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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
序章 黒の戦士
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染色無きプロローグ未満

◇◇◇◇◇


 この俺は有栖川 鏡兎(きょうと)。親しい奴からはアリスと呼ばれる。親しくない奴からはクズと呼ばれる。おかしな奴からはミラービットと呼ばれる。やれやれ、妙な名前を持つと苦労するな。



 さて、面白く語れる自信もないし、面白く語るつもりもないので、簡単に簡潔に自己紹介をしよう。


 有栖川 鏡兎は高校2年生。稀代の天才である。まあ、その他に表す言葉はこれといってないな。


 スペックはオールマックス。天才である俺は自分の顔を多数決的にかっこいいと思っているし、周りからも言われるが、今まで恋人という者が1人も出来たことがない。友人と呼べる者も少なかった。だからそれは、性格の問題なのだろう。




 ふっ。つまるところ、時代が悪い。




 さて、そんな、神に好かれて世界に嫌われてる俺ではあるが、今は額から角を生やした生物と向き合っている。どうしてさっきのさっきまで学校にいた俺がそんな目にあっているのかというと……


「ああ、いい。言わなくてもいい。召喚されるまでの経緯など、少したりとも興味はない。お前は選ばれた。それだけだ」


 角の男はそれだけ言って、これ見よがしにため息をつくと、俺の側に剣と盾を置いた。何の装飾もされていないそれらは、だからといって戦いに特化しているようにも見えない。例えるなら百円均一の代物。全く、愛を感じるぜ。


「選ばたって、何だ」

「……駒だ」


 角の男はこれ以上何も言う事はないと、部屋から出て行く。


 去り際、確かに聞こえた。


「期待しないぞ。黒の戦士」


 扉が閉められる。続いて鍵の閉まる音もした。内装こそオシャレな異国風味の部屋だが……これではまるで、囚人のようで。


 考えてみればおかしな話だ。授業も終わった放課後、勝手に連れてこられて、何の説明も頂けずに俺は1人残されている。不満は溜まっているものの、何も出来ない。だから一応、喧嘩だけは買ってやる事にした。


「度肝抜かしてやるぜ、角男」


 ……とりあえず、寝るか。


◇◇◇◇◇


 天才は天才らしく、クラスメイトという凡人に勉強を教えている時だった。


 光源を定かにしない光の奔流に包まれ、俺は気付けばたくさんの武装した人間に囲まれていた。その中でも1人、額から角を生やした男が近づいてきて言った。


『ついてこい』


 賢い判断は、ついていくことに決めて、言われるがままに男の後ろを歩く。


 そしてあとは知っての通り。自己紹介をしようとして遮られ、ろくな説明もされずに部屋に取り残される。


 俺が次起きたのは、夜の7時、部屋に入ってきた人間が、香りの良い食事を持ってきた時だった。


「いただきます」


 スープに肉に野菜。そしてパン。うーむ、いいだろう。個人的にパンも大好きである。肉があるなら米がいいなんて我儘は言わない。


 ーースープは良かった。

 ーー肉は何か物足りない。

 ーー野菜は論外。ドレッシングの1つもない。せめてマヨネーズでもあれば。

 ーーパンは硬い。何だこれ、ちゃんと発酵はさせてあるのか?


「スープに浸してお食べ下さい」

「……どうも」


 食事を持ってきた人間からの助言に従った。ひたパン。しないよりはマシだな。


 ……


「お前は食べないのか?」

「恐れ多い事です。ご心配なさらずとも、私は大丈ーー」


 キュウーー


 そんな音が聞こえたかと思うと、続いて鈍い音がした。


 驚き……自分の腹に拳をねじ込ませてやがる。女性が、逞しい事だ。


「お見苦しいところ、すいません。もしもお目に障るというのならば、今すぐにでも部屋を出ます」

「いやいや、どうせ俺が食べ終わるまで待っているんだろ。気になって仕方がない。仕方がないからこのパンとスープくらいなら分けてやる」

「……貴方が早急に食事を済ませれば、私も自分の時間を作れるのですが」

「何故俺がそこまでお前に合わせなきゃならん。そんな仕事をやらせる上に不満をぶつけていろ」


 女性はしばらく迷っていたが、次の腹の音がして、俺が「耳障り」だと言うと、恐る恐るといった感じにパンとスープを食べ始めた。


 おかげで話も弾み出す。


 女性は名をカレハナと言った。服はメイド服なので、メイドと思われる。今後、俺の世話をする人間らしい。それはいい。角男ではなくて全然いいが、しかし……輝く金色の髪とは、これまた日本離れの容姿である。


