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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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魔物使役

◇◇◇◇◇


 私は、名前をサーシャと言います。冒険者です。これでも、子供には人気だったりするんですよ。えへへ……異性の方とのお付き合いとか、怖くてした事ないけど。


 みんな凄いですよね。だって、自分以外の誰かなんて、得体の知れない肉の塊ですよ? よくよく考えてみれば、どうして動いているのか、逆にどうして動かなくなるのか理解のできない肉体が、自分とは全くあずかり知らぬ性格を、心を持っているんですよ?


 ……こわっ。ホラーです。確実にホラぶってます。そんな存在とお付き合いだなんて……うぅ、考えただけでも恐ろしや。




 ーーと、そんな内容を、唯一の親友に言うと、私言われちゃいました。


 そんなんだから、あんたは友達がいないんだよ。と。


 はいその通りです。恋人どころか友人と呼べる存在でさえ私にはいないのでした。一緒にお仕事を誘われても、断ってしまう。自分からは絶対に人へ話しかけない。こりゃあ、私が悪いですよ。友人がいないのも納得です。


 あ、だからといって勘違いしてほしくないです。私も、自分の背中を預けられる誰かが欲しいと常々思っています。


 ほら、よく劇でもあるような、相棒と呼べる存在と背中合わせで囲まれた敵に立ち向かうシチュエーション。欲しいっ。欲しいなぁ。言葉以上にアイコンタクトで伝わる互いの気持ち。羨ましいっ。羨ましいなぁ。


 ……ま、人というくくりを消せば、私も仲間はいるんです。それは私の、特別な力によって出来る、仲間。



 魔物使役。


 簡単に言えば、魔物を使役できる力。もちろん簡単ではないのですから、いきなりドラゴンを! なーんて事はできないのです。今のところ、スライムのスイスイちゃんと、闇鳥のヤミヤミ君と、岩石もどきのイワイワ君が私の仲間です。


 スイスイちゃんは可愛いです。ヤミヤミ君は鳥なので、偵察を頑張ってくれますし。イワイワ君は硬いので、そして優しいので私たちを守ってくれるのです。



 召喚術士、なんて大層な呼ばれた方もしちゃってます。



「よーし、着いたぞ」



 ん、不死迷宮につきました。いつ見てもこれは大きい……


 あ、今回一緒にお仕事をする、目の前の肉塊の名前はプリン。美味しそうな名前とは一変、“危険な奇剣”とも呼ばれたりする、凄腕の片手剣の使い手です。捉えたと思えば、スルリと煙のように形を無くし、いつの間にか目の前に剣があったーーとは、戦った者がある言葉。


 あっちのチャラチャラ〜としてそうな肉塊の名前は、ジャーニンダー。こちらは最大で3人まで、自分と同じ存在を呼び出し、正に一心同体のコンビネーションで敵を倒す……らしいです。らしい、というのは、私が今まで関わった事がないからです。


 で、でも、今日の私は一味違います!


「そんじゃ、基本俺たちが君を守るから、奴との最後は頼むよ」

「は、はい!」


 迷宮に入る直前、ジャーニンダーさんが私に声をかけてくれました。もしかして私の事好きなのでしょうか?


 とと、いけない。今は集中しないと。


 ……あれは、スイーツ専門店、ドリームクリームのテラスで、私が1人プリンを食べていた時。


 プリンさんとジャーニンダーさんがやって来て、不死迷宮に私を誘ったのです。あまりに突然で混乱する私に、2人は優しく話してくれました。


『俺たちは、デスオーバーを倒したいと思っている』

『えっと、えっとえと、デスオーバーって……あの、最上級にいる、あのデスオーバーですか?』

『そう。それだよ』

『む、ムリですよ! ムリムリ! お二人ならともかく、私が入るなんてーー』

『いや、君が必要なんだ。俺らにはね』

『召喚術士としての、てめえの力がな』


 目の前でデザートのプリンを、スプーンで突き刺してやったのですが、残念ながら私の関わるなという無言のメッセージは伝わらなく、お二人は全てを話します。


 不死であるデスオーバーは倒せない。倒しても、倒しても、倒せない。そこで倒す直前の弱りきったところを、私の魔物使役で仲間にすれば、それは倒したも同然ではないか、と。


