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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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天才どぅえすから

◇◇◇◇◇


「あー、あー。テステス、テステス。大丈夫かな。俺以外の人間なんていつぶりだろうか。なあデスオ、俺ちゃんと喋れてるか?」

「グゥ!」

「あははー……頼りにならねーこいつ」


 男は、本当にデスオと仲良くしています。ええ、もう、本当に、仲良くという言葉がぴったしです。

 

 唯一私は、この魔物使役という力でスイスイちゃん達と仲良くできていますし? そういう魔物との関係を受け入れる事はできるのですが、他の皆様は違ったようで……何しろその魔物はデスオーバーなんですからね。そりゃあ、つい怒鳴ったって誰も文句は言えませんよ。


「な、何なんだ君は!?」

「お前こそなんだ。ちょっと黙れよ」


 あー、そっか。唯一文句を言っていいのは、その張本人くらいかな。


「っと、いけないいけない。つい条件反射で動く事が癖になってしまっている……すまないなそこのチャラ男。黙れなんて言って」

「あ、いや……」


 ジャーニンダーさんが、何て言ってやればいいのか分からず、口籠り。男はそんなジャーニンダーさんに、優しく話してくれます。案外いい人なのかもしれません。


「気を悪くしないでくれ」

「それは、こちらこそ……」

「しかしあれだな。俺の事情を察して、少しは気を使ってくれよ」

「そんな無茶な!?」



 訂正。何だか自由な人でした。



「それにしてもお前達は、こんな所へ何しに来たんだ? 言っておくが、ちっとも面白くないぞここ。

 辺り一面同じ景色。同じ室温。変わったものがあるとすれば、寒いジョークの多いガサツな不死身魔物くらいだ」


 寒いジョークの多いガサツな不死身魔物なんて、それはそれで十分に面白すぎると思いますが……私たちは事情を話しました。


 こちらの目的は、デスオーバーを、倒す事だと。厳密に言えば、私の力で従える事だと。


 男は最後まで黙って聞いてくれましたが、話を聞き終えると、大きくため息をつきます。


「なるほど、な。お前達はデスオを倒すと、そう言っているわけか。俺の友人を倒すと、へー。ほーう」


 うわっ、怖い。殺気が漏れ出す男を、慌ててプッツェンバーガーさんが止めます。



「だから、倒すというよりは、使役ーー仲間。そう、仲間にするんだ! 」

「その過程で、少なくともデスオをボコボコにする、と」

「そ、それは……」

「デスオが可哀想だろ!」


 それ貴方が一番言っちゃダメだと思います。さっきまで散々デスオーバーをボコボコにしていた貴方が。


「ま、冗談は置いておくとして」



 あ、冗談だったんですね。

 ……自由な人。


「今は、世界会議から何日ほど経った?」

「あ? あー……1ヶ月か?」

「なら、丁度いい。好きにしろーーと言いたいところだが、お前らでデスオが倒せると思っているのか?」

「それなら安心だぜ。俺は前にも一度、そいつを倒した事はある。すぐに蘇ったけどな」

「あー違う違う。本気のデスオーバーだ」

「え?」


 あちゃー。と、男は天を仰いだ。まるで、何か恥ずかしいものでも見たように。


「本気のデスオーバーとは、面白い言い方だな。まるで私たちが、本気のデスオーバーと戦った事など無いみたいではないか」


 シロップさんが、少し怒った風に男へ言います。確かに、今まで倒したと思っていた相手が、実は手加減をしていたなどと、聞き捨てならないでしょう。


「……気の強い女だ」 

「女で悪いか」

「いや……嫌いじゃない」


 男は部屋の隅に置いてあった剣を腰につけ、マントをつけます。

 この部屋暗くて気付きませんでしたが、よく見るとこの人、全身真っ黒です。


「名前を聞いても?」

「……シロップだ」

「シロップ! うーん、黒に似合いそうな名前だ。俺は無糖なんてごめんだからなぁ」


 そもそもコーヒー自体が好かん。なんて、今のこの場でどうしてコーヒーの話になったか知りませんが、男はシロップさんに向き直ります。向き直って、はっきりと言いました。


「シロップ、お前の怒りもごもっともだが、そうだな。論より証拠だ。本人に聞いてみるのが一番だろう。

 おーいデスオ。お前から言ってやってくれーー真実ってやつを」


 デスオーバーの鋭い目が私たちを睨みます。一体どんな真実が待ち受けているのか。ちょっとだけワクワクな私。


 皆さんも、デスオーバーから明かされる衝撃的事実を待ち構えていたりしたのですが。私たち、肝心な事を忘れていました。




「グルルゥ、グル!」



 ナンテイッテルノカ、ワカンナイ。


「……だ、そうだ。ショックで言葉も出ないお前らには悪いが、現実は非情だな」 


 いや違います。私たちが口をポカンと開けているのはそういう事じゃありません。


