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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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急展開は他所でお願いします

◇◇◇◇◇



 不死迷宮のボス、不死身のデスオーバーを討伐せんとした私たちを前に現れたのは、自らを天才と自称する男。なんとこの男、デスオーバーを戦い圧倒するだけではなく、あたかも古き友のように馴れ合ったりする曲者である。


 なーんて、私だってスイスイちゃんと仲良いもんね〜。ね〜。


 ーーぷるるん


 腕の中でスライムが揺れます。私が初めて魔物使役を使ったのが、このスライムでした。

 魔物使役とは、一度屈服させた敵を味方にさせる事のできる力なのですが……小心者の私としては、一度屈服させた相手を味方にするって、それ絶対仲に溝が出来るじゃんと思い、中々実行に移せませんでした。せっかく仲間にしても仲が良くないのなら意味はありません。

 そこで、もう一つの力の行使。別に屈服させずとも、心が通じ合えばオーケーの作戦で私が出会ったのはスイスイちゃん。薬草拾いをしていた私の前に現れたこの子は、プルンプルンと揺られて私の元までくると、足へ……こう、すりすりーっとしてきたんです。


 ピンっときましたね。私はすぐに魔物使役を使い、無事にスイスイちゃんと仲間になる事が出来ました。実を言うとヤミヤミ君だって、弱り果てたところを助けたその恩返しとして仲間になったり。イワイワ君なんか仲間の輪から外れてポツンと1人でいる時に、とてつもない親近感を覚えた私が出会って意気投合したりと、およそ人には言えないようなエピソードばかりです。



 そして今回、デスオーバーにも魔物使役を使おうという話でしたが……今回はちょっと別ベクトルで誰にも言えませんね。ハハッ。きっと誰に言っても信じてもらえないよぉ。



「あいつほんと何者なんだ」

「知らん。貴様の方が私より冒険者歴は長いだろ。知らないのか?」

「知るわけねーよ。いや、実を言うと記憶が魚の骨に刺さったみたいに訴えかけてくるが、でもよ、デスオーバーと友達になってる奴なんてぜってー忘れないっての」

「……何者なのだ、あいつは」

「……謎、だな」



 向こうで男とデスオーバーが最上階のこの部屋に最後の別れを惜しんでいる間、プッツェンバーガーさんとシロップさんは、考えるだけ無駄な事を話していました。

 私、この2人に言ってあげましょうかね。そんな無駄な事より、今日の晩御飯について考えましょうって。



「貴様も知らないのだろ?」

「え、わ、私ですか? ごめんなさい! これっぽっちも知りません!」


 この口か。私の意志と反している悪い子ははこの口か。


 というか、突然話しかけないでくださいよ……もしかして言葉のきついシロップさんは、根は優しくて1人でいる私に気を使っているつもりなのかもしれませんけど。それはありがたいですけど。


 そんな話の膨らみそうにない話題をふってきても困ります! ごめんなさい知らなくて! 私が全て悪いんです!



「気にくわねーな」


 ……ん?


「おいプッ、プリン待て!」

「離せ!」


 おやおや〜? 今の今まで存在を忘れていましたが、ジャーニンダーさんとプリンさんが険悪。ううん、プリンさんだけが険悪な表情をして、ジャーニンダーさんは止めようとしているみたい。


 何だろう。ああいうのとは絶対に関わりたくないねスイスイちゃん。


 ーーぷるぷる〜ん


 だよね〜。


 ……危険な奇剣というか、普通に危険な機嫌のプリンさんの視線の先にいるのは、デスオーバー……の隣の男。黒の国らしい真っ黒黒の格好をして、その実力も大概な男を、あろう事かプリンさんはイライラだたしげに睨んでいるのです。