『……ど、どうしてデスオーバーを倒す事にこだわるんですか? あれは別に、関わらない方が身の為と言いますか、関わらなくても問題がないと言いますか』

『てめえアホか。んなの誰が決めた』

『……んー?』


 どうしてかイラついてしまったので、プリンを歯で嚙み潰しましたが、やはり無言のメッセージは伝わらず、2人は力説します。


『デスオーバーが黒の国に災いをもたらさないという、そんな絶対はないんだ!』

『まず不思議に思わなくちゃならねーだろ。どうしてあいつが、最上階に居座っているのか。そう。奴は今も何かを待っているかもしれねーんだ。俺たちがちんたらしてる間に、虎視眈々と……』

『……やっぱり、関わらない方がいいと思うんですけど』

『馬鹿を言ってはいけない! 君は馬鹿なのか!? 違うだろ!』


 世間一般的に、私は馬鹿と呼ばれても仕方のない人間でしょうけど。ほら、親友からも言われますし。あんた馬鹿……って。


『そういう、難しい事はお国に任せて、私は安全に暮らしたいのですよ』

『大丈夫さ。俺らはデスオーバーを一時的に倒す事なら出来ると思う。そこに確信は持っている。だから君の身も安全に守る事は、約束できる』

『んー……』

 

 デスオーバーを、一時的に倒す。そこはまあ、出来るとは思いますよ。この2人でなくとも、単独でデスオーバーを倒す人間なら、冒険者になら他にも数人はいるでしょう。……でも、どうせ相手は不死だから、そこに意味がないだけで。

 だからこそ、この2人は私を求めているんでしょう。魔物使役の、力を。


 でもなー、やっぱり安全に暮らしたいんだけどなー。


 どこまでも渋る私。早く家に帰って、スイスイちゃんと戯れようと思ったその時。


『思い出を、作りたくはないのか!』

『っ……お、思い出?』

『念のため俺ら以外にも、もちろん人は呼ぶ。今回の作戦は、成功間違いなしだ。

 さあ迷宮はどうなる!? 満たされ滾る愛! 湧き上がる底なしの勇気! 最後は君が名乗りを上げて、賞賛を浴びる! 祝福をその身に受けるんだ!』


 何言ってるかよく分かりませんが、ちょっと想像します。……汗臭そう。


『死線とは言わずとも、隣どうしで歴史に残る偉業を達成するんだ。出会えるかもしれないなぁーー最高の仲間が」

『なか……ま?』



 こうして、まんまと口車に乗せられた私は、迷宮攻略についてきてしまっているという訳です。

 まーあれですよ。確かにこういう機会って大事なんじゃないかなーと思ったりもするわけでして。最高の仲間とか、そんな、都合のいい事、期待なんかこれっぽっちもしてないですよ?


「かぁっ、最上階に着くまでが問題だなこりゃあ。意外と長えぜ」

「ふんっ、お前の無駄にデカイ体は、確かに足腰がキツイかもな」



 無駄にデカイ体は、プッツェンバーガー。力自慢の斧使い。

 そしてもう1人は、今回のデスオーバー攻略作戦で私を含めて唯一の女性、尖った耳が特徴の弓使い、シロップさん。怖いです。必要以上に関わりたくありません。


「……」


 あ、そういえばもう1人いました。全身をローブで隠した、謎のお人。

 今回のこれは、他の人たちをビックリさせようと、結構みんなに隠しての呼びかけだったので、少なくとも私の知らない人ではないと思いますけど……


 

「おい、お前はキツくないのかよ」


 お人好しで有名なプッツェンバーガーさんが、恐らく何も喋らないローブを心配して声をかけて……だが、やはりローブは何も喋らない。諦めてどこかに行ったプッツェンバーガーさん。

 うーん感じ悪いローブ。私、こんなんで最高の仲間出来るんでしょうか? や、もちろん期待なんて、これっぽっちもしてないんですけどね!?



