急の件で黒の戦士様に用があったのです!」

「アリスに、用?」

 

 ここらで俺はイヤーな予感がした。ただ、緊急という言葉から既に、俺の昼寝は断念を余儀なくされているに違いない。仕方がないから、アースンの言葉に耳を澄ませる。




「尋問していた2人が、さっきお亡くなりになりました!」


 

 ……一番的中して欲しくない報告を聞き、俺はそっと目を開ける。さっきまでの青空は何処にいったのやら。遠くでは灰色の巨大な雲が渦巻いていた。


◆後書き◆


 あの中にはラピュ

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