昼下がりのおやつタイムは亜麻色クッキー
◇◇◇◇◇
パクッ。サックサック。パクッ。サックサック……サクサク。パクッ。サクサクパクッ。サクサク。
無表情に、機械的に、ただ目の前のクッキーを貪り尽くすカレハナ。冗談抜きでこいつ、本当にどうしたのだろう。まさか3ヶ月も会わなかったせいで、俺の事を忘れていたとかではあるまいな。
怪しい。
「な、何をジッと見ているのです。クッキー食べたら太るなんて、余計なお世話ですよ」
「そんな事は思ってない。むしろお前はもっと食べた方がいい。どうも、平均より痩せすぎのように思えるからな」
「……褒め言葉じゃ、ないみたいですね」
カレハナがやっと、クッキーから視線を離して手を止めた。するとこれ幸いとでも思ったのか、別の場所から手が伸びてくる。
マホンだ。お前まだいたのかよ。
サクサクサクサクサクッ。あたかも小動物のようにクッキーを口に含むマホンは間違いない。やはりこいつは、いずれ本格的に俺の癒しとなる可能性のある少女だった。
何たって、現在進行形で俺のストレスは溜まりまくっている。話が遅々として進まないからではなく、話を読めない俺の頭にだ。やはり迷宮での生活は、多少なりとも悪影響を及ぼしていたらしい。リハビリ頑張るしかないな。
「どうしたらいいんでしょう、私」
なーにーがーだぁ! 考えろ考えろ。アリスお前なら出来る!
まず、前提条件としてこの女はーー金の戦士だ。それも元。金の髪が理由の1つだが、やけに金の国の迷宮の事に詳しかったのと、戦士はそんなに理想ではないと最初に言っていた頃から、そこは分かる。あとは黒の戦士という俺に対して興味津々だったりなど。
そして……そこからだ。そこから、何故こんなにもカレハナがおかしいのか分からない。恐らく、元金の国の戦士がここ、黒の国にいる事に関係あるのだろうが。
「カレハナは、カレハナのしたいようにすればいい」
と、今までリスの如きマホンだったが、そんな事を言った。クッキーをカレハナの口元へ持っていきながら。
カレハナはキョトンとしていた。しかし、そのクッキーを大事そうに頬張ると、はにかみながら照れる。
「ありがと、マホン」
「友達ですから」
お、おお、バリエーションあったのか。それ。なら俺も使えるな。だって俺は……
天才ですから。みたいな?
……あまりいつもと変わらない気が。
「アリス!」
「あ、はい」
「……まだ、言ってませんでしたね」
ここは暖かな陽の光を浴びるにはいい場所だ。それも美少女がいれば文句なし。
カレハナの金髪が、その光を反射して煌めく。陽光の似合う女性だ。花も羨むとは、こういう事を言うのだろう。
「おかえりなさい」
「っ……あぁ、ただい……ま?」
「そこ、何で疑問なんです」
カレハナのジト目を受ける。そうだ、これだ。やはりいつも通りでいいのだ。気遣う必要なんてなかった。自然と、心から思った事を口にすればいい。
俺は黒の戦士で、お前は元金の戦士。思うところはあるのだろう。きっと、憎しみなどもあったのだろう。
で、知った事かそんなもの。俺はアリスでお前はカレハナ。生きていればそりゃあ、色々あるさ。
「なーに、おかえりとただいま。まるで家族のようだと思っただけだ」
「なっ……も、妄想が激しすぎます! もしかしてあ、貴方の目には、私って妊娠していたりするのですか!?」
「え?」
「え?」
俺はただ、兄妹のようだと。
でもお前は……夫婦だと? 妄想が激しすぎて笑えない。
ピタッと、マホンも手を休めて、カレハナを黙って見続ける。
「な、何ですか。笑いたければ笑って構いませんよ。私は逃げも隠れもしませんので」
「……ママ」
「誰がママですか!」
「パパ〜」
「おーよしよし、ママは怖いなぁ。おいお前、育児には褒める事も大切なんだぞ。育児方針は合わせないと」
「何、これ? 私、私が空気を読まなくちゃならないの?」
〜〜〜〜〜
メイド長は見た。
マホンの姿が見当たらないと探して探して、たどり着いたのはとあるバルコニー。
そこにいたのは黒の戦士と元金の戦士という、豪華なメンバー。プラスアルファとしてマホンもちょこんといた。
何やら様子がおかしいので、メイド長はこっそり覗き込む。真っ先に聞こえてきたのは、カレハナの声であった。
「あなた、そろそろ戦士なんてやめてください。この子も心配しているのです」
「パパァ」
「うっ、でも、生きる為には」
「言い訳は無用です。生きる為なら、他にも安全なお仕事はあるはずです。私たちを本当に愛しているというのなら、そこのところ、覚悟を見せなさい!」
なんて威圧。金の戦士は今なおも健在。それを受け止める黒の戦士も相まって、実はこの場レベルが高い。……しかし、それがおままごとだとは、誰も想像つくまい。
「なんか、すまんな」
「全くですよ……この子の為にも、貴方が死んでもらっては困るんですから」
カレハナはそう言うと、お腹のあたりをさする。愛おしそうに。母なる愛をこめて。
「な、まさかお前」
「……戦士なんて、早く止めちゃってよね。あなた」
「飲食店を開くぞ! この天才が存分に腕をふるまってやる!」
「その調子です!」
「パパ〜、ママ〜」
……メイド長は無言で踵を返した。
ーー楽しそうで何より
この後、アリスとカレハナがとてつもなくこの日の事を後悔をしたのは言うまでもない。