「そういえば、あれだな。いきなりボスとの戦いってのも体に悪い気がするし、ちょっくら99階でストレッチといかないか? このメンバーで戦うのにも慣れた方がいいだろうしよ」


 プッツェンバーガーさんが、そんな提案をしました。異論も出ませんし、急遽99階に行く事に。


 ここらは未知の領域で、私は1人、後ろで皆さんを見守ります。スイスイさんを抱っこして見守ります。



「シッーー」


 弓使いのシロップさんが放った矢が、目にも留まらぬ速さのウサギの動きを誘導します。ウサギなら勝てるかなーと思ったさっきまでの私、お馬鹿です。あの速さでは触る事すらままなりません。


 次に動いたのはプッツェンバーガーさん。まんまと動きを操られたウサギが気付いた時にはもう遅い。目の前には斧があってーー


 首と体がちょんぱ。手慣れた手つきで血抜きをして、出来た肉と毛皮をプッツェンバーガーさんが私にくれます。


「ほらよ。これはホースラビット。滅茶苦茶うんめえぞ〜」

「え……あ、あのホースラビットですか!? 王家ですらご馳走と褒めちぎる、至高の肉の1つの!」

「ああ。俺1人じゃ狩るのも面倒くさい相手だが、今日はあのシロップって野郎が見事な動きで楽々だったぜ。

 ま、これは初めての報酬ってところだな。 今日はおめーさんが頼りになるらしいからよ、こいつはくれてやる」

「やった!」


 えへへ。優しくバッグに入れます。後でみんなとたーべよ。……みんなって、スイスイさん達と。


 皆さんはやっぱりすごい冒険者達で、あっという間に草原の魔物を刈り尽くしていきます。そして今、でっかい牛の格好をした強〜い魔物もいましたが、すぐに報酬へと早変わりする事でしょう。


「つおりゃぁあ!」


 プッツェンバーガーさんの斧が、魔物の足に。流石99階と言うべきか、切断こそしなかったものの、バランスを崩した牛が地に伏せて……


 近くには、プリンさんとジャーニンダーさんが待ち構えています。


「せいっ!」


 奇剣。もしくは分身のどちらかが見られる事を期待した私はがっくし。相手が弱すぎたのでしょう。ジャーニンダーさんが、そのまま片手剣を振り下ろしただけで、牛は事切れました。

 これまた手慣れた手つきで、プッツェンバーガーさんが血抜きを行います。……手慣れた手つきって、言いやすい。


「いい感じだなぁ俺ら。ってか、ジャーニンダーよぉ。お前また剣の腕上げたな〜」

「日々、鍛錬あるのみですよ。俺も、プリンも、少しは強くなったと思います」

「それで3人にもなれたら、味方ながら恐ろしいぜ。いや……こいつはもしかすると、分身する人数も増えたりしててなぁおい!」

「……ま、そこは内緒ですよ」


 みんなが盛り上がる中、まあ私も皆さんを褒めていい具合に溶け込みます。しかしローブは違いました。きっとあの人、私以上の人見知り? なのでしょう。喋らないどころか、まだ何もしていません。


 そこは、プッツェンバーガーさんも気がついていたのでしょう。輪から一歩外れた所にいるローブの所までいき、斧を肩に担ぎながら喋りかけます。


「あのなぁ、わいわい仲良くしろとまでは言わねーがよ、そりゃねーだろ?

 俺たちも遊びじゃないんだ。お前が足手まといだった場合、こっちが苦労するはめになる。そこは分かるよな」

「……実力を見せろと」


 あ、喋った。多分男の人です。


「お、おお、つまりそういう事だ」

「なら丁度いい。あれを殺ろう」

「あれって……」


 ローブがローブの中から手を出して、指をさしたその先には……遠くからさっきと同じような牛がこちらへ向かって突進しています。いえ、遠くなのではっきりとしませんが、さっきよりも数段大きいかもしれません。


 まだ牛は遠くだというのに、油断なくプッツェンバーガーさん達が斧を構えて……そこから一歩はみ出したのは、やはりローブ。みんなと牛の間に位置する場所へと割り込み、ローブに隠してあった剣を取り出しました。