 真っ先に我を取り戻したプッツェンバーガーさんが、肩から大きく息を吐くように、脱力しながら言いました。



「お前、そいつの言葉分かるんだな」

「実を言うと俺は分からん」

「分かんねーのかよ!」

「ニュアンスだろ。こういうのは」


 男はやれやれと頭を振ります。と、そこでシロップさんがいい事を思いついたと言わんばかりに手を叩いて、期待の目で私を見てきました。え、やだこわい。


「貴様、召喚術士だろう。魔物の言葉がわかったりしないのか?」

「えっと……すいません。私にそういう力はありません」

「ふむ、そう上手くはいかないか……おい貴様。ニュアンスでもいい。私たちにその魔物の言葉を訳してくれ」


 シロップさんが、男にそう言うと。男は明らかに嫌な顔をしたものの、最終的には翻訳をしてくれる事になりました。やっぱり少しは優しいのかもしれません。


 デスオーバーがグルグゥと耳元でしゃべり、男が私たちに訳す。まるで人見知りとお人好しの構図。まるでむかしの私と親友みたいな構図。


「グ、クルゥ」

「あーコホン。ーー我、いつも強いけど、成長もする。最近、たくさん成長した」


 長いな。


「グルウ、ルルルルィ」

「今では二段階の変身を可能とした。我、すごい。あとちょっとで、強い。強いって言葉の強いほど強い」

「え、ごめん。お前は何を言ってんだ?」

「黙れお人好し筋肉。仕方ないだろ。 デスオも最近人の言葉を理解するようになったんだ。むしろここまで喋られる現状を褒めろ」

「な、なんかすまねーな」

 

 いえ、実際喋れてないんですけどね。


 これでもう訳は終わりなのか、1人男は満足そうに頷いています。


「要はこういう事だ。さっき俺とやりあっていたデスオの全力は、軽く見積もってその何十倍も強い。最近そこまで成長したんだよ」

「何十倍っ……そりゃあ、確かにマズイことだぜ。それが本当なら、このメンバーでも勝てるかどうか……ん、最近、成長?」

「つまりはそういう事だ。俺と戦ってるうちに、デスオも負けじと強くなった訳なんだよ」

「お前のせいかよ!?」

「ふっ……俺は、天才だからな」

 

 もしかしてこの人、少し危ない方なんじゃないでしょうか。私、心配になってきました。これもう大人しくお家に帰るのがいいんじゃないでしょうかね?


 ま、そういう訳にもいかないんでしょう。ジャーニンダーさんが理不尽な現実を吹き飛ばすよう、地面を殴ります。



「どういう事なんだこれは!? 想定外だ! これでは何もかもが狂ってしまう!」

「お、おいおい、そうカッカするなって。何を心配しているのか知らないが、安心をしろ。俺はデスオの何倍も強いーーいてっ」



 喚くジャーニンダーさんを慰めていた男を後ろから小突いたのは、デスオーバー。しれーっとしたその表情で、確かに男の頭を叩いたのを私は見ました。


 ジーっとデスオーバーを見つめる男。うん、やっぱり仲いいんですね〜。


「なんだデスオ、やる気か? 」

「グルウ」

「言ったなこの野郎。よーし、なら今度こそ白黒はっきりつけようぜ。完膚なきまでに叩きのめしてやる」

「グルグルゥ!」


 互いに胸ぐらをつかみ合うよう、睨み合い始めたお二人。ケンカするほどって言いますもんね。でも今はやめてください。これ以上ややこしくしないで下さい。


 ……しばらくして。


 デスオーバーとの戦闘をなんとか避けた私たちを前に、男はさらりと言いました。



「そんなに魔物使役をしたいのなら、俺が聞いてやるよ」


 何を聞くというのでしょうか? 男は自信満々にデスオーバーの近くへ寄ると、肩を寄せて喋り始めました。


 私、デスオーバーの事怖いと思っていたんですけどね。なんだかもう、ね。親戚のおじさんに見えてくる不思議です。


「なあデスオ、俺実はそろそろ帰らなくちゃならないんだ。つまり、お前とはお別れだ」

「っ……グ、ググウ?」

「マジもマジマジ、大真面目な話。で、ここからが本題なんだが、俺は思うんだよな。お前はこんなところで腐っていい奴じゃないって」

「ゥゥ……」

「世界を、見てみたくはないか? 」


 デスオーバーは、私の勘違いでなければ何か考え込んでいる気がして。それでも、男の真剣な表情に感化されたのか、小さく頷きました。


 何か、2人の間で大事な何かが生まれた気がします。ま、気のせいですけどね。


「ググ、グルッグゥグゥググ」

「おいよせ。照れるって」


 ……不死迷宮のボスと、親しき友のように馴れ合う謎の男。

 一体どういう道を歩めばそんな事が出来てしまうのでしょうか。私、ほんの少しですが、羨ましいと思ってしまいました。



「凄いなぁ」


 嫉妬や羨望から生まれた、賞賛の言葉が口から漏れて、それを男は聞いていたのでしょう。ニヤリと笑って、世界を我が物にしたかのような顔で言います。



「おいおい、俺を誰だと思っている?」


 偉そうな態度ですけど、そこに、男が備わるだけで違和感がなくなります。


「天才である、この俺に」

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