 いや、日本離れどころか、ここまでの質は地球離れといっても過言ではないだろう。俺はそんな少女に、自分の事情を話した。


「え、何も?」

「ああそうだ。何にも、俺は説明をされていない。愉快な話だろ」

「……見捨てられたんですかね」

「勝手に連れてきたのにか」


 いよいよ、意味の不明な話。


「まあいいんだ。俺は天才だからな、おおよその事情は推測がたつというもの」

「本当に?」

「もちろんだーー例えば、そうだな。俺は魔法によって召喚された」

「そんなの誰だって分かりますよ」


 え、そうなのか。俺はそこが一番、疑い深いところだったのだが。


「は、はは、なーに今のは余興みたいなものだ。気を取り直して次ーーこの世界には、“色” の称号を持つ戦士がいる」

「……」

「これは角男が、俺の事を黒の戦士と呼んだ事から比較的に予想はつく。そして期待しないぜ、とも言った」

「やっぱり見捨てられてますよ」

「茶化すな」


 ここからが良いところなのだ。


「期待しない、という事はつまり、期待という何かがある。それは何か? 簡単だな。黒の戦士……要は戦えという事なのだろう」

「まあ、大体は、その通りです」

「ははっ、どうだ。これが天才たる俺の天才っぷりだ!」

「……誰だって、そのくらいは分かると思いますが」


 何だこいつ。お世辞の1つ言えないのか。そもそもカレハナも謎だ。最初はただのメイドか付き人か、そこらの人間だと思った。しかしどうも違和を感じる。その違和感はまだ、俺にも分からない。


 ……今は考えても仕方がないな。


 スープとパンがあった空の皿を見つめて、それから俺に向き直るカレハナを見ながら、そう判断した。


「私が、教えましょう。どちらにせよいずれ分かる事です。なら覚悟は、早めに済ませた方がいい……何事も」


 カレハナはそんな前置きから、俺に起こった全てを話す。


 まず大前提として頭に置かなければならない事は、ここが日本、ましてや地球でもないという事。宇宙の果てか地獄なのか……どちらも一緒だ。気にすることではない。


 さて、この世界には6つの国がある。


 

 緑と平和の国、グリーンピース。

 白と長寿の国、ホワイトワイト。

 紫と不思の国、パープルワンダー。

 金と栄光の国、ゴールドグローリー。

 銀と悠久の国、シルバーエタニティー。

 

 そして俺が今いる国……


 黒と孤高の国、ブラックソリチュード。


 色を冠した国からわかる通り、この世界には、ある絶対的な決まりというものがある。


 それは戦士。1人だけ召喚する事のできる国の象徴。同時に2人は存在せず、唯一の絶対的強者。俺はその中でも、黒の戦士に選ばれたというわけだ。


「もしも俺が裏切ったらどうするんだ? 例えば、今にでもグリーンピースとやらに逃げ込んだりしたら」

「今まで戦士が国を裏切った事なんて聞いた事ないけど……そうならないように国は配慮する。食い尽くせぬ馳走の数々に、下世話な話だけど、美貌の女性という破格の好待遇とか」

「……このパン硬かったぞ」

「貴方はまだ、本当の意味で認められてないという事。戦士なんて、みんなが思っているより理想の存在ではないの」


 勝手に人を呼び寄せておいて、とんでもなく迷惑なこった。既に配慮の欠片も出来てないぞ。


「それと……」


 カレハナは周りを見渡した。

 見渡しながら、声を潜めて言った。


「あまり不用意な発言は控えた方がいい。今の貴方は、監視されている」


 死にたいのなら好きにすればいい。カレハナは冷たく言うと、空の皿を持って部屋から出て行く。


「明日の朝、儀式が始まる……さっきのパンとスープの分だけ、祈ってる」


 最後にそう言い残して。


 儀式ってなんだ? と思ったが、俺の説明不足はどうやらデフォルトらしいので、今はやっぱり……寝よう。


 これから何が起こるのか分からない。想像を絶する絶望や、得体の知れぬ恐怖が待ち受けているのかもしれない。だが、心配もしていない。何故なら俺は……


 ーー天才だからな!

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