 ローブローブうるさいですね。せめて名前くらい教えて欲しいものです。



「おい貴様、1人でやるつもりか!」



 シロップさんが声を張り上げます。やっぱり貴女は怖いですけど、その言葉はごもっともです。

 今まで魔物を難なく仕留められたのは、ひとえに皆さんが力を合わせて戦っているからです。互いの長所を生かして、互いの短所を補っているからです。


 それが1人になっただけで、難易度はぐっと上がると思います。ローブさんはとんでもないお馬鹿さんなのか、それとも……とんでもない実力の持ち主なのか。


「スイスイ、どー思う?」


 ーーぷるるんぷるるん


「だよね。私も後者に一票!」


 なーんて言っている間に、牛さんとの距離がみるみる内に縮まっていき、ローブもゆっくりと歩き出します。


 ……ローブ越しからでも分かる洗練された動き。私が気付いたくらいなのですから、皆さんも更に感じ取った事でしょう。


 こいつ、ただ者じゃねー……って。


 それを裏付けるかのように、牛が至近距離に達してもローブは慌てる事なくーー



 一閃。瞬き1つの間に、ローブは牛の後ろへ割り込むと、私が最後に見た光景は、剣を横薙ぎに振った格好。その後、血を吹き出し倒れる牛の魔物。


 ほえ〜、凄いです。


 ローブは特にそれを誇る事もなく剣を収めると、プッツェンバーガーのもとへ来て言いました。



「これで文句はないな」

「も、文句はねーな。うん。デスオーバーもその調子で頼むぜ。出来たら、なんだ。俺らと仲良……協力も、な?」

「……善処する」

「そりゃあ、ありがたい。ーーよしみんな、互いの力も分かった事だし、いざ最上階! デスオーバーに目に物見せてやろうぜ!」


 いつの間にか企画立案者のジャーニンダーさんとプリンを置いて、プッツェンバーガーさんがリーダーっぽくなっちゃてますが、まあ皆さんがそれでいいのなら私は構いません。私は私の役目を果たしましょう。

 


 ーー未だかつて、誰も成し遂げた事のないデスオーバー完全討伐。それは、この6人によって達成されようとしていた。


〜〜〜〜〜


 なーんて思っていた99階の私をぶん殴ってやりたい。そうだ、現実はいつだってこうなんだ。想像の斜め上を超えていく。




 すっかり体も温まり、100階へ足を踏みこんだ私たちが見た光景。



 それは1人の男とデスオーバー。



 男はなんと、武器の一つも持たずに魔物と相対する。そして圧倒する。不死身のデスオーバーを。

 皆さんは見えているのでしょうけど、早過ぎて、私は細かな動きはついていけません。それでも分かるのは、男がデスオーバーをボコボコにしいる事。時には殴り、蹴り、時には投げとばす。


 けどやはり。不死身の呼ばれは伊達ではない。何をしようと、デスオーバーが動きを止める事はなかった。



 いち早くとある決断したのはプッツェンバーガーさん。顔も知らない男だったが、デスオーバーを叩きのめすその実力。一緒に戦うために、助太刀をしたほうがいいだろうと考えたのでしょう。


 斧を担いで走って行きます。



「いま助太刀するぞ!」

「んーー?」


 ここで、その人は初めて私たちに気がついたのでしょう。仮にも迷宮のボスから目を離し、こちらを見つめ……ボーッとして……ハッと目を見開くと、手を向けてきた。


「待て!」


 そして、そんな言葉を叫んだのです。


 強い者に受動的な私は、ワンと言ってお座りをしようと思いましたが、そんな条件反射で生きていない、こちらも強者のプッツェンバーガーさん達は、男の予想外な言葉に戸惑い、足を止めます。


 すると、あろう事か男はデスオーバーに向き直り、そちらにも喋り始めたのです。魔物に。迷宮のボスに。




「おーいデスオ、ちょっと休憩だ。どうやらお客さんが来たらしい」




 えー……そんな「疲れたから少し休もう」みたいな感じでー?


 デスオ、じゃなかった。デスオーバーも律儀に待っているし……何ですこの人?

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