 噂ではクールな人って聞いていたのに、今日の時点で私からの印象は完全に子供っぽい人へと変わりました。ああいう人こそ、家庭内暴力とか起こしそうだよね。


 ーーぷるぷる〜ん


 だよね〜。



「おいてめえ!」


 必死なジャーニンダーさんの制止を振りほどき、プリンさんはついに男へ怒鳴ります。男はすんごく嫌そうな表情を隠しもせずに、プリンさんへと向き直りました。


「てめえ、とは気にくわない呼び方だ。俺には親からもらった大事な名前があるのだが?」

「まだてめえの名前聞いてねえよ!」

「おっと、それは失敬。俺の名はアリスだ。ちゃんと様をつけて呼べよ」


 アリス様というらしいです。女の子らしい感じもしますが、とてもいい名です。いっそ女の子だったら、私的にすっごく面白いシチュエーションなのですが。


 とりあえず今は、目の前の不穏な空気から逃げ出したいと思っています。プライドの高そうな人とプライドの高そうな人がぶつかり合うと、こんなにも面倒くさいんですね。



「ま、待ってくれアリス様! こいつに悪気はないんだ。お腹が空いて機嫌が悪いだけなんだ!」

「いや、勘違いするな。別にお前らは呼び捨てでも構わないぞ?」

「絶対に待てよアリス! お腹が空いてるだけのそいつに、プリンに手を出したら、俺が許さないからな!」

「待った。やっぱりムカつくからお前は俺の名すら呼ぶな」


 あれ、ジャーニンダーさんも化けの皮が剥がれてる感じがします。


 もしかして、このままバトル展開に突入? 奇剣と分身が見られるんですかね?


 ワクワク。でも危ないのはごめんです。大っきい体のプッツェンバーガーさんの後ろに隠れていましょう。


「……」


 こちらに気づいたプッツェンバーガーさんですが、黙って認めてくれました。もしかしてこの階のメンバー唯一の常識人なのかもしれません。


 さて、あとは黙って見届けましょう。下手に手を出して、ドラゴンの目に映るとはよくきく先人のお言葉。

 それに、こうしていれば何があっても私は関わってないの一点張りですからね!



「止めんなよ。俺はこの天才野郎に話があるんだ」

「ふんっ、天才が気にくわないのか? 甘えだな。この世には確かにいる。才能を持つものと持たざる者がな」

「努力っていう大事な大事なもんだってあるだろうが! 才能才能って、ふざけんなよ!」

「これだから自己中心的な男は嫌いなんだ……俺は俺を嫌いではないが」


 アリスさんって、ポジティブなのかネガティヴなのか、私よく分かりません。



「俺がいつ努力を蔑ろにした? 勝手に決めつけてくれるなよ。俺はもちろん努力の大切さを知っている。

 しかし、簡単な話だ。努力する凡人と努力する天才。後者の方が良いに決まっている」


 わふぅ。ぐうの音も出ません。

 そこまで堂々と言われればいっそ清々しい気もすると思いますけどね、プリンさんは返す言葉こそないものの、アリスさんを睨みます。



「プリンといったか。お前はやけに天才を嫌っているらしいが、俺に突っかかる暇があるのなら、その大事な大事な努力で見返してやればいいだろう。

 努力をして結果を残せなかった者を世は無能と呼ぶが、努力もせずに結果を残せなかった者を世は阿呆と言う」



 全く、世の中って不条理なもんですね。私って結局、馬鹿なんですか? 阿呆なんですか?


「ま、俺は天才の中でも卓越した天才だからな。常識に当てはめるな。何なら今日この日は悪夢だと割り切っても構わないぞ。

 この俺が黒だと言えば、たとえ世間一般的に白と呼ばれようが、確かにそれは黒なんだよ。そのくらい、俺とお前では差があり過ぎる」

「……は、ハハッ。ばっかじゃねえの。ならこれは何だよ!」


 プリンさんは懐から何かを取り出します。それは金色の物でした。少なくとも私には、そういう色に見えました。



「この金のハンケチーフが、天才様であるお前には黒に見えるってか!? ほら言えよ。これは黒だと言ってみろよ!」


 いやー、それは何というか、随分と無茶振りで……ナイスですプリンさん! ここからアリスさんがどう切り返すのか、とっても楽しみです!


「……色の恒常性と言ってもどうせ分からないだろうし、何より今は関係ないな……仕方ない。言ってあげよう。そのハンカチは黒ではない」


 上げて落とすとはまさにこの事。一瞬、勝ち誇ったようなプリンさんの顔にとどめを刺したのは、アリスさんの次の一言。


「ーー赤だ」


 そう言って、ゆっくりとプリンさんへ近づくアリスさん。プリンさんはというと、乾いた笑みを浮かべながら、頭を振ります。



「な、何言ってんだか。てめえーー」


 と、恐らく次の言葉にアリスさんへの侮蔑が込められていたと思うのですが、私たちがそれを聞く事はついにありませんでした。


 流れるように、プリンさんのすぐそばへと近づいたアリスさんは、これまた自然的な動きで腰から剣を取り出すとーーみんなが止める暇もなく、それをプリンさんへ突き刺しました。


 グサッと。


 それはもう、グサッと。それからピューっと。面白いほど飛び出る血が、金のハンカチにかかるのを見て、アリスさんはしてやったりの顔で言いました。



「ほら……赤だろ」



◆後書き◆


あれ、アリスがキチガイにしか見えない、だと?

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